亀裂の兆し
「片手剣WSサーベッツブレ!」
赤い奴が刀身から光る羽のようなモノを撒き散らしながら、高々と飛び上がりそして派手に斬り下ろして光の粒子を放出する。
「弓WSエンジルフォー!」
眩い光を放ち、星形のような粒子で尾を引きながら光り輝く眩い矢が魔物へと突き刺さり、そして花火のようにキラキラと散っていく。
「火系魔法テトラファイア!」
火球が四つ、渦を巻くように飛んで行き派手に爆散する。
俺達の隣では、あるパーティが魔石魔物狩りを行っていた。
そう、五色の奴らと、聖女の勇者葉月、それと侍女のエルネさんを迎え入れた魔石魔物狩りパーティが、俺達の隣で魔石魔物狩りをしていたのだ。
「ほへ~、なんとも派手なWSばかりですね~です」
「あの、でもあまり実戦では使われないWSばかりですねぇ」
「あのWSって必要なのか? わざわざ突っ込んでから飛び上がってんぞ? しかも光ってんから、魔物も追いやすいだろうに‥」
俺達の横で魔石魔物狩りをしている五色共は、なんとも自己主張が激しかった。
前衛のアタッカーは威力よりも見た目を重視のWSを放ち。
盾役の黄色い奴も、無駄によく吹き飛ばされながら、『へへ、ボクには効かないよ』っとセリフを吐いて、無駄に平気アピール。
迅盾役の黒い奴も、『え?そこで壁を蹴って飛ぶ必要ある?』っと疑問を浮かべてしまう程に、縦横無尽に駆け巡っていた。
そしてその五色共は、必ず最後にキメ顔で葉月の方を向いていた。
「なんだろうなアレ、新手の嫌がらせかな?」
「あの、多分あの方達は、ハヅキ様によく観て頂こうとしているのでは?」
「ほへ? それであの派手な光る奴とか使っているのですねです」
「露骨過ぎんだろ…アピールが」
俺達は、自分達が置いた魔石から魔石魔物が湧くまでの間、隣の葉月達が参加をしているパーティの戦いを眺めていた。
魔石魔物が湧くまでの間の、多少の暇さを紛らわすのと、隣のパーティの戦力、そして実力を見極める為に観察をしていた。
「ジンナイ、気付いているか? 隣のパーティのリーダー」
「うん?あの仕切っている奴‥あ、」
隣の葉月達が参加しているパーティのリーダーは、元陣内組のアタッカーであったロードズだった。
「そうか、抜けて他のパーティでリーダやってたのか」
「だな。まぁ自己主張の強い奴だったからな、魔石も4個置きたいとか恐ろしい事を言っていたし、抜けた事にはなんら不思議もないな」
スペシオールさん程ではないが、ロードズも中々のアタッカーだった。
一撃に重きを置いたスタイルのスペシオールさん。
多彩な攻撃と、技巧を凝らした技を振るう猫人冒険者テイシ。
ロードズはその間ともいえる戦闘スタイル。
そして自己主張が強く、効率よく稼ぐというより、取り敢えず多くのお金を稼ぎたいという主義の男。
悪い言い方をするならば、欲深い奴。
そんな男のパーティに、五神樹達の参加は大歓迎されていた。
五色と共にいる勇者葉月、これにはロードズが有頂天、気分は舞い上がりいつも以上のペースで魔石魔物を狩っているとレプソルさんが言う。
俺達のほぼ倍に近いペースでの魔石魔物を狩る。
確かに稼ぎは良いのだが…
――あれってマズイよな、
ちょっとでも運の悪い偶然が重なれば‥
う~ん、一応忠告しといた方がいいよな、
見ていて不安になる程の、ハイペースな魔石魔物狩り。
後衛のMPやアタッカーのSPを把握しているのか、とても不安になってくる。
本来であれば、MP回復やSP回復補助をする後衛の支援役が必要なのだが、彼のパーティにはその仕事をする者が見当たらなかった。
