劇で‥
すいません、忙しくて、話を分割に;
翌日、俺達は逃げ出すようにして外出していた。
理由は何となく‥。
具体的に言うと、不穏な空気に耐えかねて。
俺達がいま住んで居る離れに、新しいメイド?が増えたのだ。
それはリーシャ。
彼女は、父親のドミニクさんと一緒にノトスの街にやってきた。
例の騒動。俺を捕縛する作戦は、ドミニクさんがその情報をアムさんに伝え、そして俺を助けた形になる。だがそれは、万が一ではあるのだが、ドミニクさんもターゲットの一人になるのでは?っと、いう話に繋がった。
念話での通信を出来た男が、その情報を北に伝えた可能性が出てきたのだ。
北から派遣されていたであろう兵士達が、何人かいつの間にか離脱しており、行方が判らなくなっていた。
それに加え、リーシャも誤解とは言え、一度は兵士に捕まった事が知れ渡り。村からは腫れ物扱いをされており、あのまま村に居ても碌な事が無いだろうと判断し。アムさんのはからいで、公爵家屋敷の離れ、俺達の住んで居る場所で働くこととなった。
アムさんからは、『もしかするとレイヤが連れていかれるかもだから、一応予備に‥』と聞かされた。
流石にそれは無いだろう、と思ってはいるが。
ジムツーのアタックがかなり激しいらしい。
父親のドミニクさんは、熟練の冒険者と言う経験を買われ。
周囲の魔物討伐部隊、それと防衛戦の監視役として働くこととなった。
因みに、監視役だったエルドラさんは。ナツイシ領の文官?と言うお仕事を与えられ。渋い顔をしながらナツイシ領に向かって行った。
アムさん曰く、今このままジムツーをナツイシ領に返すと。最悪事故死、もしくは病死の可能性があるので、保護と言う形でノトス公爵家の客間に滞在させている。
それに合わせて、勇者上杉と、嫁のセーラも滞在している。
渋い顔をしてナツイシ領に向かったエルドラさんは、きっと厄介な政治的な部分や、内政をすべて押し付けられた形なのかも知れない。
その話を聞いていると、戦国時代の人達を何となく思い出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何故か、雰囲気がギスギスするレイヤとリーシャの2人から逃げ出し、予定していた芝居を観に、芝居小屋が密集しているエリアへと向かう。
サリオからの話だと。
この異世界では舞台や芝居などが盛んで、もっとも勢いのある娯楽だと言う。
その理由は当然、歴代勇者達が好きだったから。
俺の予想では、テレビやネット動画などといった、視覚で楽しむモノがこの異世界には少ない。だから、それを補う意味で、舞台や芝居などをよく観ており。結果この異世界では芝居などが、かなり流行っているのだろう。
実はリーシャも芝居や演劇などが好きらしく。
サリオの話に喰いつき、俺にも色々とご教授してくれた。
内容は。
この異世界では、台本などはあまりシッカリとしておらず。大まかな荒筋を作り、それに付け足していくような感じらしい。
台本4割、アドリブが6割といった比率で構成されており、同じ話でも、出演している役者によってかなり変わり。面白く出来の良い芝居の時を、神回と言うらしい。
そして芝居好きの連中は、その神回を求めて同じ演目でも観に行くとか。
俺はその事を思い出しながら、ふとサリオに訊ねる。
「サリオ、見たい劇ってか芝居あるのか?」
「ほへ?特に決まってはいないですが、一応希望みたいなのはありますよです」
「ん?どんなのが希望なんだ?」
俺はサリオの希望する芝居を観ようと決めていた。
この前の大逃走では、サリオには結構頑張ってもらったのだから。
それを労う意味も込めて、サリオの希望するお芝居を観ようと。
そんなことを考えていると、ラティが突然警戒し始める。
彼女は口に出して「警戒を」っとは言っていないが、彼女の所作で判る。
――コレは‥
このラティの足運びは、アレか、
横を歩いていたラティが、まるで重力を感じさせない軽快なステップで移動し、俺の後ろへと回り込む。
ラティがこの動きをする時は――
「其処の横ッ‥後ろに隠している狼人を我に譲ってくれ!」
