言葉
最初は突然光に包まれ、気が付くと知らない場所にいた。
そして案内された場所は、豪華な作りの広い場所。
広くて天井も高い、まるでお城の一室のような所。
唐突に始まる説明。
ただ混乱するだけの私。そして私とは違い、前向きな発言をする同級生達。
説明を受けて行くうちに進む、怖い流れ。
いつの間にか、私達は戦うことになっていた。魔王と――
戦う力が与えられているからだと‥‥
説明されている内容を、必死になって覚えようとしていると、少し離れた場所で笑われている同級生がいた。
その同級生は、学校で話したこともない男子。
少し目つきが怖いかな?って印象の男の子。
それから私は――
隣にやって来た、身なりの良い男性に付き添われて別の部屋に移動する。
何故か私を女神様だと呼ぶ大人の人。
移動した部屋では、先程の説明とは違う、この国のルール?みたいなモノの説明を受ける。
最初は何処かの国だと思おうとしていたが、やはり本当に異世界らしい。
不安になって周りを見渡すが、みんな熱心にルールの説明を聞いている。
そう‥みんな居るのに、さっきの笑われていた男子の姿が見えない。
あの男子は一体何処へ行ったのだろう‥‥
大人の人に連れられて、私は東にやってきた。
初めての馬車で、お尻が痛くなってしまったが、四日ほど掛けて辿り着く。
違う馬車だったが、友達の唯ちゃんも一緒だったのは心強かった。
さすがに一人だけでは心細い。
それに大人の人の視線も怖かった‥‥
東の街に着いてから、色々と良くして貰える。
着る物や食事など、出来る限りの待遇だった。
あの視線以外は‥
元から視線を集めやすいのは理解している。
同年代、それよりも上の人と比べても大きく。友達との会話でも、よくからかわれていた。 男子からも‥
友達の唯ちゃんには『ちょっと分けて?』なんて冗談を言われたことがある。目が少し本気だったけど。
だけど、ここまで遠慮無し不躾な視線を貰うことは今まで無かった。
この不快な視線に慣れることはきっと永遠に来ないだろう。
それから何日がか経過した。
与えられた騎士や後衛役に護られながらの、【レベル上げ】?と言うモノをこなす日課。
夜は指定された、大きな屋敷で食事と睡眠。
そしてその屋敷には、例の大人の人が毎日やって来る。
今日の出来事や、レベルの上がり具合などを聞いてくる‥‥胸を見ながら。
数日が経過すると、今度はもっと露骨になってきた。
距離が近くなり、手を取られることも増えてくる。
同年代の男子とは違う、もっと年上。もしかすると、父に年齢が近いかも知れない男の人。不安しか感じさせない笑い顔。
私は友達の唯ちゃんに思わず相談してしまう。
そして、それが良い方向へ進む。
何度か一緒にレベル上げをしている後衛の人が、一緒に世界を回りながら冒険をしないかと言うのだ。
唯ちゃんはその人に誘われていたが、貴族の保護が無いような旅に、私を誘うのは躊躇っていたらしい。
だけど、大人の人から逃げたいのなら、一緒に行こうと。
そして私は、その誘いに乗る
それから色々とあった。
ごねる大人の人の説得には、勇者保護法を盾にしたらしい。
”勇者の意思を尊重する”これで押し切り、貴族から離れる事が出来た。
後衛の人、ハーティさん曰く。あのまま、あの貴族の下に居たら、きっと結婚か、それに近い事を要求されただろうと言う。
『結婚に近いこと』とは?っと訊ねると、
曖昧な笑みを浮かべて、誤魔化し、教えてはくれなかった。
それから暫くした頃。
私達は、【ルリガミンの町】に滞在することとなった。
何でも、レベル上げに適しているからだと。
そしてその言葉通り、私達のレベルは驚く程上がっていった。
そんなある日。
あの男子生徒に再び出会う。
勇者のパレードでも姿を見なかった男子。
一応情報は聞いていた。
勇者の資格を得られず、温情により、王都で保護されていたが、とある犯罪を犯し放逐されたと。
確かに、その情報に説得力を持たせるだけの怖い目をしていた。
そしてその横には、小さい女の子と、とても可愛い獣人の女の子。
彼女達が、噂の子なのだろうかと思った。
だが、その2人の女の子達は。
あの情報は、誤報では無いかと思わせる程の、表情と雰囲気を持っていた。
酷い事をされたようには、とても見えない。
あれは誤報なのだろう‥
そしてその男子と一緒にレベル上げをすることになる。
理由はハーティさんが、獣人の女の子の戦闘を見たいからだと。
飛び回るように戦う方法、じんたての勉強をしたいらしい。
ただ、スパッツを穿いているとは言え、女の子が飛び回るのは‥‥
凄かった。
じんたては、いつもパーティのを見ていたが、彼女のは別格であった。
離れて見ている私でさえ、時どき目が追い切れない程の動き。
ハーティさんが勉強したいと言う理由が理解出来る。
しかも、その子は若い。きっと私よりも年下。
パーティメンバーにも女性は在籍しているが、みんな年上。
同い年で唯ちゃんぐらい。
おしゃべりしてみたい。
休憩の時のオヤツに、彼女達を誘おう。
次の日。
