‥語る
割った分の後半ですー
2人っきりの部屋の中。
今日は他に誰も入って来ないだろうと、理由の無い確信。
どちらが最初だったのか、それは分からない。だが――
俺は無意識にソレを求め、ラティもソレを差し出していた気もする。
俺はラティの尻尾を撫で。
ラティは俺に尻尾を撫でさせる。
ラティの語る話を、俺は彼女の尻尾を撫でながら黙って聞いていた。
ラティはある日、家のベッドで寝ていたはずが、突然起され。
気付くと、小汚い室内、奴隷商の館で目を覚ましたとのだと言う。
彼女が混乱する中、色白の奴隷商から親に売られたのだと吐きつけられ、赤首輪の意味を教えられたと。
この話でふと思ったのは、この奴隷商はイーレさん達では無いであろうと。イーレさん達であれば褐色の肌だから。
それからは、以前も少し聞いた、ラティの奴隷時代の話。
運がよいのか悪いのか、ラティは生き残るすべ、戦う技術とセンスがあり生き延び、そして俺に買われたと。その話の時に彼女から『初めてお会いした時は、わたし以上に凄い目をしていましたよ?』っと、フフっと可愛らしい笑みを浮かべながら感想も語ってくれた。
( ああ、確かに落ち込んでたな、)
ラティの語る内容で、予想通りの事が一つあった。
彼女は子供の頃、親以外の狼人達とは出会っていない。
それどころか、他の人にも会っていないようにも感じた。
他人と触れ合うきっかけが、奴隷として買われた時と言う事。
ラティの人見知りは、単純な人見知りとは違い、もっと別のモノなのかも知れない。人見知りと言うよりも警戒、他人とは常に自分を襲ってくるモノと言う認識。
そんな悲しい感想が、俺の心の中を占める。
そして最後にラティから。
「あの、ヨーイチ様、もしかしたらなのですが、」
「うん?」
「わたしには、名がありました。奴隷になった時に変わってしまいましたが‥」
「名、、?」
――前に一度言った奴か、
あの時は知られたくない感じだったけど、
「はい、それが狼人内で特別なのかも知れません」
「なるほど、貴族みたいな感じかな?」
「そうかも知れません。わたしの前の名は、ラティー・ラフィット・ロートシル」
『これが前の、わたしの前の名です』と、寂しそうにラティが呟く。
名前が変わる。
俺は一度だけそれを聞いた。そして見た。
ジムツーの名前に『ナツイシ』の名が追加されているのを。
だがラティは逆に消えたらしい。
ラフィット・ロートシルの意味。
――ッ物凄く知りたいっ
だけど、誰かに訊ねるとマズイ気がするな、
迂闊なマネは出来ないか、
そして最後まで。
人と狼人では子供が出来ないと言う話には、お互いに触れなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
すべての話を終えると、俺はラティを部屋に残して外に出る。
明日の予定も確認しなければならない。
ラティからは、西を一人で歩くのは危険ですと注意されるが、俺はしっかり警戒するから平気だよと返事を返して宿を出た。
向かった先は、ガレオスさん達が宿泊している宿。
道は分からなかったが、パーティのサリオを示す矢印に従い向かった。
宿の食堂では、ガレオスさんだけが待っており。
「お?やっと来たか、」
「えっと、スイマセン買い出しの仕事全部まかせちゃって」
ガレオスさんに目で席を勧められ、俺はガレオスさんの対面に腰を下ろす。
「まぁそれは別にかまわんさ。それよりも済まなかったなダンナ。まさかあそこまで暴走する奴だったとは思わなかった」
「小山の一番弟子ですからね、師匠の馬鹿に似たんでしょ」
「はは、なるほどな、確かに勇者コヤマ様に似ているな」
「で、話しがあるのですよね?一人で待っていたんですから」
「ああ、まず明日、竜の巣に向かう。それとそのメンツなんだがな‥‥、オッドも参加するんだ。一応戦力にはなるし、コヤマ組のメンバーだから安易に外せ無くてな‥」
致命的な欠点があればそれを理由に、救出メンバーからは外せる。
だがそれは、特にコレと言った理由がなしでは外せないと言うことでもある。
自分も陣内組を率いて学んだ事だ。
ある程度の集団で行動するのであれば、個人的過ぎる感情では理由にならないと。そうガレオスさんは俺に言っているのだ。
そしてやはりガレオスさんだと言うべきか。
「あ~~それとな、しっかりとアイツには一応言い聞かせたから。どういった経緯だとか事情、それとダンナがどれだけラティ嬢をまもってっているかとかな」
