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創りしモノ

 舞台芝居。

 この異世界での一番親しみ易く、一番人気のある娯楽。

 元の世界に照らし合わせてみるならば、テレビのトレンディドラマ。


 その時代の民衆が関心を持ちやすい物をテーマにして届ける。

 それがこの異世界のお芝居。


 芸術的や芸能的といった堅苦しいモノではなく、純粋に楽しめるモノ。 

 完成度などは二の次で、楽しませる事を目的に特化したお芝居(娯楽)

そしてそれを成し得るは、人を魅了する演技をこなす舞台役者と。


 物語を綴る脚本家。





 身内だけの食事会は、別のモノに変わっていた。

 機嫌良さげの年配者を、勇者パーティの冒険者が囲んで話し込んでいる状況。


「なんなんですかねコレ?です‥」

「俺が聞きてえよ、」



 人気脚本家シェイク。

 彼は自身で取材やインタビューを行い、そしてそれを元に脚本を書くそうだ。

 この異世界では深く練り込まれた物語よりも、ノリと勢いで(大雑把に)作られた物語の方がウケるらしく、取材とインタビューから得たインスピレーションで一気に書き上げるらしい。


 今もノリノリで冒険者達から(ネタ)を聞き出している。


「で?その後どうなったんじゃ?」

「ジンナイさんがね~、コトノハ様を抱えて颯爽と登って来たのよ」

「そうそう!あの時は驚いたよな~、『彼女は俺が命に代えても守る』って言って穴に飛び込んだんだからよう」


「ほほー!それでお姫様抱っこしながら、甘い感じで登って来たと?」

「おい!だから脚色すんな!?普通に背負って登って来ただろうが!」

 

 勇者パーティの冒険者からの話を、派手に盛って聞き返すシェイク。

 そして盛られた内容を、疑問も感じずに肯定する冒険者達。



 少し前の会話では――


『女神の勇者様を守る為に、巨竜相手に一対一の戦いを?正面から!?』 

『あ~~確かそうかな、竜と正面から殴り合いしていたな』


『女神様の手料理を一緒に二人っきりで食べていたと?』

『あったかも!ジンナイさん時どき、ふらっと居なくなっていたし』


『落ちた穴の中では、水に落ちて凍える女神様を温める為に‥肌を寄せ合い?』

『ありました!確かそうです!見てはいないけどっ』

『ねえよ!砂しかなかったっての!どっから水が出てきたんだよ!?』


『何を言うか!崖や谷から落ちたら川や湖があって助かるのは常識じゃろ!そして落ちた二人は素肌で互いを温め合う‥‥』

『何処の常識だよ!ねえよそんな展開‥‥ぁ』


『ほほう♪』

『ナイヨ?ソンナコト』





 と、言う捏造のオンパレードであった。

 このシェイクと言う脚本家は、【固有能力】で【捏造】とか【誘導】など怪しげなモノでもあるのではと、疑ってしまうほど話を盛ろうとしていた。


 そしてその人気脚本家に、自分の話を聞いて貰いたいとばかりに、勇者パーティのメンツは次々とネタを提供し続けている。



「伊吹、これどうにかならないか?」

「ん~~別にいいんじゃない?悪意があるわけじゃないみたいだし」


「三雲、」

「わたしに聞かないでよ!なんかわたしの出番全く無いし‥」


「小山!お前からも」

「任せてくれ陣内君!オラがしっかりと伝えてやるぜ!」


「いや、やっぱお前は行くな、嫌な予感しかしねえよ!」

 

 ――っんがああ!

 なんだよコレ!?ものすげえ恥ずかしい、

 事実の混ざっている捏造ってなんかムズ痒いな、

 


 俺は手詰まりとなった。

 因みに、言葉ことのはには、とてもじゃないが聞けなかった。

 何故か言葉ことのはの顔が見れなかった‥

 


 捏造が混ざる聞き取りは続いた。

 最初は、俺だけから聞いていたはずなのだが、いつの間にか俺が排除されるような流れになり、途中からはほぼ冒険者達から話を聞く流れが出来上がっていた。



 冷静になると解る。

 まずは俺から本筋を聞いて、その次に周りからの視点で肉付けしつつ、話を盛っていくのだ。


 脚色しつつ集める話は、観る側が見たいような話ばかり。

 そしてそれを集め、面白く可笑しく仕上げるのがシェイクの仕事。

 