「レプさん、あれってマズイよね?」
「普通に拙いな、雑魚の魔石魔物ならいいけど、狼男型が湧いた時に不安を感じるな、一応一声かけた方がいいんだけど‥」
他所のパーティ。しかもココを抜けていった冒険者に、『狩り方に不安があります』などと言える訳がなく、せめてミズチさんが居れば、やんわりと彼女に言って貰ったのだが、今ミズチさんは東へ遠征中のまま。
ならば間に誰か入って貰おうと考え、俺は葉月の方に目を向けたのだが。
「っう、なんであの五色共、俺を監視するように睨んでんだよ、」
「ジンナイ、相変わらず敵を作ってんな~」
俺からは葉月に、とても近寄れなそうな雰囲気となっていた。
仕方がないので、コチラから何か忠告するのは一時保留とする。
そして暫くしてから、陣内組の置いた魔石から魔石魔物が湧く。
しかも二個同時、二匹の魔石魔物が俺達の前に出現した。
「二匹湧きィーー!!」
「ラティさん、狼男側を任せた!」
「はい、先行します!」
「ぎゃぼー!二匹湧きで、一匹が狼男型ですよ~です」
「ホークアイっ、魔石がうっかり落ちてないか確認よろしく!」
「あいよぅ! 後衛さんちょっとどいてくれ~」
各自が声を出し合い、事前に打ち合わせしていた通りに動き始める。
ラティは湧いた魔石魔物で、厄介な方の注意引き。
目がとても良いと評価されているホークアイは、何かの間違いで魔石が地面に落ちていないかを捜索する。これは仲間の内の誰かが、ちょっと欲張って魔石をうっかりと先に置いてしまった。そんな事故があったからだ。
レプソルさん曰く、10分で魔石魔物が湧いたという噂の真相は、少しでも湧く間隔を短くする為に、魔物を倒してから魔石を置くのではなく、ある程度前に魔石を地面に置いて、魔物を倒した後に、あたかも今置きましたよ?的な方法をとったのではと予想していた。
そして各自が各々の仕事を全うする。
狼男型と同時に湧いたのは、巨大なトカゲ型。
強靭な皮を持ってはいるが、レベル75を超えた冒険者達にとっては狩り易い獲物。
威力重視のWSを複数叩き込まれ、30秒もかからずに、巨大なトカゲ型を黒い霧へと変えていく。
「おっしっ、つぎ行くぞ!」
「了解、そんじゃラティさんに動いて貰って――あッ!」
俺はこの時、控えの遊撃役として動いていた。
ラティの動きに釣られ、彼女を掴み引き裂こうと手を伸ばす狼男型。天井付近まで高く飛び上がっているラティに対して、右手を掲げ伸ばしていた。
俺はその丁度死角となっている、がら空きの右わきへと槍を刺し込む。
飛び出すタイミングが遅れ、相手に気付かれでもすれば、右手で振り下ろすようにして薙ぎ払われる位置。
だがその様な、遅れた瞬間でなければ、必殺の時。
深々と槍が突き刺さり、そして傷が広がるように槍を捩る。
爆散でもするかのように黒い霧となって霧散する狼男型の魔石魔物。
「ジンナイ、相変わらずの必殺だな、WS無しでホントによくやるよ‥」
「無いから、こうやってんですよレプさん」
隙をついて突くを久々に披露する俺。
その光景にレプソルさんは感嘆する。
「あの、流石です、ご主人様」
「ぎゃぼー! またあたしの出番が無かったですよです!」
「サリオ、お前の魔法じゃ見てから避けられんだろうが、相性が悪すぎんだよ」
高火力の炎の斧、だがどうしても素早い相手には避けられてしまう。
イワオトコのような鈍重な相手なら有効なのだが。
魔石魔物を倒し、再び魔石魔物が湧くまでのインターバル。
