密室の二人 (あ、モモちゃん居たか
超難産でした‥
俺は葉月にぶちまけた。
…俺は葉月に、五神樹の思惑や、エルネの計画などをぶちまけた。
葉月はそれを無言で、だが瞳はしっかりと相槌を打ち、真摯に俺の話を聞いてくれた。因みにモモちゃんは、『あぷぅ~』など合いの手を入れてくれていた。
全てを聞いた後、葉月はテストの答え合わせでもするかのように、一つ一つを丁寧に確認しつつ、認識に誤差がないようにすり合わせる。
そして――
「ゴメンね陣内君、ここ数日で本当に迷惑をかけちゃったみたいだね…」
「ん、ああ、わかってくれるか」
葉月は口元に右手を添え、神妙な顔つきで感想を言う。
「私が思っていたよりも、もっと深刻だったんだなぁ~」
「あん?」
「うん、あの人達が急に慌てていたから、何かおかしいとは思っていたんだけど、エルネさんがそんなに裏で動いていたなんて…やっぱり王女様が言っていた事は本当だったんだなぁ~ってね」
「はい? 王女様ってアイリスだっけか?」
( 何でココで王女様が? )
「そうアイリス様、アイリス王女から忠告を受けていたんだ私」
「忠告って‥?」
――ん? なんだ忠告って?
北がヤバイとか‥か? いや、北がヤバイのは俺だけか…
それなら何の忠告を?
「アイリス王女からね…えっと、婚姻の申し込みとか、そう言うのが多くなると思うから気を付けてねって、あとね‥えっと…その……」
急に歯切れが悪くなる葉月。先程までは真剣な顔つきだったが、今はそれが見る影もなく気マズそうにモジモジとしている。
そして、蚊の泣くような声で――
「赤ちゃんを、子供を求められるようになるって…」
「へ?」
葉月は恥ずかしそうに顔を赤らめて、経緯と理由を語ってくれた。
聖女の勇者葉月は、俺と一緒に面会をした以外にも、何回か王女アイリスと会っており、お茶を飲みながら会話を交わしたそうだ。
そしてその時に、女性の勇者達は男の勇者達に比べて、戦う以外にも婚姻と子供を強く求められるようになると教えてくれたのだと言う。
どうやら有力貴族達から、王女アイリスはあるお願いをされていたらしい。フリーで活動している女子の勇者達に、再び貴族の庇護下に戻るよう説得をして欲しいと。
そしてその願いに対して、邪なモノを感じた王女アイリスは、宰相のギームルにそれを相談をして、そのギームルから今回の真相を聞かされたのだと。
俺もそれは薄々だが把握していた。
異世界を守る希望の証、召還された勇者。その希望の証との婚姻を重視するのは予想が出来た。そして婚姻があるのであれば、その先には子供を。
現に上杉とセーラの婚姻、そして彼女の懐妊は大々的なお祭りになっていると聞いている。だから葉月の語った内容は、驚きよりも納得と確認の意味合いが強かったのだが――
「それでね陣内君、魔王発生まで1年を切る辺り、その時期が迫ってくると子供を求める度合いが強くなるんだって」
「へ?」
「えっとね‥魔王発生時に勇者を妊娠させていると保護法に引っ掛かるし、魔王との闘いで命を落とす可能性もあるから、その前に子供だけでも欲しいって人がいるみたいなの…」
「――っんな!?」
とても身勝手で酷い話だった。
貴族達が、召還された勇者を支援するのは、自身の一つのステータスであり、そしてそれが今後の領地運営に影響していくのだろうというのは、俺でも予測が出来た。
そして勇者との婚姻は、それを確固たるものにするのだろうと。
もしかすると勇者保護法が無ければ、女性の勇者達は監禁紛いなことをされて、子供を強要されていたのかもしれない。そして男の方には女性をあてがう。
上杉達は相思相愛となったが、最初の思惑は、まさにそれであった。
そして葉月が忠告された、婚姻を強く迫ってくる時期とは――
――丁度、今からって感じか、
確か妊娠の期間って十ヵ月だったけか?よく知らんけど、
そんで、リミットの一年まで約半年って所か…
俺は葉月から聞いた情報を、頭の中で簡単に纏める。
聖女の勇者葉月は、王女アイリスから、魔王が発生する1年から1年半前の期間になると、女子の勇者達は婚姻を、そして子供を強く望まれるようになる。
葉月に色々とぶちまけてみたら、俺にもぶちまけられた形となった――っが、何故、この話に逸れたのだろうと、俺はふと気付く。すると――
「王女様からね、注意してくださいって言われてたんだ私、そしてそれを他の子達にも伝えてあげてって」
「‥‥‥‥」
俺はなんと返事をしたら良いのか分からなかった。
葉月は、相槌すら打てない俺に話を続ける。
「正直、よく理解していなかったの‥いきなり結婚とか子供とか言われてもわからないし、それに結婚とかって、そう言う理由でするモノじゃないでしょ? 子供もそう…」
――ッ、確かにそうだ、
そんなふざけた理由でするモノじゃないな、
結婚も、子供も…
「それでね、この前、陣内君とエルネさんと私の3人で話をした時に聞いたでしょ、八十神君とか五神樹の彼等が‥その、私と…えっと…」
「ああ!判ったっ、言わなくていいっ、言わなくていいからそれ」
――あの時の話か、
エルネが容赦なく言った五色達の最終的な目的は、
葉月を孕ますってヤツか‥
「うん、それでね、王女様の話をもっとよく考えてみて、自分なりに色々と考えてみたんだ、この三日間…」
