初代さま(元凶)
遅れました~
風邪がぶり返して、かなりヤバかったです。
ある日、森の中を歩いていたら、初代勇者さんに出会った。
熊さんに出会うよりも確率は低いだろう。
周りは理解不能な空間。
夜空のような、行ったことは無いが、宇宙空間みたいな所。
其処に初代勇者はいた。
その初代勇者は、見た目は中年、どちらかというと冴えない風貌。
もし『彼が勇者です』っと紹介されたら、少し戸惑うレベル。
なので当然俺は――
「ちょ!?まった待った!初代ってあの初代勇者?ちょっと信じられん…」
『あ~~うん、そうなんだけど、ちょっと時間が無いから手短に言うね』
「へ?」
『その木刀に込められた、勇者の力は少ないから』
「へ? 少ない‥?」
『だから、この空間に留まれる時間だよ、じゃあ、さっさと伝えるね』
空間に磔にされている初代は、こちらの疑問には返答せずに、”さっさと”と要件だけを伝えてきた。
相槌や質問も全て無視して、ただ要件だけを。
その要件は。
まず、初代勇者の仲間達に助力を仰げ。
それが真の魔王討伐に繋がると。
そして、この【世界樹の木】の切り株を護れ。
それが平和の維持に繋がると言う。
これが初代勇者の要件であった。
詳しい内容は、初代勇者の仲間達に聞けと言われ、そこで俺は気付く。
――ああ、そうか、
シャーウッドさんが初代勇者の名前に反応していたのはコレか、
初代勇者に出会った奴が来たと思ったんだな、
初代勇者は、本当に捲し立てるように話し続けていた。
その為か、短い時間と言っていた、この場に留まるタイムリミットが少し余った。
語り終えた初代勇者に、俺は疑問をぶつけようとしたが――
『やっぱり、僕の創り上げた紛い物じゃ駄目だったんだな…』
「へ?」
『紛い物の勇者召喚じゃ、やっぱり駄目だったんだな、』
「何を言って!?」
『願いや祈りのない……まるで呪い。そんな呪縛のような勇者召喚』
「だからっ、何を言って…」
『君のような真の勇者召喚じゃないと‥』
「はぁ?俺が真のって」
『純粋な、願いと祈りの勇者召喚、真の勇者召喚じゃないと――』
「おい!だから何を言ってっ――、あれ?戻った!?」
気付くと俺は元の場所に戻っていた。
目の前には巨大な切り株、初代勇者は、コレを世界樹の木だったと言っていた。
突拍子でもない話だが、確かに納得出来る程のサイズ。
そして横にはラティが。
「あの、ご主人様? どうなされたのですか? 木刀を切り株に当てたと思ったら、少しの間でしたが、呆けていたご様子でしたが」
ラティの話を聞く限りでは、どうやら俺はこの場に留まっていたらしい。
――意識だけを持って行かれてた?
しかし、あの空間は一体なんだった?
前にも一度行ったような気もしたけど…あれ?
一度冷静になって考え直すと、コレはとんでもない事だと理解し始めた。
1300年前の初代勇者に出会えたのだから、少し状況は変であったが。
俺は再び思考に囚われる、すると俺の挙動に不安を感じたのか、横からラティが覗き込み。
「あの、ご主人様? 本当に平気ですか? どうにもご様子が…」
「あ、ああ‥平気だ、ちょっと驚くことがあってな‥」
「あの、驚くこと?ですか」
ラティは不思議そうな顔をしながら、真っすぐに俺を見つめる。
そんなラティを見ていると、何となくだが、俺がこれから話す突拍子でもない事でも、信じてくれる、そんな確信じみたモノを抱き、俺は彼女に話す。
「ちょっと初代勇者に会って来たんだ」
「あの、初代勇者様にですか?」
「ああ、」
「それはそれは、あの、それで何か、有益なお話でも聞けたのですか?」
「ああ~、うん、聞けたかな…って、信じるんだ?」
「あの、ご主人様が嘘をつかれているご様子ではないですし、だから、きっとそうなのだろうと思いまして」
――参った、
何となくだけど、信じてくれるだろうとは思っていたが、
まさか、微塵も疑わずに信じてくれるとは…
俺はラティが騙されやすい性格なのでは?っと、少し不安になったが、今はそれよりも話の方を続けることにする。
「ラティ、初代の話によると、この切り株は、元世界樹の木らしい」
「え? あ! あの、ご主人様。一つ思い出した事があるのですが」
「うん?何を思い出した?」
「はい、まだわたしが小さい頃に聞かされたお話なのですが、この森にはとても偉大な方が眠っておられて、この周辺の木々は全て、その方の眷属だと、そう父から教えられた事がございました」
――木々が眷属か、
ってことは、世界樹の木の眷属ってことだろ、
確かに、この規格外な木々もそれなら納得出来るな、
