ノトスでポン
ちょっと面倒回です。
なんでこんな面倒なの書いたんだろ俺、
普通の男子高校生であれば、一度は悩む、恋の行くべきか退くべきか。
あのコは自分に好意があるのでは?とか、好意までは行かずとも、少しぐらいの興味はあるのでは?と、少し情けなくも、つい希望を持ってしまう男の子の悩み。
共通の友人が居れば、その友人にそれとなく反応を聞けないだろうか、それとなく自分の印象はどうであろうかと知りたくなる。
自ら動くのであれば、勝てる見込みがある時に動きたい心境。
時には、『自分は貴方に興味がありますよ』っと匂わし、反応を窺う。
そしてその反応で、行くか退くか判断したりするのだが。
――あああああ!
ラティは俺の事どう思っているんだろ‥
好意はあると確信は出来るんだけど、
好意はあると確信は出来る。
だが、その好意が、愛に繋がる好意かと己に問うと、自信が持てず分からない。
仮に、『俺と付き合ってください』っと告白したとしても、『あの、それはなんでしょうか?』っと返事を返されそうであり、その予想も出来る。
ならば、付き合うの意味を教えたとしても、『あの、わたしは奴隷の立場なので』っと返される気がする。寧ろその可能性が高いだろう。
男らしく、奴隷からの開放もありなのだろうが、その勇気が持てない。
絶対に無いと確信出来るが、もしラティがそれで俺の元を去れば、きっと俺は魔王にでもなって世界を滅ぼすだろう。 たぶん。
それに俺からの好意はラティには伝わっている。
それなので、彼女の反応を見るのが一番なのだが、無表情で機微が読めない。
( 詰んだ‥ )
そして俺は、普通の男子高校生であれば、誰もが取る対応策を選択する。
「うん、現状維持でイイか‥」
「あの、ご主人様? 何か仰いましたか?」
「いや、何でもないよ」
「はい、そうですか…」
「あ、ノトスが見えて来たです! やっとこれでお風呂に入れるですよです」
「ああ、思ったより時間がかかったな」
俺達は馬車で五日間かけて、ようやくノトスへと帰って来た。
因みに、俺がゴーレム戦で負った怪我を治すまでの間、見舞いなのか、それとも芝居の為の取材なのか、連日シェイクがやって来ていた。
俺は彼を発見すると、”狼人奴隷と主の恋”の芝居を中止しろと抗議するのだが、『それは断るっ』っと言葉を残し、シェイクは逃げ回っていた。
川口浩探検隊のようなマネごとをしている脚本家シェイク、彼は中々の健脚で、メイド達の協力を得て俺から逃げ切っていたのだ。
俺も負けずにラティを頼ったのだが、何故か彼女の【索敵】はシェイクを察知出来ず、しかも、偶然発見したシェイクを取り逃がしたりもしていた。
ラティにしては、とても珍しい事だった。
結局シェイクを捕らえる事は出来ず、最後に、『”狼人奴隷と主の恋”の処女公演の時には、招待状を出すから来いよ』っと不吉な伝言を残していった。
偶然発見した時に捕らえていれば、と 今でも悔やみきれない。
そして何故かその時、ラティの動きに普段のキレが無かったのを思い出す。
――あの時のラティ、なんで動きが鈍かったんだろ、
なんか調子悪かったのかな‥
そのまま馬車を走らせ、ノトスに辿り着いた俺達は、公爵代理のアムさんに雇われている身分の為、問題無くノトスの街へと入る。
前までは街の入り口で、ひと騒動あったモノだが、今はそれが懐かしい。
「おお! ジンナイ様、やっと帰られたのですね。ささ、アムさんがお待ちですよ、そりゃもう‥‥色々な意味でお待ちでしたよ」
「ああ‥結構待たせたかもな‥」
騒動は無かったが、門の見張り役の兵士からは不吉なお言葉を頂く。
そのやり取りを見ていたラティは――
「あの、申し訳ありませんご主人様。わたしの為に、西の奥まで行くことになってしまって、エルフの森とかアキイシの街に寄ることになってしまって‥」
「ラティちゃん気にすることないよです、ジンナイ様が行きたいから行っただけですよです」
