‥知る
すいません、分割した後半なので短め、
この異世界の舞台やお芝居は、アドリブが基本。
極端な例えになるが、音楽のジャズやノリの良い即興バンド。
基本のメロディに寄り添うように、演奏者がアドリブで楽しむ。
それがこの異世界のお芝居なのだが。
「おい、ちょっと悪意に満ちてないか?今の‥‥」
「え?ジンナイ様こんな感じでしたよです」
「‥‥‥」
芝居は何処かの防衛戦を演じていた。
主人公はお金を稼ぐため、防衛戦が地下迷宮よりもお金を稼げると聞きつけ、今度は無謀にも防衛戦に参加。
だがその防衛戦では、実力が見合わず完全なお荷物状態。
途中で参加した小さい少女と、奴隷の狼人娘に助けてもらいながら、情けなく逃げ惑う主人公。俺はそれを見せ付けられる。
主人公の手に持つ武器は槍。
だがその槍はほとんど杖のように使われ、周りからは杖をつく老人かよと嗤われる。
それに合わせて観客からも、ドッと笑いが湧き上がる。
「あ~~確かにちょっと違うです、あの時はカカシ野郎でしたよねです?」
「っそこじゃあねえよ!」
防衛戦の話はザックリと進み、そしてヒロインの強さに惚れたと言う、偉そうな男が出て来る。
「おい!お前。お前は奴隷商だな?いや、奴隷商だ!だからその狼人の娘を我に寄越せ!なあにタダとは言わん。金貨100枚出そうではないか、がっはっは」
防衛戦に参加していた偉そうな男に、奴隷を無理矢理買い取られそうになる主人公。
ここで照明落ちて暗闇に。
そしてまた主人公の独白が始まる。
『金貨100枚か、売り時かな~、でももっと高く売れるかもな~もったいないな~。よし逃げよう!彼女はもっと高値が付く。高嶺だからっな!うまいこと言った俺!』
( うまくねぇよ!)
俺は見ていて、何故かとても恥ずかしくなっていた。
その後も珍道中は続く。
懲りずにまた防衛戦に参加する主人公。
ここでは防衛戦に参加していた、弓を持つ女と大剣を持つ男の2人を相手に喧嘩をし始める。
『この役立たずが!金だけせびりに防衛戦に参加しやがって図々しい奴だ!』
『全くだわ、WSを打てないのに参加するだなんて‥』
『うるせい!うるせい!俺には2人の奴隷がいるんだ!彼女達が俺の分まで戦うんだよ!文句あんのか!?』
『文句しかないよな~?』っと客席側に同意を求める大剣持ちの男。
客席側に聞いた後は、耳に手を添えて返事を待つポーズを取る。
どこぞのレスラーのような愛嬌のある仕草。
客席からは『ひでぇ』『男の風上にも‥』『お前が戦えよ!』など、ノリの良い合いの手が入る。
そして俺の隣では。
「ぶはっはは!言われてますよです、ジンナイ様」
「俺じゃねぇっての、言われてんのはシンナイだろうっが!」
「――ッぎゃぼふ!」
ミシミシと音が鳴るくらいに、サリオの頭蓋を鷲掴みにする。
「そういやサリオ、お前よくボン・キュ・ボンになりたいって言ってたよな?俺が頭をボンにしてやるよ」
「ぎゃぼぼ!その『ボン』違いますです!そのボンは駄目なボンです。ホラーになっちゃ、ああ!頭の中から聞こえちゃマズイ気がする音がするです!ボンするです!ホントにボンしちゃうですーーー!」
幸い騒がしい場面だったこともあり。
俺とサリオが騒いでも問題なく芝居は続く。
今度も奴隷の買取を求められ、奴隷狼人ラフラティアの値段は金貨400枚まで上がり、それを主人公が悩みながら断っていた。
『ああ、400枚か‥、それだけアレば‥だけど何故か売りたくない、何故売りたくないのだろうか?な~~ぜ~~~なのか~~~♪』
心の葛藤をワザとらしい芝居で表現する主人公。
『そうかコレは、俺が彼女の主でありたいと、それと‥‥』
主人公は頭を抱え、大袈裟に体ごと首を振り苦悩する。
