小さい味方
アムさんが正式にノトス公爵となる、俺はそう聞いた。
政治や貴族の常識と知識、それに疎い俺でもこれが大事なのは理解している。
前にアイリス王女から聞いた話。
4大公爵家は、中央の王家よりも力が上。
俺はそう教えて貰った。
その公爵家の代替わり。
きっと、大事なのだろうと。
そして今、俺の目の前には一枚の青いプレートが浮かんでいる。
ステータス
名前 ノトス・アムドゥシアス
【職業】公爵
【レベル】23
【SP】168/168
【MP】195/209
【STR】 117
【DEX】 107
【VIT】 121
【AGI】 98
【INT】 120
【MND】 132
【CHR】 148
【固有能力】【鑑定】【指揮】【伊達】【神格】【僥倖】【絶倫】【楽天】【心響】【死心】【博打】
【魔法】光系 水系 風系 火系 土系
【EX】毒感知(大)耐毒(大)風守り(中)
【パーティ】
―――――――――――――――――――――――――――――――
「どうだい? 本当に公爵になっているだろう…」
苦笑いと半笑い、それらを混ぜたような表情を浮かべるアムさん。
もしかすると、狐につままれたような顔とは、コレのことかもしれない。
そんな表情を浮かべ、俺達にステータスプレートをアムさんは見せていた。
「本当に突然だったよ、アレからすぐだったんだよ」
「アレ?」
「ああ、今朝の言い争いの後だ。ジンナイ君達を見て固まった後にすぐ、親父は俺にノトスを継がせるって言い出してな、理由を聞いても何も言わなかったよ」
「俺達を見て‥ですか…」
「ああ、そうだ…」
俺とアムさんはそう言って、サリオを見つめる。
見つめられたサリオは、「ほへ?」などと言ってきょとんとしている。
サリオには【理解】がある。
だがその【理解】も、事前の情報が無ければ、流石にその効果は十全に発揮されない。
俺とアムさんが知っている情報。
元ノトス公爵が、サリアと言う名のエルフを身請けしたことがある事を。
何か確証がある訳ではないが、普通に考えてそれが思い当たる。
「あの、それで元ノトス公爵さん、アムさんの親父さんは?」
「逃げた」
「はい?」
「ああ、逃げたと言うと語弊があるか…、要は居なくなった。一度、別邸に戻った様子だが、その後すぐに出て行方をくらました――」
その後、忙しそうにしているアムさんと少しの情報交換。そして今朝の件も含め、サリオの事は他言無用とお願いされた。
情報交換の方は。
ノトスの街の門番からの報告によれば、元ノトス公爵は街を出たらしい。
護衛を誰も連れておらず、流石に引き留めたらしいのだが、提示されたステータスプレートには、ノトスの名が消えており、『もうただの貴族だ』と、そう言われ拒否されたらしい。
何か特別な事をするのかと尋ねた。
本来であれば、それなりの祭りじみたモノを執り行うらしいのだが。
今回は、それを延期するとアムさんは言った。
祭りにはそれなりのお金がかかることと、それと現在は、勇者上杉とセーラの結婚、それにご懐妊での祭りに賑わっているナツイシ領地への配慮。
それにより今は控えると、そうアムさんは決めた。
本心は別の理由がありそうだが――
バタバタと騒がしい本館とは別で、俺達が住んでいる離れは落ち着いていた。
いつもと変わらぬ夕食を取り、そしてここ最近の日課へと俺は挑む。
「ちょっと話がありますエルネさん」
「ええ、お聞きしましょうジンナイ様」
今日はコチラから侍女のエルネに声を掛けた。
当然、訊ねる内容は、今日の黒い奴の襲撃の件。
最終的に煽って挑発したのは俺だが、似たような事が今後あるのはさすがに面倒。どう考えても普通に迷惑極まりないのだから。
客間へと移り、俺と向き合うエルネが先制とばかりに口を開く。
「あのジンナイ様? その‥膝上の子は…」
「うん? この子はモモちゃんだが?」
「あぅぷぁ~?」
俺はモモちゃんを援軍として連れて来ていた。
この侍女エルネとサシで話していると、いつの間にか誘導されているような気がしたからだ。
相手からは言いたい事だけを言われ、コチラからは何も言えていない。
気付くとそんな流れが作られている。
誰か第三者が居れば良いのだが、流石に誰でも良いという訳でもない。葉月に頼む事も考えたのだが、それは最後の手段にした。
ラティは色んな意味で却下。
サリオはポンコツなので却下。
なので俺は、自分の心を荒らさずに保つ為、赤ちゃんのモモを連れて来た。
「――黒い奴が文句言いに来たんだよ、なんだか俺の真似させられたとか、ホントに困ったモンでちゅね~モモちゃん」
「あぷぷぅ?」
「…そうでしたか、もう行かれましたか」
「で、何を言ったんだアイツに?」
「ワタシはちょっと申しただけですよ? 偽物は本物には敵わないと、やはり本物は違いますねと」
――ふざけっ!?