前回は、飛び込みのような形での参加であった彼等が、今日は最初から一緒にレベル上げをする事になった。
生徒会の赤城君から、色々と噂の事を聞かされたが、確信を持って言える。あれは何かの誤解であると。
確かに奴隷として彼女達と一緒にいるみたいだが、
性‥‥奴隷では無いと思う。
――もっと別な何か‥‥
陣内君の奴隷さん達をオヤツに誘った。
本当は陣内君も誘いたかったのだが、唯ちゃんに猛烈に反対されてしまう。
彼女達とお喋りしてみたかったから、仕方なしに彼には遠慮して貰う。
そしてそれは、激しい後悔に近いモノとなってしまった。
次に誘えば良いかと思っていたけど。
『言葉!何言ってるの?あいつを誘うなんて!?』
再び唯ちゃんに反対されてしまう。
しかも――
『あ、そうだ!露骨に奴隷の子達だけ誘ってやろっと』
まるで彼から引き離すように、奴隷の子達を誘う唯ちゃん。
元から孤立気味の彼が、孤立から孤独に変わってしまった。
違う!そんなつもりじゃなかった‥
だけど唯ちゃんに強く言えない私も悪い。
一人離れた場所で座る彼。
楽しく談笑を交わすパーティメンバー。
彼が悪い訳でもないはずなのに‥‥
何とかしてあげたい。
魔法で傷は癒せる。
それなのに他は癒せない私。しかも今、彼を孤独にさせているのは自分の軽率な行動。
そして思い出し、思い行き着く。
彼は一番最初、お城のあの時から、孤立と孤独を受けているのだと。
気になる、可哀想な彼の事が気になって仕方ない。
不思議と、彼を癒してあげたいと思った‥‥
喧嘩が起きた。
理由は詳しく知らないけど、ハーティさんと陣内君が喧嘩していた。
両方ともボロボロになる程の激しい喧嘩。
私は知っている。
彼には回復魔法を唱えられる仲間がいないことを。
だから私は、パーティメンバーのハーティさんよりも、陣内君の下に走った。
驚いたことに、同じように彼の下へ駆け寄った人がいた。
この町でも、彼はどちらかと言うと嫌われている。
その彼に、私以外の人で駆け寄る人が?っと思っていると。
ここ一番の驚きだった。
駆け寄って来たのは、学校で一番可愛い女の子、葉月さん。
何故彼女が?っと疑問を感じ固まってしまう。
暫くの間、お互いに見つめ合っていた気がする。
それから色々あった。
時どき出会う陣内君は、いつも奴隷の子達の為に戦っていた。
しかも命懸けで。
そしてそれを、いそいそと私が魔法で傷を癒す。
癒す。
癒すと同時に、ふと思う。
奴隷の彼女達が羨ましいと。
こんな必死に護って貰っているのが羨ましいと‥
彼に好意があるかと言えば、ある。
好きか嫌いかで聞かれるならば、好きな方?
好きかと問われるならば、わからない。
少し気になる存在、陣内陽一はそんな存在。
いつも、奴隷を護るために奮闘している彼。
本当は、一番傷ついているのは彼なのに‥‥体も心も‥
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――――!?」
「言葉さん!逃げてぇぇぇ!!」
「っがあああ、くっそぉぉぉ!足が、動けよ!動けよぉおお」
「コトノハ様!」
「くそおお、このバケモノがぁ」
周りのみんなが私を心配している。
伊吹さんは、石の柱に寄りかかりながら、逃げろと声を上げ。
小山君は、噛み付かれて、千切れかかった足を引き摺り這いながら。
冒険者の人達も、必死になって私の名前を叫ぶ。
そして目の前には。
優に25メートルは超える存在。
黒色の竜が、私に喰い付こうと顎を開く。
もうMPが切れている。
身を守る防壁の魔法も唱えられない。小山君の足を治す魔法も唱えられない。
この異世界で、始めて強く感じる死の予感。
危険だとか危ないとか、そう言ったモノとは別次元。
選択肢が、死しかない瞬間。
昔の自分なら、きっと目をつぶり諦めていた。
今の自分は、必死に睨み返す。
何か出来ないか、自分が死んでも他のみんなが生き残れる方法がないかと。
この世の中、物事全てに解決法がある訳ではない。
後回しにすると言う解決法はあるかも知れないが、それは解決ではない。
解決出来ない事は沢山ある。
残念ながら、今がそうなのだろう。
みんなを護れない。
彼みたいに‥
覆いかぶさるように、私を食みにくる顎。
赤黒い口内、鋭く歪な歯並び。
その全てが私に降りそそぐ。
「――っだっしゃああああ!!」
黒色の竜に、漆黒の鏃が突き刺さる。
私の視界の右側から飛んできたソレは、竜の左目に深々と突き刺さる。
「間に合ったぁぁぁ!大丈夫か言葉?」」
「ああ‥‥」
漆黒の鏃は、人だった。
槍を持った黒色の装備で身を包んだ男の人。
「おい?大丈夫か?言葉」
その人は突き刺さった槍を手放し、地面に降立ち私に駆け寄る。
心配そうな顔、そして意志の強さを感じさせる瞳。
彼に好意があるかと言えば、ある。
好きか嫌いかで聞かれるならば、好きな方。
好きかと問われるならば、好き。
今この瞬間、私は恋をした。
読んで頂きありがとう御座います
感想などお待ちしておりおります
あと、誤字脱字などのご指摘も‥