巨竜
最初は、前回よりちょっと時間が遡ります。
竜との戦闘後、俺達は勇者救出の為、そのまま3層を突き進む。
橘とオッドは凹んだままで‥
流石のハーティさんも、今回はフォローを入れず。
それから暫く進み、俺達は竜を2匹倒す。
体長10メートル程度の、汚れた灰色の竜を2匹。
猫人冒険者テイシの説明によると、体のサイズが大きくなるほど黒くなっていき、灰色はまだ楽な個体だ言う。
本当にヤバいのは黒色。
中には20メートルを超える大物もいるそうだ。
そして前回勇者達が、その20メートル級の竜に襲われた現場まで辿り着く。
戦闘の最中、足場の崩落によりパーティが分断された場所。
勇者3人が行方不明となった所。
一度目の救出に向かった時は、大物の竜が居座っており救出を断念したらしい。
今回は運が良いのか20メートル級の竜は見当たらない。
3層には。
「この崩れた所の下に、伊吹と言葉が?」
「うん、この降りた場所のすぐ近くに居るよ、あと小山君もね」
パーティメンバーの位置を示す矢印。勇者達の位置を正確に把握する。
前に、俺がお世話になった事もある長めのロープを垂らし、下に降りようかと思った瞬間。弾かれたようにラティがナニかに反応し、そして警告する。
「います!大物です!場所は下の層。位置は‥勇者様達が居る場所!?」
「マジかラティ嬢ちゃん!?クソったれっ!上に居ない代わりに、下に居るってかよ、下に急ぐぞお前ら!」
ラティの警告に、ガレオスさんが悪態を吐く。
ハーティさんもそうだが、ガレオスさんも余裕さを纏ってはいるが、やはり内心では焦っていた様子。
そして今、勇者達に危機が迫っている。
しかも――
「あ、誰かかなり弱っています、」
焦りが、絶望を滲ませた激しい焦りへと変わる。
「ラティ!頼む、サリオ!下までアカリを照らせ大急ぎだ!行くぞラティ!」
「はい!ご主人様!」
「了解してラジャです!」
俺の横では大急ぎでロープを準備している三雲。
【宝箱】からロープ取り出し、何処かに結んで固定出来る場所を探している。
だが、それでは遅い。だから――
「え?陣内?アンタ何やってんの‥‥」
「ダンナ?ってまさか、」
「陣内!なに遊んでんのよ!奴隷と何をやるつもりなの?このクズ‥」
「ジンナイ、羨まし、って違うッス!何を一体!?」
周りが呆気に取られる中、俺はラティにお姫様抱っこをしてもらう。
「いきます!」
「おう!」
「下までアカリ届いてますです!」
下まで高さ30メートル以上はある、崩落した大穴へと飛び降りる。
高さは、10階建てのビルと同等の高さ。
普通に考えて自殺出来るレベルの高さ、それをラティに抱えられながら飛び降りる。
レベルが80を超えているラティにとって、俺の重さなどは苦では無く軽々と抱え、そして【天翔】を駆使して下へと降り立つ。
過去に、この高さの数十倍以上の所から降りた事のあるラティにとっては、簡単なことであった。
3層から4層に降り立った俺達は、一気に駆け出す。
「ラティ!アカリを頼む!」
「はい!ご主人様!生活魔法”アカリ”!」
ラティの作り出したアカリで地面を照らし、俺達は勇者の下へと向かう。
そしてすぐにその場所へ辿り着き。
「ラティ!アカリを消してくれ!」
「はい!」
作り出したアカリを消滅させ、俺は周囲の暗闇に紛れ込む。
正面に見える巨大な黒色の竜。
頭から尾までの長さは、どう見ても25メートル以上。
小学校の時のプールでは入り切れないサイズ。
その巨体が、今まさに言葉を飲み込もうと顎を開く。
――くっそデカ過ぎんぞ!
20メートルどころじゃねぇな、この竜、
言葉もヤバイ‥だが、今なら狙える!
