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あくい女

三人称?のような?もの?

 失敗した失敗した失敗した―― 

 どうしてこうなったどうしてこうなったどうしてどうしてどうして――

 なんでなんでなんでなんでなんで何故何故何故何故――


 これでは守れない守れない守れない守れない――

 まだ何か可能性はないのか――


 聖女様を助けられる可能性は――


 

 女は心の中で叫んでいた、ただひたすらに後悔の言葉を。


 女にはある計画があった。

 上手く行けば良い程度の、運だけで成立する可能性だけに賭けたような、とても計画とは呼べないような、そんな計画が。


 それは、五神樹ごしんき達の暗殺。

 だが、単に暗殺を行うだけでは駄目であった。しっかりとした理由のある死でないと、敵対派閥が納得しない。

 だから、聖女を庇ってでの死を演出すれば、それは名誉のある死であり、誰もが納得のいく死であった。


 五神樹ごしんき達は以前、中央の地下迷宮ダンジョンで聖女を護り切れず、危うく聖女を死なせてしまいかねない瞬間があった。そしてそれがトラウマとなっている彼等であれば、きっと聖女の為であるならば、迷わずに死地へと向かうだろうと女は確信していた。 



 そして女にはもう一つの計画があった。だがそれは揺らいでいた。

 ジンナイを使った逆当て馬のような計画。だがそれを知った聖女によって、その計画が破綻する恐れが出て来ていたのだ。

 最初は上手く丸め込める、間違いのない様に導ける。そう思っていたのだが、予想を遥かに超える聖女の性根、そして聖女の心は女の予想よりも強く、そして強かであった。


 女にとって厳しい状況だが、女は退くつもりは無かった。

 そしてその結果が――


「危ないエルネさん!」

「――っあ!?」


 突然湧いた魔石魔物の攻撃から、守るべき聖女に助けられる。

 

 自分と位置が入れ替わり、魔石魔物の攻撃に晒される聖女。

 その聖女は障壁を張って防ぐが、魔物のプレッシャーに押され、そのまま角の方へと追い込まれる。


 それは完全に予想外の状況。


 曲がり角の死角に、こっそりと魔石を置いたのは女であった。

 不意を突くように魔石魔物が湧けば、事故が起きる確率が跳ね上がる。そして、事故が起きた時に真っ先に死ぬのは盾役達。


 予想外の魔物が現れた時、一番負担が大きいのは盾役だった。

 盾役は、常に魔物の攻撃に晒されている。それにパーティが退却(敗走)する時などの、殿(しんがり)を務めることも多い。

 女は自身の経験からそう思っていた。


 だから、盾役の黄色(・・)を上手くいけば、奴を事故に見せかけて暗殺が出来るのではと、女はそう狙っていた。

 仮にパーティが半壊したとしても、レベルが上がって覚えた移動補助系魔法を使えば、聖女と一緒に逃げ切れる。


 そして逃走の際には、五色共を唆して、全員を殿(生贄)にすれば良い。まさに隙のない計画であると疑っていなかった。

 

 だが――




 ッああああああああああああ!

 まさか、聖女様が捕まるとは‥これでは逃げられない。

 見捨てる事など出来ない。


「ああ、ハヅキ様なんという事に‥ワタシを庇って…」


 女は失念していた。

 自身の置いた魔石の事を。


 この深淵迷宮(ディープダンジョン)に来て以来、初めての窮地らしい窮地に気を取られ過ぎて、自身の仕掛けた魔石()が頭から抜け落ちていた。


 コッソリと魔石を置く行為は、ロードズ組では暗黙の了解のようなモノがあった。それだけ多く稼げるのだから、その行為を強く咎める者はいなかった。

 あらかじめ置いていた魔石を、あたかも今置いたように設置して。少しでも魔物が湧くインターバルを短くする方法。


 その際に、うっかりと湧いてしまう事故もあるが、このロードズ組では、効率の為に見逃されていた。

 そしてそれが今、とうとう牙を剥いた。


「ハヅキ様を助けるのです!」


「くそ! いま手が離せないっ」

「いまそれどころじゃって、え? ハヅキ様が!?」

「おい!なんで後ろに魔物が!」

「くそ、回復がっ」


 女は心の中で舌打ちをする。

 ああっ…このさかる事しか出来ないオスどもは、何故助けにいかないっ。

 位置も最悪だ、これでは他のパーティも助けに来れない。


 女は理解していた、自分が一人で助けに飛び込んだとしても、それは間違いなく無駄死にになると。聖女を助ける為には、何人もの協力が必要だと。


 そして、自分の出番(連れて逃げる)はまだ先だと。




 聖女は完全に角に追い込まれ、障壁が無くなれば即咬み千切られる状況。

 そんな窮地に――


「――また高いモンを。おい!葉月(はづき)ぃぃぃ!コレを受け取れぇぇえ!」

「え?陣内君!?」


 ――え?あの嘘くさい(・・・・)男の声!?



