レプソル無双
ここ最近のなろうのサイトに繋がらず、投稿が遅れてしまいました。
「っがああああっら!!」
激情を刃にのせて槍を振るう。
横薙ぎの一閃に、死体魔物が5~6体まとめて黒い霧と化す。
そして大きく踏み込み、再び薙ぎ払う。
俺の思考を支配するのは、今度こそ助けるという強い意思。それと――
――時間が無いっ!
サリオは今日そんなにMPを使っていないから後‥4分程度か?
くっそ! 絶対に間に合ってやるっ!
俺は時間に追われていた。
サリオの結界はMP消費が激しく、サリオのMPが満タンだとしても5~6分が限界。それを超えるとローブの結界は維持が出来なくなり、彼女達を守っている結界は消える。
そしてそれは、サリオと葉月の死を意味する。
しかもただ死ぬ訳ではない。
人の死に方の中でも最上位に惨たらしいモノの一つ、”生きたまま喰い殺される”。それに襲われるのだ。
あの二人のように――
「――絶ッ対に、させねええええ!」
地面に槍を叩き付けるようにして止め、そしてその反動で逆方向へ薙ぐ。
俺は歩みを止めず、槍で向かって来る魔物を薙ぎ払い前へと征く。
( 絶ッ対に―― )
「行くぞ野郎どもっ! 二人だけに戦わせてんじゃねぇ!」
後ろから聞こえてくる頼もしい一喝。
そして――
「そちらに行かせませんっ!」
視界の端に映り込むは、もっとも頼もしい亜麻色の獣。
ラティだけは遅れることなく、俺をフォローするべく翔けていた。
「おっし、ラティが狼男型を抑えているうちに押し返すぞ! ジンナイが後ろを取られないように、回り込んで来る死体魔物を潰せ!」
次々と指示を飛ばすレプソル。
それは陣内組だけではなく、ロードズ組にまで広がっていた。
「あっ!いいかお前等、ジンナイに近寄るなよ、巻き込まれるぞ! 前線の押し上げはジンナイに全部任せろ。おい青いの! アンタ派手なWS使ってたよな? アレで白いケーキを狙え、あの魔物は自分を守ることを最優先にする筈だ」
「っな!? 青いのって僕のことかい――」
「いいから早くやれ! 聖女の勇者様を助けるんだろ! さっさとやれっ」
「くっ」
遠慮の無い指示を次々と飛ばすレプソル。
そしてそれはすべて適切であった。
白いケーキ野郎は、自身が狙われると自分を守ることを最優先とする傾向があった。以前の魔石魔物暴走事件でも、あの白いケーキ野郎は一番後ろで、自分を守るように魔物を動かしていた。
「迅盾組は待機だ、ジンナイが押し切ったら突っ込むぞ。各自で担当する獲物を決めて被らないようにしておけ」
「くそ、俺だって行けるぞ――」
「邪魔すんな黒いのっ! お前は瞬迅ラティみたいにいけるってのか? 足場は死体魔物の頭と肩だぞ? 地面とは違う、下手こいて落ちられても困るんだよ」
「――ッ!」
焦りに先走ろうとするブラッグスを、容赦無くバッサリといくレプソル。
確かにラティのように死体魔物の群れを足場にして、落下することなく駆けていける程の技量が、今のブラッグスにあるとは思えなかった。レプソルの指摘は正しいだろう。
「だから今は待機してろ! だが出番が来たらしっかりと働いてもらうぞ」
「ああ‥分かった…」
背中越しにブラッグスの、悔しさに満ちた声音が聞こえた。
「後衛攻撃魔法組も白いのを狙え! あいつに余裕を与えると――って!させっか風系束縛魔法”エアバイン”!」
「――――!!」
白いケーキ野郎の指示からか、狼男型が威嚇の咆哮を行おうと口を開きかけたが、青い風で出来た束縛の輪が、狼男型の顎を縛る。
「そっちもか!”エアバイン”!」
レプソルの指示のもと、呆然としていたロードズ組も動き出す。
無駄に派手な弓WSが白いケーキ野郎を牽制し、アタッカー組は俺の背後を取ろうとする死体魔物を倒し続け、支援組は狼男型の行動の妨害に徹する。
そして俺は魔物を薙ぎ払い、死体魔物の群れを削り取っていく。
一薙ぎで5~6体を屠り、強引に前線を押し上げる。一瞬でも槍が止まれば、即、死体魔物の波に押し込まれそうになる。