『俺が主でありたいと言う願い?違う、独占欲?それも違う、この気持ちはなんなのだろうか。ああ、だが分かることもある、彼女の主でいてやろうという俺の中に生まれた気概だ!』
主人公が独白を続け、己の中で一つの答えを出すシーン。
主人公の無軌道な行動に、馬鹿馬鹿しさを感じならも微笑ましく見ていた客席が、一瞬だけ静まる。
それから物語はグングンと進み、町を追われ、冒険者にも追われ、最後に一つの街に行き着く。しかし、そこでも奴隷の買取を持ちかけられ、提示された金額は金貨1000枚。
しかも買取を希望した男は、街一番の権力者。
立場的にも、金額的にも売ってもおかしくない状況。
だが、ここで主人公はその取引を突っぱねる。
いつの間にか、その奴隷を愛してしまっていると告白し、そしてその告白を奴隷の狼人少女が受け入れる。
ここまで表情の乏しかったヒロインが、ここで最高の笑顔を見せる。
ほっとしたような、待ち望んでいたモノが叶ったような、そんな希望に満ち溢れた笑顔を。
それを目の当たりにした権力者が、その2人を認めてハッピーエンド。
民衆がいかにも好きそうなご都合主義のハッピーエンド。
めでたしめでたし。
こうして物語の幕が閉じた。
失意の中で、男は偶然買った奴隷と日々を過ごすうちに、彼女を愛してしまい。
売るつもりであったが、一緒になると言う物語。
ある意味王道の物語。
俺は決して嫌いじゃない、寧ろ好きな方である。
客からのウケも良かったらしく、皆が満足げな顔を浮かべ芝居小屋を出て行く。
だが俺は――
――ががあああああああ!?
コレは、えっと、ええええ――?
いやいや、アレはシンナイだから‥‥
心が乱れる。
金貨400枚辺りでの下りから、なんとも言えない気持ちになっていた。
何故か、ラティの顔が見れなくなっていた。
今、どんな顔をしているのかが怖く。同時に俺の顔も見られたくなく。
まるでシンナイのように、心の中で葛藤をする。
俺はラティが好きだ。
見た目もスタイルも全てが好み。
もし理想の容姿を浮かべろと言われたら、間違いなく彼女が浮んでしまう。
性格の方も姿に負けないくらいに好きだ。
それは、好き、好み、好意‥‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日は、その”狼人売りの奴隷商”だけを見て帰った。
他のを見れる気分ではなくなっていたのだ。
珍しくサリオも、それに同意してくれる。
『入ったら大火傷する』と、最初に予想はしていた。
だが、それは火傷ではなく。いまだに火が付いたままのナニか。
ナニかに、火が付けられた感覚。
俺はモヤモヤを抱えたまま、公爵家屋敷に戻る。
途中の帰り道で、ふと思い出す。
――あ~~、
最近増えた、ラティを買いたいって奴らはアレ観たのか、
影響を受け易い異世界人。
もしかすると、劇中のモデルになった人物を手に入れたいだけなのか。それとも他にもっと考えつかないような理由があるのか。
どんどん大きくなるモヤモヤを抱えつつ、公爵家屋敷に戻ると。
「お!丁度よかった、いま探しに行こうかと思っていたんだよ」
「アムさんどうしたんですか?俺を探しにって、急ぎの防衛戦とかですか?」
俺達が公爵家屋敷に戻ると、屋敷の門前でアムさんに出迎えられる。
どうやら急ぎで俺を探そうとしていた様子。
そしてアムさんから、用件を伝えられる。
それは抱えているモヤモヤを吹き飛ばす内容――
「西に行ったガレオスから連絡が来た、勇者達の3人が地下で行方不明だと」
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