力を下げる者
すいません、色々とあって遅れましたー
サリオを見下ろしていた男は片膝を付き、目線の高さをサリオと同じにした。
「サリオだよな‥」
「うううう、」
反応に困ったサリオが何故か俺を見る。
だが俺も、この状況をどうしたら良いのか判断出来ず固まる。
すると突然――
「サリ、オ?――っあああ!?思い出した!焔斧だ焔斧だよ!コイツ!」
「あん?お前は何を突然叫んでんだよ?」
突然横にいた男がサリオを指差し、大きな声をあげる。
「だから”焔斧”だよ!ハーフエルフ!焔斧はハーフエルフなんだよ!」
「っな!?ハーフエルフだと!?」
一瞬にして空気が変わる。
浮かれていた雰囲気が消え、まるで何かの獲物を前にしたかのように重心を下げ、必要以上に警戒の色を濃くする野次馬のエルフ達。
「おい!本当にハーフエルフなのか!?お前!」
先程までベタ褒めしていたパトラまで険しい声音へと変わる。
”焔斧”の二つ名は有名になっていた、だがサリオ=”焔斧”という事は意外と知られていなかったが、この野次馬の中には知っている奴がいたようだ。
先程まで、目線を同じ高さにしていたサリオの知り合いらしき者も、周りに合わせ立ち上がり、そして今はサリオから距離を取る。
――っち、アイツも同じってか、
サリオがハーフエルフだから離れるってか?この野郎‥‥
ん?あれ?サリオの知り合いなら知ってるはずだよな、ハーフだって‥
俺はふと疑問を感じた。
だが現状は、いつまでもそんな疑問を浮かべていられる程余裕はなかった。
「おい!お前はハーフエルフをこの町に入れたのか!」
「くそ!門番は何をやってんだ!」
「誰かすぐに町長を呼んで来てくれ!コイツらの処遇を決めないと‥」
驚きから敵意へ、そして次は殺意にまでも変わりそうな空気。
俺は戦闘態勢を取り、視界の隅ではラティも重心を下げ刈る準備をしている。
そして目の前のサリオは俯き、俺の方からは表情が見えない。
だが落ち込んでいる様子だけは感じ取れる。
「サリオ!顔を上げろ!」
「ほへ‥‥?」
「顔を上げて狙いを定めろ!お前には何も非が無い、だから襲って来る奴らなんて薙ぎ払え、ちょっと前の村の時みたいに、この町も火の海にしてやれ」
「ぎゃぼーー!!何ですかソレ!?やってませんよ?そんな恐ろしい事やってませんよですよですー!」
周りを囲っていた人垣が一気に距離を取る。
高レベル冒険者、そして魔石魔物級をも一撃で屠る魔法。
俺の台詞には説得力があり、殺気立っていた野次馬達が下がりだす。
「いや、しっかりと燃やしてただろ?待ち伏せしていた奴らを」
「あ!村の入り口薙ぎ払ったです‥やっちゃってたです‥」
サリオの言葉に、より一層距離を取る野次馬達。
事態は好転こそはしていないが、一触即発の状況から膠着状態となる。
これはもう、強行突破しかないかと思い始めていると。
「静まれい!お前達は焼き殺されたいのか!?」
「町長!?」
「町長‥、ですがハーフエルフですよ?ハーフエルフ」
「そうです!アイツらはハーフエルフをこの町に連れて来たんですよ!?」
町長の登場により、再び勢いづく野次馬のエルフ達。
――クソが、
ほとんど理由も無しに、ただハーフエルフだからって
マジでどうなってんだよ勇者の楔ってのは‥
「お前達、この場は私が預かろう」
「――ッ町長!?」
「一体何を?今すぐ奴らを叩き出すべきです!」
「煩い!静まらんか!第一どうやって叩き出すというのだ、お前達も知っておるのだろう?その者達のレベルを、しかも魔物を簡単に倒して戻って来たのであろう?」
町長の言葉に納得はせずも理解はした様子のエルフ達。
『すまんが私に付いて来てくれ』と声を掛けられ、俺達はそのまま町長の後を追う。
不意打ちをしてくる馬鹿はいないと思うが、一応警戒しつつ進む。
町長のタルカシャが向かった先は、彼の家、町長の家だった。
「中に入ってくれ、お前達が視界にいると町の奴らも落ち着かんだろうからな」
「ああ、」
レーダーに目を向け、次に隠蔽魔法感知のアクセサリーをチェックし、危険や誰か潜んでいないかを確認してから家へ入る。
そして家に入ってから客間へと案内される。
エルフらしい木材のみで作られた室内、木で作られた椅子に座るように促され、俺達が席に着いてからタルカシャが口を開く。
「全く、穏便には行かないモノだな‥」
「で?俺達をどうするつもりで?それと彼女が昔住んでいた森の情報も」
「ああ、判っておる。だがな、その前に一つやって貰いたい事がある事にして欲しいんじゃ」
「はい?約束の魔物討伐はしましたよ?それなのに――」
「ハーフエルフがおる事を隠しておっただろう?」
