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いやなよかん

”北原closing chapter” ―幸せの向こう側ッじゃなかった、―月に吠える― 編が加速しますよー!

ららんさんから話を聞いて、今、とても厄介な状況であることが判った


 規模の小さい魔物大移動なら、今の防衛戦で終わりなのかもしれない。

 だが、もし違ったとしたら、他の所が魔物の群れに襲われるかもしれないし、このシータの村が再び襲われる可能性もある。


 だからこそ、それを判断する為に、監視役というモノはとても大事だった。

 魔物の流れをしっかりと観測出来ていないと、これで魔物大移動が終わりなのか? まだ後続がいるのか? それとも他の場所へ流れているのかなどの判断が出来ないのだから。


 それだけ大事な事なのだが――


「それじゃあ、ららんさん、、それを調べているって事なのですか?」

「そうやのう、、それを調べておるんよ」


「マジか…」


 ――おいおい、それって。

 雨と風が異様に激しいから、台風かも?って調べるって事か?

 しかも、それを人がその場に行って調べてくるみたいな…どんだけ後手な、

 

 

 状況は完全に後手となっていた。

 視界に映る範囲は安全でも、視界の届かない場所には、まだ魔物の群れがいる可能性があり、実際の所、シータの村から逃げ出した村人の何人かは、運悪く魔物の群れに遭遇したのか、死体となって見つかっていたのだ。


 もしかすると、野盗のような輩に襲われた可能性もあるが、遺体の傷痕から、魔物の仕業の可能性が高かった。


 そしてそれが魔物の群れの仕業だとすると、今回の魔物大移動は、広範囲魔物大移動の可能性が出て来る。

 その広範囲魔物大移動に対しては、移動防衛戦で対処するのだが、魔物の動きをしっかりと観測出来ていない状態で、効率よく移動しながらの防衛戦などは不可能。



「本当に困った事態やのう、本当に…」

「ららんさん…?」


 ららんさんはある一点を見つめ、真顔でそう呟く。

 その見つめる視線の先では――


「おっひょーう! ちょっとお姫様気分ですよです!」

「騒がないでくださいサリオさん、危ないですから。落ちますよ?」

「なにやってんだかアイツ‥」


 視線の先では、イカっ腹のサリオが馬上ではしゃいでいた。

 馬車での御者役をしたことはあっても、馬にまたがったことは無かったらしく、その貴重な体験に対して大はしゃぎし、サリオの補助として一緒に乗っているラムザを困らせていた。


 そして、絶壁のサリオには反応を示さないラムザが注意をする。


「サリオさん、これからすることは遊びじゃないですからね」

「らじゃですよ! おっきいアカリを作ればイイんですよね?です」


 サリオに与えられた仕事、それは生活魔法”アカリ”の設置だった。

 あと1~2時間もすれば日は完全に落ち、辺りは闇に包まれる。

 だが今は、観測が出来ていない状態での魔物大移動時、いつ魔物の群れが来るかも分からない状況であり、その為にサリオが駆り出されたのだ。


 他とは比較ならない光量を発揮出来るサリオの”アカリ”、それはもう生活魔法というレベルではなく、戦術級魔法と呼んでもおかしくなかった。


 今もシータの村を煌々と照らし続ける、サリオの作り出したアカリ。

 3個ほど設置された”アカリ”は、完全に村を照らし切っていた。


「すまないね陣内君、サリオちゃんをちょっと借りるよ。彼女の魔法ならこの周辺をカバーし切れるだろうからね」

「ハーティさん、それは分かっていますよ。どうせ余らせているMPなんですから、空になるまで使っちゃってください」


「それは助かる」



 防衛戦にやってきた三雲組のハーティさんの提案により、サリオ照明作戦が決定し、これから三雲組のメンツを護衛に出発していく。


 魔物の群れとの遭遇する可能性もあるので、それなりの戦力だ。


「ジンナイ様、それじゃあ行ってきま~すです!」

「ああ、わかった。後、はしゃいで馬から落ちんなよサリオ」


 『らじゃです』と言い、サリオは村を出発していく。

 

