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忍び寄る北原

告白します。

半年以上前に、書き溜めていたストックが切れておりました。

「おうおう、今日も賑わってんな。取り敢えず席を確保しろロウ」

「はい親方!」


 むさ苦しいゴロツキの冒険者が多い店内に、この場に居るには相応しくない小さい子供が入ってきた。


「親方、この席でイイですか?」

「おう、よく確保したな、でかしたぞ」


 小さい子供が達成した小さな仕事だが、しっかりと褒めてやる中年の男。

 

「しかしよく空いてたな、そんな良さそうな席が――って!?」


 俺の存在にいま気が付いたのか、軽い驚きの表情を見せる中年。


「珍しい場所で会いましたね、ドミニクさん」

「ジンナイもココで飯か? 珍しいな」


 そう、やってきたのは中年熟練冒険者のドミニクと、天使モモちゃんの兄、狼人少年のロウだったのだ。

 良い席が空いていたのも、勇者組のメンツに気後れして、近くの席に来る奴が少なかったのが理由であった。


「げっ、ジンナイ…」

「何が『げっ』だよ、このモモちゃん兄貴が」


 俺の姿を確認し、あからさまに悪態をつく狼人少年のロウ。


「ロウっ! まったくコイツはなんでジンナイには‥、ん、はて? いつもの陣内組のメンバーではないようだが‥あ! 女神の勇者様に、弓使いの勇者様!?」

「え‥勇者さま」


 ドミニクは店内を見回し、俺の席の近くに勇者が二人いることに気付く、そしてそのドミニクの言葉に釣られるようにして勇者の方を見るロウ。


「勇者さま‥なんで頭に犬を?」

「あう、これは‥えっと、なんでもないです…」


 頭に乗せていた白い毛玉を下ろし胸元に抱える言葉ことのは

 その顔が赤くなっており、恥じるように俯く。


 そして何故か、俯きながらも俺の方を上目遣いで窺っていた。

 

 正直な所、かなりあざとい仕草だが、言葉ことのははそれを狙ってやるような性格ではないのだろうから、きっと素でやっているのであろう。


 何とかフォローをして欲しい、そんな視線を向けてくる言葉ことのは

 俺にとってガチで命の恩人である言葉ことのは、その彼女が困っていて助けを求めるのであれば、助けるのはやぶさかではない。

 

 なんとかフォローを入れてみようと、俺は口を開きかけたのだが――


「ジンナイ! またお前は勇者さまに手を出したのか! 前、夜中にコッソリと会ってた聖女の勇者さまの時みたいに」

「へ?」

「え…また? え? 陣内君?」

「陣内アンタ! なにやってんのよっ!?」

「聖女って言うと、葉月(はづき)様かな?」


 言葉ことのはの上目遣いの視線を、ナニと勘違いしたのか、とんでもなく見当違いなことを言い出すロウ。


 白い毛玉を乗せていた言葉ことのはの行動を、微笑ましく眺めていた三雲組メンツが、『ギンッ』っと聞こえて来そうな程の視線(ガンつけ)へと変わる。


 殺気混じりの嫉妬を向けて来る野郎共(三雲組と客)

 勇者の知名度と人気の高さがうかがえるが、これは完全に濡れ衣、俺は速やかに元凶(ロウ)を排除すべく、ロウの顔に手を伸ばしアイアンクローをかまそうとすると――


「ご主人様ご無事ですか!? いま凄まじい嫉妬の感じょ…あの、これは?」

「ラティ、」

「え、ラティさん」

「ラティさん」

「ラティ姉」

「あら~ラティちゃんまで‥」


 今の殺気混じりの嫉妬を察知したのか、完全に戦闘態勢でラティが店内に飛び込んで来た、しかも抜刀までもしており、もし店内でなければ揉み消すのは無理であった。



 

 

           閑話休題(抜刀違反は揉み消した)






 一時は収拾がつかない程の混乱をしかけたが、ラティの突入と、それを追って来たサリオとレプソル、そしてテイシのおかげで収束した。


 最近までノトスに滞在してた葉月(はづき)のことを話し、そして死体魔物(グール)大量発生事件の事なども説明して誤解を解いた。

 そして騒動の元凶には、言葉ことのはの蘇生魔法が必要な一歩手前までのアイアンクローをかまし、ついでにレプソルにもツープラトン喉輪を実行しておいた。


 ただ、倒れたレプソルを介抱しようと兎人のミミアが、倒れているレプソルを甲斐甲斐しく膝枕しつつ挟む・・という荒業を魅せ、レプソルに対して追加の罰が決定した。


 