「・・・」
何故かガレオスさんは、『まもって』と表現し、しかも棒読み。
( ぐぬぬ、)
「もうアイツから言って来る事はないと思うぜ。もし言ったらメンバーから外すって脅しといたしよ。その辺も、ちゃんとハーティにも伝えてある」
ガレオスさんは、やることをしっかりとやり、そして根回しも完了していた。
言外に、『だから安心して来いよ』と言っている。
その後は、2~3ほど明日のやりとりを話し、宿を後にする。
それと、サリオとテイシは、ガレオスさんの宿に泊めるとも言ってくれた。
「は~~、西に来てから、お世話になりっぱなしだ。これが映画か物語だったら、ちょっとした死亡フラグだな‥‥ガレオスさんの、」
俺は少し不吉なことを口にしつつ、ラティの待つ宿へと帰っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日。
指定された時間、朝6時にガレオスさん達が泊まっている宿の正面に向かう。
太陽はまだ上りきっておらず、視界に入り少し眩しい。
早朝の為か、歩く人も疎ら。
何となくだが、昔を思い出す。
異世界に来た当初。
俺とラティの2人で早朝から城下町周辺での魔物狩り。
約一年ほど前の事を思い出していると、不意に一つの出店が目に止まる。
「あ、」
「あの、どうなさいましたご主人様?」
「ああ、ちょっと買い物かな」
「あの、買い物って、あっ!」
芝居じみた仕草で、購入したサンドイッチをラティに手渡す。
すでに朝食は済ませたにもかかわらず。
俺の意図を察したラティがそれに付き合ってくれる。
「あの、ありがとうございます!ご主人様。奴隷は基本的に朝食は無いものですので、とても嬉しいです」
あの時よりも凛とした綺麗なお辞儀。
背が少し高くなっており、髪の色も輝いているせいか、より綺麗に見えた。
俺達は、少し落ち込んでいた気持ちを軽くし、集合の場所へと向かった。
が――
何故か、集合場所は重い空気に包まれていた。
その理由の一つが、橘組が勇者橘が一人だけと言う事。
集まっているメンツは。
伊吹組7人、三雲組9人、陣内組4人、小山組4。
どうやら橘組は、みんなレベルが低く、今回は外されたのだと言う。
強い仲間を引き連れる事が、勇者としてのステータスだとすれば、橘は赤っ恥をかいていると言う事であろう。
俺は気になり、前の防衛戦の時のメンツを探すが見当たらない。
何かあったのだろうか。
「勇者橘様、今回は助っ人で来て頂いているのですから、勇者様が居れば問題無いので」
「‥うん、」
落ち込み気味の橘を励ますハーティさん。
そして、その後ろでは、ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべる三雲。
橘を励ましているハーティさんだが、ハーティさんとガレオスさんがメンツを仕切り厳選したはず。慰めてはいるが、橘組のメンツを外した張本人でもある。
そんな面倒な空気をガレオスさんがまとめ、俺達は竜の巣へと向かう。
竜の巣は水上都市から少し西に外れた場所。
位置や周りを囲う砦は、ノトスの深淵迷宮と似ていた。
だが、地下は全く違っていた。
事前に聞いてはいたが、その広大さに俺は驚く。
一言で例えるならば、地底世界。
高さ20メートルはある、大木のような岩の柱で支えられた高い天井。
他の地下迷宮のような迷路などではなく、ただの広い空間。
生活魔法の”アカリ”程度では、その奥が見渡せない程広大な空間であった。
「ほへ~~、ひっろい場所なのよです」
「アタシは久々だな、この竜の巣は」
サリオとテイシが感想を呟く。
俺はただただ、この広大さに言葉を失う。
そしてそれと同時に、戦闘のことを考える。
――この広さなら、弓の射線を取れるな、
三雲と橘が十全な力を発揮できるな、よかった、
弓は狭いと微妙だからな、それと囲まれないように注意か、
俺は広さに合わせた戦いを考えていた。
弓の力を発揮出来る空間はあるが、壁などが無い分、横や背後にも注意が必要だと。
――ラティの索敵をフル活用だな、
あとは、サリオには光の強い”アカリ”を用意してもらうか、
俺達はそこそこの不安を抱えつつ。西のゼピュロス領、竜の巣への、勇者救出作戦を開始するのだった。
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