俺の言葉に言葉を被せて遮るタルカシャ。
そしてサリオの正体を隠していた件を咎めてくる。
確かに俺達は面倒ごとにならないように、サリオの正体を隠して町に入ってきた。
結果、大事になってしまったが――
「そこで、ちと提案なのだがな‥」
タルカシャの提案、それはお互いが穏便に済ませるというモノであった。
俺達はハーフエルフをこの町に入れた罰として、”ある森”に住み着いている魔物の討伐を命じられる。
だがこれは建前、”ある森”とはラティが昔住んで居た森の事。
町長の立場として、何の処罰も無しに俺達を無罪放免とすると色々とまずく、下手をすると、反発して手を出す者が出るかもしれないと言う。
その為、仮ではあるが罰として、森の魔物の討伐を命じられた事にして欲しいと。
『一つやって貰いたい事がある事にして欲しい』という事だ。
その森からは貴重な薬草や原木が採れ、今まである程度の交流があったのだが、3年ほど前から一匹の狼型の魔物が住み着き、近づけなくなり困っていたのだと言う。
シェイクさんが言っていた、危険とはコレの事のようだ。
当然俺は。
その森の情報が嘘であり、『俺達を騙して働かせている可能性は?』と尋ねると、『その時は、この町でも焼き払えば良い』っと物騒な返答が返ってきた。
本来であれば、俺達は魔石魔物級の魔物を討伐したのだから、報酬として森の情報を聞ける権利があるはずだが、その辺りは”サリオの正体を隠していた件”と相殺する形となり。
こうして俺達は、表向きは罰として”ある森”に魔物の討伐へ、俺達側としては、目的地である”ある森”に向かうこととなった。
「さて、流石に今日はもう日が落ち遅い時間だからのう、このままこの家に泊まっていくが良い。宿に戻ると色々とまた面倒ごとが起こるかも知れんしな」
「まぁ確かに‥、ただ馬車とかが心配なのですが」
「む、そちらの方も話を通しておくか、」
その日は町長タルカシャの家に泊まる。
ラティからの話では、この家は周囲から見張られており、もし外に出ればきっとまた面倒ごとになったと言う。
流石にあの場を預かると宣言した町長の家に乗り込んで来る者はおらず、問題なく次の日を迎えることは出来たのだが。
「この者が今回の見届け役じゃ」
「討伐見届け役のタルンタです、よろしくお願いします」
その見届け役の男には見覚えがあった。
くすんだ金色の髪を後ろで束ね、鋭い目つきで精悍な顔つき。
背の高さも俺よりも頭一つ分高いエルフの男。
「サリオの知り合い?」
「前のエルフの森で一緒だっただけだ‥」
タルンタはそう言って顔を叛ける。
昨日もそうであったが、この男は他のエルフ達とは少し違う印象だった。
具体的に言うならば、ハーフエルフを毛嫌いしていない、もしくはサリオを嫌ってはいないという印象。
そんな印象の男だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達はシャの町を出発し、より西へと向かった。
幌付きの馬車の御者はサリオ、ラティも御者のように馬を扱うことは出来るのだが、意外なことにサリオの方が上手いのだ。
因みに俺は出来ない、何故か馬は俺の言うことを聞かないのだ。
そしてそのサリオが操作する馬車の後ろを、馬にまたがり付いてくるタルンタ。
俺達はそのまま昼の休憩になるまでゆっくりと走り続けた。
昼の休憩時、馬を休ませると同時に俺達も食事を取る。
俺とラティとサリオ、そして少し離れた位置で食事を取るタルンタ。
俺は食事を取りながらタルンタを観察する。
それは当たり前の事が気になったから。
――やっぱ違うな、
他のエルフ達とは違う、
サリオを見る目が違うな‥
感じた違和感。
勇者の楔の効果は絶大だ、ハーフエルフだと知られていなければ、サリオは普通に歓迎されていた。
それがハーフエルフだと認識すると、手の平を返したようにひっくり返った。
例えるならば、可愛らしいハムスターに人が寄って来たが、そのハムスターが病原菌を持っていると知ると、一気に引く様な感じ。
その反応を嫌というほど俺は見てきた。
だがこの男、タルンタは違った、この男はまるで周りに合わせるかの様にしてサリオから距離を取っていた。
偶然かもしれないが、この男が見届け役になったのも気になる。
見届け役は、昨日と同じパトラになると思っていた。
何故か俺の中でソレが引っかかっていた。
「夜の時にでもちょっと聞いてみるか‥」
俺は気になり、タルンタと少し話をすることにした。
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