頬を撫でて
すいません、色々と見つめなおしておりました。
投稿遅れてすいませんでした。
一人の男と、一人の女が見つめ合い対峙する。
それを横でガン見する、俺とサリオ。
そしてそれを、ため息をつきながら見るラティ。
同じ男として同情をしたくなる、そんな悲壮な表情を浮かべる上杉が口を開く。
「何しに来たん‥‥、ですか?セーラさん‥」
「え‥!?ツカサ様が心配で‥」
「俺はなんともないですよ。ですが、ナツイシ家は大変みたいですね」
「それはどういうことでしょうか?」
感情のこもらない、まるで温度を感じさせない声音で現状を説明する上杉。
そしてそれを、ふんふんと可愛らしく頷きなら聞くセーラ。
ナツイシ家の命令により、上杉に嫁いだと言う真相を知られているとは思っていないのか、いまだ可愛らしい振る舞いを続ける彼女。
最初は『ざまぁ』と言う気持ちで見ていたが。
俺はいま、胸をぎゅ~っと絞られる思いでそれを見届ける。
上杉には、特に強い恨みがある訳でもない。
強いて言うならムカツク奴。
だが、今の上杉を見ていると可哀想に思えてきていた。
再びこの2人を俺とラティに置き換えて考えてみる。
『ご主人様、わたしは買われたので付いて来ているだけです。何か勘違いしていませんか?』
『わたしの主は過去に30人以上。もしかすると50人以上かも知れません。貴方はその内の一人に過ぎませんよ?それが何か?』
『信頼?絆?貴方はそれも含めてお金で買ったのですよ、ヨーイチ様』
「――っがああああああああああああああああ!?」
「あの!?どうされました?ご主人様!?」
「ぎゃぼう!?いきなりジンナイ様が発狂したですよです」
「陣内なんだよ?叫びだして邪魔をするな。まぁ今説明は終わったけどよぉ」
「えっとぉ?あの方は一体‥?」
俺は想像での、闇ラティとの会話で、思わず叫び声をあげていた。
予想を遥かに超える負荷により、一瞬生を諦めかけたが、咄嗟に俺を心配して声をかけて来たラティの声音に、安堵と癒しを得て。正気や理性などその他モロモロを取り戻し、生きる事を諦めかけた思考を破棄することに成功する。
――危なかったーー!想像に喰われることだった、
しかしこれはクルな、、心が締め付けられるとか甘いモンじゃねぇ
心と言うモノを目の粗いオロシ金で、摩り堕ろすような感覚だったぞ‥
そうだ、ラティは違う、ラティは違う、ラティは違う‥
俺がラティに依存しきっている自分の心の弱さを認識してると。その尋常ではない俺の様子に、不安を感じたラティが駆け寄り。俺の背をさすりながら、優しく腕も掴んでいる。
彼女は、まるで俺が何に不安がっているのかを、知っているかのように、俺を落ち着かせる。
「あの、平気ですかご主人様?大丈夫ですので、落ち着いてくださいねぇ」
「ああ、ちょっとアホなこと考えてた、」
乗り物酔いをした子供を、あやすかのように接してくるラティ。
おかげで俺の心はすぐさま平穏に戻ったが。それとは逆に、心が荒む者がいた。
「おぅ、ちくしょ、ざけんなよ見せつけやがって!俺には恋人、彼女が居ますってか?なんだよ俺を馬鹿にしてんのかよ陣内!」
今のナツイシ家の現状をセーラに説明していた上杉が、ラティに癒され安堵しきっている俺を、睨みながら文句を言ってきた。
「くそ、俺にも彼女が出来たと思ったのによぉ、」
かなり本気で情けないことを言う上杉。
人生に於いて、言いたくない台詞ベスト3に入るであろう言葉。
そして俺は、男が人生に於いて一度は言うであろうベスト10には入る台詞を返す。
「恋人とか彼女なんていねぇよ!」
「はぁぁぁ?じゃあよう、隣の狼人の子はなんだって言うんだよ!」
――隣のって、ラティの事か?
ラティは決まってんだろ、俺の、俺の‥‥
ラティは、
「ラティは、俺にとってもっとも大事な‥、存在だ!言うならば空気や大地。控えめに言っても太陽のような大事な存在だ。無くては生きていけない、そんな感じだ」
――そうだな、そんな感じだな、
頭を撫でる時に髪の匂い嗅ぐと、お日様のような香りするし、
うん、太陽のような存在、上手いこと言った俺!