本来、竜の側面は死角ではない。
だが奴は今は、目の前の獲物に集中しており、俺は闇に紛れている状態。
俺は【加速】を使い、一気に竜の左目に向かって突き進む。
そして突き刺す。
「――っだっしゃああああ!!」
思わず雄叫びを上げる。
やっている事は、ほとんど某狩猟ゲーム。
25メートルを超える竜の、白く濁った眼球に槍を突き立てる。
皮の厚い葡萄のような感触。
表面側は堅い感触だが、それを突き破ると、ゾリっと刃先が沈んでいく手応え。
槍を突き刺すと、竜は仰け反るようにして後ろへ下がる。
深く刺さった槍は、簡単には抜けず。そのまま掴んでいると、暴れる竜に振り回されるので、槍を手放す。
「間に合ったぁぁぁ!大丈夫か言葉?」
「ああ‥‥」
――ん?反応が鈍い、
恐怖のあまり思考が追い付いてないのか?
「おい?大丈夫か?言葉」
俺は心配になり、彼女に駆け寄る。
しかし、まだ反応の鈍い言葉。俺は心配になり彼女の顔を覗き込むと。
「へへへ、平気!大丈夫だよ陣内君!?」
呆けていた顔が、一瞬で朱に染まり。いままで見たことの無いような表情を見せ、今度はそれを隠そうと必死になって顔を俯かせる。
「取り敢えず言葉は無事か?あと他のメンツは?」
「あ‥、小山君が、足を怪我しちゃって、でも私MPが切れちゃって、」
周りを一瞥し、状況を確認する。
「状況は分かった、言葉は薬品を使ってでもMP回復を最優先にしてくれ。ハーティさんもそのウチ来るから、MP回復の魔法をかけて貰え、時間は俺が稼ぐっ!」
俺の視線の先。
片目を潰され、先程までのたうち回っていた竜が、隻眼で俺を睨む。
白く濁っている目が、怒りのあまりか、ゆらりと白く光を放っている。
「ターゲットは俺ってか、こっちに来いよデカブツ!」
言葉が通じるとは思えないが、俺は竜を挑発し、言葉達から遠ざける。
挑発された竜は、他の者には一切興味無しとばかりに突進しようとするが。
「片手WSファスブレ!」
潰された左目の死角から、ラティが飛び駆け、残された片目を奪いに行く。
【天翔】を使い、回り込むように強襲するラティ。
流石に残った片目を潰された堪らんと、首を振りラティの斬撃を避ける巨竜。
攻撃を避けるために、首を上げながら右に顔を叛けるその瞬間――
むき出しとなった首筋の左側に向かって、俺は渾身の一撃を叩き込む。
「木刀WS!乾坤穿!」
光り輝かない木刀、一切のエフェクトを放たない軌跡。
そんな普通で地味な突きの一撃が、黒色の鱗に覆われた竜の首筋に吸い込まれ、そしてあっさりと弾かれる。
「チクショー!木刀一本で、このデカブツを相手にするとか、無理だろっ!」
「――ッキシャァァァァ!!」
俺の一撃に反応し、反撃の噛み付きを返してくる巨竜。
噛み付きのような大振りの攻撃は、慌てる事無く俺は回避する。
そして噛み付きの為に、顔の位置が再び低くなり、俺はそこへ――
「木刀WS!斬鉄穿!」
――ギィイイン――
再び弾かれる木刀。
絶対的な強度と、霊体に対してのみ無類の強さを発揮する木刀。だが――
「っちぃ!」
――無理だ!
常識的に考えて木刀で挑んでいい相手じゃねえ!
