喉側の鱗
すいません、、ちょっと短め切がよかったので、
聖戦の翌日。
俺は昨日こなせなかった日課を行っている。
そして、その日課のついでにある事も行う。
昨日、どちらの方が素晴らしいのかを検証出来なかった、耳の先と根元。
俺はそれを今、確かめている。
勿論、検証の協力者はラティである。
「なるほど、確かにこの切なさを感じさせる、シュッとした手触りはイイな‥」
「あの、そろそろ‥」
「うん、でもやっぱり、根元のコリっとした手触りの方が至高だな」
「っん、あの‥」
――ガレオスさん、
やはり耳は根元ですよ、
耳の先も悪くは無いけど、やはり根元の方が究極にて至高‥‥
俺はそんな感想を浮かべながら、今日ガレオスさんに会った時の事を思い出す。
聖戦の翌日、つまり今日の昼頃の事を。
俺はガレオスさんに誘われて、ある店へ向かった。
目的は、半壊しかかった忍胴衣の補修。
俺は巨竜を相手に、身体を張った囮を行った時に、重い頭突きのような突進を喰らい派手に吹き飛んだ。
身体の方は回復魔法で治癒したが、忍胴衣の方はかなり酷い事になっていた。
そして追い討ちをかけるように、言葉を庇い、崩落で出来た穴へダイブ。
結果、俺の忍胴衣は、補強などの鉄板が破損してしまったのだ。
そこで、『ただ直すだけでは芸がない』。
ガレオスさんはそう言って俺を誘い、鍛冶や皮製品などを扱う店に連れて行き。其処で、喉側の鱗を使って補修しようと提案してきたのだ。
しかも補修代はガレオスさん持ち。
正確には、伊吹組、三雲組、小山組からのお金。
今回の救出に駆け付けてくれたお礼だと言う。
本来高額取引される喉側の鱗が、俺に配分された理由はそれだったのだ。
だがその時に、少し心配事を思い出し、俺はガレオスさんに訊ねた。
『ガレオスさん、俺が貰う喉側だけど、あの商人は平気だったのかな?なんか大貴族の名前出てたけど‥』
『あぁ‥アレか、あれはイイだろ、碌でもない貴族だしよ』
『碌でもない?』
『ん?そうかダンナは知らないのか、あの商人が言ってたレフト伯爵ってのは、”珍しいモノ”好きで有名な貴族なんだよ。そんなクソ下らない道楽に付き合う必要は無いだろ?』
『折角の貴重品をくれてやる必要ない』っとガレオスさんは言葉を付け足す。
今回の巨竜から獲れた喉側の鱗は、数が少ない。
その鱗を俺と小山、それと三雲が貰うこととなった。
小山は盾の素材として、三雲は胸当てに使うらしい。
WSすらも弾いた黒い鱗。
そしてその喉側の鱗は、硬さだけではなく、しなやかな柔軟性も備えていた。
手に持った感触は、硬いゴムの板。それがその鱗の感想。
力を入れると軽くしなる鱗、だが折れ曲がったり、割れたりはしないのだ。
しかも衝撃まで吸収する。
武器としては使えない素材だが、防具の素材としては一級品。
それを使って補修しようと言うのだ。
当然断る理由はなかった。
だが、一つ気になる事が再び浮かび、それを口にした。
『盾は分かるけど、三雲の胸当てって?』
『うん?弓使いの女は、乳房が弦に当たるから必要だろ?』
『やっぱ、三雲に必要か?』
『ダンナ‥‥、それ本人に言ってやるなよ?落ち込んでいたし‥』
『わざわざ地雷を踏み抜きに行かねぇよ!馬鹿じゃあるまいしって?落ち込む?』
『その馬鹿が居ましてねぇ~』
『小山か‥‥』
『はい‥‥』
それで話は終わり。
俺は忍胴衣を預け、その店を後にした。
因みにその横では、竜の牙や骨を素材にした大斧をテイシが依頼していた。
テイシと武器職人の会話を聞いている限りでは、斧と言うよりも、斧のような鈍器が出来上がりそうな会話をしており、そしてソレをテイシは依頼していた。
その後はゆったりと時間を過ごし、今は夕食を待っている。
救出された勇者達は公爵家に呼ばれ、その用事から戻り次第、言葉達と一緒に夕食を取ろうと約束をしていた。
昨日は、周りを巻き込んでの大騒ぎだったので。今日は、竜の巣探索メンバー達だけで食事をしようと決めたのだ。
そして夕食までの時間潰しを兼ねて、昨日出来なかった日課を俺はこなす。
当然昨日の分なので、夕食後は今日の分の予定。
日課。
ラティを撫でる日課。
俺がベッドに腰を下ろし、ラティは床に座りながら俺の膝に頭を乗せて足に寄りかかる。
イメージとしては、縁側に座る老婆が膝の上に猫を乗せ、日向ぼっこしながら猫を撫でている感じ。
実際の姿は、あまり人に見せれたモノではない。
――ふうう、落ち着く‥
やっと帰って来た実感が湧いてくるな、
まぁ‥昨日は昨日で生還したって感じに騒いだけどな、
今は、何かを検証するような手つきで撫でるのではなく。
純粋な気持ちで、優しく髪を梳きながら撫でる。
時には耳も撫でながら。
先程よりも、心地良さげな吐息が聴こえてくる。
俺は髪の手触りを堪能しながら、もう一つの日課もこなす。
彼女を撫でながら、彼女と情報を共有する時間。
俺が心の中で決めた事。
俺はラティとサリオには隠し事をしないと言うこと。
例外として、昨日の夜のような、男の隠し事だけはする。それは別枠なので。
「ラティ、ちょっと聞いていい?」
「あの、お答え出来る事であれば」
「【蒼狼】ってどんな【固有能力】?」
「え?」
少し驚くラティに俺は説明を始めた。
俺は以前、ラティを奴隷商から買ってからすぐに【蒼狼】を訊ねていた。
そして返ってきた答えは、ラティ自身も把握していないだった。
一つだけだが、俺も【加速】の【固有能力】を持っている。
文字からも察する事が出来るが、その能力は加速。まさに文字通りである。
だが、その持ち主は何となくであるが、その効果が解るのだ。
文字の意味を知らなかったとしても、これは速く動ける能力だと。
長時間は使い続けれないが、速く動けるモノだと。
この感覚があるから、ラティにも【蒼狼】がどんなモノなのか、おぼろげながら解るのでは?っと思い、再び質問した。
中央の城などには、【固有能力】の説明を書いた本があるらしい。
俺は見せて貰えないが、国が【固有能力】を把握すると言う意味であるのだろう。
本人はその能力を把握出来ても、【鑑定】で覗いた方は、正しく把握出来ないから。危険な【固有能力】持ちが居ればすぐに分かるように。
もしかすると、ノトス公爵家にも、その本があるかも知れない。
ひょっとすると、実はその辺に売っているのかも知れない。
今まで深く考えたことは無かった、【固有能力】の事など。
だが今は違う。
【蒼狼】に不安を感じていた。
ラティは俺に、”他に所持者がいない為に、効果検証不足により効果不明”と、【蒼狼】をそう説明したのだ。
”他に所持者がいない”これに俺は不安を感じた。
そんなのは、ただの偶然かも知れないし、考え過ぎだとも思う。だが――
もしかすると、『非常に価値があるモノなのでは?』と。
俺はラティに、全て話す。
竜の巣の最奥で出会った、初代勇者の仲間シャーウッドから聞いた。
”魔王発生”の、条件の一つを。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なのも、