俺の発言に呆れた顔をする上杉。
だが、すぐにその表情は引っ込み、羨望のようなモノへと変わる。
「チクショウ、俺も欲しかったよ、そんな人が‥‥」
「上杉‥」
酷く歪んだ泣き笑い顔。そんな顔をした上杉が立ち竦む。
上杉は裏切られていた。
心の底から慕っていると言っていた人が、実は言わされていただけで、本心は違ったのだとマークツーから教えられたのだ。
酷く哀れなピエロ。
これからナツイシ家は変わっていく。
今までの体制ではなく、ノトス側からの意見などが入り込み、上杉もどうなるのか分からない状態。少なくとも、今までのような関係ではいられないであろう。
上杉とセーラの関係は、ナツイシ家の意向によるモノ。そしてその体制が変わるのだから、当然セーラの枷も解かれることとなる。
ピエロを慕う必要も義務も意味も理由も使命も無くなったのだ。
男としての矜持か意地か見栄か、それともケジメなのか、上杉はセーラと向き合い別れの言葉を口にする。
「セーラ‥、もうナツイシ家の命令に従う必要はないんだ。もう無理に俺を好きだとか、愛しているとか言う、ひつ、よぅ は‥」
後半の方はもう言葉になっていなかった。
だが、上杉はしっかりと告げた。命令に従い、自分に添い遂げる必要は無いと。
気が付くと俺も目頭が熱くなっていた。
ナツイシ家の行った事は、学校などで笑い者を作るために、嘘の告白や偽のラブレターを送る行為の100倍酷い仕打ち。
過去に2回ほどソレが送られた事のある俺には、その痛みが理解出来る。
今度から上杉には優しくしてやるか、と思いながらそれを見ていたが。
「ツカサ様」
「‥おぅ、」
「私は確かに最初、その様に命じられました」
「くぅっ」
「マークツーお兄様から、勇者ウエスギ様と婚姻を結べと命じられました」
「あぁ‥やめてくれ、」
項垂れながらも、必死に涙は見せまいと堪え、返事を繰り返す上杉。
俺の脳内では『もうやめて!上杉のライフはとっくに0よ』と繰り返している。
「好きになれ愛せよと……」
「――はっぐ!?」
( あ!体がくの字に折れた、)
「でも私は、勇者ウエスギ様ではなく。一人の男性、ウエスギツカサ様をお慕いしております。ナツイシ家の意向は関係ありません!今はまだ幼い想いかも知れません、だけど、だけど私はツカサ様を愛しております!どうかお傍に居る事をお許しください」
「は?」
(へ?)
時が止まる。
そして時が動き出す。
どちらかと言うと、フリーズからの再起動。
セーラと向き合う上杉が辛そうに口を開く。
「もういいんだよ、そんな嘘をつかなくても‥、もう俺を騙す必要はないんだよ」
「――!?騙すだなんて、そんな私は‥‥」
一度は固まりもした上杉だが、単純に言われた事を鵜呑みにするのではなく。浮かれずに自制した返事を返す。
ほんの少し前までの上杉であれば、きっと信じていたであろう。
だが、今の上杉は切ない成長をしていた。
「これがあの、『失恋が人を成長させる』と言う奴か、辛いな‥」
「ほへ?そうなんですか?あたしには失恋で警戒心マックスな上に、もう何も信じられない的な、駄目にネガティブになっただけのように見えますよです」
――はぁ~~、サリオはわかってない!
コレが成長なんだよ!男はこうやって警戒心を養うんだよ、
こうやって心に闇を育てていくんだよ、
なんとか解って貰おうと必死に食い下がるセーラ。
それを醒めた目で、だがとても辛そうな表情をしながら撥ね退ける上杉。
辛い時間が続いていく。
「あの、ご主人様‥‥」
「仕方ないよ、あの子は上杉を騙していたんだから、」
「あの、本当にそう思われているのですか?ご主人様は‥」
「――ッ」
俺も馬鹿ではない。
見れば解る。彼女の言っている事は真実なのだろう、本当に好きなのだろう。
マークツーが言っていただけなのだから、彼女からは聞いていなかった。
だが、その過程がいけなかった。
これが、事前にセーラから語られていたのならば問題は無かった。
しかしそれは叶わず、ある意味最悪の状況で知られることとなったのだ。
信じたいけど、信じられない。
張る必要の無い意地を張る。
きっと、そんなグチャグチャな想い。
何かきっかけなどがなくては――――戻れない。
「セーラこっちに来い!もう一度仕切り直しだ!俺は諦めんぞ!絶対に、」
「え!?マークツーお兄様!?何を‥?」
上杉とセーラの2人に、マークツーが割り込んでくる。
マークツーは乱暴にセーラの腕を掴み、そして手荒く彼女を引っ張っていく。
「行くぞセーラ!お前の器量ならば、他にまだ使い道がある。オレは此処で終わる人間じゃない、ジムツーなんぞに飼われる生活なんて‥」
マークツーは、『まだだ!』『認められるか』『お前さえ居ればまだ』『使ってやる』などと不穏なことを呟きなら、義妹セーラを連れ去ろうとする。
彼女は今後、自分がどう扱われるのかを理解しているか、その可愛らしい顔を歪め、必死に助けを求める。上杉に――
「ツカサ様!ツカサ様!ツカサ様!私は貴方のお傍に居たいのです!どうか、どうか――っきゃ!?」
「わめくな!お前はオレの言うことを聞いていればいいんだ!付いて来い!」
マークツーは引くだけじゃ飽き足らず、今は腕を捻り上げるようにして義妹セーラを拘束する。
その姿は、とても貴族の所作などではなく。まるで山賊か何か。
その光景にふつふつと怒りが込み上げてくる。
きっとこの光景を見ている周りの人達も不快に感じ、マークツーに怒りを覚えているのだろう。だが俺は別の男に腹を立てていた。
この状況でも動き出せずにいる男を‥
本来は、真っ先に動くべき筈である男を。
――くそっ
ゴチャゴチャ考えんなよお前が!
