真似
忙しくてちょっと短めでスイマセン。
何となく解かっていた。
あの五神樹達は、何処か創られた感じがするのを。
キャラを演じている、そんな風に感じることが多々あった。
5人全員が被らないように、まるで棲み分けでもしているかのように。
しかしまさか――
「なんでオレがお前の真似なんぞしなければならない、畜生…」
「まさか、その黒色って‥」
「ああ、そうだよ! テメェの黒だよ! ふざけんなよホントはクールな灰色だったのによ、白と黒を併せ持つ、それが俺だったってのに‥あの劇で…」
「どっかの島の魔女かよ‥」
俺の目の前で、怒りと共に苦悩の色を滲ませるブラッグス
理由は謎だが、奴は俺の真似を強要され、そしてその事に腹を立て不満を俺にぶつけてきた。ただ――
――劇って言ったよな?
劇ってお芝居とかだよな‥
芝居で装備変えたって‥‥あの芝居か!?
某お芝居では、最後の方で装備を変えて見た目を良くしてから、街の権力者と対峙していた。
最初は奴隷商のような恰好をしていたが、勇ましさを感じさせる黒い色の装備に変え、そして心も入れ替えてのクライマックス。
事実、自分もその時期に装備を変えていた。
それを参考にしての演出なのだろうが、確かに見た目は良くなっていた。
だが――
「おい! それじゃあ、あの芝居が原因でお前の鎧の色が黒になったってのか? はぁ?意味わからん、なんでまた…」
本気で意味が分からなかった。
だから俺は、それを素で聞き返してしまったのだが。
「――ッお前が言うなぁぁぁ! クソクソッ! なんだってコイツなんかに、何で聖女様はお前なんかに! 教会も俺にそれを強要しやがって、そんなの必要なんてないのにっ! 口調まで無口にしろとか‥」
「ッ!?」
――おお、おう、
なんだ?何かマズイこと言ったか俺?
火にガソリン注いだみたいになってんだけど…
俺の言葉に激しく猛るブラッグス。
既に何を言っているのか分からない状態。だが――
( まさか… )
ふと思い当たる。否、当然思い当たる事。
ひょっとしてだが、そのお芝居を観た葉月の反応を見て、彼女の趣味に合わすのが目的で黒色を強要されたのではと。
黒色が葉月の好みと判断をして。
他にも、もう一つ。
俺の真似をしたという理由が浮かんだが。
何となく、それ以上考えるのを止めた。
何がしたいのか判らないが、ブラッグスは俺を睨んだままで立ち竦む。
ただ怒っていることだけは分かった。
奴は俺の真似を強要され、それに落胆し、そして激怒している。
しかし、葉月の好みの色を押し付けられたのだとしたら、それは許容すべきだ。其処まで怒り狂うことではないだろう。
黒色が本当に葉月の好みの色なのかは不明だが。
しかし先程の――
俺が思考を放棄して、考えることを止めたアレが理由であれば。
それは男としての誇りが傷つけられ、腸が煮えくり返る思いであろう。
暫く沈黙が続く。
何かを吐き出そうとしているが、それを吐き出せずに睨むだけのブラッグス。
それを見ながら思い出す。昨日の夜、エルネと交わした会話の内容を。
もしかするとこの男は、侍女のエルネに焚き付けられ、その怒りに身を任せ、いま俺の前にやって来たのかもしれない。
昨日の彼女の発言を考えると、その可能性が高い
そして色々と状況を考察するに、非常に拙いこととなっていた。
俺はもっと別の事態を想定していたが、この流れは拙い流れであった。
もしブラッグスが不用意な発言をしようモノなら、俺がマズイ。
何故なら――
――やばいっ
俺に対しての不意打ちか何かだと思っていたから、
こっそりと陣内組を背後に待機させちまったよ…
俺は敵意を向けて来たブラッグスが、何を仕掛けて来ても良いようにと、ラティとサリオ、それに陣内組のメンツにも、離れた位置から監視するよう指示を出していた。
ブラッグス一人だけではなく、他に複数の協力者や、何か未知の罠などがあることを想定し、それに対応出来るようにフォローをお願いしていた。
だが状況を見る限りでは、奴一人だけ。
しかも、何を口走るか分かったものじゃない状態。
何かトンデモナイことを喋ろうモノなら、絶対に話のネタにされる。
そしてその後のラティが怖い。
いっそ走り去って逃げるのも一手だと思う。
だが追って来られると面倒になる。
ならば煽って誤魔化す。
「おい黒い樹野郎、何か気に喰わないことがあるんなら、かかって来いよ」
「なに?」
とても意外そうな顔を浮かべるブラッグス。
どうやらこの挑発は、彼にとっては予想外だった様子。
だがすぐに笑みを浮かべ、俺の言葉に乗ってくる。
「っは! 単純馬鹿なセキをやれたからって、この俺までも倒せると思うなよ? あの、ただ真っ直ぐにしか行かねえアイツと一緒にするなよ」
俺はこの場を誤魔化す為に。奴は自分の不満をぶつける為に。
俺とブラッグスは戦うこと決める。