 俺はそれを半ば諦めの気持ちで見つめる。

 俺が止めに行けば、それをイジられ余計に炎上するので詰んでいた。

 出来る事と言えば、あまりに酷い流れに行きそうな時にだけ口を挟み、少しでも被害を小さくする敗戦処理投手のような事だけ。



 今はひたすらお開きになるのを待っている。

 すると――


「そう言えば、シェイクさんは偶然このゼピュロス(水上都市)に?」



 ベラベラと喋っていたラムザが何でもない様なことを聞く。


「んん?あ~偶然って言えば偶然かの?これとは別の取材に出掛けてたんじゃよ」

「別の取材?」


「うむ、『狼人売りの奴隷商』が異様に人気が出ていたからのう、だから続編か、もしくはもっと掘り下げたモノを考えておってな」

「へ~~」


「それでな、ほれ!そこお嬢ちゃんが居たかも知れないって場所を探しておったんじゃよ、森に詳しいエルフ共に場所を聞いたんだが、ちと危険そうな場所での‥」


 シェイクは何気無い様にそんな事を言う。

 

 ――お嬢ちゃんって!?

 狼人売りの奴隷商の続編ってことはラティのだよな、

 いた場所?‥‥取材‥



 オッドとの一件の後、俺はラティから昔の話を詳しく聞いた。

 元々、森の中の家に住んでいたと‥


 俺が思考に固まっていると、シェイクは次もまた興味深いことを言う。


「森のエルフ共は無駄に長生きしておるからな、結構良い話も聞けるんじゃよ」

「え?長生きって、エルフはやっぱり長寿とかなんですか?」


「うん?ああ~確か、100歳~1000歳って感じじゃなエルフの寿命は」

「大雑把過ぎんだろ!寿命に幅がありすぎだ」



 シェイクに詳しく話を聞く。

 脚本家シェイクは、次の芝居の構想の為に取材を行っていた。

 俺達も観た『狼人売りの奴隷商』をより深くする為に色々と情報を集めていたらしい。そしてその際に、ラティが昔住んでいた場所を突き止めるべく、エルフ達の村へ行き情報を集め、ラティが昔住んでいたらしき場所に向かおうとしたが、その場所は少々危険らしく一度引き返して来たと言うのだ。


 亜麻色の髪の狼人は、西では意外と知られているらしく、それで物知りらしいエルフに尋ねに行ったということらしい

 そして偶然俺達がこの街にいる事を聞きつけ、この宿にやって来たと言う。

 昨日の広場での竜解体ショーはかなり話題となっていた様子だ。



 そして俺はシェイクの話を聞いて、ある事を一つ決める。


「シェイクさん、エルフの村の場所を教えてください」







           ◇   ◇   ◇   ◇   ◇








 俺とラティとサリオ、この3人で宿の部屋へと戻った。

 テイシには別の部屋へと移って貰う。


 大騒ぎの夕食後は、各自散って行った。

 大半は階段の下へと向かったかも知れない、俺も誘われていたが今回は遠慮した。


 3人で一つのベッドのふちに腰を下ろし、俺が真ん中に座って話を始める。


「ラティ、サリオ。俺達はエルフの村に行こうと思う」

「エルフが住んでる所って森の中行くです?ジンナイ様?」


「ああ、こっからそんな離れていないそうだから」

「あの、ご主人様それって‥」


「目的は二つだ。一つはエルフから過去の魔王についての情報、それと‥‥」

「わたしが売られる前に住んでいた場所ですか?」


「‥‥そうだ」



 ラティは奴隷として売られる前は、普通に生活をしていたと言っていた。

 だがその住んでいた場所は知らないらしく、彼女は自分が何処に住んでいたのか知らなかったと言うのだ。


 知っているのは森の中の家。

 その周辺だけがラティの世界で、他の街や村などへは行った事がなかったそうだ、そして初めて街へと行ったのが、奴隷として売られた時。


 ――きっと其処にラティの両親がいる、

 ぶん殴ってやる‥、ラティの親だからって知ったことか!

 子を売る親など‥‥



 っと思う反面、気になる事もあった。

 何故ラティを奴隷として売り飛ばしたのかを。

 大した理由も無しに、親が子を売り飛ばすとは思えなかった、思いたくなかった。


 だから俺は――


「準備が出来次第エルフの村に行こうと思う」



 俺はノトスに戻るのを遅らせ、多少の危険は覚悟の上で、西(ゼピュロス)の奥へと向かう事を決めた。

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘ご質問などお待ちしております~


それと、誤字脱字のご指摘なども‥

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― 新着の感想 ―
[良い点] 依頼が終わったのに雇い主のところに戻らないなら、事情があって戻れない旨を一筆書いて送るとか、そういう配慮が必要なんだけど、主人公はまだ子供でラティとサリオも一般常識には疎いため不義理になっ…
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