過去魔王
説明回~
何度目かの落下。
俺は、崩落に飲み込まれた言葉を庇う為に闇に飛び込む。
暗闇の中を落下すると言うモノは、なんとも言えない不安が襲ってくる。
レールの見えないジェットコースターのような感覚。
何処かにぶつかるが、全く周りが見えない恐怖。
そして恐怖と同時に、凄まじい不安感も押し寄せてくる。
体を打ち付ける痛み、柔らかい感触、背を削られる痛み、柔らかい。
いま俺を、痛いと柔らかいが交互に襲ってくる。
言葉を守るべく、俺は彼女を抱えている。
左手は木刀を握りつつ、彼女の頭を護るように腕を回し庇い。右手は彼女を固定し離さぬように、背側から脇下に腕を回して差し込み、手の平でガッチリと掴み彼女を固定する。
何度目かの衝撃を受けたのち、俺達は砂で満たされた地面に落下する。
砂浜のような湿った砂でなく、イメージで言えば砂漠のような渇いた砂。
『ザシュッ』っと音を立て砂の上に落ちる。
軽い脳震盪のように目が回るが、すぐに辺りを確認する。
真っ暗な世界。足場だけは砂で満たされていることを、感触で理解出来る。
「言葉!無事かっ?」
「あ、え?は‥ハイ!無事です、アレ?」
彼女を抱えてはいるが、暗闇で顔は見えない。だが声の調子から、何処か怪我をしているといった様子はない。どうやら上手く庇えたようだ。
「すまん、”アカリ”を頼めるか?俺は魔法が一切ダメだから、」
「あの、えっと?はい、アカリですね」
言葉の作り出した”アカリ”により周囲の光景が見える。
俺達の居る場所は、畳10畳分ほどの空間。
落ちてきた穴以外は、他に通路も横穴も無い場所。
魔物などの姿は確認出来ず、居るのは1匹の白い子犬。
「いぬ?」
「可愛い子犬ですね、」
子犬はこちら興味が無いのか、砂で満たされた部屋のようなこの場所を、とふとふと歩き回っている。
「襲って来ないって事は、魔物じゃないよな、?」
「いま【鑑定】してみたのですが、鑑定を弾かれました‥あと、えっと‥」
言葉が何か言い辛そうに口ごもりながら、上目遣いで俺を見る。
――っく?やっぱ怪我してたか?
あの落下で無傷とかは虫がよすぎるか、
俺も背とか肩に激痛するし、手も柔らっ――ッ!?
閑話休題
俺は状況の把握に専念する。
まず、落下した距離は100メートル程度。
ラティ達との位置を示す矢印は、少し斜め上の方を指し、救助は期待出来る
背の怪我も、言葉に魔法で治して貰い問題なし。
謎の子犬も襲ってくる気配は無し。
横の言葉が、顔を赤らめて俯いてしまっているのだけが問題。
助ける為とはいえ、ガッツリいったままが不味かったのだろう。
回復魔法も、少し気まずい雰囲気の中で掛けて貰っていた。
「ありがとう陣内君」
「へ?」
俯いたままだった彼女がポツリと呟き、顔を上げ俺を見つめる。
生活魔法”アカリ”に照らされている為か、表情に艶を感じさせる。
「陣内君が私を庇ってくれなかったら、きっと私‥」
「あ~~気にすんな、助けようと思って助けただけだ。だから助けられて良かった」
「うん、ありがとう」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
『あの、そろそろ出て来た方がイイよね?』
「うお!?」
「きゃ!」
俺達の目の前に、うっすらと光る冒険者風の男が浮んでいた。
精神が宿ってるであろう石は砂に埋まっていた。
( 気付かなかった、)
『出るタイミングを逃して、エライ事を始められたら困るからさ、声を掛けたよ』
「エライ事ってのが何かは聞かない、違うから‥。それと貴方は初代勇者の仲間の人ですね?この竜の巣を担当している人ですか?」
『お?話が早そうだね。そうだよ僕はこの竜の巣を担当している、初代勇者の仲間シャーウッドさ』
年は20代後半、髪を後ろで束ねて尻尾にし、ゆったりとしたローブ姿。
パーティでの役目は後衛役。そんな印象を与える男。
『状況は見ていたよ、よくあの竜を倒せたね。歴代勇者達の何人かは倒されていたのに、特に最後の連携攻撃みたいなのは素晴らしかった』
『昔は、アレ無かったね~』など、他にも色々と感想を述べるシャーウッド。
ふと気付く。
「なんでそれを知っているんです?ここに居たんですよね?」
『あ、そっか説明してなかったか、僕は【固有能力】で【千眼】持ちなのさ』
「せんがん?」
「千の眼って感じかな?自分からある程度の範囲内を、どの角度からでも見ることが出来る【固有能力】さ」
「えっと、覗き放題的な?」
『昔はね、今はもうそう言った感情が湧かなくなったからしていないよ。ただ、興味があるモノは覗いていたりするけどね』
( やってたんかいっ!)
