表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/690

森のオオカミさん

 ラティが昔住んで居たと言う森はすぐに判った。


 シャの町の町長、タルカシャさんが言っていた特別な森と言う理由。

 それは、他の森とは明らかに違った。


 森に生えている樹木の規格が違ったのだ。

 

 この異世界で見てきた森に生えている樹木などは、幹の直径が50センチから1メートル程度だった。だが、この森に群生している樹木のサイズは2メートルを超える物ばかり、しかも幹が直径4メートル近い樹木も多数存在する。

 ちょっとしたビルのような高さを誇る樹木、どれも高さは40~50メートルは超えているように見え、まるで巨大な神殿の柱のような大木。

 しかもうっすらと霧のような靄がかかっており、それがまた神秘さを感じさせ、誰の目にも特別な場所であるような印象を与えていた。

 

 

 ただ地面の方は、周りが大木ばかりな為か、養分でも吸い上げられているかのように荒れており、雑草などの類は群生しておらず、苔のようなモノが斑に見える程度に覆っており、森の中を歩くのは楽に思えた。



 そんな森の中に、一匹の狼が立っていた。


「ラティ、あの狼は知り合いか?」

「あの、何のご冗談か存じませんが、わたしには狼の知り合いはいません」

「なんでしょうね~、ラティちゃんが狼人だからって、狼が知り合いだとか思ったのです?あれはどう見ても魔物なのです」



 そう、サリオの言う通り、目の前の狼は魔物の気配だった。

 そしてそれを証明するかのように、魔物特有の黒い霧を纏っていた。 


 だが、いつもの魔物とは違う所が一つあった。


 ――青?藍色の眼?

 眼が普段の魔物と違う、眼に意志のようなモノを、

 魔物じゃなくて普通の動物か?



 この異世界の魔物達は、基本的に眼は白目ばかりだった。

 人の瞳のような黒目の部分がなく、白目だけか、もしくは怪しく光る赤い眼など、不気味さを感じさせる眼をしていたが、この目の前の狼型はそれとは違った。


「あの、襲って来ませんねぇ」

「ああ、こっちに来ないな‥」


 森の中に立っている狼は動かず、静かにじっとこちらを見据え、襲って来る気配を微塵も見せなかった。


「あやや?いつもなら一直線なのにです、あの魔物は来ませんね?です」

「アレです! あの魔物がこの森に居座って入れなくなったのです!」


 俺とラティは馬車から降りて戦闘態勢、サリオは馬を宥めつつ様子を見て、タルンタだけは魔物の姿に慌てふためいていた。 

 油断をするつもりは無いが、たかが一匹の狼型の魔物だけならば、今の俺達であれば問題は無く、待ち構える形で魔物の出方を窺っていると。


「ありゃ?引き返しちゃったです‥」


 サリオの言う通り狼型の魔物は、森の奥へと姿を消して行った。

 ただ、森の奥へと引き返すその後ろ姿は――


「森に入ったら咬み殺すって感じだな‥」

「あの、わたしにもそう感じられました」



 よもや魔物が背中で語るとは思ってもいなかった。

 だがあの狼型の魔物は、そういう雰囲気を纏っていたのだ。


「ラティ、今の狼型のレベルとかは?」

「はい、名前はニシオオカミでレベルは46です」


「その辺りは見た目通りか、」

「そうですねぇ、ですが、何か別の強さのようなモノを感じました‥」




 森へ踏み込むかべきか、それとも外で待つべきか、俺は考えるまでもなく森へ入る。

 森の中はラティの機動力、迅盾をもっとも生かせる場所(ステージ)なのだ。

 

 俺達はさっさと魔物を倒すべく、森の中へと踏み入る。





 今まで使われていたであろう道を使い中へと進む。

 馬車は外に置いておく案もあったが、外で魔物に襲われるとマズイと思い、馬車のままで森を進む。

 

 流石に馬車に乗ったままでは対処に遅れが出るので、俺とラティは馬車から降りて、周囲を警戒しながら馬車と共に歩く。


 俺が周りを見渡しながら警戒していると、小声でラティが話し掛けて来る。


「あの、ご主人様」

「ん?」


「あの狼型なのですが、隠密系の何かを使ったかもしれません」

「――っへ!?それってまさか?」


「はい、【索敵】から消えました、今までそんなことが出来る魔物とは、出会ったことがありません」


 これはかなり予想外の事であった。

 見通しの悪い森の中であっても、ラティの【索敵】があれば、奇襲を受ける心配はないと高を括っていたが、一瞬にして不安が膨れあがる。


 気のせいか、先程よりも、森の中の視界が悪くなったようにすら感じる。

 

「マズイな‥」


 思わず口から弱気が零れる。

 そしてその弱気を嗅ぎ取ったかのように奴が姿を現す。


「っち、正面からかよ‥」

「来ます、」


 狼型の魔物は、音も無くその姿を現し、道幅3メートルほどの道を塞ぐようにして立ち、敵意を滲ませ睨み付けてくる。


「コイツ、マジで魔物か?」

「先行します!」


 

