ゼピュロス
短めですいません;
特急馬車で西のゼピュロス領を目指し、四日目。
俺達は、大したトラブルも無く西の大都市、水上都市ゼピュロスへと辿り着く。
ただ、小さなトラブルがあり。ラティの簡易入浴を覗こうとした、馬車の同乗者が、間違ってサリオを覗いてしまい。他の同乗者からロリコン野郎の称号を貰ったぐらいである。
少し予想外だったのは、その覗いた馬鹿を一番きつく縛り上げたのは、猫人冒険者のテイシであった。
彼女は色々とその馬鹿を追い詰めて、最終的には慰謝料として金貨3枚を巻き上げ、それをサリオに渡していた。
戦闘でもコンビを組むことが多い2人だが、意外にも戦闘以外でも仲が良い様子。
そんなこんながありながら、やっと辿り着いた水上都市を、遠巻きに眺める。
水上都市。
俺は途中の馬車の中で、ゼピュロスについて簡単な説明を受けていた。
水上都市は、直径約10キロほど丸い湖の水上に建設されており。
その都市は、アクアダイトと言う金属の上に建造されているそうだ。
俺が『沈まないのか?』と、馬車の同乗者に訊ねると。
『はぁ?アクアダイトが沈む訳無いだろ?』っと呆れ顔で返された。
アクアダイトとは、水に浮く性質のある金属で、直径10センチほどの板であれば、成人男性が水の上で立てる程だと言う。
木よりも何倍も浮力があり、西では船などにも使われているそうだ。
ただ致命的な欠点として、真水でしか浮ばないらしい。
これが海水などの真水とは違う液体だと、呆気なく沈むのだという。
まさにファンタジーな金属である。
西の水上都市ゼピュロスはそれを使い湖の上に存在している。
水辺が近くにあると、水路を使った運搬や、それに魔物が水の上では沸かないと言う利点もあるようだ。
そして今、その水上都市に入る為に、入場のチェックを受けている。
都市へと伸びる桟橋。
その手前に石門を作り、入場者のステータスプレートをチェックしている兵士。
そしてその兵士達が――
「は?なんだコレは!ふざけているのかお前!」
「はぁ、またか」
「あの、ご主人様?」
「やっぱり引っ掛かったのですよです、」
「ジンナイはいつもそうなのか‥」
俺のデタラメなステプレに文句を言う門番の兵士。
ある意味、しっかりと仕事をこなしていると言うことなのだが。
「えっと、どうすっかな、」
「あの、それでしたら、中にいるはずのガレオスさん達に、お願いしますか?」
「そういやジンナイ様、ノトスでもそんな感じでしたのです」
俺の奴隷であるラティとサリオは、俺が近くに居ない状態では、門を通過する事が出来ないので。ここはテイシにお願いし、門番と話しの付けれそうなガレオスさん辺りを呼んで貰うことにする。
『じゃ、行って来る』そう短く言い残し、テイシは門を通過しガレオスさん達を呼びに走っていく。
――ああ、マジでアムさんには感謝だ、
テイシさんを付けてくれなかったら、門通るのも一苦労だったな、
ガレオスさん達の居場所は知らないので、テイシには取り敢えず、ゼピュロス公爵家に向かってもらった。
そこで事情を話して聞けば、ガレオスさんの居場所は判る。
少し時間はかかるが、仕方無いかと思っていると。
「そろそろ来ると思ってたぜ英雄さん、どうせまた門で足止めされたんだろ?迎えに来てやったぜ」
「ガレオスさん‥」
「ジンナイ、すぐそこで会った」
ガレオスさんは、俺達が到着する頃だろうと予測し、迎えに来てくれていた。
しかもその言動から、俺がすんなりと都市には入れないと思っていた様子。
( くそ、助かったんだけど、何故か悔しい、)
俺達は再会の挨拶を軽く交わし、それからガレオスさんの説明で、俺達は無事にゼピュロスに入ることが出来、そのままガレオスさん達が滞在している宿屋の食堂へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿の食堂に着いて暫くすると、勇者三雲と転生者のハーティさんもやってくる。
