力強きモノ
シャの町。
西のエルフ達が住み着く森。
山の中などにある山小屋が無駄に沢山並んでいるような風景の町。
歩きやすい道なども少なく、運搬用の道だけがあるような所。
住みやすさでいうならば、迷わずに引越しを選択するレベルの土地。
立ち並ぶ木々を避けながら俺は歩く。
「木のせいで薄暗いな」
「あの、確かにそうですねぇ、少しでも日が落ちればもっと暗いでしょうねぇ」
「洗濯物も乾き難いのよです」
やはりメリットの感じられない土地。
歴代共の、嫌がらせとしか思えないような環境。
俺達はそんなエルフの町を歩き、町長のタルカシャのもとへ向かう。
町長タルカシャの居場所は、部屋を取った宿の従業員から聞いた。
歩き辛い森の中を進む。
やはりというべきか、サリオは慣れた足取りで歩く。
「サリオ、お前って鈍そうなのに、森は苦も無く歩けるのな」
「ぎゃぼ!なんか酷い事を言われましたよです」
「いや、だってよう、その脚の長さでよく進めるな~ってな」
「フォローだと思ったら、追い討ちだったよですよです!サリオちゃんは断固抗議します!脚は短くないのです!あと、前は森に住んでいたから歩くの慣れているんです」
「いや、脚はどう見ても短いだろ‥」
「あの、お二人共、あまり大きな声はまずいかと‥」
俺とサリオはラティにやんわりとたしなめられる。
彼女の言う通り今のはまずかったのだ、サリオは人の子供として振る舞っているのに、『前は森に住んで』の発言は、勘の良い人に聞かれると気付かれる可能性があったのだ。
「サリオ、今のはお前が悪い!」
「ぎゃぼー!ラティちゃんに叱られるのがどんだけイヤなんですかです!罪の擦りつけです!濡れ木綿です!冤罪です~!」
「冤罪とか言うな!」
その後、俺達二人はラティにちょっと強めのお叱りを貰うこととなった。
それを今度も擦り付け合おうとして、また怒られる。
俺達は騒ぎながら目的の町長の家へと辿り着く。
町長の家は、他の山小屋のような小さいサイズの建物ではなく、ちょっとした豪邸のような大きさと、昔は立派であっただろう外装。
だが今は、大地より生える木々に縛られ、蔓やら苔に覆われた廃墟のようになっていた。
「ココでいいんだよな?」
「あの、教えて頂いた話ですとそうです」
「あ~~村長とかの、お偉い様の家は昔からあるのばっかりですから、大体こんな感じですよです」
「だから言うな!」
いまだに懲りないサリオに注意しつつ、俺達はこの家の主を訪ねる。
古そうな扉をノックし、控えめながら呼び出しの声をかける。
すると、まるで来る事を事前に把握していたのではと思うほど早く扉が開く。
「何か御用ですかな?」
「あの、タルカシャさんって方に話が聞きたくてやってきたのですが」
出て来たのは訝しげな顔をした初老の男性。
額は広めの富士額、金色の髪を後ろに流し、皺は多いが整った顔立ち。
鼻が高くアゴも引き締まっており、まさに老エルフ。
――すげぇ、エルフだ、
門番とかもエルフっぽかったけど、この人は別格だな、
この町に入ってから何人かのエルフ達を見かけた。
基本的に皆が美形で、見かけたのは男性ばかり、何となくだがノトスの街に居るスペシオールさんを思い出したが、彼は【首長族】。
俺は一瞬どうでもよい事を考えていたが、すぐに破棄して話に戻る。
「あの、貴方にお聞きしたいことがあってやって来ました」
「ほう?私に?」
俺はシェイクさんの紹介でやってきたと伝え、すぐにラティが昔住んでいた森の場所を知りたいと訊ねる。
シェイクさんから直接その場所を聞ければ良かったのだが、その場所は一応秘密とされている場所らしく、筋を通す意味も含めて此処へやって来たのだ。
シェイクさんからは、ちょっと金を積めば教えてくれると聞いていたのだが。
「ふむ、ならばちと討伐の依頼をこなして貰おうかの」
「へ?討伐?金貨3枚とかじゃ‥」
「先程門番から連絡が来ておってな、ありえない程の高レベルの冒険者らしき3人組が町に入ったと報告があってな、それはお前達であろう?」
「あ~~、後ろの二人は確かに高レベルだな‥」
「それでだな、ちと困った事があってな――」
町の町長タルカシャは説明する、”困った事”というモノを。
このシャの町から北に500メートルほど行った場所に、魔石魔物級の魔物がうろついていると言う。
本来魔物というモノは、湧いた位置からあまり移動せずに湧いた場所をうろついている、なので離れていれば問題無いのだが、人を発見すると襲ってくる習性であり、この500メートルというのは微妙な距離らしい。
何かの拍子に近寄って来る可能性もあるし、誰かが魔物に発見されてこの町に逃げ込もうものなら、この町が魔石魔物級に襲われることとなる。
本来こういった事態は、街のギルドなどに討伐依頼を出すのだが。
魔石魔物級の魔物討伐は高額であり、下手をすると金貨10枚ほどふっかけられる事もあると言うのだ。