俺は辺りを見回し、状況を確認する。
魔石を置くホークアイ。
ラティに何か話し掛けているサリオ。
レプソルさんはラルドさんと何かの打ち合わせ。
テイシは、ゼピュロスにて特注で作った鈍器のような斧の手入れ。
そんな見慣れたパーティの中に、見慣れていないやたらと目に付く奴が視界に入って来る。
「おう、お前、本当にWSが使えないんだな? なんだよさっきの地味な突きは、大変だよな~あそこまで接近しないと攻撃が届かないなんてよ」
「は?」
やって来たのは赤い奴ことセキ。
視界に入ったからなんの用かと思えば、本当にどうでもいい事を言いに来た。
この手の煽りは、この異世界に来てから日常茶飯事。
特に何か感情が湧く訳でもなく、俺は憤ることなく普通に対応する。
「別に使えなくてもいいだろ? お前みたいに魔物にビビッて距離を取って、一撃で仕留め切れないWSを撃っているよりかはマシだと思うが?」
俺はとても良い笑顔で対応する。
いつも通り、普通に言い返す。
「――っな!? 俺のWSを馬鹿にするのか!」
「馬鹿になんてしてねえよ、ただ、使い物にならねえなって思っているだけだ」
「キサマッ!」
普段から称え崇められるばかりなのか、五神樹の赤の樹セキは、俺の煽りに耐え切れず、何を考えているのかWSを放ってくる。
光り輝く片手剣の刀身。
渦を巻くように体を横に回転させ、裏拳でも放つような動作で剣を振り払う、袈裟切りのように上から斜めに振り下ろされる軌道のWSスピンスラ。
見た目と威力に優れたWS。だが――
「ッシュ!」
「――っぐはぁ!?」
みえみえのモーション、捻りの無い単調な一撃。
凡そ対人戦向きではないWS。
俺は少し早めに歩くようにして踏み込み剣の軌道から逸れる、そして槍の腹の部分でセキの横っ面を強打。
「いきなり斬りかかって来てなんのつもりだお前」
「っぐ、この野郎、俺の顔を叩きやがって‥」
レベルの恩恵なのか、セキはそのまま倒れることなくフラつきながらも立ち、俺を怒りに任せて睨み付けてくる。
今にも飛びかかって来そうな気配を見せてはいるが、脳震盪でも起こしているのか、左手を顔に添えて意識を保とうとしていた。
そしてそんな騒ぎが起きれば、周りがほっとく筈もなく。
「陣内君!」
「セキ!平気ですか? 貴方はなんという事を」
「大丈夫ぅ~セキぃ~」
「ふ、醜い争いを」
「‥‥‥貴様ッ」
「あ~~あ、全くなんでジンナイはすぐに絡まれるかね~」
「ジンナイ様は何か敵を煽る【固有能力】でも持っているのですか?です」
「あの、サリオさん、流石にそれは持っていないかと‥」
彼方のパーティとは違い、『またか‥』的な反応を見せる陣内組。
「いや、今のは俺は悪くないよな? いきなり斬りかかって来たんだぞ?」
( 寧ろ被害者だろ俺っ )
ぎゃあぎゃあと言い合いをしていると、脳震盪から復帰したのかセキが再び挑みかかってくる。
だが、余程頭に来ているのか、WSでもない、ただ単に武器を振り回すような乱雑な動きで襲いかかってくる。
「この野郎! ハヅキの前で恥をかかせやがっ――ッガァ!?」
俺に襲いかかろうとして、雑に剣を振り上げるセキに対して、俺は無言でのど輪をかまして、セキを地面に叩き付ける。
この手のタイプは絶対にもう一度挑んで来る、俺はそう予測をしていた。
確認の為、俺はラティに目で事前に訊ねていた。
セキの敵意はどうなっているのかと。
その時ラティは、目を閉じて小さく首を横に振り、『敵意は消えてません、来ます』そう俺に伝えていたのだ。
