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破った結末

すいません、遅れました;

 来ると思っていた馬鹿がやって来た。

 

 もう約束など守る必要ないと、突っかかって来るだろうと。

 だが少し違っていた――


「い、嫌がってるッス!彼女は嫌がってるッス!」

「へ?」


「嫌がる彼女の耳を撫でるなんて許せないッス」

「すげぇなオッド‥お前にはそう見えるのか?」

「オッド君?何を突然言い出して、」


「だからオイラは彼女の為に、約束を破るッス!」

「‥おい、」

「はぁ、全く君は‥」


「それにジンナイは、勇者コトノハ様まで手を出して、許せないッス」

「おい、言葉ことのはは関係無いだろ」


「人間は人間同士、狼人は狼人同士が一番なんッス。それに2人の雌を同時にだなんて、やっぱり人間は信用ならないッス!不誠実ッス!」


 

 物凄く酷い言い掛かりがキタ。

 不満が溜まり過ぎると、人は正常な判断が出来なくなるのは理解出来る。

 一挙一動が気に喰わなくなり、全てが苛立つ対象となることはある。


 きっとそれが暴発、もとい爆発をしたのだろう。そしてオッドは――


「だからオイラは、従わされた約束を破棄するッス!彼女の為に、オイラが彼女を解放させてやるッス!そして(つがい)に、」

「お前‥諦めたんじゃないのかよ、」


「それにジンナイには、コトノハ様がいるじゃないッスか!同じ人間なら、問題なく子も産めるッス、コトノハ様だってジンナイの事を――」

「―っ黙れ!!」


 ――いまコイツは‥

 何を・・勝手に代弁しようとした?

 勝手に言葉ことのはの気持ちを?



 確かに、言葉ことのはからは、好意のようなモノは感じる。

 それは俺でも感じられる程に。

 崖に落ちる彼女を助けたりしたのだから、それくらいあって不思議じゃない。

 命を救われて悪態を付く奴が居たら、そいつは頭か心のどちらかが壊れている。



 そしてその気持ちは、勝手に代弁して良いモノではない。

 しかもオッドは、約束を破棄する理由にラティを使う。

 守る必要の無い約束だから、破棄するのではなく。ラティの為に、約束を破棄すると奴はほざく。



「来い、勝負してやる、」

「ぇ?それってラティさんを賭けて勝負って事ッスか!?」


「お前は馬鹿か?ラティは物じゃないんだ、賭ける訳ないだろ!大体なんでラティを賭ける必要がある、単純にお前をぶっ飛ばすだけだ」

「っは!なるほどッス!どちらが上かハッキリさせようってことッスね」


 ――潰す、

 さっきの言葉ことのはの件だって彼女に聞かれたら気まずいってのっ

 なんでコイツは、デリカシーってもんが無いんだよ、

 

 あ、小山の弟子だからか‥



「陣内君‥、まぁ仕方ないか。ラティさんはこのまま索敵を、周りに魔物がいないか見て欲しい。どうやら彼にもガス抜きが必要みたいだ」

「あの、はぁ分りました。ご主人様も程々に、」

「分ってる、殺しはしない。ちょっとへし折るだけだ」


( 心と体を、 )






             閑話休題(決闘開始)







