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偶像

 さっきまで俺の前には、聖女様がいた(・・)


 純潔さを感じさせる白色の法衣。

 楚々としていて清楚な姿。


 そして神秘さをも感じさせる、穢れを感じさせない整った表情。

 一般の男性であれば、誰もが惹かれるであろう象徴が其処にいた・・



 だが今は――


「陣内君! いつの間に作ったの? え? あれ、前にこの街で再会した時は、そんな気配無かったよね、お腹も膨らんでいなかったし…、あ、ラティちゃん狼人だから期間が短いとかなのかな? え、でも、やっぱりそんな感じしなかったし、ねえ! 隠さないで正直に答えて! その子は‥」



 捲し立てるように話す聖女の勇者葉月由香(はづきゆか)

 

 其処には先程感じさせた、高嶺の花的な高貴なイメージは完全に消え失せ。

 今、目の前にいる・・のは慌てふためく普通の女の子だった。


 魅力的という部分だけは、変わらないが――

 

 そんな彼女が、掴みかからん程の勢いで俺に迫って来ている。


「答えてよ陣内君! その赤ちゃんは‥ああ!やっぱり知りたくない、けど…」

「このコは、この前の参加した防衛戦での戦災孤児? いや、遺児って言うのかな? 両親は亡くなっているんだよ。だからそれを俺が引き取った感じかな」


「あ、」


 葉月は自分の勘違いに気付き、一瞬だけ恥ずかしそうにしたが、すぐにモモの両親が亡くなった事を思い出してか、悲痛な表情を浮かべる。


 視線を少し下げ、俺の腕の中にいるモモを見つめる葉月。

 そして彼女は何か言おうと口を開きかけた時――


「ジンナイ! お前、ラティがいるってのに、聖女様にまで手を出そうってのか」

「おい‥ドコをどう見たらそう見えんだよロウ! それとラティを呼び捨てにすんな、『さん』を付けるか、いや! ラティお姉さんって呼べ」


「嫌だね、ラティはラティだ! 姉ちゃんなんかじゃね~よ、違うんだ‥」

「‥‥‥」

( ‥‥対等で居たいってか、か? )



 俺と葉月の会話に割って入って来たのは、狼人少年のロウだった。

 

 彼は今日、ドミニクさんの所へ行っていた。

 ノトスに住む事になったロウは、ただ保護される事を嫌がり仕事を求めた。

 だが、狼人の少年に仕事といっても簡単にある訳でもなく、アムさんの提案により、ノトスの街の周辺を警備している、元熟練冒険者ドミニクさんの荷物持ちを紹介される。


 俺個人としては、11才の少年が働くには危険もあるし、『まだ幼いのでは?』っと言ったのだが。


 ラティの、『わたしも11才から魔物と戦っていましたねぇ』の一言でロウの心に火が付き、彼がドミニクさんの元で働く事が決定した。

 11才からでも容赦のない労働、まさに異世界(ファンタジー)である。



 その顔合わせと、仕事内容に説明を受けに行っていたロウが、今、俺の目の前で騒いでいる。


「あ! ジンナイ話を逸らすなよ、いま聖女の勇者様にまで手を出そうとしてただろ! おれは見てたぞ、ラティに言ってやる」

「おい、だからどう見たらそうなるんだよ」


「うん? だって今、何か、いやらしい感じで見つめ合ってたし」

「ッしてねぇだろ!? 俺が詰め寄られてたんだよ」

「あぷっぷぅ?」


 ――ん? アレ?

 離れて見るとそう見えたりしたのか?

 いや、それはないよな…



「ねえ陣内君、ひょっとしてこのコも?」

「ああ、モモちゃんの兄貴だ、一緒に連れて来た」


 俺のことを睨んでいるロウを、横から葉月がそう言って覗き込む。

 そしてその視線を感じてか、ロウは葉月の方に顔を向けると――


「――ッ」

「あれ? どうしたのかな?あ、私は葉月由香ね。貴方は、ロウ君だよね?」


 ロウと目が合った葉月は、優しく微笑みながら簡単な自己紹介を始めた。

 だがロウの方は、葉月(はづき)の目を直視出来ず、ふいっとそっぽを向く。


 顔を少し赤くしながら。


 ――おい、このマセガキ、

 一丁前にテレてんのかよ! 案外気が多い奴なのか?