「サリオ、出来ればそのセリフは俺に言わせろ、まぁ確かにサリオの言う通り、俺が行きたいから行っただけだよ、だからラティは気にすんな」
こうして俺は、アムさんの元へ叱られ行くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
西での滞在が伸びた理由をアムさんに説明し、少しばかりの小言を頂く。
だがその内容は、叱るというよりも、状況報告に近いモノであった。
俺達が居ない間の陣内組による、魔石魔物狩りからの魔石集めは問題無かったのだが、魔石魔物狩りに問題が生じたと言うのだ。 具体的には――
『陣内組から死者が出た』
『え? 誰です!? いや、上杉もいたのに、なんで‥?』
『ああ報告では、欲をかいた馬鹿が混ざっていたらしくてな…』
『まさか、予定よりも多く魔石を置いたとか?』
『そうだ』っとアムさんは答え、それによって生じた問題に頭を悩ませていた。
魔石魔物狩りは、その危険性から南では一度は中止されていた。元を辿ると、本来は禁止行為のようなモノであったのだが、魔石魔物から獲られる魔石の量は無視の出来ないモノであり、今やノトスの活性化には必要不可欠なモノとなっていた。
そして今回の魔石魔物狩りでの事故は、嫌な爪痕を残したのだとアムさんは言う。
唯一魔石魔物狩りを許可されている陣内組でも事故があるなら、また再び全面的に禁止にするか、もしくは、魔石魔物狩りの許可を緩和しろと言って来たそうだ。
何を言っているのか意味が分からなかったが、要は、どさくさに紛れて、魔石魔物狩りを行いたい者が大騒ぎしているのだと言う。
普通ならば、そんなのは無視すれば良いのだが、ある程度の甘い汁が無いと冒険者達が離れて行くらしい、そして冒険者達が減ると、周囲の魔物を狩る者が足りなくなり、有事の際に色々と不味いのだと言う。
防衛戦での報酬を高く支払えないノトスとしては、それは避けたいらしく。
『仕方ないから、レベル30以上のパーティなら許可をしたよ』
早い話が、再び深淵迷宮が面倒になったのだ。
魔石魔物狩りの一本化。
狩るメンバーの把握。
供給出来る魔石の量。
事故の少なさ。
その他諸々のメリットが無くなった。
俺としては、魔石が沢山獲れるようになるのだから良いのでは?っと思っていたのだが。
アムさん曰く、把握しきれない量の供給というのは、厄介なモノらしい。いきなりの値崩れや、性急すぎる金の動きというのは、把握出来ていないと混乱が生じると説明してくれた。
一部の某付加魔法品職人は喜ぶだろうが、っと付け足していた。
俺としては、魔石魔物が狩りやすい中央の地下迷宮と違って、南の深淵迷宮は、若干魔石魔物が狩り難いので、その辺りが少し心配である。
「あ~~、20日程度いなかっただけなのに‥」
「全くだ、やっと安定して軌道に乗って来たと思っていたのに‥」
「でもアムさん、そんな簡単にルールってか、法律みたいなモノを変えてイイんですか? いくら公爵にはその権利があるからって‥」
「うん、深淵迷宮を利用しているのは冒険者達だけだから、深淵迷宮内の事なら変えるのは楽なんだよ、直接影響を受ける人数が少ないからね」
深淵迷宮内のルールなら、簡単に変更出来る事を教えてくれた。
そして――
「あと、ジンナイ君。君にはちょっと暫くの間、お休みして欲しいかな」
「へ?今って大変なんじゃ?」
どうやら今までの話は、これの前フリだったらしい。
陣内組のメンツのレベルは、ほぼ60以上。
そこに今回の件。陣内組にいなくても魔石魔物狩りが出来るとなれば、陣内組を離脱する者が増えたと言う。
離脱したメンツは、自分達のパーティを作り、そして新たな魔石魔物狩りのチームを作った。もしここで俺が戻り、勇者の恩恵でポコポコと高レベル者を作ると、また離脱からの新たな魔石魔物狩りチームが出来上がり、完全に制御が出来なくなると言うのだ。