馬鹿なんだから馬鹿みたいに動けよ、
「上杉!これは俺の独り言だ!いいか?男には騙されてもいい瞬間があるんだ!ソレが嘘だろうが真実だろうが、どっちだって関係ない!自分が信じたいモノに騙されたっていいんだよ!騙されて後悔したっていいんだよ!」
はっとした表情で俺を見る上杉。
先程まで、苦虫を口一杯に詰め込まれた様な顔をしていたが、今は――
「騙されろよ!」
上杉が最高に良い笑顔を浮かべる。
野球の試合で完全試合を成し遂げたとしても、きっと出来ないであろう笑顔を浮かべ。
――バシッ!?――
一瞬にしてマークツーからセーラを奪い取る上杉。
奪い取ったセーラを己の背に庇い、そして言い放つ。
「彼女は俺の女だ!俺の‥‥、セーラは俺の嫁だ!」
「――ッツカサ様、、」
”○○は俺の嫁”など、どちらかと言うと駄目な人達が冗談で吐きそうな台詞。
それを上杉は、本気の想いで口にした。
顔を真っ赤にして上杉を睨むマークツー。
奴は何か言い返そうするが。
「ハイハイ、戻りましょうね~まだ終わってないですからね」
「貴方は、このままノトスに行くんでしゅよ~」
「なに勝手に何処か行けると思っているんですかぁ~?」
マークツーは、アムさんが連れてきた兵士達に問答無用で連行された。
その兵士達は、以前アムさんが兄を暗殺した森で見かけた兵士達であった。きっとアレからも腹心として動いている人達なのだろう。
貴族の長男であるマークツーを、遠慮無しに引き連れていった。
再び対峙する、上杉とセーラの2人。
だが今度は、先程と違い、互いに触れ合っている2人。
それを見つめる俺は。
「あの、ご主人様?何をしに行かれるおつもりですか?」
コブシを握り締めて、上杉に近寄ろうとする俺をラティが止めに入る。
俺はそのラティの質問に、簡潔に返答をする。
「いや、俺の友が悪い女に騙されそうだから、殴って目を覚ましてやろうかと」
「あの、えっと‥、なんと申せばよろしいのか、」
「ぎゃぼう、コレは酷いなのです、」
「セーラ、俺は‥」
「もう良いのです、私は貴方のお傍に居られるのであれば、」
「ラティ!そこどいて!上杉が殴れない!って!?ああ‥なに頬に手を添えてんだアイツ!なにうっとりしてんの!?ちくしょー!頬から手を離せー上杉!」
俺は騙されている友を諌めてやろうしたが、ラティに止められていた。
「なんとも酷い嫉妬なのです。アレを見てそんな事を言えるだなんて、ジンナイ様の目は節穴ですか?あ!目腐ってましたねです」
――解ってんだよ!やかましい!
それに頬に手を添えていい雰囲気作ってんだぞ?ヤバいだろ?
あのままほっといたら、チューとかすんぞアイツら、ダメだろうそれは、
うらやましい、イラっと来るんだよ!
騒ぎ立てる俺。
冷めた目を向けるサリオ。
そしてラティは――
「あの、頬ぐらいでしたら、わたしのを触れれば宜しいですから、今は‥‥」
「へ?でも首輪の色とか、」
「頬に触れる程度では色は変わりません」
「‥‥‥」
「あの、でもノトスの街に戻られてからですよ?」
「分かった、戻ろう。サリオ!お前転移系の魔法とか使えないか?街に一瞬で戻れる奴とかそういうの」
「ぎゃぼー!酷い無茶ブリ来たよです!無茶過ぎですよです」
上杉とセーラはそのまま見つめ合うまでで押し留まっていた。
もしかすると、周りで騒いでいる俺が原因だったのかも知れない。だが、それはそれで良しとした。
そして俺は。ラティから、頬を触れる権利を獲得する事が出来たので。2人の仲を祝福することとした。
こうしてこの防衛戦の、最後の問題が片付いたのであった。
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