即売会
ぐだぐだ回~
湧き上がる歓声。
そして同時に悲鳴らしき声も上がる。
今、俺の目の前では、竜の解体ショーが行われていた。
「無茶苦茶だ、」
「思ったより血は出ないんですね?です」
「あ~~伊吹がトドメ刺した時、結構ドバっといったからな」
「意図せず、血抜きになっちゃったのです?」
「そんな感じだな、」
何かの職人らしき人が指示を出し、それに従い伊吹が切り裂いていく。
冒険者達の攻撃を弾いていた黒い鱗。
その硬い鱗は、竜が死した今も尚、その堅牢さを誇っていた。
「あ!またWSで切るみたいです!」
「仕方ないか、解体用の鋸を全部駄目にしたからな、」
最初は糸コノや、鉈のようなノコギリで切断しようとしていた。
だが、それらを全て駄目にする鱗。
手の平2枚分のサイズの鱗は、竜の解体ショーを苦戦させていた。
そしてその結果、切断役を大剣の勇者、伊吹が行うこととなる。
編み出された、新WSによって。
「大剣WS!でえええええい!」
巨大化する大剣、三日月を彷彿とさせる残光。
初めて見るWSに目を丸くする冒険者達。
派手なWSに歓声を上げる見物人。
若干スプラッター気味な場面に悲鳴を上げる淑女。
見物人を集めながら、竜の解体ショーは続いていた。
それなりの時間が経過し、日も陰って来たが、サリオの生活魔法”アカリ”の強化版で照らされ、解体ショーは続行されていた。
そしてその横では。
「うう~、安いっ!」
「抽選での販売分は締め切りますよー!」
「個人交渉はこちらでーー!」
「っしゃーー!キタ!当たったー!」
「むうう!喉元のは売ってくれんのか?幾らでも出すぞ?」
「ああ~、すいませんねぇ~、喉側のはもう決まってまして、」
「次は牙と骨の販売開始予定~」
解体ショーの横では、鱗などの素材販売が行われていた。
竜の鱗は貴重な素材らしく、買い手の職人達が殺到していたのだ。
一部の素材は格安で売り出し、不満が溜まりすぎないように配慮し。
個人に割り振られた素材は、個人が付けた値段で売りに出していた。
一応それも、値は吊り上げ過ぎないようには注意されており、この素材販売で余計な不満を買う事が無いようにされていた。
決して悪い噂などが流れない様に――
だが、一部例外はある。
「頼む!売って欲しいのだよ!喉側の鱗があればレフト伯爵様も喜ぶのです!」
「いや、大貴族様の名前を出されてもね~」
「何を言うのですか!レフト伯爵様に覚えが良くなりますぞ?値段も相応の支払いを致しますので、是非!」
必死に食い下がる、恰幅の良い商人。
だが、あくまでも売らないと突っぱねるガレオスさん。
――ほ~~、
そんな良い部分なのか喉の鱗って
あ!その大半は伊吹がWSの”重ね”で吹き飛ばしたか、
特に貴重らしい喉側の鱗は、トドメの時に吹き飛ばしていた。
その為、貴重な鱗は、より貴重な鱗となっていたようだ。
そして、その貴重な喉側の鱗は、俺が貰うこととなっていた。
だが、俺がその鱗の権利者と知られると、買い手が殺到し、絶対に厄介事が起きると言われ、表向きはガレオスさんが権利者と言う配慮となった。
因みに、竜の眼も貴重な素材であり、一つで金貨50枚を超える素材であったらしい。しかも巨竜の眼であればもっと良い値が付いたとも言う。
しかし、両目とも俺が潰してしまっていた。
地下迷宮の遠征には多額の費用が掛かる。
今回の遠征費も馬鹿にならず、その補填の意味も込めた販売会。
ハーティさん曰く。勇者の評判を上げて、悪い噂も払拭出来、そして資金も得られる。まさに一石三鳥と言っており、そしてその通りに事は進んでいた。
勇者の評判を上げる。
この目的の為、勇者達も動いていた。
勇者の楔があるのだから、別に問題無いと思ったが。
『そう言う油断は禁物』っとハーティさんからの忠告。
元から西では有名な、鉄壁の盾勇者、小山清十郎。
アイツの場所には、数多くの人たちが群がっており、それを笑顔で対応。
女神の勇者言葉の元には、男性陣が。
そして、その言葉を守るようにして、男性陣を睨みつける三雲。
弓勇者、橘の元には。