「次の用意だ! テイシ殺れるか?」
「ん、任せろ殺ってみせる」
後ろから感じる覚悟の気配。
聞こえてくる会話の内容から、テイシがアレを狙っている様子であった。
「ラティー! アレいけるか? 行けるなら合図をくれぇー」
「はい、そちらに引っ張ります。天井が合図でっ!」
「道を開けろー! テイシ、速度をあげる魔法いるか?」
「要らない、アレはタイミングが狂うから」
混戦の中、魔法で魔物の動きを妨害しつつ、的確に指示とプランを立てていくレプソル。そしてそれを淡々とこなしていく陣内組。
俺が突っ込んで切り開いた戦線を、広げるようにして押し込む前衛組。 そして確実に戦線を前進させていく。
視界の隅で激しく光る何かと轟音。俺は前を向いているのでしっかりその目で確認した訳でないが、それがテイシの放った斧系WS”レイグラ”の重ねだと判る。
「っしゃああ! ラティとテイシよくやった! まず一匹だ」
「次いくぞ次」
「おーい、白ケーキに弾幕を増やせ! あの野郎に隙を与えるな」
「こっち回復魔法をくれー」
「青いのサボんな! あのキラキラしたWSもっと撃て」
「ホークアイ、下に魔石が落ちてないかチェックをしてくれ。呼び出されたグールは魔石を落とさないみたいだけど、例外がいるかもしれない」
「レプソル、了解した。取り敢えず今の狼男の魔石を回収する。誰か援護に来てくれ、とっとと魔石を回収したい」
俺が、ただ戦うだけの中、レプソル率いる陣内組は抜け目なく仕事をこなしていく。
「次の狼型やるぞー! テイシ、今のもう一回いけるか?」
「任せろ」
昔とは大違いだった。
ただ単に戦うのではなく、混戦時であろうと、各々がしっかりと仕事をこなし、チームとして魔物達を屠り退けていく。
そして戦況が変わる。
白いケーキ野郎がWSと攻撃魔法から自分の身を守る為に、魔石魔物と死体魔物を盾にして応戦、そしてそれをこちらが削って追い詰めていく状況。
敵の戦力は白いケーキが1、狼男型2、狼型1、巨大死体魔物が1、そして雑魚の死体魔物が大量。
ただ勝ちを拾うだけで良いのであれば、戦いの流れはこちらが掴んでおり、時間を掛ければ倒し切れるであろう。
だがそれではサリオのMPが枯れて、葉月とサリオを助けることが出来なくなってしまう。
ジリジリと焦りが心の中に生まれる。
早く急がねばと――
――くそ、最後が押し切れない、
粘るんじゃねえよ! くそっ!あと少しなのに届かない‥
白いケーキ野郎は戦術を完全に変えていた。
狙ってやっているのか、それともただの悪足掻きなのか、白いケーキ野郎は消極的な作戦を取っており、攻めて来るのではなく、ただ耐えるだけの戦術。
巨大死体魔物に、ひたすら死体魔物を呼び出させ、そして魔物を全て自身の守りへと回す。
「くそ!攻め切れない」
「焦るなジンナイ!」
「だけど――っがあああ!どっけええ!」
俺は強引に押し進む、そしてそれを嘲笑うように死体魔物が呼び出される。そんな不毛な繰り返しを続ける。
「ハァハァ…」
全力で動き続けた代償により、さすがに呼吸が乱れてくる。
気が付くと汗も酷く、首回りからは汗が噴き出す。
――くそ、あと少しなのに届かない、
何かチャンスがあれば‥何とか奴の元まで届けば、
くっそっ!もういっそ喰われながらでも切り込むか‥
焦りから、自棄になった短絡的な思考が溢れ出す。
そしてその思考に頷きたくなる。
【加速】を使って強引に割り込み、葉月とサリオの元へ向かい彼女達を守る。
やれないことは無いと思うが、その一方で厳しいとも思える。ラティのように上を駆ける事が出来れば、難なく辿り着けるのだろうが、死体魔物の群れの中を掻き分けて進むのはやはり厳しいだろう。
ラティを行かせる案も浮かんだが、ラティでは、辿り着けたとしてもその後がマズイ。ラティは足を止めた戦いには向かない。
機動力を生かしてこそが瞬迅たるラティであり、タンク的な戦いは、彼女を危険に晒すだけである。