「本当に困った事態やのう、本当に…マジで…」

「ああ、確かに厄介だな、自分達で索敵しないとだなんて…」


 俺はららんさんの言葉に肯定し、走り去っていく馬を見つめた。

 ただ、ただ何となくだが、俺とららんさんの『困った事態』には、何か差があるような気がしたのだった。 






            ◇   ◇   ◇   ◇   ◇







 暫くすると、村から離れた位置、先程魔物達がやってきた方角側に、凄まじい光量を放つ光が複数見え始めた。


 元の世界でも見た事がないような光量の光。

 もしかすると、軍事的に使われるような照明弾であれば可能なのかもしれない、そんな光が増え続けていった。


「すげぇな‥、でもあれだけ明るければ魔物の発見が遅れることは無さそうだな」

「あの、確かにそうですねぇ、わたしの索敵にも距離的な限界がありますし、あれだけ明るければ他の皆さまも探せますねぇ」



 俺はいま、ラティと二人で村を見回っていた。

 一人では馬にも乗れず、【索敵】の【固有能力】を持っている訳でもない、正直な所、特に何か出来ることがなかったのだ。

 ふと、自分は役立たずか?っと、自虐的なことを考えてしまう。

 サリオは目に見える形で貢献しており、ラティも今は【索敵】で、魔物が残っていないか探している、単純な戦闘のみしか出来ない自分に対して、そんな思いを浮かべていると。


「あの、ご主人様。ご主人様が駆け付けたからこそ、この村は救われたのですよ? しかもお一人で正面を守られていたのですよねぇ? 村の方からそうお聞きしました」

「ラティ‥」


 俺の心の中を、まるで覗き込んだかのように話し掛けて来るラティ。

 そして俺の中の不安を取り除き、彼女は俺を必要だと肯定してくれる。


 ――か~、ちょっと情けないこと考えてた、

 そうだよな、単純な戦闘力ならあるんだよな、俺には、

 一人で守り切れるぐらいには‥



 ららんさんは教えてくれた今回の不備の話。

 あの話は、簡単には公に出来ない情報だった。

 

 だが、俺には真っ先に報告し教えてくれた。 


 その理由は訊ねなくても解る。

 アムさんは俺の信頼を得る為に、俺が関わることには隠し事をせずに、本当のことを教えてくれている。

 それだけ俺という存在を買ってくれているのだと。

  


「あの、だからご主人様。ご自分の事をそのように卑下することはないかと」

「ああ、ありがとうラティ‥、そうだよな、そうなんだよな」


「はい、あと‥‥そろそろ尻尾から手を離して頂けましたら‥さすがに人目のある場所では、あの、その…」

「へ?」


 俺は無意識のうちに、ラティの尻尾へと癒しを求めていた。

 俺の心の中が読まれているようだと思っていたことは、ガチで本当に心の中が読まれていただけであった。





         閑話休題(尻尾は回収されました)

 





 村の中を見回っていると、村人が多く外に出ている事に気付く。

 外に出ている村人達は、皆が上を見上げ、サリオの作り出した”アカリ”を興味深そうに見ていた。


「まぁ確かに、あの明るさは驚くよな‥」

「そうですねぇ、夜なのにこれだけの明るさですから、きっと珍しいのでしょうから、皆が見に来たのでしょうねぇ」


 そんな風にラティと並び会話を交わしていると、少しづつだが俺達を見つめる視線が多くなっていくことに気が付いた。 そして――


「あ、あの、わたし見てました。村を守って頂いて、本当にありがとう御座います!」

「あ…」

「‥‥‥」


 一人の女の子がやって来て、がばりと大袈裟なお辞儀をしつつ感謝の言葉を俺に言ってくる。


「本当に凄かったです、たった一人で門を守って」

「あ、いや、まぁそれしか出来ないから俺は…」

 

「おかげで家族はみんな無事です。みんなが感謝しています、ボッチラインのジンナイさんには」

「ちくしょー! 拡散してきたー!」



 それから、一人の少女が話し掛けて来たのを皮切りに、次々と村人達が俺のもとにやって来た。

 

 中には、例の奴隷売りのお芝居を観た者もいたらしく、隣に居るラティにまで飛び火していた。

 当然、そんなことを聞かれるとは思っていなかったラティは、しどろもどろな対応をしつつ、その場を凌ぐ。


 こうして俺達は、シータの村からは好意的に迎えられ、しかも狼人のラティまでも好意的に歓迎されたのだった。






            ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 そして夜が明けた次の日。

 サリオはMPが持つ限り”アカリ”を各地に設置して、昼間は枯れたMPを回復するべく眠ることとなった。

 そして他の者は、周囲を探索して魔物の群れを探していた。


 冒険者達は何チームかに分かれ、各地の村や町へと向かう者もいた。

 