何処から情報が漏れたのか、竜核石を買い求める錬金術師っぽい風貌の人達が殺到し、橘に竜核石を売って欲しいと懇願していた。
因みに。
調子に乗りやすい橘は、竜核石の一欠片を売ってしまい、それが買い手に火が付き、より人が殺到する事態となっていた。
必死に断るも、次々と買い手が押し寄せて来るのだ。
勇者の楔の効果で、断られた者は素直に去るのだが、次々と別の買い手が押し寄せて来ており、その対応に四苦八苦していた。
「馬鹿だなぁ、最初に売っちまうから、」
「ほへ?どういうことです」
「うん?だからガレオスさんみたいに、最初から売らないって姿勢なら断り易いし、次も来なくなるけど。最初に一欠片売ったから、もしかしたら?って希望持って来る奴が減らないんだよ」
「あ~~なるほどです。確かにアッチは、粘っているのは一人だけですしねです」
サリオに言われ、ちらりとガレオスさんの方に目を向ける。
其処には、喉側の鱗を売って欲しいと、食い下がる商人は一人だけ。
ガレオスさんも面倒になって来たのか、あしらい方が雑になって来ており、半ば強制的に距離を取ろうとし始めている。
大変そうだと感じつつ、俺は周りを見渡す。
今回の竜の巣探索のメンバー達には、沢山の見物人や、竜の素材を買い付けにやってくる職人や業者が集まっていた。
一番の注目を集めているのは、竜の解体を行っている伊吹。
その次が、竜核石と巨竜を【宝箱】から取り出した橘。
そしてその次はラティだった。
例の演劇の為か、ラティの存在が知れると、一目見ようと見物人が殺到したのだ。
ただ、一目見てみようとする者ばかりで、すぐに去って行く。
一応ハーティさんが隣に立って簡単な対応をしており、問題も起きていない。
本来なら俺が行きたい所。
だが、俺とサリオが横に行くと、物語の通りの三人組。悪ノリする馬鹿や、本気でラティを買おうとする奴が出て来るかも知れない。そういう事で、俺とサリオは離れた場所に居ることとなったのだ。
離れた場所に。
俺とサリオの所には、誰も来て居なかった。
まるで、避けられているように。
――サリオがハーフエルフだからか誰も寄って来ないのか、
狼人やラティの方は改善されて来てるけど、ちくしょうっ
ハーフエルフの差別は根強いな‥クソ野郎共め、無責任な事しやがって、
歴代勇者達の価値観。
元の世界の小説で、ハーフエルフは差別や迫害などを受けると言う設定はよく見かけた。そしてその為か、この異世界に召喚された歴代勇者達もそれに倣い、ハーフエルフを差別し、そしてソレが根付いてしまっていた。
勇者の楔の影響で――
当の本人は、それを受け入れ当たり前になってしまっているのか、特段何もなさそうにしている。
俺から、奴隷としての立場を解放されようモノなら、町に入る事が出来なくなる存在。
普段周りにいる冒険者達は気にしない者が多いが。
やはり街の住人達には避けられる。
そんなサリオを見ていると、自然と髪をグシャグシャにするように撫でていた。
( らしくねぇ、)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
解体ショーが終わると、酒場での馬鹿騒ぎへ移行する。
残念なことに竜の肉は不味いらしく、全て破棄された。
いま俺達は、広場から近い大きめの酒場で大騒ぎ中。
しかも、竜の素材の売り上げの一部を使っての大盤振る舞い。
タダ飲み出来ると、群がる人にも酒を振る舞い、無礼講。
一応、酒に酔った馬鹿が何かしでかす可能性を考慮して女性陣だけは既に宿に帰しており、今は男性陣だけでの集まりとなっていた。
そう、野郎だけの冒険者連隊。
そして、宴もたけなわな、ガレオスさんが口を開く。
「そろそろ、冒険に行くかい?」
「ガレオスさん‥女性陣を先に帰した、真の目的はそれですか?」
「当然、」
ニヤリと笑うガレオスさん。
竜の巣から生還した俺達は、すぐ新しい冒険に旅立つのであった。
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