 俺は何となくだが、ロウの表情を観察していると――


「おい、お前等、聖女様に馴れ馴れしいぞ、控えろこの下郎がっ」


 赤いプレートメイルに身を包んだ男が、苛立ちを隠さぬ声音で話し掛けてきた。


 俺はその赤い男に目を向ける。

 その赤い男は、何気に最初(・・)からずっと俺を睨んでいた。

 それは不快なモノを見る視線ではなく、苛立ちで敵を睨むような視線で。



「セキさん、少し酷い言い方です。それにご存知の筈ですよね? 彼は私の大事な友人であると」


 セキと呼ばれた赤い鎧の男は、勇者葉月(はづき)に窘められてた。だが、全く反省や堪えた様子は見せず、『失礼しました』っと素っ気ない返事だけを返す。


 そしていまだに、睨み付けるようにして俺を視線にて射貫く。


 ――なんだコイツ?

 何か俺に恨みでもあんのか?

 でも、俺には恨まれる覚えが全くないんだけどな…



「セキ、少しは抑えろよ。まあ確かに、(エウロス)に行っていると聞いていた奴が此処に居る事に関しては、少々予想外だったけどな」 

 

 赤い鎧の男セキを、横からやんわりと宥める長身の青い鎧の男。


「ああ、アオウすまない、ちょっと苛立ち過ぎていたな」

「そうだよぉ、セキさんはすぐに熱くなるんだから~まったくぅ」


 青い鎧の男、アオウの後ろから、カレーとか唐揚げなどが好きそうな、そんな少年っぽい声をした黄色い鎧に身を包んだ少年もやってくる。


 ――おいおい、何だコイツら、

 鎧の色が派手すぎんだろ、赤青黄って信号機かよ‥

 あ、後ろの奴は少し地味な感じだな…



 その3人以外にも、後ろで此方の様子を見ている二人の男。

 暗い紫色の鎧の男と、完全に真っ黒の鎧の男。


 この5人の共通点を簡単にあげるとしたら、それはイケメンである事。

 放っておくと、5人で軽快なダンスと共に歌い出しそうな、そんな印象の5人。


「イエロ、熱くなるのは俺の仕事なんだよ、まあコイツが居たとしても、俺達が聖女様をしっかりとガードすればイイんだしな」

「ああ、そうだよセキ。まずは、公爵に会いに行きますか」


 そう言って葉月(はづき)を囲む5人組。

 セキという赤い奴は、『しっかりとガード』のところで、何故か俺を見ていた。

 まるで、排除対象のような、そんな視線を俺に向けていた。



 葉月(はづき)は俺の方を見ながら、何か話したい素振りを見せていたが、五色の騎士達に、半ば強引に近い形で屋敷の中へ連れられて行く。


 葉月(はづき)が何か言っているようだが、それを、『まぁまぁ』や『まずは公爵に挨拶を』など、露骨な誤魔化しをしながら屋敷へと押し込んでいた。




「なんか派手な色の人達でしたですねです」

「はい、害意というより敵意、敵意というより、嫉妬のような感じでした」


 『あの時のご主人様に似たような感情の色でしたねぇ』っと、ラティが【心感】で視えた感情の色の感想を呟く。


「ラティ、サリオ、二人も来たんだ」


 いつの間にかやって来てたラティとサリオ。


「はい、ロウ君が走って行っていたので」

「聖女の勇者様が来るって聞いたら、ロウくん、かっ飛んで行ったのです」

「ちょっと勇者様を見てみたかっただけだい、他には何も理由なんてないぞ!」


「ロウくん、何でそんなにムキになるのですよです?」

「やはり勇者様は一度は見ておきたいですからねぇ、そうですよねロウ君」


「ああ、うん‥」


( そりゃ言えないか、見惚れてたなんて )