三雲は俺達を確認すると、ほっとした笑顔を小さく見せるが、すぐに辛そうな表情へと変えていき、横のハーティさんも少し辛そうな感じに見える。
2人の表情から俺が読み取れたのは、厳しい状況という事。
まだ詳しい話しは聞いていないが、楽観出来ない事態なのだろう。
そして、俺はガレオスさん達から詳しい状況を聞く。
◇ ◇
「なるほど、東の影響が思ったよりも来てたのか‥ったく、椎名‥」
「そうみたいだなぁ、しかも追加の魔王情報でも面倒な事になってんだろ?」
「あ、わたしがガレオスさん達に話したの、魔力の渦のこと」
三雲達も魔力の渦の件は知っていた。
彼女は正式な勇者なのだから、それは当然なのだろう。だが勇者が不在の伊吹組、ガレオスさんが知っていると言う事は、どうやら三雲組と伊吹組の関係は、中々に親密な関係になっている様子。
しっかりとした情報交換をしているのだろう。
そしてその二組が、互いに勇者を一人づつ行方不明。
それと西側に所属の勇者小山。この三人が行方不明。
ガレオスさんとハーティさんからの話では。
西の地下迷宮である、【竜の巣】の探索は途中まで順調だったらしい。
だが、地下迷宮では想定外はつきもの。
当然、ある程度は想定していたらしいが、それが重なったそうだ。
足場の崩落と予想外の強敵の魔物。
これが二つ重なり、今回の勇者行方不明になったのだと言う。
西の竜の巣に湧く魔物は魔法生物が多いらしいのだが。
名前の由来と言うべき、竜が多数生息する地でもあるらしい。
最強種の一角ドラゴン。
通常の固体であれば問題は無かったのだが、明らかに上位。
しかも、放出系のWSはほぼ効かず弾かれ。遠隔や放出系に編成が偏っているハーティ組は苦戦、対抗出来るのは、大剣使いの伊吹ぐらいだったそうだ。
当然戦いは苦戦、巨体の竜と戦い続けているうちに、ここ最近の地下迷宮拡張で脆くなっていた足場が崩落。それでパーティは二つ分かれる事になったのだと。
下に落ちたのは、勇者の他には冒険者が4人。本来なら絶望的。
だが希望はあると言う。それはパーティの位置を示す矢印が健在。
これがお互いに希望となっている。
他にも食料などの心配もあるが、それは前の深淵迷宮探索の経験を生かし、前よりも大目に食料や飲み水は積み込んで行ったと。
そして落ちたのは勇者3人。3人分の【宝箱】があるので、まだまだ余裕はあるだろうとガレオスさんは言う。
一応残ったメンツで再アタックをしたそうだが、奥に進むとドラゴンに行く手を阻まれ、救出は断念。
『オレがもっとしっかりと”重ね”を使えていれば』と、ガレオスさんが嘆いていた。
手前側の雑魚魔物は問題無い。
だが、矢印が示す先にはドラゴンが多く、中堅の冒険者達ではどうしよもなく。今回の依頼を公爵家を通してお願いしたのだと言う。
今日か明日辺りには、西の公爵家に所属する勇者も合流するだろうと教えてくれた。
急遽連絡を取り、呼び戻したそうだ。
武者修行のように異世界を回っている勇者を。
そう、勇者が増えれば戦力もそうだが、【宝箱】が助かるのだ。
物資の運搬は、戦闘をこなすのと同じぐらいに大変であり、馬車が使えない地下迷宮では、その価値は計り知れないモノとなる。
勇者が多ければ、それだけ探索出来る速度があがる。
俺はその勇者が誰なのか、ふと気になり、それを訊ねようとすると――
「ふん、何でアンタがいるのよクソ陣内。アンタは南に居たんじゃないの?」
「な、西に所属の勇者ってお前かよ、」
「帰ってきたのね、それと陣内をクソ呼ばわりするのは、いただけないわね」
「はぁ?あなた三雲さんよね?知らないの?コイツが他で何をやって来たのか、前に南でも防衛戦でも村の空気悪くするし、」
「お前が言うか、それを‥」
俺達の後ろで、偉そうに仁王立ちをして睨みをきかせているのは。
ポニーテイルの方の弓使い、勇者橘 風夏であった。
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