 あの男の逸話は嘘だらけだった。

 歴代勇者達が残した諺に、”噂に尾ひれが付き過ぎて水龍になる”もしくは、”噂に尾ひれと足が付いて竜となる”――と言う諺があった。

 それの意味は、噂話を盛り過ぎて、本来とはかけ離れた噂話になってしまうというモノ。最終的には、最強種の竜に見立てるようになってしまう程、事実と噂話が乖離してしまうという例え話。



 たった一人で魔物の群れを殲滅するなど、その最たるもの。

 その男が、自分の仲間を投げて寄越して来た。


 醜い放物線を描き、その投げられた者は魔法を唱え、一瞬ではあるが狼型の魔石魔物を退け、そして聖女様の穢れない胸元へと落下した。


「あたしを拾ってくださーいです~」

「え? えええ!?」


 少し間抜けなやりとりを交わし、二人が合流を果たす。

 そして見た事の無い、丸い障壁の結界が張られる。


 これなら助かる、良かった、聖女様が助かる‥。

 女がそう思った瞬間――



「あああ、後ろ追加が湧いた!」


 え?何を言って‥


「おい、しかもまた2体って…」


 まさか‥


「あれは最悪だ…」


 何故、このタイミングで…


「ふざけんな! どんだけ魔石置いてんだよ!」


 ワタシ以外の誰かが置いた魔石からっ!?



 


 

 津波が襲って来た。

 この世でもっとも醜悪に見える津波が。


 腐り切った体をひしめき合わせ、醜く雪崩れ込んでくる死体魔物(グール)の群れ。

 

 戦闘中だったロードズ組と五神樹ごしんき達は、その津波に押し出されるようにして位置をズラされた。

 聖女様と、忌避すべきハーフエルフの二人を残して。


「ハヅキ様!」


 何故だ、何故こうなったっ。

 こんなの助かる訳がない。誇張抜きで魔物の群れに飲み込まれている。

 今ここにいる冒険者が、仮に全員突撃したとしても、それでも助け出せるイメージが湧かない。それどころか、いつ逃げ出してもおかしくない状況だ。


 冒険者など所詮は、自分本位の集団。

 大義の為ではなく金の為に戦い、誰かの為に戦うのではなく自分の為に戦う。

 そして最後は惨めに朽ちていく奴ら。


 信仰も生産性もない、ただ、己の欲の為に戦う人種。目標が同じで共闘をすることはあるが、コチラは信仰と大義の為に戦い、奴らは金と欲の為に戦う。


 そんな冒険者達なのだから、この状況では逃げ出すだろうと容易に想像が出来る。一度入り口まで退いて防衛戦を張ろうなどと言い出すだろう。


 その判断はきっと間違いではない。

 だが、その判断を実行するという事は、聖女様を見捨てる事へと繋がる。

 ならば絶対にそれはさせてはならない。


 退くなど絶対にありえない――






 だが現実は。


「ああ…、誰か、誰か聖女ハヅキ様をお救いください」


「くっ、オレ様はどうしたら…くっそ、ハヅキ…ちくしょうっ!」

「僕の弓ではどうにも…いっそのこと苦しまぬよう…弓で」

「ありゃ~、こまったぁ~盾で押してどうにかなるレベルじゃないよぉ」

「オラぁが魔法で…、くしょう、ちっきしょうぃ」

「……この身を賭けて…どうにかなるモノではないか、どうしたら…」


 五神樹ごしんき達から漂ってくる諦めの気配。

 眼前に広がる光景が、彼等に絶望を突き付け、そして諦めさせていく。

 助かる可能性など一筋も無い、これは無理なんだと、だから諦めるのは仕方ないと、そんな毒のようなモノが心を侵食していく。


 もう誰かが逃げ出すのは時間の問題であった。

 誰か一人でも逃げ出せば、それはパーティの瓦解へと繋がる。そしてパーティの敗走は、他のパーティの逃走へと繋がる。


 女は理解していた。

 もう止められないと。自分の身を差し出すので、誰か助けてくださいと懇願しても、きっと無駄であろうと。もう諦めるしかないのだと――


「―ッがぁぁぁあ!!」


「――ッ!?」


 突然の、大気を震わせるほどの咆哮。

 一瞬魔物が叫んだのかと、そう勘違いするほどの獣じみた雄叫び。

 だがその声音から、辛うじて人の発した声だと判断出来た。

 