しかし、流石に刃物は色々とマズイ。
だから俺は素手でやろうぜと、無言で槍と木刀を地面に放り投げる。一応、相手が素手に応じず、武器を持って掛かって来る事を想定して、すぐに武器を掴める位置にだが。
俺の無言での、素手の要求に対してブラッグスは――
「ふん、武器が無ければWS無しだから勝てるとでも? 俺はそんなモノに頼らなくても十分イケるんだぜ」
俺の素手勝負に対して、かなり斜め上な解釈をするブラッグス。
だが別にそれを否定する必要はなく、俺は重心を軽く下げて身構える。
「この素人が、迅盾使いを相手に待ちの姿勢とか、全く分かってねえな!」
迅盾使いの特長は立体的な機動力。
そして複雑に動くなどして、相手を惑わし裏を取るのが基本戦術。
ラティは別格だが、基本的に正面からは挑まず、側面や背後を必ず取ってくる。
身構えている俺から見て、ブラッグスは左側から駆けて来る。
俺から見て右側は、廃墟となった建物があるので、動きを制限されるのを嫌ったのかもしれない。
「一瞬で決めてやるっ――ッシャァ!」
左側に回り込むと見せかけて、空を蹴り逆方向の右側に駆けるブラッグス。
左右に振る、迅盾の定石とも言える動き。
以前戦った、狼人のオッドの時は、奴の動きを観察していたから動きの先が読めた。
観察し切れていないブラッグスが相手だと、流石に完全に動きは読めない。
だが俺は、ラティから【天翔】のことを聞いていた。
慣れていない者は一歩が限界。
慣れてくれば二歩。
使いこなせてくれば3歩目と、空を駆けれると。
ラティからの説明をイメージするに。
水面に木の板を浮かべて、それを足場に駆けるようなモノだと。
勢いを付けた一歩なら行ける。だが二歩目からきつくなり、3歩目ではほぼ沈むような状態になり、4歩目では完全に失速して沈む。
だが、途中で沈まない足場があれば、其処でしっかりと踏み込んで勢いを取り戻し、再び一歩目を駆ける事が出来る。
迅盾、【天翔】使いは2~3歩目に、空以外の足場を求める。
そしてその足場とはほぼ壁の事を指す。
「――ッ甘めぇんだよ!」
「っがはぁ!?」
ブラッグスの脇腹に深々と突き刺さる俺の左脚。
俺は右側の建物の壁、【天翔】の足場として壁を蹴ろうとしたブラッグスに、ローリングソバットのような左の後ろ回し蹴りを決めた。
ブラッグスにしてみれば、意表を突いた左側からの奇襲のつもりだったのだろう。迎撃されるとは全く考えていなかったのか、完全にノーガードだった。
自身の勢いもあるカウンターに近かったのか、蹴り一発で沈むブラッグス。
呼吸もままならない状態で地面に這いつくばっている。
「がはぁッ、ぐぅ――」
何とか息を整え、見上げるようにして俺を睨む。
だが、完全に戦意喪失しており、これ以上襲ってくる気配はなかった。
「ぐっ‥くそがぁ、」
「……」
そして俺は、何かかける言葉もなく、これ以上攻撃を加えるつもりも無く。
背後に配置している陣内組を、わざわざ晒す必要も無いので そのまま無言でその場を立ち去る。
下手に何か声を掛けようモノなら、今の状態のブラッグスではトンデモナイ事を言う可能性がある。それを回避する為の戦闘だったのだから、それで良しとした。
再びラティ達と合流する。
陣内組はそのまま帰ったと、そうサリオが報告をしてくる。そして、詳しい内容は明日聞くという、伝言も受け取って。
帰宅の道すがら、暫くの間は無言であったが、珍しい事にラティから俺に話し掛けてきた。
「あの、ご主人様」
「うん? どうしたラティ?」
「何故、急に戦闘を始めたのですか?」
「いや、それはそういう空気だったし? 何となくかな‥」
「何となくですか、話し合いで穏便にとは無理でしたか」
「ラティ、話し合いが成立するのは、お互いの立場が互角、もしくは話の着陸地点、妥協点を探り合える時だけだ。それ以外では、話し合いなどは成立しないモノなのだよ」
俺は何処かで聞きかじったような事を口にした。
本当に、軽い気持ちで――
「なるほど、そうでしたか――話の着陸地点ですか…」
「ああ…うん、そんな感じかな」
( アレ? なんかおかしい? )
「あの、気のせいですかねぇ、その着陸地点を避けたようにお見えしたので」
「そんなことないですよ?うんないない」
何故か尻尾をコチラに向けるようにして歩くラティ。
俺はそれを視界に入れないようにして、ただひたすらに帰路を急いだ。
すたこらさっさと――
そして辿り着いたノトス公爵家屋敷。
そこでは――
「ジンナイ君、俺が正式にノトス公爵となった…、突然だが今日、親父からノトスの名を引き継ぐこととなったよ」
「え‥?」
ノトス公爵代理のアムさんは。
ノトス公爵、ノトス・アムドゥシアスと名を変えていた。
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