 ロウを揶揄いたい気持ちもあったが、今は――


「しかし、何だあの五色の騎士たちは? かなり偉そうだったけど」


 俺は改めて感想を口にする。

 すると、俺の感想に答える声が――


「あれは五神樹(ごしんき)や、教会のエリートさん達やの」

「ららんさん」

「あ、ららんちゃん」


 『にしし』と笑みを浮かべ、俺にとっての借金取りららんさんがやってきた。


「つか、五神樹ごしんきって何だよ?アイドルか何かか?」

「そそ、まさに偶像(アイドル)やの、教会の偶像、そして聖女様を専属で守る親衛隊みたいなモンやのう」


 ららんさんは簡単に説明をしてくれる。

 五神樹ごしんきとは、教会が信者達の中から選び、そして育成された者達であり、他の信者達とは格が違うらしい。


 詳しく知っているららんさんに、俺は、何故詳しいのかを訊ねると。


「あ~~あいつ等ね、ちょっと前に依頼をしてきたんや、『私達の鎧の付加魔法品(アクセサリー)化をお前に任せよう』ってな」

「ああ、なるほど。お客さんだったのか」

「ららんちゃん、儲けてるん?です」


「いやちゃうよ、あれは客じゃないのぅ、だって、『教会の神子たる我らが装備するのだ、光栄に思うが良いっ』とか言って、代金の話は誤魔化してきてのぅ、アホらしいから断ってやったんよ」


  ららんさんはその時に、いかに五神樹ごしんきが素晴らしいかを、長々と語られたそうだ。そして五神樹ごしんきを嫌になったとも言う。


 

 俺はそれを聞いて。


「ああ、何となく共感出来るな、”自分達は雲の上の人だ”的なオーラを撒き散らしている感じするもんなあいつ等」

「ホンマそんな感じやの」


 俺とららんさんは、同じような感想を浮かべていた。






            閑話(気付いたらモモ)休題(ちゃん寝てた)






 俺達はその後。

 再び奴ら(5馬鹿)に出くわしたくないので、屋敷の離れへと帰った。


 そしてその夜。

 夕食を終えた後、アムさんに呼ばれた。


 どうやらあの五神樹ごしんきは、勇者葉月(はづき)とこの公爵家の客室に泊まるつもりだったらしい。


 だが、この屋敷に俺が居る事を知り、自分達が滞在する間、俺を追い出せとアムさんに要求をしたのだと言う。そしてアムさんはそれを断り、五神樹ごしんき達は腹を立てて出ていったそうだ。


 この時、俺はアムさんに訊ねる


「追い出されなくて助かったけど、平気なんです?その政治的? な部分とか。あ、あと、あいつ等って何をしにノトスに来たんだろ‥?」

「うん? 政治的な? それならまだ問題ないかな、まだ(・・)ね…」


「まだ?」

「ああ、彼らが本当に力を付けるには、勇者様の協力が必要だからね、でも今日見た感じじゃ駄目そうな雰囲気だったからね、だから平気だよ」


 ――勇者の協力?

 今日見た感じ? それって葉月(はづき)の事か?

 それが何の関係が‥‥



五神樹ごしんきの真の役目は、聖女の勇者との婚姻だよ。それが彼らの役目なのさ」

「婚姻って、結婚!? 葉月(はづき)と? あの5人の誰かが?」


「ああ、そうさ――」



 アムさんから、再び説明を受ける。

 五神樹ごしんきと呼ばれる者達は、召喚された勇者。

 今回は葉月(はづき)との婚姻を結ぶ事を目的で選ばれたのだと。


 あのイケメン揃いだったのは、そういう事なのだろう。


 教会側は、勇者召喚された勇者達の中から、もっとも教会に相応しい者を選び、そしてその勇者と結婚することで、教会の発言力や権力を増す事を目的にしているのだと言う。


 それは何代も前から続いており、しかも、宗教的な理由により、勇者保護法に引っ掛かり難いのだと、アムさんは俺に教えてくれた。



 だが、アムさん曰く。

 今日の雰囲気を見ている限りでは、勇者葉月(はづき)が結婚に応じるようには、とても見えなかったと言う。


 葉月(はづき)は常に距離を置くような態度を示しており。

 とても結婚などは無いと。


 だから、『まだ問題ない』と言うことだそうだ。




 俺はアムさんからの話を聞いた後、当然、そのまま離れに戻った。


 後は風呂に入って眠るだけ。

 その前に、モモちゃんとラティを撫でようと考えていると――


「あの、ご主人様。ご主人様にお客様です…」

「俺に? もう夜なのに?」


 何とも言えない神妙な表情を浮かべるラティ。

 とても彼女らしくない、ハッキリとしない表情。



 そしてラティに案内されて、離れの客間に向かうと其処には――


「陣内君、ごめんね、夜遅くに‥」

葉月(はづき)…」



 先ほど話題に出ていた、聖女の勇者、葉月(はづき)が訪問をしていた。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご質問など、コメントなどで頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字も‥

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