リーチどころか、他の全部が足りてねえよ‥
黒色の鱗に阻まれ、有効打を決めれない俺。
「あの、ご主人様?」
「んっどうしたラティ?他にも敵が迫ってるのか!?」
俺の隣に降り立ち、何処か申し訳無さそうに訊ねて来るラティ。
「あの、いえ違うのですが‥、先程からWS?を放とうとしているように見受けられるのですが、えっと‥」
「気のせいだ‥、今は戦闘に集中!」
『はい、』っと返事を返し、再び翔けて行くラティ。
――くそ、やっぱ駄目か、
この状況なら、勢いでWSを撃てたりしないかと思ったけど、
【剣技】【創剣】も無しにWSは簡単には編み出せないか、
深淵迷宮の最奥で聞いた話。
初代勇者の仲間、ライエルが俺に教えてくれた話。
”WSは編み出せる”と。
あれから隠れて特訓していた。
頭の中で技をイメージし、掛け声と共に槍や木刀を振り続ける日々。
結局一度も成功はしなかった、そして今も。
「ちいっ、完全に火力不足だ、倒しきれない」
ラティも双剣を振り回し、迅盾として立ち回っているが、いまだ傷一つ付けることはできず、彼女も決定打に欠けている。
鋼のように堅く、だがゴムのような柔性も兼ね揃えた鱗。
斬撃を弾き、衝撃も吸収する。
攻めあぐね、木刀を構え竜と対峙していると。
「マジッスかジンナイ、アンタWSを撃てないんッスか?」
喧しいのがやって来た。
だが、オッドがやって来たという事は。
「おいおい、デカ過ぎんだろ‥マジかよ、」
「ガレオスさん、今は先に勇者達を!」
「黒、、かなりの大物ね、」
「ぎゃぼーーー!でか過ぎですよです!ふざけんなよです!」
25メートル級の、山椒魚とワニを足したような姿の巨竜に、サリオが騒ぐ。
――まぁ、騒ぎたくもなるか、
言葉を助ける為に突っ込めたけど、
普通‥逃げるよなこのサイズは‥つか逃げ出したい、
倒せる算段は全く思いつかない。
巨大な体躯に、攻撃のすべてを防ぐような黒い装甲。
伊吹が傷つけたのか、僅かながらの切り傷はあるが、致命傷には程遠い。
「弓WSウエポンスキル”スターレイン”!」
「スラグショト!」
光るブレッドが竜の脇腹に、光りの雨が竜の背に降りそそぐ。
しかし、そのどちらも簡単に弾かれ、特に橘のスターレインが酷い。
まるで、撥水性の高い傘に弾かれる雨粒のように、そして周囲に。
「――くっ!?」
「うお!?あぶねッス!?」
弾かれたWSは、竜の周囲を飛び跳ねる迅盾の邪魔をする。
「橘アホか!?お前は的がデカイとそれを使うのか?もっとWSを選べ!他の奴の邪魔してるだけだぞ」
「う、五月蝿い!アンタだって何も出来てないでしょ!」
『文句言うなら、傷の一つでも負わせてみなさいよ!』と文句を返してくる。
――竜の目を見ろよ、
俺の槍が刺さってんだろうが、それに言葉も助けたし、
コイツってマジで何も見てないな‥
ハーティさんやガレオスさんの登場により、精神的にも肉体的にも息を吹き返す行方不明組。
増えた人数で有利に戦闘を進めたい所だが――
「っぐぅ、私のWSでも、ちょっと削れるぐらいだよ、」
「この黒いの、強い堅い、」
大剣使いで高火力の勇者伊吹、一撃の威力を上げる為に大斧を使うテイシ。
現在もっとも火力の高い2人。
だが、その2人のWSを持ってしても有効打は望めず、苦戦を強いられる。
もう一つ上の高火力、”重ね”を使ったWSを当てれれば鱗も削れるかも知れないが、ラティ単体での”繋ぎ”からの”重ね”では火力不足。
ラティから伊吹の”重ね”が必要。だが、スペシオールさんのように【一閃】持ちなら合わせれるが、それを持っていない伊吹では、この竜が相手では危険。
見ているとこの竜は、攻撃された場所に反撃でもするかのような習性があり、ラティがWSを当てた場所に意識を向けるのだ。
そうなると、追撃に行く者が危険に晒される。
――もう最後の手段しかないか、
このサイズに突っ込むのは本気で勘弁だが、やるしかないな、
唯一攻撃が通りそうな場所。
残った隻眼への、結界の小手を使った必殺の一撃。
「ラティ!サリオ!アレを狙う、援護頼む!」
俺はある意味、もっとも危険な賭けに出るのであった。
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