――駄目だ、
やはりここは俺が強引に切り込んで行くしか…
俺は時間を惜しみ、覚悟を決めて飛び込もうとした身構えた瞬間――
「陣内君!これを見て」
「葉月?」
前線を押し上げて進んだおかげで、葉月の姿が確認出来る程度には近づいていた。そしてその葉月が、俺にあるモノを見せる。
「サリオちゃんにコレを借りてやってみたの、これなら…」
「――っこれは!?」
葉月の手には、サリオの赤い杖が握られていた。
そして、身を守る為の障壁として使われていた葉月の魔法障壁が、俺の目の前よりも少し上、死体魔物の群れの頭上に、まるで道のようにそれは展開されていた。
約4~5メートル程の長方形で薄く光る半透明の板が。
「これなら‥」
「それを使って陣内君! この杖のおかげでその形と、遠く離れた場所にでも展開が出来たの。 だからそれを使って」
光る障壁の板が指す先は、巨大死体魔物の方向。
葉月は、助けて欲しいと言うのではなく、倒して来いと言う。
しかも――
「ジンナイ様! 合図くださいです、あの魔法を使いますからアレをやっちゃってくださいですよです!」
「サリオ、結界を使いながら魔法唱えれるのか?」
「一瞬だけ解除して、また張り直すです…」
「――ッ」
色々と言いたい事があった、『それで平気か?』とか『お前達は危険じゃないか?』など、他にも沢山の事が。
だが俺はグダグダと考える事を止め、一点に集中する。
葉月とサリオが作ってくれる機会に狙いを定め、短く指示を出す。
「ラティー! 突っ込むからフォロー頼む」
「はい、お任せ下さい」
「五神樹ども! 身体張って葉月達を守れ!」
「言われなくても俺様はハヅキを守る、だからお前は死ねっ」
「何をするつもりだジンナイ!?」
「へぇ~~なにかぁ~良いぃ案があるんだぁ~」
「おまんにいわれんちょも――聖女ハヅキ様はワタシが守る運命っ」
「俺はてめぇの指図は受けねえよ!」
ラティとは違い、殴りたくなってくる反応を返す五神樹。
だが今はそれを呑み込み――
「レプさん、後のことは任せた、ちょっと倒してくる」
「ジンナイ!? ああ‥了解した、後の事は任せろ」
本当に短いやりとり、時間にして10秒ほどの打ち合わせ。そして――
「サリオぉ!アレを寄越せー!」
「はいです!卵5個でお願いしますです、風系支援魔法”ヘイストゥ”!」
ちゃっかりとスキヤキ時の要求を引き上げつつ、唯一の補助系魔法を唱えるサリオ。そして俺は、薄い桃色の風を身に纏い駆け出しながら吼える。
「制限解除穿撃!」
俺は光る障壁の足場へと飛び上がり、重心を下げて突撃体勢へと入る。
正面、約15メートル先の巨大死体魔物を視界の中心に捉え。
視界の隅の方には、俺の行動を察したケーキ野郎が妨害の為に、俺の進路を遮ろうと狼男型を差し向けた様子だが、それをラティが空中でWSを放ち怯ませていた。
ラティのWSにより、顎をカチ上げられて体勢を崩す狼男型。
俺の正面は、障害物が完全に排除されており、次の瞬間には――
――ズバァン!!――
俺は巨大死体魔物を貫いていた。
無骨な槍と共に、身体ごと黒い鏃となって貫く。
ほぼ反応することなど出来ず、巨大死体魔物は黒い霧となり霧散する。
そして次の刹那――
邪魔な障害物もなく、無防備に俺の前に存在している白いケーキ野郎。
「裏を取ったぜぇ、白いケーキ野郎がぁぁ!」
どちらが前なのか解らないが、感覚的には背後を取った気分で俺は吼え、そしてそのまま白いケーキ野郎も貫いた。
サリオが唱えた魔法の効果時間は約3秒。
その3秒間で俺は、巨大死体魔物と白いケーキ野郎を撃破して勝敗を決めたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想やご指摘、またはご質問のコメントなど頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども…