聖地聖戦
長くなりすぎたので二つに、
近いうち後半あげますー
悪い大人が、悪い遊びを振ってきた。
当然、参加してみたいと言う思いはある。
だが俺は、どうしても躊躇ってしまう、お仕置きが怖くて。
しかし、其処に――
「この聖地には兎人が居るんだぜぇ?」
「――ッマジですかガレオス隊長!」
――ん?
ガレオスさんってパーティメンバーからは隊長って呼ばれてるのか?
まぁ確かに、冒険者連隊仕切ってたか、
それと‥うさぎびと?
「兎人だぞ?知ってるだろ?」
「ハイ!あの腰と胸の丸みは素晴らしいデス!」
「お?わかってんな」
「今回はお供させて頂きます!ガレオス隊長」
「ラムザ君‥‥、君ってそんなにアクティブだったのか、」
悪い大人の話はしばらく続く。
この西の聖地には、数多くの種族が生息しており。
人間だけでなく、エルフや狼人、猫人、犬人、兎人、豚人。
数多の種族がおもてなししてくれると言うのだ。
そして三雲組のメンバー、ラムザが熱弁している兎人には惹かれるモノがあった。
キュっとしまったウエストに、ポンポンのような尻尾、そして、まん丸いバストが特徴的で、とても良いモノだと語っているのだ。
その時俺は、頭の中で、ある偉い偉人が言っていた言葉を思い出す。
『バレなければ、どうという事もない』
俺はその言葉を胸に、勇気を持って冒険する事を決めた。
「冒険に行こうガレオスさん!」
「ああ、英雄のダンナ!その言葉を待っていたぜ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『冒険に行こうガレオスさん!』
『ああ、英雄のダンナ!その言葉を待っていたぜ!』
おい!お前は行くッスか?ジンナイ!?
なんて奴だ、ラティさんが居るにもかかわらず!
いや!違う、ラティさんは奴には関係無いッス、だけどッス――
「ジンナイ!お前行くつもりッスか?階段の下に‥‥」
「っち、なんだよテメェ、文句でもあるのか?」
「これだから人間は、不誠実だと思わねえんッスか?」
「なんだよ不誠実って、誰に対してだよ!」
「ラティさんッス!悪いとは思わねえんッスか?」
「――っぐ!?ぐぅぅぅ」
オイラはジンナイの奴を追い詰めてやった。
階段の下に行くなんて、それは不誠実なのだから。
だが――
「あ~~、オッドよぉ?ちょっと俺の聞いてくれるか?」
「なんスか?ガレオスさん」
「お前が2人で地下迷宮に潜るとき、一緒に居る相棒は、ルーキーがいいか?それともベテランの方がいいか?お前はどっちを選ぶ?」
意味が分らないッス。
そんなの答えは決まっているッス!
「勿論ベテランッスよ!当たり前じゃ――」
「それならよぅ、お前さんはどっちになりたい?」
「え?」
「だ~か~ら~、守って貰うだけのルーキーか、それとも守ってやって指導もしてやるベテラン。お前ならどちらになりたい?」
「そんなのベテランッス!雄なら守ってやってなんぼッス!」
オイラは当たり前の事を答えた。
守られるだけの新人なんてダサイッス!オイラがラティさんを守るッス!
‥バッサリと、断られたけど‥
いや、あの時はっ。
気概を見せろって発破を掛けられたんッス!‥きっとそうッス‥‥
オイラを見つめるガレオスさんが、ニヤリ笑みを浮かべ。
「それならルーキーから、ベテランになろうぜ?」
「はいッス?」
今、何か、決して看過出来ない事を言われたような‥
だけどッ――
「確かにガレオスさんの言う通りッスね、オイラが彼女をリードするッス」
「その意気だルーキー!そしてベテランになろうぜ」
「オイラの視野が狭かったッス!オイラも冒険に‥‥」
「ああ、わかっている。俺がお前をベテランにしてやるぜ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『オイラの視野が狭かったッス!オイラも冒険に‥‥』
「ああ、わかっている。俺がお前をベテランしてやるぜ」
ふ~~、馬鹿で助かった‥
折角の面白い時間を潰される所だったぜ。
全く狼人は、変に真面目過ぎる所があるからな苦労するぜ、
まぁ、あの耳の先とかの手触りを知ればハマるだろうがな‥
よし!
「オッド、耳先の毛触りは最高だぞ?なんとも言えない手触りが――」
「はい?耳は根元が最高ですよね?ガレオスさん‥‥」
おいおい、ダンナ~~、何乱入して来てんのよ!
耳は、先っちょがイイんだろうが、コレだからお子様は‥
「ダンナ‥、ダンナはまだ若いから、先の良さが解らないんでしょうが、」
「ガレオスさんらしくない、ベテランでそれですか?耳は根元が至高でしょう!一体何を言っているんですか!」
それを言ったら戦争だぞ、全く‥
このルーキーにも教えてやるか、耳先の良さを、
「いいですかいダンナ?――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『いいですかいダンナ?――』
まさか!?あの陽一君を子供扱いだと!?
やはりガレオス氏は違うな、冒険者連隊を引っ張って行っただけの事はある、流石だ。
それからガレオス氏の話は続いた。
趣味嗜好の話だけではなく、きっちりとした作戦の話も始めていた。
今回は貴重な情報屋が居なかったので、自身が潜入調査した時の情報を元に攻めると言う。
この水上都市は、元の世界でもテレビや写真などで見た事があるような、水路が張り巡らされた街並み。
街の中の移動には、船を使った水路での移動が基本。
だが、水路を行く船はルートが固定されており、何処に行くかが周りにバレてしまうのだと言う。
オラは別に問題無いと思っていたのだが、一つ、問題が発生していた。
「さっきの竜解体ショーで派手にやったからな、面が知れ渡っちまったからな‥」
「あっ‥‥」
オラは失念していた。
今のオラ達は、時の人。そのオイラ達が階段下に堂々と行くと言う事は、地元のコンビニにエロ本を買いに行くようなモノ。
そしてそれが目撃されれば、同級生の伊吹ちゃん達にも知られると言うリスク。
これは断念するしかないのか?
もう少し、ほとぼりが冷めるまで‥‥
「ガレオスさん、それなら平気ですよ」
「ハーティさん?そいつぁどういう事で?」
「既に手配してあります」
流石は三雲ちゃん組のリーダー。
彼は、その問題の解決策を既に用意してあると言うのだ。
オラ達のような有名人や、大っぴらに遊べない立場の人達、そういった人を相手にした専用の船があるのだと言う。
表向きは別の場所に向かうが、途中から方向を変えて上手い具合に目的地へ向かう。そんな隠れ船のようなモノが存在するのだと。
ゼピュロスで活動しているオラでも知らない事だった。
「おいおい、ハーティさんよ~、やるじゃねぇか!」
「はは、何時もお世話になってばかりじゃ悪いですからね」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『おいおい、ハーティさんよ~、やるじゃねぇか!』
『はは、何時もお世話になってるばかりじゃ悪いですからね』
流石です!流石リーダー!
我らがミクモ組リーダーのハーティさんは流石デス。
「あ、でもちょっと問題が一つ。その船の運賃結構かかるんだ」
「んんっ?幾らだハーティさんよぉ?」
「特別な船ですから、一人銀貨30枚もかかるんです‥」
「っち、足元見やがってっ」
銀貨30枚か、前に見た事がある、安い階段下ならそのまま行ける金額‥
ですが――
「そのぐらいの出費は今のボク達には、なんの障害にもなりませんデス!」
「ラムザ君‥‥、そうだね、そうだったね」
そう、竜の素材を売ることで得た臨時収入、金貨68枚。
これがあれば何も怖くない!
こうしてボク達は聖地へと向かった。
水路を使っての移動は順調だった。
ただ一度だけ、ボク達の乗った船と、他の船が衝突しそうになった時があり。その時は周りから注目を集めて、あわやバレてしまう危機があったが。
外から中を覗ける窓を、まさに”鉄壁”が。
その二つ名通りの働きを見せた、盾勇者コヤマ様の活躍で危機を回避した。
まさかあの瞬間に、壊れた盾で視線を防ぐとは、流石としか言いようがなかった。
やはり出来る盾役が居ると冒険は安定する。
それから船から降り、水路の脇の階段を上がると、其処は別世界であった。
広い直線の道に立ち並ぶ、煌びやかな建物。
無駄に派手な光を灯す照明や看板。
そして、どの建物も共通しているのが、仄暗い下る階段がある事。
闇へと降りていく階段。
本来であれば闇は恐怖の象徴。
だが、その仄暗い闇は、男の本能を刺激し、そして轢きつけるモノがあった。
「やっぱいつ来てもすげぇな此処は‥‥、どうよ?お前ら」
「流石は聖地っと言った所でしょうか、」
ガレオス隊長とハーティさんが前に並び立ち、聖地を見据える。
移動の船の中で、事前に聞かされた内容では。
このメイン通りと呼ばれる広い道に面した店以外はマズイらしい。
それを知らない素人は外れた店に入り、そして酷い目に会うと言う。
なのでボク達は、このメイン通りから店を選ぶ。
「あ!ココって兎人が5人も在籍って書いてありますよ!此処にしましょう!」
「甘いんだよお前は!在籍はしているが、今日出勤しているかは別だ!」
迂闊なボクを、熟練のガレオス隊長が叱りつける。
ガレオス隊長曰く、人気の種族などは複数の店に掛け持ちで在籍しており、表に掲げてある”在籍”は当てにならないと言う。
表にある情報のみを信じるのは素人。
プロは違うと言う。
「まぁ、ここは俺に任せろ」
「え?どうやって調べるんデス?」
情報が悪意によって迷彩された、この空間。
「集中して【索敵】を使う!」
「凄いッス!さすがッス!」
ガレオス隊長の言葉に、称賛の声を上げるオッド。
ボクとしては、やりすぎでは?っと思うが、冒険にやりすぎと言うモノは無いのであろう。ガレオス隊長は、今まで見た事がないような真剣な表情で【索敵】を開始する。
そして何かに気が付き、ハッと顔を向ける。
階段の方ではなく、メイン通りの先の方へ。
「なっ!?何故ここに嬢ちゃんが!?」
「え?」
ボクはガレオス隊長の言葉と表情に違和感を感じ、彼が見つめる先に目を向けた。
そこには――
「え‥コトノハ様?」
「何!?言葉だと!?」
「言葉様がって、ああ‥ホントに居る」
ボクらの視界の先、約100メートル程離れた場所を彼女は歩いていた。
このような場所に女神の勇者様が居るはずがない。
一瞬見間違いかと思った。だが、彼女の足元には白い犬が付き添っていた。
あの白い犬を連れていると言うことは、間違いなくコトノハ様。
彼女の接近に、慌てふためく冒険者達。
「ちい!何処から情報が漏れたんだっ」
「クソッ!上手く宿に帰せたと思ってたのに、ハーティさんっ!ちょっと行っ―」
「――っ嫌ですよガレオスさん!僕が囮になれって事ですよね?それ」
「オラ見つかりたくなーい!あ、盾で隠れればイケるか!?」
巨竜相手でも、一歩も退かず戦う猛者達が狼狽する。
きっと彼等はコトノハ様に見つかりたくないのであろう。
だがボクだけは、ある一つの可能性を感じた。
「皆さん落ち着いてください!」
「ラムザ君‥‥」
「ラムザ、落ち着けってお前何を無茶なことをっ」
ガレオス隊長達が、驚きながらボクを見る。
そしてボクは、その視線を一身に集めながら、ある可能性を口にする。
そう、ある可能性。
それは希望とも言える可能性。
もしかすると願望かも知れないが――
「落ち着いてください、もしかしてですけど‥‥」
「お、おう‥?」
ボクは、ある可能性を語る。
「コトノハ様は、ここに出勤しに来たのでは?」
いま、ボクの頭の中では、
壮大にして厳か、可能性を感じさせる音楽が鳴り響いていた。
その音楽と共に、心から溢れ出る思い。
もし、コトノハ様が出勤して来たのであれば、その店を特定しよう。
そして、その階段を下りよう。
きっと指名料などは高額であろう、だが今のボクには金貨68枚がある。
「ならば!その金貨68枚を注ぎ込むまでデス!」
「馬鹿なの君は!?どこまでポジティブなの!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ならば!その金貨68枚を注ぎ込むまでデス!』
「馬鹿なの君は!?どこまでポジティブなの!?」
思わず突っ込んでしまった。
あまりにも彼はポジティブ過ぎた。
一緒のパーティだが、彼がココまでとは予想だにしていなかった。
だが今はそれどころではない。
迅速な移動が求められる。
だから僕は、咄嗟に移動補助魔法を唱え、それを皆に掛けていた。
「急ごう!今ならまだ間に合う!引き返すんだ」
女性陣に、こういった場面を見られるのは非常に拙い。
ある程度の予想や、多少知られる分にはまだ良い。
だが、直接目撃されるのは拙い。
目撃は確定であり事実となる。
不確定の要素が無くなり、無実を主張出来なくなる。
誤魔化しが一切出来なくなるのだ。
男は、誤魔化しはあっても、開き直りがあっては駄目なのだ。
円滑な人間関係が築けなくなる。
もし見つかれば、開き直るしかないからだ。
「急ごう!一度船に戻り――」
「わかった!野郎共、一度船に戻るぞ!今は撤退だ!急げ」
流石はガレオスさん、
僕の意図を瞬時に理解し、即撤退の指示に同意出来るとは。
やはりこの人は熟練の冒険者だ。
「急ぐぞダンナ!アンタが見つかると、俺まで――っなんだと!?」
「どうしたんですかガレオスさん!俺に何か?」
驚き固まるガレオスさん。
そしてそれを訝しむ陣内君。だか彼もすぐに理解する、ガレオスが驚いた訳を。
「んなっ!?なんで三雲まで居るんだ!?」
「不味いぞ、弓を持ち出してやがる、」
「弓って!?駄目ですよねソレ?規則違反じゃ?」
街での武器の抜刀や、矢をつがえるは違反。
即通報、そして逮捕となる。
そういう意味では、弓を持っているだけならギリセーフ。
だが彼女は、今にも矢をつがえそうな雰囲気を纏っており、しかもWSならば、矢をつがえなくとも彼女は放てるのだ。
「クソッタレ!退路が断たれたか、」
「も、もしかしてミクモ様も出勤を?でもミクモ様のは小さいし‥‥」
「君はどんだけ可能性を信じているの?喰われるよ?可能性に」
しかもサイズまで選り好みするとは。
今はそれどころじゃない!逃げなければ。
だが、いま僕達は彼女達に挟まれた状態。
一本の大通りを、彼女達に前後を封鎖されている。ならば横道にいくべきだが、逸れた横道も危険でもある。土地勘の無い者は、無残にも食い物にされる危険地帯。
「仕方ない、この階段を下りよう!」
「なるほど、その作戦乗った!」
「さすがハーティさんッス!パーティの参謀ッス!」
「くっ!兎人はこの階段の下に居るだろうか‥」
「ハーティさん!先頭は俺が行きます!」
僕の指示に、皆が弾けたように動き出す。
特に陣内君は速い。返事は一番後だったが、動き出すのは彼が一番速かった。
まさに漆黒の鏃。
弓より放たれる、全てを穿つ黒き一角。
そんな雄雄しい彼が、亜麻色の狩人に撃ち落とされる。
「何処へ行かれるのですか?ご主人様」
「ラ、ラティ‥‥」
狼人の少女ラティが、屋根の上から飛び降りて来たのだ。
音も立てずに着地し、そして藍色の瞳で獲物を射抜く。
そう、僕達は既に捕捉されていたのだ。
逃げれると思った先は罠であり、彼は捕獲され連れて行かれる。
しかも今回は、言葉ちゃんとラティちゃんに挟まれて。
「ああ、今回も陣内君は不参加か、」
「まぁダンナのは、お約束みたいなモンだしな、仕方ないか」
「うう、ラティさん、オイラも連れて行って欲しかったッス‥」
「出勤じゃなかったのか、」
「陽一君、君の勇姿は忘れないよ、」
僕達は彼の屍を越えて、階段下へ向かう。
彼の犠牲を無駄にしない為に――
「ハーティさん、何処に行くつもりなんですかっ?」
「え?三雲さ、ま?あれ?アレ?」
「さぁ、帰りますよ!こんな如何わしい場所に、全く‥」
「え?あれ僕も‥え?あれ?ちょっと待ってっ」
そして聖地聖戦は開幕される。
僕と陣内君は強制離脱と言う形で、聖戦が‥。
そしてその夜。
2人のベテランが新たに誕生したのだった。
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