激戦巨竜
竜と戦います
覚悟を決める。
外側から奴を屠るには、圧倒的に火力不足。
ならば、やるしかないこの方法。
俺は左の拳を強く握る。
「サリオ!ラティに足場を用意してやってくれ!」
「はいなです!」
サリオの魔法により、地面から突き出る無数の岩で出来た棘。
本来は串刺しなどで攻撃する魔法だが、サリオとラティは別の使い方をする。
高さ4メートル、岩で出来た無数の棘を足場に、ラティが加速する。
足場のある状態でのラティはまさに無敵。
暫くであれば問題ないであろう、俺はその隙に走る、言葉のもとへ。
俺はこれからやろうとする無茶の成功率を上げる為、彼女に強化魔法を掛けて貰いに走る。
強化魔法ならばハーティが最適なのだが、今彼は伊吹の所に向かっている。
MPを回復させ、負傷してる小山を癒している最中の言葉に俺は。
「悪い言葉。先に俺に強化魔法掛けてくれ!一気に奴を仕留めてくる」
「は、はい!小山君ちょっと待っててね。陣内君強化魔法ね?」
「ああ、オラは良いから、陽一君を優先してやってくれ」
( コイツまた俺を陽一って呼びやがって、)
言葉は、掛ける魔法の内容を確認すると、俺の手を取る。
しかも、若干抱え込むような形で。
――え?あれ?近い?
強化魔法ってこんな感じだっけ?手をかざす感じじゃなかった?
それにちょっとでも肘を動かすと、当たりそうなんだけど‥‥
言葉の手から伝わってくる暖かいモノが、俺の体を芯を駆け巡る。
ハーティさん曰く、俺は魔法抵抗力がほぼ無い。
本来であれば、弱い攻撃魔法などでも致命傷となる欠点だが。その抵抗が無いお陰で、治癒魔法や強化魔法の効き目が格段に上がると言う。
体の芯より湧き出る力を纏い、俺は巨竜へと駆ける。
「サンキュー言葉!」
「は、はいっ!」
岩の棘に身を隠すように接近し、チャンスをうかがう。
虎視眈々と。
俺の位置取りに、ラティが察し。
彼女は大きく跳び上がり、空を蹴って空中で側転をする。
少し大きく開かれる脚、それに合わせてなびくスカート。
それは、とても華麗な光景なのだが。彼女を追っている竜にとっては、苛立つ対象。まるで、闘牛士の赤いマントを追う、猛牛のようにラティへ襲い掛かる。
地面に降り立つラティ、そしてそれを好機と見たのか、何も疑わずに顎を開き、彼女を噛み千切りに行く巨竜。
知らない者が見れば、殺戮の瞬間。
だが、俺から見ればそれは、必殺の機会。
まだ上があるのかと思わせる程の速度で回避するラティ。
彼女は身を低くしバックステップで一瞬にして下がり、俺はそれに合わせて岩の陰から飛び出し。
「――ガァァァァアアアアアアアア!?」
目を潰され吼える巨竜。
右目に左手を捻じ込む、手首が完全に埋まる程に。そして今度は俺が吼える。
「ファランクス!」
「――ッガッガガアアア、ッガアア!?」
一瞬だけビクッと感触が伝わってくるが、なんと。
「マジか!?耐え切った?」
「ッガアアアアアアアアアアアアア!!!!」
目蓋を閉じてくる気配に、俺はすぐ手を引き抜き距離を取る。
黒い巨体の竜は、数々の魔物を屠ってきた俺の必殺を耐え抜いたのだ。
両の目を潰され、暴れ回る巨竜。
「しぶとい、」
「あの、ご主人様、どうしましょう‥」
完全に狂乱状態。
サリオの作り出した岩の棘を薙ぎ倒しながら、手当たり次第に攻撃をする。
「もう無理だろ、退くかこれは、」
「そうですねぇ、目が見えないとなりますと、迅盾が機能しない恐れが、」
尻尾や足に攻撃を加えていた、伊吹やテイシも距離を取り様子を窺う。
目の見えない相手であれば、容易に逃げれると思っていたのだが。
「――ッ!?アイツ、こっちを意識してる‥‥?」
暴れ回ってはいるのだが、気配を感じ取っているのか、それとも音でも拾っているのか、暴れ回りながら此方によってくるのだ。
ただ、目が見えないためか。攻撃の精度は低く、何も無い地面に爪や尾を叩き付けたりしている。
小山の足の治癒は終わっているが、他の冒険者達の治癒はまだ。
当然、彼らを見捨てて逃げる訳にも行かず。
「くそ、何か鱗を貫けるモノがあれば、」
「陣内君!私が”重ね”やるよアイツに‥」
伊吹が俺の横にやって来て、覚悟を決めた表情で俺にそう言ってくる。
女は度胸と言うべきか、伊吹はやる気で、大剣を強く握り締める。が――
――って、言っても、
あのバーサク野郎に突っ込むのは自殺行為だよな、
せめて動きだけでも止めれれば、
「サリオ!あのデカイの止めれるような魔法無いか?」
「無茶ぶり来たですよです!さっきの岩のトゲトゲが限界です」
――さっきのって、
枯れ木みたいにへし折られた岩の棘か、
2倍出したとしてもキツいよな、
暴れ回る巨竜と距離を取りつつ、何か手はないか考える。
すると。
「陽一君!オラが盾で止める、オラの【強盾】【捕縛】【重縛】【耐体】の全てをフル活用して動きを止めて見せるよ!」
「小山、お前は俺を陽一って呼ぶな‥」
男は度胸。小山が漢を魅せようと言う。
だがまだ足りない。
もっと強力な何かが。
あの25メートルを超える巨体を止めれる何か。
――何か無いか‥
落とし穴?そんな都合のいいモノは無い、
魔法で束縛‥‥なんて出来るんなら既にやってるかハーティさんが、
他には、何か、岩でも落とす?あの巨体に匹敵するデカイ岩なん、、あ!?
「橘ーーーー!」
俺は閃き、橘のもとへ向かい、作戦を説明する、思いついた作戦を。
「はぁ?馬鹿なの?そんなの無理よ!絶対に壊れるでしょ!」
「んじゃ、このままでイイのかよ、このままじゃ誰か犠牲になるぞ?」
今はラティとオッドなど、迅盾組が声を出して注意を引いている。
だが、相手の攻撃はデタラメ。予期せぬ一撃を貰う可能性が高い。
これ以上長引かせる訳にはいかないのだ。
「いいな?合図したら行けよ!もうこれしか手段はないんだから」
「何なのアンタ?勝手なことばかり言わないでよ!」
「なら、しっかりと言ってヤル!少しは役に立て、以上だ!」
「っな!?」
俺は巨竜を足止めする作戦の為、奴の前に立ち塞がる。
足の負傷している小山だけでは無理があり、まず俺が引き付け、小山がその隙に盾でぶち当たり、【捕縛】【重縛】の能力を使って、まず巨竜の動きを止める。
そしてその止まった隙に、本命の橘が仕掛けると言う作戦だ。
「かかって来いや!黒いデカブツがぁーー!」
「ガァ?」
俺の挑発に反応を示す巨竜。そして――
「ファランクス!」
俺は結界の小手を発動させ、防御姿勢を取る。 と――
「――ッガアアアアアアア!!」
残りの片目を潰された時と同じ掛け声。
今までにない過剰な反応を示し、声の元へ突進してくる。
我を忘れ、牙も爪も使わず、頭突きをかますように突撃を。
――ギィィィイイイン――
結界の小手から作り出される防御壁、魔法陣から衝突音が響く。
そして――
――ギィン!――
小さく、切ない音を立て砕け散る魔法陣。
幅1メートル半程度の防御壁など、25メートルを超す巨体相手には、さすがに耐えれず砕け、次に俺が吹き飛ばされる。
「――っがぁっは!」
木刀でガードはしたものの、圧倒的な体重差に、軽々と吹き飛ぶ俺。
そしてこのタイミングを逃さず、駆け出す小山。
「おっしゃぁぁぁああ!」
――ガンッ!!――――
巨竜の鼻っ面に盾を押し付け、【固有能力】の【捕縛】と【重縛】を駆使して、巨竜の動きを封じる。
【捕縛】による束縛、【重縛】の加重。
少しの時間ではあるが、確実に動きが止まる巨竜。
暴れる事も出来ず、見えない重石のようなモノを背負わされたかのように重心を下げ、腹を地に付ける。
「っごふ、いっけーーー橘ぁぁーー!」
俺は合図を橘に送り、彼女が巨竜の背へと駆け上る。
「あーー!もうっ」
橘が苛立ちから声をあげ、そして――
――ッズン!?ガッゴゴゴゴ――
「――ガッフ!?」
巨竜の背に、橘が自分の豪邸を出現させる。
巨竜に匹敵する物量の建物。
しっかりとした作りの建物が、崩壊することなく巨竜を押し潰す。
橘の豪邸に押し潰され、その重さで首を仰け反らす巨竜。
そして晒す無防備な首元に――
「先のWSは任せろ!両手斧WSレイグラ!」
3連発の振り下ろしにて、相手を砕く両手斧WSレイグラ。
連続ヒット系WSを選び、次に続く伊吹がタイミングを合わせ易いようにするテイシ。
そして〆の伊吹は。
「はぁぁぁぁ!逝っけぇぇ!大剣WSでぇぇぇいいだ!」
彼女自身とほぼ同じ程のサイズの大剣が、光りを纏いさらに大きく、約3メートル程の光る刃となり、三日月の残光を放ち、テイシのレイグラに重なる。
この土壇場で、伊吹はオリジナルの新WSを編み出したのだ。
あの黒い鱗を突き破る為に。
そして、黒い鱗を突き破る為に編み出されたWSは、その役目を果す。
巨竜の首がごっそりと抉れ、赤黒い体液をぶちまける。
「――ガッガアアァァァァ、、!?」
強力な一撃であったが、まだしぶとく足掻く巨竜。
悪あがきとばかりに、目の前の伊吹に襲い掛かろうとする。
WSの硬直から、まだ抜け切れない伊吹に迫るが。
その瞬間――
「させません!」
ラティが一瞬で跳び上がり、空中で後ろ回し蹴りを放つ。
左目に突き刺さったままの、槍の石突に。
「――ガァッ!?」
柄まで完全に押し込まれ、深々と突き刺さる槍。
この一撃がトドメとなり、短い時間痙攣をしつつ、巨竜は完全に絶命する。
「ふぃ~~、終わったか?今度こそ、」
「みたいですね、さすがにこれだけやれば、」
負傷者に肩を貸しつつ、近寄ってくるガレオスさん。
そして、用心深く巨竜の死亡を確認するハーティ。
場の空気が緩む。
俺はすぐに周囲を警戒する。
ラティも索敵に集中しているのか、無言で辺りを探る。
以前、似たようなタイミングで襲撃されたことを思い出す。
ここは西。前に北原を見たと小山が前に言っていた場所。
吹き飛ばされ、背中を強く打ってはいるが、動きに支障はない。
俺は辺りを探っていると。
「マズイ!足場に注意しろ!変な振動を感じる!」
他のメンツには感じられない違和感。
何回も経験しているからこそ解るモノ、それは――
「足場が崩壊するぞ!」
俺の警告に、ラティは素早くサリオを回収し、安全だと思われる位置まで移動する。そして当然俺も違和感を感じる足場から離れようとするが。
「あ!」
「え‥‥!?」
後衛であり、女の子。
伊吹のように、動けるタイプではない彼女は、咄嗟には動けず。簡単に、そして呆気なく足場の崩落に飲み込まれる。
「コトノハ様!」
「言葉様!」
「ヤバイ!」
「言葉っ!」
皆が叫ぶ中、言葉は崩落に飲み込まれて行く。
完全にバランスを崩し、背から落ちる形で。
――まじぃ!
あの体勢じゃ、良くて大怪我、悪くて‥‥
ッチクショ!
「――ッちぃい!」
「え?陣内君!?」
俺は落ちていく言葉に飛びつき、彼女の頭を抱え庇うように抱きしめる。
――伊達に何回も落ちてねぇ!
俺なら、装備を上手く使って大怪我せずに落ちれる、
それに言葉さえ無事なら治癒も、
俺と言葉は暗闇へと落ちていく。
ただ、最後に――
ラティから『何故落ちるのですかー!』っと批難染みた声が聞こえた。
読んで頂きありがとう御座います。
感想やご指摘、それとラティの応援など、感想コメントでお待ちしております。
あと誤字脱字も、