コイツおもっきり煽りやがったな、
そんな事をアイツにわざわざ言ったのか?
予想通り、だが流石に少し同情してしまう内容。
それを悪びれずに、しれっとそれを口にするエルネに怒りを覚えるが。
「あぷっぷぅ~」
「モモちゃん…」
荒れる心が一瞬にして凪ぐ。
俺の感情を読み取ったのかのように、クリッとした瞳でコチラを見つめ、赤ちゃん特有のよく分かってない表情をコチラに向ける。
気付くと俺は、抱いているモモちゃんの頭と耳を撫でていた。
撫でる感触が心地良いのか、目を細め嬉しそうな顔をするモモちゃん。
「ふぅ~~、うっし落ち着いたっ」
「――――ッ」
少し深めの深呼吸を一つ。そして――
「本物だろうが偽物だろうが、同じ結果を出せるのであれば、その両方には差なんてない。もしあるとすればそれは、部外者が勝手にレッテル張りする時に使う目安だろうな」
俺は無茶苦茶な屁理屈を言った。
それは単なる、今回の件への嫌味。
「五神樹を焚きつける本当の目的はなんだ?」
「目的は前に申した通りですよ、聖女ハヅキ様の為。まぁ、上手く行けば良い程度の思惑はありますが、流石にソレまでは望んでいません」
――上手く行けば良い程度?
聞いても言わないだろうし、言った事が本当かどうかもだしな‥
なら、次は、
「エルネさん、ちょっと気になった事なんですけど。黒い奴が言っていた、俺の真似を強制されたとかって‥どういうことで? 他の奴もそうなんですか?」
「それですか? ええ、そうですね五神樹達は、それぞれが派閥から役を押し付けられていますからね。赤と青は元から変わっておりませんが、黄と紫、それと今回の黒は役を強要されましたね」
「えっとそれは葉月を‥落とす為に‥?」
「ええ、そうですね、彼等は役を押し付けられております。イエロのは詳しく把握しておりませんが、紫‥シキ、彼は本来口下手で訛りが酷いのですよ」
「はい? あのウザいポエムっぽい奴が?」
「はいそうです、だからほとんど決まったセリフしかスムーズに言えないのですよ彼は、それなのに無茶な役を強制されて…」
俺は確認をするつもりで、この質問をエルネに訊ねていた。
あの五神樹達は皆が、何かしらキャラを演じている。
それの確認を行った。
その結果、エルネからソレの肯定を確認出来た。
俺はどうしてもソレを把握しておきたかった。
理由は簡単、敵意を向けて来る相手の把握。
赤のセキは分かり易かった。だが次に来た、黒のブラッグスは違った。
最初は無口で、所謂ところのクールなヤツ、そう思っていた。
しかし、実際は違った。ヤツはかなりの激情家であった。
相手の性格を見誤ると足元を掬われる。
極端なことを言うと、人懐っこそうな黄色のイエロが実は冷酷な暗殺者で、隙を突いて暗殺でもしてくる可能性があるのだ。
だから俺は、その確証が欲しかった。
あの五神樹達が見せている役は作られたモノで。
本来の役がある事を。
短い沈黙を挟み、侍女のエルネさんが溜め息を吐くように言葉を吐く。
「はぁ~、それにしてもワタシに少し煽られただけで、すぐに向かわれていたとは。余程、腹に据えかねていたのですね、貴方の真似を強要されたことが‥」
「そりゃそうだろ? 誰だって自分からならともかく、誰かに言われてソイツの真似をしろなんて言われれば誰だって怒んだろ?」
――芸能人の真似とかするヤツは居るけど、
人に命令されて、ソイツの真似をしろって言われるなんて、