 広範囲防衛戦を想定し、それなりの戦力が各地へと散っていく。

 ドミニクは以前住んでいた村へ隊を率いて向かい、レプソルやテイシ、陣内組も他の村へと向かった。


 流石にノトス側からは、勇者達には直接の要請はしづらく、ハーティ率いる三雲組は、そのままシータの村の防衛へと就いていた。


 そして俺もシータの村に居るのだが――


「あの、ジンナイさんは他にも必殺(フェイタル)とかって呼ばれているのですよね?」

「え? アタシは足狩りって聞いたけど?」

「これワタシが作ったパイです、良かったらどうぞ」


「あ、ああ…はい、貰います…」



 なんか俺の時代が来ていた。

 前に防衛戦で参加したナンの村で知った知識だが、村などは、防衛戦に来た冒険者達の中から、村に住み着いてくれる用心棒のような移住者を探すと聞いた。

 もっと正確に言うならば、村娘を餌に、村の守り人となる人材を捕まえる、そんな風習があると俺は聞いていた。


 以前は完全に無視されていたが、今回はまさかの一番人気。

 だが決して浮かれることもなく、どちらかというと、どう対応したら良いのか俺が困惑していると――

 

「陣内君、ノトスから連絡が来ています」

「あ、言葉ことのは…わかったすぐ向かう」



 女神の勇者言葉(ことのは)の介入により、俺に群がっていた村娘達が退いていく。


「助かった、どう対応したらイイか、全くわかんなくて困ってたんだ」


( ああいう時って、ラティは一歩引いたままなんだよな… )


「いえ、本当に来ているのですよ、あのららんさんって方が」

「え…、ららんさんが?」


 てっきり俺は、村娘の対応に困っている自分に、言葉ことのはが助け船でも出してくれたモノだと思っていたのだが、本当にノトスから連絡が来ている様子であった。


 そして防衛組の仮住まいとなっている小屋へと入ると。


「じんないさん、急いでノトスの街に戻って欲しい、ガチで緊急事態やで」

「――ッ!?」


 内容は話さず用件だけを伝えてくるららん。

 用件を言わないという事は、ココでは話せないという事、そして急いで戻って欲しいと言っている。


「わかった、すぐ向かう。サリオは、サリオは取り敢えず寝かしたまま置いておこう、MPも空だろうし完全に睡眠不足だろうからな」

「助かるよ陣内君。今、サリオちゃんの”アカリ”はどうしても防衛戦には欲しいから、彼女がいなくなると色々とキツい」


 俺の判断にハーティが肯定する。

 そして――


「それじゃあ、サリオちゃんの穴埋めの意味も込めて、僕と言葉ことのは様も一緒に同行しよう」

「へ?」

「え…ハーティさん? え、陣内君と一緒…」


 突然ハーティが、言葉ことのはと一緒に同行すると言い出した。

 

「ららんさん、何があったか知らないけど、かなりの緊急事態なんですよね? だからきっと役に立ちますよ僕らは」

「にしし、なんか勘の鋭いお人やのう。だけど助かる、一緒に来て貰えるんなら大助かりや、色々と手間が省けた」



 こうして俺は、一度ノトスの街へと戻ることになった。

 そしてノトスの街まで向かう馬車の中、ららんさんは、伏せてあった話を俺達に明かした。


「よう驚かんと聞いてなぁ、中央の城から報告が来たんよ」

「中央…」


( 中央って嫌な予感しかしねえな… )


「中央からの、王女アイリスさまが攫われたと連絡が来たんよ」

「――っな!? 攫われるって…」

「え、王女様ってお城にいるんじゃ…」

「一体何が、」


 ららんさんの言葉に、俺だけはなく、言葉ことのはとハーティが順に疑問の声をあげた。


「しかものう、攫ったったいうんは、勇者のキタハラって奴らしいんや。なんでも光となって南側に飛んで行ったとかどうとか――」



 ららんさんから語られた内容は、やはり嫌な予感のするモノであった。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、ご指摘や誤字脱字なども… 

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