「えっと、この方は?前の深淵迷宮の奥に居た方と同じ‥?」
「前に会ったのはライエルだったかな?彼の仲間らしい」
『お?ライエルの奴に会ったのか!』
俺はあることを思い出す。
俺はこの竜の巣に、勇者の救出で潜ったが。ハーティさんは、この精神体に会いに来たという事を。
――後でハーティさんを呼ばないとか、
俺の方は、自分が勇者召喚じゃない可能性について聞きたいけど、
言葉が居るしなぁ、ちょっと聞きづらいな、
俺は無用なトラブルや、下手な誤解を生まないように、ソレを隠している。
言葉になら、バレても問題は無いと思うのだが。
――知られても問題無いよな、
でもこの秘密は、俺とラティ2人だけの秘密だからなぁ、
他のことを聞いて見るか、
「あの、この竜の巣も東の影響をって、そうだ――」
『うん、把握しているよ。東のアイツに何かあったんだろうね、』
「やっぱ分かるんですね」
『そりゃね。でも、アイツはまだ完全に消滅し切っていないね。アイツは【不屈】持ちだから、たぶんギリギリ残ってるよ。だけど、死者の迷宮を維持出来るほどの力は無いみたいだね』
――さっきの崩落は、竜の暴れすぎが原因かと思ったけど、
やっぱり東か?東の影響は西でも少なからず出てるのか、?
「あのシャーウッドさん、西も東の影響を受けていますか?」
『多少ね、』
「あと、ライエルさんから、西の奴は色々と詳しいって聞いたのですが」
『何を指して詳しいと言うのかは、分からないけど。魔王とか召喚の事なら詳しいかな、あと【固有能力】とかもね』
「それじゃ、質問を一つ。御神木英雄ってご存知ですか?」
『――っな!?その名を何処で!?おい!まさか彼に出会ったのか!?』
今まで何処か余裕さを感じさせてる雰囲気のシャーウッドが、己の精神体を揺らめきさせながら、激しく取り乱す。
「え?えっと、知り合いからその名を聞いて、」
『――ッその知り合いは彼に出会ったのか!?』
「いえ、多分会ってません、たまたま名前を知っていたようで、」
『偶々?ってことは彼が言ってた可能性か‥‥なるほど、』
落ち着きを取り戻し、顎に手を当てブツブツと呟きながら考え込む精神体。
シャーウッドの豹変に言葉は。彼が怖かったのか、俺の後ろに隠れるようにして縋りつく。押し付けながら‥
そして待つこと1分。
精神体シャーウッドは何事も無かったように振る舞う。
『他に何か聞きたいこととかあるかい?』
――おい!無かったことにしやがったぞ、
それなら、、
「んじゃ、タカツキーヒデオーで、」
『初代勇者の事をかい?』
「それは普通の反応なんだ、」
――御神木英雄には過剰な反応、
だけど、タカツキーヒデオーには普通の反応。何かあるなコレは、
それに、初代って言ったって事は、他の歴代勇者にも会ったことあるのか?