其処に丁度、高レベル冒険者の俺達がやって来たという訳である。
「で、討伐依頼を受けてくれんかの?倒してくれればその森の場所を話そう」
「分かった、倒せばイイんだよな?」
断る理由もなく、金貨3枚も払わずに済むので俺は依頼を引き受ける。
一応何かの罠かもしれないとは疑ったが、敵意などに敏感なラティは特に反応も示さず、それに俺達を罠に嵌める理由も浮かばなかった。
それから俺達は、戦闘の見届け役の男と一緒に、魔石魔物級の魔物がうろついている場所へと向かう。
徒歩で3~4分も歩くと、その魔物が見えてくる。
「ありゃ?あれってトカゲ型です?ちょっと懐かしい気分です」
「あ~~、地下迷宮でよくお世話になったなアイツには」
「あの、【鑑定】して見たら”ニシトカゲ”レベル52ですねぇ」
「アイツです!もしあんなのが町に来たらと思うと‥」
「あ~~うん、たしかにそうだね~」
――そりゃそうか、
普段から魔石魔物狩りとかしている俺達は別だけど、
あのレベルであのデカさ、十分に脅威だよな‥‥
レベル52のデカいトカゲタイプ。
もし、この魔物を安全に狩ろうとするならば、最低でもレベル30以上の冒険者が7~8人以上は欲しい。
そしてそれだけの人数を雇うならば、やはりそれなりに金額がかかる。
場合によっては時間もかかる。
俺には勇者の恩恵や魔石魔物狩りでレベル上げが楽だから良かったが、それが無い冒険者達は、レベルを30まで上げるのには、かなりの時間が掛かると聞いた。
そして冒険者でもないこの見届け役には、大層凶悪な魔物に見えるのだろう。
「負けそうになっても、町に退くのとかはナシですからねっ!」
「ああ‥分かった」
大袈裟に脅えている見届け役の男。
クレオパトラみたいな女性のような髪形をしたエルフの男を、俺は『心配し過ぎだろう?』っといった気持ちで見ていると。
「火系魔法”炎の斧”!」
「あ‥」
サリオが勝手に戦闘を開始していた。
彼女にとってそのトカゲ系の魔石魔物は大好物。
大好物といっても食べる意味ではなく、倒しやすく魔法が効きやすく狙い易いという意味での”大好物”。
地下迷宮では、タイムアタックでも狙っているかのように速攻で倒していた魔石魔物。
サリオは俺の指示など待たずに、ニシトカゲに魔法を叩き付ける。
ゴオッっと音を立てながら、青白い炎を纏った巨大な斧が振り下ろされ、そして次の瞬間には黒い霧となって霧散する魔物ニシトカゲ。
「え?はい?っえええええ!?」
「終わったです、ジンナイ様」
魔物を屠りドヤ顔のサリオ。
そしてそのサリオに、唯々驚く見届け役の男。
「お前なぁ、」
「あの、サリオさん‥‥」
――馬鹿かっ!このイカっ腹、
お前は目立つなよ、ただでさえ高レベル冒険者で目立っているってのに、
倒し易い魔物だからって、いつもみたいに動きやがって‥‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからシャの町に戻り、ちょっとした大騒ぎとなる。
討伐を依頼した魔石魔物級が倒された事と、それを一撃で倒したサリオの活躍。
そのサリオの活躍は、かなり大袈裟に伝えられた。
俺達からすれば日常なのだが、見届け役の男、パトラからするとそれは違ったのだ。彼の目には、あの炎の斧は今まで見た魔法の中で一番だったらしく、興奮しながらそれを今も伝えている。
「すげぇ~~んだよ!こうバーンって感じで斧がさっ」
「なんだよバーンって?でも、それで魔物は倒したんだよな?」
「ああ、一撃で蒸発してたぜ!」
「お前がやったみたいに言うなパトラ」
日も少し落ちてきて、より薄暗くなるシャの町。
休憩時間なのか、それとも仕事が終わったのか、それなりの人数がサリオを囲む様に集まって来ていた。
サリオは浮かれつつも、しっかりとフード掴みながら被り、ハーフエルフの証である中途半端に長い耳を隠し続けている。
――よしよし、しっかり隠せよ、
ハーフエルフってバレると面倒だからな‥
俺がそう思っていたその瞬間。
「炎の斧か~~、なんか噂に聞いた”焔斧”みたいだな」
「エンフ?」
「ああ、ちょっと有名な後衛の冒険者さ」
「へ~、で、そいつの名前は?」
「え~~っと確か‥‥」
「サリオ?」
今やって来たばかりのエルフがサリオの名前を呼び、そしてサリオを見つめる。
そのエルフの男は野次馬の人だかりを掻き分け、サリオの目の前までやって来て、彼女を見下ろしながら。
「サリオ‥‥」
「ほへ!?タ、タルンタ‥‥、どしてココに‥‥です‥」
やって来たエルフの男は、サリオの知り合いであった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども‥
なんとサリオの昔の男登場か!?
ブクマ3000突破ありがとう御座います。
感謝感激です。