 それからハーティの仕切りで、俺とオッドの決闘が始まる。

 まず、武器は無しで素手での決闘。

 さすがに刃物ありは容認出来ないと言われる。


 それと小山組にも話を通した。

 今回の経緯や背景を小山に説明し、小山に納得して貰った。

 小山自身もガス抜き目的の決闘には賛成派のようだ。


 小山は熱い展開とかが好きなのだろう。




 そして俺は、オッドと対峙し。

 ギャラリー(野次馬)が囲む中、俺とオッドが睨み合う。

 10メートル程の距離を取ったオッドが余裕からか口を開く。


「武器無しで戦えるんスか?槍とかダサい武器も無しで」

「‥‥‥」


「後ろからチクチクするだけの、男らしくない武器は必要ないんスか?」

「‥‥いいから、かかって来い」


 オッドは俺を挑発していた。

 この異世界では、勇者が基本。


 剣や大剣などは、勇者達が好んで使っていた為、冒険者達にも好まれていた。

 逆に、槍は歴代勇者達が嫌ったのか。何処か避けられ下に見られる傾向がある。

 そこを奴は挑発してきていた。


 だが、そんな挑発には乗ることは無く

 オッドの挑発を受け流し、俺は集中する。


 オッドの動きに。



「行くッス!先手は狼人の誉れッス!」


 真っ直ぐ駆け出すオッド。

 俺にWSウエポンスキルが無い事を知っている為か、真っ直ぐ向かって来る。

 とても下手くそに‥‥



 俺はこの竜の巣(ネスト)で、ずっと観察していた。

 奴は、ラティに見せ付けるためか、常に張り切り前に飛び出していた。

 俺はそれを常に、見続けていた。


 だからこそ解る奴の動きが。

 オッドが迅盾の動きをする時は、勢いをつける。

 例えるならば、水辺に板を浮かべ、その上を駆け抜けるような感。

 勢いが無いと、簡単に失速してしまうのだ。


 ラティとは違う、お粗末な迅盾。

 ボクシングで言うならば、ラティはノーモーションからの左のジャブ。

 それに対して、オッドは、素人の振りかぶるテレフォンパンチ。


 急接近してきたオッドが跳び上がり、とび蹴りをしてくる。

 だがそれはフェイント。


 蹴りと見せかけて空中を蹴り、軌道を真横に切り替える。

 俺の右側に回りこみ、そこで再び【天翔(あまかけ)】を使い軌道を変えて、俺の死角から蹴りでも入れるつもりなのだろう。


 足の角度、腰の動きに肩の入れ具合。

 その全てから、俺はオッドの動きを先読みする。

 椎名に比べれば、楽過ぎる動き。


 俺はオッドの移動よりも速く横にステップ、そして跳び上がり叩き落とす。

 バレーボールの選手ようなブロード(横移動)攻撃。


「ッシュ!」

「――ぶばッス!?」


 俺に動きが読まれているとは、微塵にも考えていないオッド。防ぐ事はなく、俺の一撃(アタック)を顔面に受ける。


 一切の受身も取れず、地面に叩き付けられるオッド。

 俺は叩き付けたオッドに詰め寄り、無防備に晒している腿の付け根を蹴り抜く。


「ふんっ!」

「――うがあッス!?」


 反撃出来ないように機動力を奪い。

 そして次に、反撃する意志を奪いにいく。


「っしゃ!」

「っがぁ!?」


 こめかみを蹴り抜き、平衡感覚を奪う。

 格の違いを教えるや、力の差を見せ付けるのであれば。一度立たせて、仕切りなおしてから、再び叩きのめすのだろう。


 しかし、そのつもりは無い。勝機を逃すつもりも無い。

 俺は、オッドを完全にへし折るべく、3発目の蹴り抜きを実行するが――


 ――ッガィィイイイ!!――


 響き渡る金属音。

 砕け散る盾。


 元から半壊しかかっていた、盾が全壊する。


「ふ~~、ギリギリだったかな、」

「小山、」


 俺にトドメを刺されそうなオッドを助ける為に、小山が割って入る。

 先の巨竜戦で半壊していた盾は、コレで完全にカチ割れる。


「弟子を庇うのは師匠の役目だからなっ!」

「チッ、ちゃんと蹴りは止めるつもりだったよ、直前で‥」


「いやいや!何言ってるの陽一君!盾を見てよ!?完全に壊れたよ?途中で止まるとか、そんなヌルい要素無かったよ?」

 

「んじゃ、お前が止めると分ってたから踏み抜いたんだよ、」

「言ってること変わってるよ?絶対に嘘だよね?――っあう!?」


 倒れているオッドを庇っていた小山を軽く蹴り倒す。


「喧しい!それと陽一って呼ぶな、」



 俺とオッドの決闘は、開始30秒で勝敗が決した。

 一方的な戦いに驚いたのか、それとも他の事にでも驚いたのか。野次馬達は固まったままであった。


 そして、オッドのやられ具合に気付いた言葉ことのはが、ペットと化した子竜を連れて駆け寄り、回復魔法をかけてオッドの傷を癒す。



 俺はそれを見ながら、身構える。

 この手の奴は、傷が治り次第、再び襲ってくると予想したからだ。

 油断せずにオッドを見据える。


 仮に飛び掛って来ても、カウンターの蹴りを入れられるように構える。


「ぐぅ‥オイラは、?」

「良かった!オッド気がついたか!?何処か痛むか?」

「まだキツかったら言ってください、回復魔法を重ねがけします」



 まだ目眩でもするのか、軽く頭を振るオッド。

 そして視界に俺を捉えると、呆けていた顔を険しい表情に変える。


「クソッ!今のはまぐれッス!もう一回勝負ッス!もうまぐれは無いッス!」


 まだふらつきながらも、無理矢理立ち上がろうとするオッド。

 まだ完全に立ち上がっていないウチに、追撃の蹴り抜きでも入れようかと考えていると――



 ――バッシィィ――


 一切加減の無い、張り手の音。

 振り抜いた姿勢のまま、オッドを睨み、そして声を張り上げ叱責する。


「オッド!お前は馬鹿か!あの動きを見て、『まぐれ』だなんて言う奴が陣内に勝てるかっ!頭を冷やせ!実力の差とか、そんな次元じゃない!」

「で、でもッス!師匠に教えて貰った迅盾があれば!きっとジンナイをっ」


 叩かれた頬に手を当てつつ、まだ食い下がるオッド。

 だが。


「この馬鹿野郎!その迅盾に頼っている限り勝てるか!それも解らないのか!?」

「だって、でもッス‥、この迅盾は師匠からの、」


 言葉に詰まるオッド。

 きっと、小山から授けられたモノだからこそ、認めたくないのであろう。

 

 迅盾を使うことで負ける事が‥‥


 

 そして、オッドの言いたい事が伝わったのか、今度は小山が――


「そうか‥そうだったのか‥、ならば超えろ‥」

「え‥‥」


「超えるんだ、俺が授けた迅盾を!っ俺を超えるんだ!」

「し、師匠‥‥」



 突然茶番が始まった。

 今度は別の意味で野次馬達が呆ける中、2人が熱く抱き合う。


 そんな中、野次馬代表(サリオ)がポツリと呟く。


「コレは、なんなんでしょうねです‥」

( 俺が聞きたいわっ!)



 熱苦しい師弟愛を見せつけつつ、この茶番も、終わりを告げた。


( 後は小山にまる投げだな、)

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ感想など頂けましたら、嬉しいです。


あと、誤字脱字なども;

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[一言] こういう展開好きですね〜。
2021/04/20 11:03 退会済み
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