「‥‥やっぱり、」
ラティが軽快なステップで、俺の後ろに回り込む時。それは背後の警戒などではなく、面倒な相手が彼女に絡んで来た時に回避する動作。
「頼む!金貨500枚出そう!その狼人奴隷を譲ってくれんか?」
「‥‥はぁ~、」
ここ三日程前から、ラティを譲って欲しいと言う奴が出てきていた。
今も必死に、俺に売って欲しいと40代ほどの小太りの男が交渉に来ている。
その身なりから、そこそこの金持ち。
だが当然。
「お断りします」
「うう‥やはり‥金貨千枚でないと駄目かぁ、」
――アホか、
千枚だって売らねぇよ、
そもそも、幾ら金を積まれたってラティを売るかよ、
ラティは、奴隷である自分の身に降りかかるであろう交渉事などの時は、俺を立てているのか、それとも別の理由なのか、ほぼ俺の後ろに身を隠す。
一見、俺が庇い『話は俺が聞く!』的にカッコよく見えるのだが、実は違った。
ただ、ソレはソレで気分はよかった‥頼られている感じが。
「ほへ~~、最近ラティちゃんモテモテですねです」
「あの、そんなことはないと思うのですが、」
「いあいあ、最近ラティちゃんは綺麗になって来たしね、大人?っぽくなって来ているよですよ!大人の色気が段々あたしに迫って来てるのです」
「はぁ、?」
「――ッ迫ってねえよ!逆だ逆!、3回の裏コールド負けぐらい差付いてんぞ」
「ぎゃぼーー!?」
俺達は、いかにも休日らしいアホなやりとりを交わしながら、目的地に辿り着く。
そこは映画館のように並び、人目を引く大きめな看板。
そして人の好奇心を擽る、簡単な荒筋を語る客引き達。
流石は人気の娯楽と言うだけの事はあり、中々の人だかりだが。
「これがラスト公演の”弓乙女”だよ~!見逃すと次はもうないよ~」
「おいおい、一昨日もソレ言ってただろお前、」
「ソンナコトナイデスヨー」
「なぁサリオ、前ってここまで凄かったけか?」
「なんかすっごい人が増えてますねです、」
芝居を観に来る人が前よりも明らかに増えており、そしてそれに負けないぐらいに、芝居側も熱を持っていた。
「あの、きっと活気出て来たのでしょうねぇ、」
「うん?活気って、」
「この前、アム様が言っておられました。魔石の流通が増えて価格が下がると、今まで魔石に頼らなかった部分が魔石に任せれるようになり。その分ゆとりが出来てきたと」
「あああ、あれか、確かに言ってたな‥」
俺はアムさんとの会話を思い出す。
アムさんは、魔石魔物狩りの恩恵を俺達に伝える事で、ヤル気の向上やモチベーションの維持などを意図して、予測出来る成果を俺達に説明していたのだ。
それは――
生活魔法アカリは、MPの少ない一般人には長時間はキツいが、それを魔石が補い。井戸から苦労して引き上げている水を気軽に作り、様々な所で恩恵があると、説明をしていた。
そして今、その成果の一つを目の当たりにする。
――ホントは、ただの金策だけど、
こうやって良い結果が出ると素直に嬉しいな、
目に見えて貢献が出来ていると思うと、俺は少し誇らしい気持ちに浸れた。
だが俺がいい気分に浸っていると‥
「いま流行の新作だよー!新作の”狼人売りの奴隷商”だよー!」
( ―ッなに? )
「いま、勇者様達に人気の狼人を題材にした物語。今日なんと入場料1割引き!」
『さぁ入った入った』などと威勢の良い呼び込み役の男。
俺はそのタイトルに引かれるモノがあり、そして非常に避けたい気持ちも湧く。
俺の中で、『入ったら大火傷する』っと警報が鳴り響く。
ここは避けようと、サリオに声を掛けるが。
「あい、ジンナイ様。これチケットです」
「へ?」
「あの、サリオさんが凄い勢いで買われてしまって、止める間もなく、」
すでにサリオは3枚のチケットを購入していた。
当然、トラブルの元になるので、一度買ったチケットの売買は禁止。
これは人気のお芝居などで、買占めからの転売などが問題になったからだという。なので、払い戻しもそれに含まれた。
最高に良い笑顔でチケットを俺に差し出してくるサリオ。
ヤツは感づいていた。
これはきっと色々な意味で面白いのだろうと。