しかも、素の実力を伴わない高レベル冒険者というモノは存外に厄介らしく、何をしでかすか分からないらしい。すぐに思いつくモノで言えば、魔石魔物狩りで欲張り、処理し切れない数の魔石魔物を作り出し、それが暴走するなどがある。
「だからジンナイ君、暫くの間はお休みね」
「マジか‥」
戻って来て忙しくなると思ったら、いきなり暇になった。
一応、何かあった時の為に、待機という形ではあるが。
( 落ち着くまで待つしかないか‥ )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、俺は陣内組のメンバー達と久々に顔を合わせる。
久々のノトス公爵家、離れでの夕食時に、ここ最近の深淵迷宮での苦労話や、メンバー内でのトラブル、そして少量だが酒が入った為か愚痴も出ていた。
陣内組の初期メンバーである、大剣使いのスペさん、回復役のミズチさん、後衛と指揮のレプさん、そして伝言をお願いした猫人戦士テイシは陣内組に残ったままであり、これだけは嬉しい事であった。
愚痴を吐き出した後は、俺達の話に移っていった。
勇者救出は伏せていたが、巨竜討伐の話はテイシ経由で流れていたらしく、しきりに俺の忍胴衣を見せて欲しいと皆に言われ、最後には、ららんさんまでやって来て、『お! 余計な強化付加魔法はしていないのう、これはオレに任せるってことやのぅ?』っと言いながら、俺の忍胴衣を奪っていく。
個人的には、凄腕職人のららんさんに強化付加をして貰えるのは嬉しいのだが、『ほほ~これは厄介そうやの、ちょっと値が張るで~』っと、とても不吉な言葉と、『にしし』な悪い笑みを浮かべ部屋を出て行った。
因みに俺の所持金は金貨114枚と銀貨27枚である。
お手柔らかにして欲しいところだ。
食事を終え、久々の自分の部屋でゆっくりしていると。
「ねねん、ジンナイ様ジンナイ様!」
「サリオ?」
夕食時に出た酒を少量だが飲んだサリオは、いつもよりもテンションを高目で俺の部屋に乱入してくる。
「ジンナイ様!ジンナイしゃま!」
「っく、思ったより酔っぱらってんなサリオ」
「ちょっとお聞きしたいんですよですぅ!」
「何を? 出来ればそろそろ寝たいんだけど‥」
――うん?なんだ、
なんかサリオが妙にテンション高いけど、
何を聞きたいんだ?
俺はサリオに、ここまで興味津々といった形で聞かれる事に、全く心当たりは無かったのだが。
「ラティちゃんとキッスしたってホント何ですかです?」
「――っな!? なんで知ってんだ!? いや、あの部屋には誰も居なかったはず‥」
「ぎゃぼぼーん! シェイクさんが言っていたのは本当だったのですかです!」
「いやいやいやいや!?うぇ? おかしいだろ!なんでシェイクさんが知ってんだよ! って、おい、まさか‥」
「シェイクさんが、その方が物語が盛り上がるから、キッスを付け足す? みたいな事を言っていたのですよです、でもまさか、本当にしていたなんてですよですぅぅ‥」
――おぃぃいいい!
まさか、まさか、物語を盛り上げる為に話を盛るつもりだな、あのオッサン、
くそおお‥なんであの時、俺は取り逃がしてしまったんだ‥
俺は思わず、早急に西へ戻りたくなって来ていた。
キスの件は事実なのだが、これは知られる必要の無い事実である。
だが、今はまず、この話を闇に葬る必要があり――
「忘れろーー!今の話を忘れるんだああ!」
「ぎゃぼーーー!乙女の地肌を鷲掴みは駄目なのですよ~です」
俺はサリオの腹にアイアンクローを仕掛け、そして今の話を忘れるように脅迫をする。 普段のローブ姿ではなく、部屋着のサリオは結界も張れず、俺のアイアンクローを直接イカっ腹に受けていたのだが。
「ぎゃぼ!ぎゃぼ! ぎゃぼー! 止めてです~! 乙女を鷲掴みとかは~」
「喧しい! 今すぐ忘れるんだ! ハリーハリー!」
そして。
ぎゃぼーっという叫び声と共に、赤が橙に変わり。 まさかの事案発生となった。
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