プライドが高い奴ほどキレるだろうな‥
俺が、そんな誰でも思い当たる事を心に浮かべていた時。
「でしょうね、しかもその相手が聖女ハヅキ様の――」
「――ッこの話は止めようか!」
「あぅ~ぷぅ?」
「――ッ!?」
俺は咄嗟に言葉を遮っていた。
抱いていたモモちゃんのワキ下に手を通し、モモちゃんをエルネの鼻先に突き付けるようにして、彼女の言葉を遮った。
ワキ下に手を回され、若干強制的に前ならえ状態のモモちゃん。
突き出した紅葉のような手のひらを、わきゃわきゃと動かし、エルネの頬に手を伸ばしている。
俺の突然の行動に、一瞬だけ戸惑いを見せるエルネ。
だがすぐに、彼女は嗜虐的な笑みを浮かべ、目の前のモモちゃんの手を己の頬へと導きながら口を開く。
「忌まわしい狼人と言えど、やはり赤子は可愛いものですね」
「…ああ、モモちゃんは特にな」
「そうですね、そして成長した狼人もお好きですね?ジンナイ様は」
「っう」
「だからこそ、本当に安心して利用できますよ」
エルネはそう言ってモモちゃんから手を放し、スッと客間を後にした。
ほんの一瞬だけ、コチラをチラリと嗤うような一瞥をくれて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
可愛らしく手を伸ばし、俺の顎先をペチペチと叩いてくるモモちゃん。
そんなモモちゃんをあやしながら、俺は考えを纏めていた。
それはエルネの目的の再確認。
あのユニコーンは、葉月を守る為に、五神樹達を分裂させないようにしていた。
5人が仲良く争っている状況が理想。
もしくは、5人が纏まって誰かと敵対しているような状況。
エルネ曰く、イエロの存在が不安要素であり、このままだとイエロが五神樹を二つに割る可能性があると言っていた。
そうなると、五神樹内で勝ちと負けが発生する。
そして最後には、誰かが勝者となってしまう。そしてその勝者は今まで以上に、葉月に迫るだろうと。
侍女のエルネはそれを避ける為、5人の共通の敵を用意し、5人が共闘に近い形へと持っていき、その後は流れをコントロールすると言っていた。
そのコントロール方法は謎だが、彼女はそれを出来ると言っている。
そしてそれは良いのだが――
「その共通の敵が俺って‥くそっ、勝手に巻き込みやがって‥」
「あぷぅ?」
――もう葉月に相談すっかな、
でも、解決しないよなそれじゃあ‥
理解していた。
コレを葉月へ、告げ口のような相談を行ったとしても、効果は薄いだろうと。聖女葉月を守る為に動いているのは侍女のエルネ。
下手をしたら、それすらも材料に使いそうな奴。
エルネのやり口は、俺に迷惑をかけることなどなんとも思っていない。
なんとかするには、何か他に代案を出して回避するか、もしくは――
「ユニコーンが興味を失う方法を取るしか‥‥、無いな、それは駄目だ」
少し下衆過ぎる案が浮かんだが、俺は当然それを心の中で却下した。
どうしたら良いか考え、軽く詰んだ辺りで。
「―くぁ」
「あ、モモちゃんおねむかな?」
モモちゃんはあくびをして、栗のような形に口を開く。
俺はそれを見て、今日は此処までとした。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想や、ご質問など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字のご指摘なども…