「あん?自分なりに?」
「そう、自分なりにね。えっとね‥その、彼等の好意には気付いていたの、全く隠していないし毎日来るんだからね。それと‥」
少し気まずそうに顔を赤らめ、小さい声で葉月は続きを語る。
「好意だけじゃなくて、その、エッチな下心?そう言うのも感じてはいたの」
「お、おう‥」
( 流石に返答に困る… )
「あ、別にそれを変だとか思っていないよ? 何となくそう言うモノなんだって解るし…高校生なんだから普通にしている人はいるし、五神樹の人達だって私よりも年上だと思うし」
「ああ、それで」
「あぷぅ?」
「でもね、でも…その先は想像していなかったんだ…」
「ああ‥なるほど、そりゃそうか…」
――そりゃそうだ、
好意とか交際‥、そんでヤルのが目的とか考える奴はいるけど、
その先の、子供を作るのが目的なんて予想しないか、
「だからね、それは考えていなかったんだ…、ましてそれを求められているなんてね、しかも、本来とは違った形でそれを求められるなんて…」
「だな、それはそう言う目的で求めるモンじゃないな、もっと普通の感情で、そんで最も尊くて大事な感情で求めるべきだよな…赤ちゃんは」
俺は抱っこしているモモちゃん見つめ、薄い紅茶色の髪を優しく撫でる。手櫛でおでこから、頭の後ろ側へとそっと梳くように。
「うん、陣内君の言う通りだと思う、だから私は教会に残ろうと思うの」
「へ? それって」
「あ! 違う! 違うの、そう言う意味じゃなくて!誤解しないでっ!」
葉月は顔を真っ赤にしながら否定し、その教会に残るという訳を俺に語った。
その残る訳とは、教会の方がマシと言う理由であった。
王女アイリスと何回も会って会話を交わしている葉月は、その王女様からの話で、貴族達の怖さを察したそうだ。
腹の探り合いや化かし合い、そう言ったやりとりを常に行っている貴族達。それらを相手にするよりも、把握し易い五神樹の方が楽なのだと言う。
それと味方に、侍女のエルネがいるのも心強いと付け足した。
俺はそれを正解の一つだと思った。
探り合いの海千山千、有力貴族達、それを相手にするにはコミュ力が高い葉月と言えど分が悪い。ならば言い方は悪いが、御し易い五神樹の方がマシだろうと。
「だからね、私はこのまま教会にお世話になろうかなってね。あ! もちろん陣内君には迷惑を掛けないようにするよ。多分、エルネさんに直接言ってもはぐらかされるか、もしくはそれすらも利用されちゃうかもしれないから、私だけで何とかするね」
「ああ、頼む、さすがに面倒だからな」
「うん、今までごめんね、私が気付かず…」
これは別に葉月が悪い訳ではない、広い意味で言えば葉月も被害者とも言える。だが同時に葉月にも原因があるとも言える。
「私が教会を出て余所に行けばいいんだけど、他だと、もしかすると上手く流されちゃうかもしれないからね」
「だな、結構腹黒い奴が多そうだからな貴族連中は」
「うん、そうだから――あ! ねえねえ陣内君っ」
「ん?って、近い近い!」
今までは、少し俯き気味で話を進めていた葉月が、突然目を輝かせて俺に迫ってくる。
「陣内君が私を引き取ってくれないかな? それだと色々と助かるんだけど、ダメかなぁ?陣内君」
「いや、マズイだろソレ! 今はアムさん‥ノトス公爵になったばかりで混乱とか色々で大忙しなんだから、ココで教会の聖女様なんて引き取ったら、教会からはクレームが来るだろうし、余所の貴族だって何を言って来るかわかんねえからな」
――勘弁してくれっ
それが一番厄介だろうが、アムさんが潰れるっての‥
全く、コイツは‥
「あはは、だよね。うん、ちょっと意地悪を言っちゃったかなぁ。一応、大物らしいからね私、注目の勇者様って奴? 本当はそんなことないのにね」
「ちょっとは自覚あるんだな、自分の立場に」
イタズラが成功した、そんな感に得意げな顔をする葉月。
何処か猫っぽい、『むふぅ~』っとした、そんな愛嬌のある表情を見せる。
「あ、でもね陣内君」
「ん?」
「私を引き取ってって言ったのは、陣内君になんだけど?」
「―――俺はモモちゃんで手一杯だ、あとロウか、だから引き取れねぇよ」
「そっか、残念」
「――ッ、あ、あと最後にもう一個だけあった、言っておくこと」
俺はこの流れを誤魔化すように、ある情報を追加する。
それは黄の樹、イエロの事。奴だけは恋愛感情無しで葉月に迫っていると、侍女のエルネは言っていた。それは何処か腹黒い貴族に似ているモノ、忠告をしておく必要があると思い、それを葉月に伝える。
「え~っとな、黄色い奴のことなんだけど――」
「うん、知ってる。彼だけは違うよね、イエロさんは好意とは別の何かで私に近づいて来てるよね」
「知ってんならいいや」
( やっぱすげぇなコイツ‥ )
こうして夜の密会は終わった。
葉月に全てを告げ、そして彼女からは俺に迷惑を掛けないようにすると言ってくれた。流石に全て無くなるとは思えないが、これで大分マシになるだろう。
そしてそれから三日間、目立って五神樹がやって来ることはなかった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども…
今回は構成とか、色々と時間かかって遅れてしまいましたー;
申し訳ないです。