 そして――


 ――ッザッシュゥ!――

 

 横薙ぎの一閃。

 黒い何かが、無骨なモノを振るい、死体魔物(グール)を纏めて数体霧へと還す。


「ッがっらぁあああ!」


 ――ッズバァアン!――


 横凪ぎの勢いを殺さずに、そのまま独楽のように回り、再び横へ薙ぎ払う。


「――っな!? 何が!?」


 理解が追い付かない。

 突然の咆哮と共に、黒い暴風のようなモノが、死体魔物(グール)を木の葉のように薙ぎ払っていく。


 ――ッガツ!――


 死体魔物(グール)を横薙ぎにしていた無骨なモノが地面へとめり込む。

 まるでバターにスプーンを斜めに刺し込んだようにして地面にめり込んだモノを見て、薙ぎ払っていた無骨なモノが槍であると気付く。


 そしてその槍を、横から蹴りだして地面から解放し、その勢いで再び横に薙ぎ払う黒い暴風。

 その光景に女は息を呑む。

 

 女は今まで聖女に付き添い、数多くの冒険者達を見てきた。

 熟練と呼ばれる者や、達人と呼ばれる者達も。


 そんな熟練や達人と呼ばれる者達が霞む程に、黒い暴風は激しかった。



 荒々しくも洗練された横薙ぎの一閃。

 そしてその回転の勢いをそのままに、次の横薙ぎへと繋いでいた。


 薙いだ後に槍を身体に引き寄せ、ブレることなく回転に勢いを増してから、次の横薙ぎを放っていた。

 だが、その強すぎる勢いは、次の動作の大きな隙と反動になるかと思っていると、その槍を地面に不時着でもさせるようにして、地面に横から刺す。


 そしてそれを蹴りだし、横に薙ぐ。

 洗練された動きと、荒々しい獣じみた動作。


 その二つを駆使して、次々と死体魔物(グール)を吹き飛ばすようにして、黒い霧へと還していく。



 ――ザッシュ!!――


 槍の一振りが、絶望を薙ぎ払っていく。


「ッどけぇぇえええ――!!」


 黒い暴風の咆哮が、絶望を吹き飛ばす。


「っがああああああ!!」


 黒い暴風の踏み込み(前進)が、絶望を退け、希望を引き寄せる。


 

「な…こんな無茶苦茶な…、これではまるで、まるであのホラ話…あの与太話のような…あの噂話の――ッ!? まさか…」 

 

 

 目の前に広がるデタラメな(嘘のような)光景。

 たった一人の冒険者が、100体を超える魔物の群れを薙ぎ払い、一人だけで前線を切り開いて押し上げる。

 

 それはまるであの与太話、全く信じていなかった孤高の一人最前線(ボッチライン)。あの噂話を再現しているようだった。


「――ッあ!?」


 あれはまさか本当のことだった?誇張ではなくて事実だった!?


 女はあの噂の事を、心の中では信じていなかった。

 一人で魔物の群れを相手にすることの厳しさを、彼女は深く理解していたのだから。


 WSウエポンスキルを使用しなければ戦闘自体が厳しい。

 だが、そのWSウエポンスキルは強力ではあるが、その反動と隙は無視出来ないモノがあった。強力なWSウエポンスキルを放てば、その分、隙と反動が大きかった。


 その生じた隙は、魔物に囲まれる状況では致命的である。挽回する為にWSウエポンスキルを使えば、また致命的な隙が出来る。

 だからこそ、それを補う為にパーティ(仲間)が要る、仲間のフォローがあれば、WSウエポンスキルなどで生じた隙を仲間がカバーしてくれる。


 

 だから一人だけで戦える筈がないと、そう女は思っていたのだが。


「――ッだっしゃあああ!」


 WSウエポンスキルを一切使用せずに戦う黒い暴風。

 

「ああ、確かにこれならば隙は少ない…」


 周りの誰もが息を呑み、その光景を呆然と眺める中、女は小さく呟く。


「‥これがボッチライン(孤高の一人最前線)…」



 一人の黒い暴風が、死体魔物(グール)を刈り取るようにして屠っていく。決して止まる事無く、常に必殺(フェイタル)の一撃を放ち、次々と魔物を黒い霧へと変えていく。



「これがジンナイヨウイチ…」


 女は一人つぶやき続ける。


「これが聖女葉月(はづき)様の想い人(・・・)、ジンナイヨウイチですか…」


 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字誤用脱字に誤字なども…


描き方ちょと変えたら変だった…

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