ガチで神聖な場所だったんだな此処って、
「それから父は、次にこうも仰っておりました、『我が一族は、その方を見守る役目を与えられた』そうわたしに言って…」
無表情なラティが僅かだが顔を顰める。
もしかすると、両親の顔を思い出せない事に、心を痛めているのかもしれない。
それならばと、俺は話を逸らす。
「あ~~後な、なんか初代勇者の仲間達に、また会いに行けってさ」
「あの、それは地下迷宮の最奥の?」
「多分な、それと俺の方が真の勇者召喚だとか言ってたよ。どう見ても俺の方が劣化版だろうが、なんで真の方にWSやMPが無いんだよってのっ」
「あの、それは分かりかねますが、もしかすると、王女様でしたらそれをご存知なのでは?」
――あ、なるほど、
確かにそうかも、召喚に立ち会った可能性高いな、
でも、今それを尋ねに行くのは危険だよな‥‥
一昔前とは違い、俺は北の大貴族にそうとう恨まれている、それは暗殺者を送り付けられてしまう程に。
迂闊に中央の城に行こうモノなら、宰相のギームルにでも捕縛されて、そのまま北に売り渡される可能性も考えられる。
「王女さんに尋ねに行くのは、ちょっと危険だな‥」
「あの、確かにそうかもしれませんねぇ」
その後、俺達はいくつかの意見交換を交わしながら、ログハウスへと向かう。
それと、突然目の前に現れた世界樹の木の切り株だが、少し距離を取ると切り株は見えなくなっていた。認識阻害をするナニかがあるのか、離れると切り株が消え、10メートル近い馬鹿げたサイズの切り株が見えなくなっていたのだ。
もしかすると、元世界樹の木を悪用する者除けなのか、それと1300年前の切り株が、今も普通に残っている事にも驚きを感じた。
結局ラティの父親探しの捜索は、初代勇者との出会いと、世界樹の切り株の発見という、右斜め上を行く結果となった。
そしてログハウスに帰ると。
「ジンナイ様、お帰りですよです~」
「‥‥‥お帰りなさい」
片方は通常であったが、もう一方は何かがあった事が察せられた。
一応、サリオの首輪の色をチェックするが、色は赤のまま。何か不測な事態が起きた訳ではなさそうである。
ログハウスに戻ってからは、明日に備えて早めに休む事にする。
ラティの父親捜しで、アキイシの街に向かうことにしたからだ。
そしてその夜、見張りをしている俺のもとにタルンタがやって来た。
その表情は、一言でいうならば絶望、そんな力無い顔をした状態で、タルンタがやって来る。
「え~~と、どうしましたか?」
「ええ、もう気付いてますよね? 気付いてんだろ‥」
中々面倒な予感がした。
「サリオに話したんだ、オレと来ないかと‥」
「はぁ、」
「そうしたら、聞かれたよ、スキヤキは食べれるのか、風呂には毎日入れるのかと、他にも色々と‥」
「……で?」
「聞かないでくれ‥」
――メンドクセーなこいつ、
話があって此処に来たんじゃね~のかよ、
それだけを俺に伝えるとタルンタは、負の感情と哀愁を身に纏いながら家の中へと帰って行った。
そうすると今度は、タイミングを見計らったようにラティがやって来る。
「あの、ご主人様、少し宜しいでしょうか?」
「ああ、」
「あの、本当にアキイシの街へ向かわれるのですか?その‥わたしの‥」
「そうだ、アキイシの街へ行く。そしてラティの親父を見つけ出してぶん殴る、仮にどんな理由があったのだろうと、まず殴ってやるっ」
――街にラティの父親がいる保証はないけど、
もし居たら、絶対にぶん殴ってやる、
俺は心に決めていた。
11歳のラティを、何も告げずに奴隷として売り払った、ラティの父親をぶん殴ると。
「あの、ご主人様、その時はわたしも参加させてくださいねぇ」
「了解、一緒に殴ってやろうぜ」
そんな冗談を交わしていたが、ラティが再び俺に尋ねてくる。
「あの、少々危険ではないでしょうか?」
「危険?アキイシの街が?」
「はい、お知り合いの勇者様もいない状況で、後ろ盾が無いですから‥」
「ああ…」
ラティの言いたいことが分かった。
確かに俺は、新しい街や村に行くたびに、厄介なトラブルに見舞われている。
そんな俺が、伯爵領地の街へ向かえば、きっと大きなトラブルに巻き込まれるというのであろう。
その予感は正しい気がするが――
「行こうラティ、きっと何かしらの情報も得られるだろうし」
「はい、承知しました、ご主人様」
次の日、俺達は更に西へと向かった。
ただ、タルンタだけは、泣くようにしてシャの町へと帰って行ったのだった。
一人で……
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