だから俺はセキの動きに注意を払い、奴が動くと同時に奴を潰した。
ゴツッっと音を鳴らし仰向けに叩き付けられるセキ。
そして俺は首を掴んだまま持ち上げ、再び叩き付ける。
――ゴンッ!――
一回目とは少し違う鈍い音。
そしてもう一度持ち上げ、叩き付けようとするが――
「待ってっ陣内君! ストップ! 止まってお願い!」
「む、」
俺の行動に、葉月は慌てて駆け出し、腕を伸ばして手の平を下敷きにしてでもと、五神樹のセキを庇った。
流石にこのまま叩き付けると、葉月の手まで巻き込むことになる。
特に葉月に恨みでもある訳でもないので、俺は叩き付けるのを止める。
それからは大騒ぎだった。
ひとまず置いた魔石を回収して、魔石魔物が湧かないようにしてからの話し合い。
どちらに非があるか無いかの言い争い。
当然、今回の出来事はほぼ全員が目撃者。
陣内組側は、セキが斬りかかって来たのが悪いといい。
それに対して、最初の俺の対応が悪いと言う五神樹側。
そして意見の対立が生まれたのだが――
「差し出がましいのですが、今回の件は、聖女のハヅキ様に判断して貰っては?」
「えっ?」
この騒動に割って入って来たのは、何故か深淵迷宮まで葉月に同行してきた、侍女のエルネさんだった。
彼女は当たり前の様に、この裁きを葉月がするべきだと言って来た。
「え? なんで私が? え?でも‥」
「いえ、この様な状況化ですから、冷静な方が判断を下す方が良いかと愚考します」
――いやいやいや?
え? この人ナニ言ってんだ?
つか、アンタが一番冷静だろっ
俺は心の中でツッコミを入れていたが、エルネさんは淡々と話を進めていた。
口八丁と言うべきか、気付くと皆が葉月の判断待ちとなっていた。
そして巧く誘導された葉月は、『ならば私が』っと判断を下す。
「今回の件は、先に手を出したセキさんが悪いです」
「――っな!? ハヅキ様、あのような者を庇うのですか!?」
「ええぇ~そんなぁ~」
「ハヅキ‥俺がやられたんだぞ? それなのに‥」
「お~う、これが運命の判決‥まさに悲劇!」
「‥‥‥」
不満を露わにする五神樹達。
そこで葉月は――
「でも陣内君、2回目を叩き付けるのはやり過ぎっ、一回目は仕方ないけど、それ以上はやり過ぎだよ、あまり叩き付け過ぎると頭が馬鹿になっちゃうよ」
「ああ‥ああ、」
意外と俺に甘い判決だった。
葉月は、のど輪からの叩き付けも仕方ないと言っていた。
ただ、連続で叩き付けるのはやり過ぎだと注意をしてくる。
――意外と葉月もこの異世界に染まって来たのか?
暴力は何でもかんでも駄目っていう訳じゃないみたいだな‥
まぁそれなりに修羅場を潜ってんのかもな、
その後、魔石魔物狩りは中断から、そのまま終了という流れとなった。
時間もそれなりに経過していたことと、流石にこのままの空気では続行し辛かったらしい。
こうして俺達は地上を目指したのだが、そこでふと視線を感じた。
敵意でもない、害意でもないもっと別の何か、そんな視線を。
俺は反射的にその視線の先を探る。
そしてその視線の先には――
「エルネさん‥?」
エルネさんが俺を覗いていた。
そして意味深な笑みを浮かべ、視線を逸らし葉月の後ろに付いて行く。
俺は三日目にして、五神樹達と深い溝をつくり上げた。
そしてその日の夜。
俺は再びエルネさんから、話がしたいと呼び出された。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想などお待ちしております。
あと、誤字や脱字なども…