今回は、サリオを労わるのも目的の一つなので。此処は腹をくくり、その芝居小屋に入る事にする。
ただ、大きな看板に。タイトルと共に画かれている登場人物。それにとても嫌な予感を感じる。亜麻色の狼人と槍を持った黒い人物の姿絵に。
そして満席の中。
暗い雰囲気の中で始まる物語は、先程の予感が正しかったことを、証明させる。
「うう、金貨5枚で売ってくれないか一番値段が安い奴隷を」
「はぁ?仕方ないですね、これなら5枚でイイですよ、狼人ですが‥」
物語は。
どこぞの家を追い出された青年が、家から持ち出した有り金すべて使って狼人奴隷を買うところから始まる。
家を追い出され自暴自棄になり、八つ当たり目的に奴隷を買うという、とても酷い話の流れ。
しかし、コレはまだ俺の中ではセーフであった。
だが、その主役とヒロインの名前が――
「シンナイ様、買って頂きありがとう御座います」
「あっ、ああ‥、これからよろしくなラフラティナ」
この名前が出た時は、サリオが噴出すように爆笑し。
俺は色々と複雑な思いで芝居を観る。
そして次の話に進む。
痛めつけるのを目的で奴隷を購入したが。その安く買えた狼人が思いのほか可愛く、うろたえながら、取り繕う主人公という流れ。
悪人かと思われた主人公は、何だかんだ言って普通の男であり。そのうろたえ方が、客席から笑いを誘う。
「え、えっと、う~~ん、う~~ん」
「あの?どうしたんですかや?シンナイ様よ」
無垢な狼人が迫り、それに焦り照れて距離を取る主人公。
微笑ましいワンシーンだが。
「おっほーー!なんともこそばゆいですの~です」
「黙ってみてろサリオ」
( マジ止めて!なんとなくラティの顔が見れん、)
そしてすぐに物語は進み。
主人公は冒険者としてお金を稼ぐと決める。
そしてその主人公を支えるヒロインの狼人。
しかし、いきなり地下迷宮に潜りお金を稼ごうとする主人公。
これには、見ている客から、『無理だろ』っとツッコミが入る。
ヒロインからも止められるが、それでも地下迷宮に潜る。
当然、すぐにピンチになるが。
「先、行きます!」
「お、おう任せた」
ヘタれな主人公とは違い、大活躍のヒロイン。
どうやらこれは。駄目な主人公をヒロインが支える、っといった流れの物語の様子。全く駄目な主人公をヒロインが助け、そして地下迷宮を進んでいく。
「これは酷い」
「俺はちゃんと戦ってたからな、後ろから刺す感じだったけど‥」
「こっちもやっぱ酷い」
「俺を見んな!」
そしてここで、他の登場人物が現れる。
「そこの君、とても強いね。ボクはこの地下迷宮で一番強くイケメンな冒険者さ」
露骨に笑いを取りにくるキャラと演技。
斧を背負った、短髪の男が主人公達に話し掛けて来る。
そして、そのタイミングで魔物に襲われ、絶体絶命かと思われたが――
「斬り付けます!」
「「おおおーー!」」
男二人が驚きの声を上げる中、ヒロインは呆気なく魔物を倒す。
そして、その強さに惚れた、斧を持った短髪が、彼女を買いたいと交渉を開始するのだ」
「よし、10倍の金貨50枚を出そう!」
「うう、、10倍だと!?」
激しく悩む主人公。
そしてここで舞台の証明消え、芝居小屋の中が真っ暗になる。
この演出は、主人公の心の中、心の中の独白を表現していた。
金貨50枚に揺れる主人公。
だが、そうだ!もっと高く売れるのでは?と考え、金貨50枚は断る。
「ラフラティナは仲間だ!売るわけないだろ!そんな値段で」
値段の部分を強調して『馬鹿にするな!』と声を張り上げる主人公。
それは『こんな値段じゃ売らないぜ!』といったモノを含ませて。
その主人公の行動に、ノリが良い客席がブーイングを上げる。
それを主人公の男が、耳に手をあてつつ、『聞こえない~』っとリアクションを返す。
舞台を客席が、互いに掛け合いのような事をするのも、この芝居の楽しみ方の一つなのだろう。
だが俺は、違う事を考えていた。
「あれ、この値段交渉って、まさか‥」
盛り上がりを見せる中、物語は続いていく。
読んで頂きありがとう御座います。
感想など頂けたら嬉しいです^^
あと、誤字脱字などのご指摘も‥