西へ
遅れました、ちょっと区切りなので短め、
アムさんから唐突に、勇者達の3人が地下で行方不明だと知らされる。
それを聞いて固まる俺に、アムさんは把握している限りの情報を話すと言い、俺達を屋敷の接客室へと案内した。
今回の件は勇者絡み。
とてもではないが、家先で話して良い内容ではないのだろう。
案内された部屋に入ると、ちらりと隠蔽感知のアクセサリーをチェックする。
ラティも自身の指輪を確認し、周囲に誰か潜んで居ないかをチェックしている。するとラティが扉に反応を示し、俺もそれに釣られて扉の方に顔を向けると。
「おう陣内!戻ったのか、中央から連絡が来たからって俺も呼ばれたぜ」
「上杉?」
上杉がノックもせずに、呼ばれたから来たと言い、接客室に入ってくる。
てっきり俺は、アムさんと俺達だけで話をするものだと思っていた。
だが、アムさんは上杉も同席させる。
――なんで上杉が、
アムさんは上杉相手には話さないと思ってたけど、
勇者の件だから一応話すのか?でも、なんでだ‥
訝しむ顔をしていると、それを察したのか、アムさんが上杉を呼んだ訳を話す。
「ジンナイ君、多分彼の協力が必要になると思ってね‥」
「上杉の?」
コホンと一つ咳払い、一度仕切り直してからアムさんが話しを切り出す。
「まず先に、中央から魔王に関する報告が入った」
「魔王‥」
「まお、う?」
――おぃぃぃぃいい!
ちょっと~?上杉?お前忘れてんじゃないだろうな、
アレ?なんだっけ?ってみたいな顔してんだけど、大丈夫かコイツ、
流石のアムさんも、一瞬顔をしかめたが瞬時に立て直し、話しを続ける。
「ん、中央の城から、魔力の渦の流れが前より酷くなったと報告が来た」
「ああ、東の方がおかしくなったって言ってた奴か、」
「魔力?渦?」
限りなく俺達を不安にさせる上杉はほって置き、俺達は話しを進める。
アムさんが中央から知らされた魔王に関する情報は、魔王発生の予兆である、空に集まる魔力の渦が、東側で大きく崩れ。まるで、もう一つの渦が出来上がってきていると言うのであった。
本来は一つの渦が、ある一定の大きさになると魔王が発生する。
今回は、ソレが大きく違うらしく。
警戒せよとの連絡が来たと、俺達に伝えてきた。
だが正直な所、『だからどうしろと?』と言う気持ちだ。
そして次は、俺にとって本命の話。
西に向かった勇者達、3人の行方不明の件を聞く。
実際に行方不明になっていたのは。
言葉、伊吹、小山の三人。
どうやら、三雲は無事のようだ。
詳しいことは不明だが。勇者達が、西にある地下迷宮で行方不明になったと、ゼピュロス公爵家より、中央を通してノトス公爵家に長距離連絡が来たそうだ。
この長距離連絡魔具シェルパールは数が少なく。
あるのは中央の城と四大公爵家、それと聞く事しか出来ないが、ルリガミンの町に一個あるだけ。
この連絡手段は基本的に緊急時のみ。
政治的な駆け引きや、商売や利益を生み出すようなモノには、使用が禁止されている。
防衛戦の参加者募集など、有事の際には使えるが、私用などには一切使えない。
今回は勇者の危機と言うことで使用許可が出たのだという。
少し横に逸れるが。俺はアムさんに以前教えられた事を思い出す。
このシェルパーを使った連絡は、常に中央を通すのだと。
他の四公爵同士では連絡が出来ず。
他の公爵家に連絡する際には、必ず中央の城経由となる。それ故、不必要な連絡などは一切取り合ってもらえず、それが抑止力になっていると言う。
抑止力。
一部の公爵家同士が結託など出来ないように、中央が管理。
そしてそれを仕切っているのが、宰相のギームル。
アムさん曰く、他の四公爵家を、上手にバランスを取りながら抑えれているのは、そのギームルだからこそ。彼はそれだけ卓越した人物なのだとと、腹立たしい説明を受けていた。
このシステムのお陰で、他の公爵家が余所の公爵家などに侵略したとしても、中央から他の公爵家に連絡が行き。攻めた方は、1対4と言う不利な形になるので、それも抑止力になると説明もしてくれていた。
そして今回は勇者達が危機なので、他の公爵家などに援軍要請を出したと言うのだが、一つだけマズイことがあると言う。
それは――
「ジンナイ君、これは急いだ方がいいかも知れない、」
「わかってます、いくら危険があるからってアイツ等を見捨てるような事は‥」
「いや、それだけじゃないんだ、もしこれで他の公爵家が救出したとしよう。そうするとソレを盾に助けた勇者達を引き抜く恐れがある」
「―ッ!?」
勇者を強引に勧誘するのは原則的に禁止。
本来、勇者保護法に引っ掛かるのだが、何かしらの理由を付けての勧誘であれば、通る可能性が高いという。
しかも今回は、伊吹、言葉、三雲は何処にも所属していないフリー。
最悪、北に取り込まれると厄介だと言うのだ。
それと――
「ジンナイ君、今回の救援要請の文なんだけどね、『勇者3人行方不明。援助乞う。英雄来たれ』って来たんだ最初は」
「その後は簡単な状況説明が続いたけど、これの意味わかるよね」
「ええ、分かります。だけどその間は陣内組は休業かなぁ、」
俺は迷わずに、行く事を決めていた。
もしかすると、一昔前の俺だったら、躊躇ったかも知れない。
だが今は、行けると言う自信と、助けたいと言う気持つが強く芽生えてた。
ラティとサリオを見る。
ラティは無表情気味。だが何処か、『仕方ないお人ですねぇ』といった顔。
サリオは、『またお風呂がおあずけな日々なのですよです』と呟きながらも、行く気満々の表情。
今からすぐ出発したいが。
「まずは陣内組にしばらくお休みだって伝えないとだな、」
「あの、わたしが走ってお伝えしてきますか?」
俺達が居ない間、魔石魔物狩りは休業にする事にする。
俺抜きでも問題は無いのだが、霊体タイプの魔石魔物が沸く可能性がある状態。
なので、この街から暫く離れている間、無難に休みにしようとしたが。
「待ってくれ。ジンナイ君が不在の間は、勇者ウエスギ殿にお願いしようかと」
「へ?」
「お、おぅ?」
アムさんから、俺が不在の間。勇者上杉を助っ人として陣内組に参加して貰い、魔石魔物狩りは続行して欲しいと提案を出してきた。
今の陣内組のメンツであれば、余程の事故でも無い限りは問題は無い。
だが、一応安全に、っと言う意味で休みにしようかと思っていたが。霊体相手でも十分に戦える上杉が居るのであれば、休む必要は無くなる。
そしてそれは、魔石の安定供給に繋がる。
アムさんとしても、陣内組に休んで欲しくなかったのだろう。
断る理由も無いので、俺はアムさんの提案に乗ることにする。
チョロイ上杉は、頼られれば簡単に頷き、助っ人として入る事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、行方不明の報告を受けた日は、各所に報告や根回し、それと旅の準備に時間を費やす。
そして次の日、早朝から西行きの馬車に乗り込む。
急ぎなので、移動補助魔法を使える後衛役を乗せた、超特急馬車。
今回、陣内組はノトスで稼ぐ為、西には行かず、俺達3人だけでの西行き。
陣内組は、本来魔石魔物狩りがメインの集まりのなのでそれは仕方ない。
そう陣内組はノトスだが。
「ジンナイ遅い!アタシ待ってたよ」
「へ?テイシさんなんで‥?」
「ひゃっほーい!テイシちゃんです!」
「アムさんからの依頼。アタシも付いてけと」
「はは、さすがアムさん、確かにテイシさんは陣内組じゃないし、よく考えたら、あの場に上杉が居たのも俺が不在でも平気なようにって配慮か、参ったな」
気付くと俺はまたアムさんにフォローされていた。
他にも、この早朝の超特急馬車もアムさんからの配慮。
俺はアムさんに深く感謝しつつ、西へと向かったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想や、ご指摘など頂けましたら嬉しいです。
ちょっと多忙に付きバタつきちゅ!