 ラティは指示を待つことなく突き進む。

 相手の注意を引く様に、後ろにいる馬車へ魔物が向かわないように駆ける。


 俺はラティの後を追うように走りつつも、魔物が馬車に向かった時の事を考え、結界の小手で護れる位置を取りながら動く。


 ラティがフェイントを混ぜつつ、狼の右側面から斬りかかる。

 俺はその動きを見つめながら走り、ラティの攻撃に反応するであろう狼へ接近し、彼女の攻撃に対して回避か迎撃、そのどちらかを行った隙をついて槍を突き立てる態勢に入るが。


「――っな!?」

「えっ」


 その狼型はラティの攻撃を回避した。

 それがただの回避であれば、俺はその隙を穿つつもりであった。だが奴は――

 

「ぎゃぼーー!?迅盾ですよです!」

「え?じんたて?ってか、狼が木を蹴った?え?ええー?」


 馬に乗っていたタルンタは馬から降りてサリオの横に立ち、彼女を守ろうとしていたが、狼型の動きにしっかりと腰が引けていた。



 俺は息が止まるような思いでソレ・・を見た。

 

 狼型の魔物は横に跳び退き、そして横にそびえ立っている大木を足場にして翔けたのだ、まるでラティ(迅盾)のような動きで。

 

 動揺して固まる俺とは違い、ラティはすぐさま追撃に向かう。

 狼型と同じように大木を足場にし、【天翔】を駆使して彼女が追いすがる。


 深紅の鎧を纏い亜麻色の髪を舞わせ、空を翔けるラティ。

 漆黒の毛並みに一房の亜麻色の鬣を靡かせ、大木を駆ける狼型。


「おいおい‥」


 ――アレってラティの親とかじゃねえのか?

 姿はともかく、他が色々と似すぎだろ‥変身でもしてんのか?

 でも‥‥

 


 狼型の魔物は本気でラティを狩りに来ていた。

 一瞬の隙をついて咬み千切りにくる顎。

 その姿はどう見ても、ラティの肉親のようには見えなかった。


 そして。


「ぎゃっぼー!?」

「っわあああああ!?」


 ――ギィィイイイ――

 

 ふらっと気まぐれの様に、狼型はサリオにも襲いかかる。

 タルンタを庇う様にして、結界のローブで障壁を張るサリオ。

 

「くそっ」

「サリオさん!?」


 こちらが待ち構えるような動きを見せると、狼型はすぐにサリオを襲った。

 あまりに自然に動くので、直前までサリオが狙われているとは気付かない程に、自然体の動きを見せた。


 とても初見では読み切れない動作。


 サリオを守る為に、ラティはどうしても狼型を追う形を取らされる。

 空を翔け巡る一人と一匹の獣。

 先程からほとんど地面に足を着かず、大木と空を翔けて飛び回る。


「くそ、マジで戦闘に参加出来ねえ」


 俺は焦りを感じていた。

 楽に狩れると思っていた魔物が、”予想よりも手強い”とかではなくて。

 

 魔物の強さが根本的に違うことに対して、焦りを感じていたのだ。


 

 本来魔物とは、ただ単に襲って来るモノ。

 中には魔物同士でも、多少は連携のようなモノを取って来ることもあったが、戦いに技術や駆け引きを使う魔物はいなかった。


 だが目の前の魔物は違った。

 あのラティ以上の動きを見せていた。

 

 単純な速度であればラティの方に軍配は上がる。

 しかしラティは二本脚、狼型は4本脚。この差が大きかったのだ。


「マジかラティが引き離されるだと‥‥」

「がぉーーん!なんですかあの魔物は!? チョコチョコ動き過ぎですよです!」


 

 ラティの使う【天翔】は、足の裏で空を蹴るモノ。だが、狼型は4・・の脚で空を蹴って翔けており、ラティよりも細かく、そしてより複雑な軌道を見せていた。


「デタラメ過ぎんだろ‥」

「いあ~ラティちゃんも十分デタラメさんなんですけどねです」


 

 ラティは素早さをフル活用し、負けじと二本足で狼型に食い下がっていた。 

 体勢が固定されるWSウエポンスキルは使わず、己の技だけで刃を振るい、狼型を斬りつけようと肉薄する。


 だが強引な接近などは、狼型に軽くあしらわれる。


「ちぃ、サリオ!周りの大木を切り倒せ!これなら足場が無い方がマシだ」

「了解してラジャです!火系魔法”炎の斧”!」


 ――ゴゥゥゥウウ――


 堅いイワオトコの魔石魔物すら焼き切るサリオの魔法。

 青白く燃え輝く炎の斧が、雄々しくそびえ立つ大木を薙ぎ払うが。


「ほへ?」

「へ?」


「町長から聞いてないのですか!? この森の木は堅いんですよ! 簡単な魔法程度じゃ弾きますって!」


 

 この森の大木は、サリオの魔法をも弾き返していた。

 

「マジかよ!どんだけ堅いんだよこの木は!? マジで木かよ!?」

「ジンナイ様!ラティちゃんが!?」



 俺はサリオの言葉に、弾かれるようにしてラティに目を向けた。

 そしてその視界には。


 ラティが右手に持っていた、蜘蛛糸の剣が弾き飛ばされる姿が映っていた。

 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと誤字脱字などのご報告も頂けましたら‥

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