 その後、陣内組のレプソルと数人を追加して再び情報交換が行われた。

 俺が聞き忘れていた事だが、東へ遠征に行っている別動隊の陣内組の状況がどうなっているか、それをレプソルは訊ねていた。


 三雲組からの情報は、直接会って確認したわけではないが、別動隊は問題無く東側を回っているらしい。

 ただ、一緒に居たはずのバカップルだった二人の勇者は、下元は赤城と一緒に、そして加藤の方は東から北へ行ったと言う。


 下元の方は赤城に付いて行くと聞いていたので納得はしたが、あの迷惑勇者の加藤が、彼氏であった下元の元を離れたのは少し意外であった。



 そんな勇者の話が出ていると、三雲が突然思い出したかのようにある勇者の話をし出した。


「そうそう、陣内、北原知っているよね…」

「ああ、」


「アイツね、この異世界で万引きみたいなことしているみたいよ」

「へ? 万引き‥?」

「唯ちゃんそれってあんまり言っちゃ駄目なことじゃ‥」


 北原のことを何でもない様に話す三雲、そしてその三雲とは違い、何処か気まずそうな表情を見せて止めようとする言葉ことのは


「三雲、その北原の話を詳しく聞かせてくれ」

「陣内‥」

「陣内君」


「聞かせてくれ」

「…いいわよ」


 俺は止めようとしている言葉ことのはを遮り、三雲に話すよう促した。

 そして三雲から北原のことを聞いた。


 そしてその内容は、最初に言った通りのモノであった。

 北原が万引きのように、商品などを【宝箱】を使って盗んでいると言う、本当にしょうもない話であった。

 この話の出処は、東に一緒に向かった勇者橘から聞いたモノだと言う。

 東に遠征に向かう際、一緒に向かった橘風夏(たちばなふうか)から、ちょっとした雑談から漏れたモノらしい。

 そう、漏れた情報。


 中央の城から公爵家には連絡が来ていたらしい、勇者北原が窃盗を繰り返していると。ただ、勇者が窃盗をしているなどは聞こえが悪く、とても公には出来ない。


 だからと言って放置も出来ず、一応、大貴族だけには伝えたようだ。

 要は、各自で判断して被害を減らすなりしろと言う事なのだろう。


 そして公爵家の支援を受けている勇者橘は、詳しい経緯までは知らないが、それを聞いてうっかりと雑談程度の話題に出して(漏らして)しまったようだ。


 

 結果それが巡り巡って、俺の元に来たのだった。


「だから陣内、この話は一応秘密だからね。あんまり言いふらすんじゃないわよ、勇者の信用問題にも繋がるかも知れないんだから」

「ああ、分かった」

「唯さん‥」


 ――コイツ口軽いな‥、

 つか、その話を全部鵜呑みにしたのかよ‥、迂闊過ぎんだろ‥ 

 あ! そういや三雲って、俺の強姦冤罪も決めつけて信じてやがったな、



 三雲から話を聞いた後は、お返しとばかりに、今このノトスに演劇馬鹿の勇者が居ることを教え、その後も雑談を交わした。


 陣内組と三雲組は、共に深淵迷宮(ディープダンジョン)の大探索をした事がある仲、なのであの時の話などで盛り上がりを見せていた。

 特に地上へと戻る途中に起きた悲劇、”入浴中のサリオ覗き事件”の話では、大いに話の花を咲かせていた。

 

 サリオをネタに盛り上がり、レプソルは罪を冷やかされ(物理で)、ラティはここぞとばかりに周りから話し掛けられ、狼人少年ロウは三雲に可愛がられていた。


 そして何故か俺は、隣の席に座っている言葉ことのはと、とりとめもない話を長々と交わしていた。

 ただ長く話していた割りには、『ああ』とか『そうなんだ』程度の言葉しか発していなかったが。



 時間が夜10時近くになり、突発的な宴は終わりを迎えた。

 言葉ことのはと三雲の勇者の二人は、新ノトス公爵となったアムさんに挨拶をすると言い、今日は遅いので明日の朝10時に向かうと伝言を俺は頼まれた。


 そしてその時に、狼人少年ロウの妹モモちゃんに会いたいとも言う。

 その彼女達の表情からは、そっちの方がメインのように感じられ――


「陣内、アンタ明日は公爵家に居なさいよ。絶対よ!」

「え? 別に俺が居なくてもいいんじゃ…」


「知り合いがいないと‥ちょっと気まずいでしょ、その…モモちゃんだっけ? その子に会いたいんだから、ちょっとは協力しなさいよ」

「陣内君、私からもお願いします。陣内君が居てくれた方が安心しますので」

「ああ、まぁ確かにそうか。わかった明日は潜るの休むよ」


 ――そりゃそうか、

 他人の家に上がるようなもんだしな、

 そこで知り合いが居ないんじゃ気まずいか…



「ありがとう御座います陣内君。私、嬉しいです」

「ん、ああ‥じゃあちょっとレプさんに伝えてくるよ、明日、俺は深淵迷宮(ディープダンジョン)に行けないって」




 こうして明日の予定が決まった。

 俺は公爵家に戻りアムさんにその事を伝え、そしてモモちゃんにも報告は無理だったので、乳母のナタリアさんに明日の事を伝えた。


 因みに、俺達と一緒にいたドミニクさんは。

 先程の宴で盛り上がり過ぎ、泥酔するほど飲んでいた為に、ロウに肩を借りるようにして戻ったのだが、離れでメイドの仕事をしている娘のリーシャに超怒られていた。



 そして俺は今、自分の部屋でラティを待っていた。

 今日集めた情報を整理して纏め、耳と尻尾を撫でながらそれをラティに話す、いつもの日課の為に。


 ラティが来るまでの間、今日聞いた話を思い出す。

 北原が中央の城に現れた。

 北原が万引きのような盗みをしている事。


 そして先程アムさんからも確認を取った、その情報の裏付け。

 

 アムさんは俺と北原の対立をしっかりと把握しておらず、自身の公務の忙しさもあって俺にその事を伝えていなかった。

 なので、それを責める気は俺の中には無かった。


 少なくとも、その情報の裏付けは出来たのだから。

 


 何か忍び寄ってくる感覚を感じる北原。

 ふと、そんな考えが頭によぎり始めた時、俺の部屋の扉が開く。


 俺の部屋に入って来たのはラティ。

 俺が話をする為に呼んだのだから、ラティが来たのは当然なのだが――


「あれ…ラティ?」

「ぷしゅ~」


「……まさか酒飲んだ…?」

 


 部屋にやって来たラティは、なんとモモちゃん化したラティだった。

 

 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、ご指摘や誤字脱字なども…

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