「あの、ここって他の歴代勇者が来たことってあるんですか?」
『いや無いね。上の層までなら来たことあるけど、此処まで来たのは君達が初めてかな?ほら、上にいた竜が強いでしょ、だから誰も辿り着いたことは無かったね』
「千眼でしたっけ?それで見ていた、と?」
『うん、よく見ていたのさ、自分達が創り上げた”勇者召喚”は上手く機能しているだろうか?とね、』
「それ聞かせてください!」
俺は自分の召喚の件は聞かずに。
シャーウッド達が創り上げたと言う”勇者召喚”を詳しく訊ねる。
勇者召喚には。楔となっている術者、初代勇者の血が必要らしい。
そしてその血とは、初代勇者の子孫達。
初代勇者は、王女との間に子をなして、それが今の王家となる。
そしてその血を触媒に、勇者達を召喚するそうだ。
俺はここまで聞いて魔王の事を思い出し、追加でそれ訊ねた。
魔王とは、黒い霧のような存在。
これはライエルさんからも聞いていた話。だが――
『魔王は散らしたけど、また集まろうとしたんだよ、完全には消滅させられなかったんだ、』
「じゃあ、それで?」
『封印も出来ない、消滅もさせられない。ならば倒そうってなったのさ』
「へ?」
シャーウッドの言う『倒す』とは先送りのようなモノであった。
倒し切れないなら、倒すだけにすると言うモノ。
本来魔王とは。生あるモノ、その全てを腐らせる霧。
散らしても集まる、その厄介な性質を打開すべく、その黒い霧に形を与えれば良いとなったのだ。
地上に湧く魔物のように、形を与えれば倒せると。
予想していた事だが。
五つのダンジョンは、その黒い霧を上手く一つに纏め、黒い霧に形を与え、倒せる魔王を誕生させる為のモノでもあると言うのだ。
魔物が地上に出ないようにする為のだけじゃなく、魔王を倒せるように。
そこで一つ疑問が浮ぶ。
「ちょっと待ってくれ!じゃあ、なんで勇者が魔王になったんだよ!」
――9代目は勇者の一人が魔王になったって聞いたぞ、
しかも、それで仲の良い者同士が戦ったとか、
なんで勇者が魔王に、
『うん、それは想定外だったんだよね、何でも魔王になるって訳じゃ無いんだ、格が必要なんだ」
「格?って核?」
『う~~ん、価値が高いモノって感じかな?カッコ良く言うならば、魔王になりうる器みたいな感じかな?それは人だったり物だったり、植物とかも」
話の流れで、物に魔王が宿った時のことを教えてくれる。
それは5代目の時代。
竜咳石という貴重な物があり、それの巨大サイズの物に魔王が宿り、魔王発生。
討伐に向かった勇者全員を巻き込む、超大爆発を起したとか。
その爆発時に出来たのが、水上都市の湖だと言う。
大爆発で抉れた窪みに水が流れ込み、今の丸い湖が出来たのだと。
( バ○ダン岩かよ、)
どうやらこの出来事を。
シャーウッドは【千眼】の【固有能力】で、当時リアルタイムで見ていたそうだ。
その時は、色々と想定外で驚いたそうだ。
他にも、西側で神木扱いされていた樹木に魔王が宿り、樹の魔王が発生したこともあると教えてくれた。因みに、東にも神木はあるそうだ。
他の魔王の事を訊ねると、【千眼】では、遠く離れすぎた場所は覗けないらしく、他の魔王は知らないと言う。
覗ける範囲は、西側と中央。
北東南までは届かないそうだ。
そして次に【固有能力】の事も、シャーウッドは饒舌に語り出す。
俺が【千眼】に興味を示し、シャーウッドに訊ねたのがキッカケだったのだが。
もしかすると、久々に話せる相手が居るが嬉しいのかも知れない。
彼の話はまだ続く。
読んで頂きありがとう御座います!
宜しければ、ご質問や感想などお待ちしております。
それと誤字脱字も、宜しくお願いします;