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北からの依頼

予想外に長引いた、、

 戦闘は速やかに終結した。


 俺達が逃げ回る時に負傷者を増やしていた為、後衛のMPは枯れて碌な支援もなく怪我を負い動けなくなった兵士達。

 本来であれば、命がある限り回復魔法で戦線に復帰するのだが、それは叶わず。20対100の構図ではあったが、実際に戦えたのは40人程度。


 残りの60人は負傷者であったり、後衛などの後方支援や雑用係。

 それに対してアムさん側は、20人が全員猛者。

 まさに鎧袖一触。軽く撫でられるように兵士側は倒されていた。



 そして今は、戦後の処理が行われている。

 ミズチさんや回復持ちは、拘束した兵士達に治癒魔法を掛けて回る。

 そして夜も明け。うっすらとだが空に赤みが差してきていた。

 


「貴殿は、ナツイシ家のマークツーだな?」

「くっ!アムドゥシアス‥‥」


 村の入り口。その前で2人の貴族、アムドゥシアスとマークツーが対峙する。

 そしてその力関係を示すかのように、膝立ちさせられ、忌々しくアムさんを見上げるマークツー。


「くそぉ!何故お前たちが来たんだ!?何故お前までも‥‥」

「ああ、その種明かしは、そろそろ来る頃かな‥」


 アムさんはそう言って後ろを振り向く。

 そして其処には、朝日に照らされながら一人の男が馬に跨りやって来ていた。


「お父さん‥‥」


 リーシャがそれを見て呟く。

 ドミニクは一応馬にまたがっているがぐったりとしており、まるで運ばれるようにして、俺達の前までやって来る。


「彼だよ、彼が知らせてくれたのさ」

「ドミニクさんが、なんで‥?」


 予想外の事に、俺は思わず聞いてしまう。


「間に合ったみたいだなジンナイ。まぁ、あの堀の下で魔物に囲まれても生き残っていたお前さんがやられるとは思ってなかったけどよ」

「いや、そうじゃなくて‥なんで?」


「はぁ?そりゃぁ――――」



 その後、馬から降りたドミニクさんが語る。

 俺の知らない真相を。


 ナツイシ家の兵士達がやってきた時に、何人か知り合いが混ざっていたと言う。

 

 自分も北から避難して来た身なので、同じように避難して来たものだと思い、話しかけに行こうとしたそうだ。だが――


『念話の連絡通りに来てるな槍持ちは』

『ああ、後は夜を待って捕まえるだけだな。今は絶対に勘付かれないようにしろよ。それとしっかりと監視も続けろ』


 と、言った会話が聞こえて来たと言うのだ。

 

 この時に、”槍持ち”と言う単語で俺を連想させ、そのまま話し掛けずに様子を見ていると。俺を襲撃するという事が分かり。俺にそれ(襲撃)を知らせようとしたが、監視がキツく接触するとバレる可能性があり。魔物との防衛戦が始まると同時に、村を抜け出しアムさんに知らせに行ったと言う。


 リーシャの言っていた「なんか、今しかチャンスが無いとかどうとか言って‥」とはこの事だったのだ。


 そして馬をギリギリまで走らせ、馬を乗り潰してからは、己自身で走りノトスの街まで行ったと。

 馬と人間では、何も荷物などを持っていない状態であれば、鍛えた人間の方が長距離を走るには有利であり、しかも速いというのだ。


 レベル30超えだからこそ出来る荒業。

 


 昨日の夜の雑談で、俺がノトス領のアムドゥシアスに雇われている事は知っていたので、公爵家に駆け込み、事情を説明して救援の援軍を出してもらったのだと。


 時間との勝負であり、兵站などの物資は一切持たず。馬に長距離移動補助魔法を掛け続けながら、このエスの村まで走り、今に至る。


 因みに、レプソルさんがその補助魔法を使い続けたので、現在ぐったり中。

 この方法は、レベル75超えの補助魔法が得意な後衛がいないと使えない戦術であり。条件としては中々厳しいモノらしい。


 


 だが、まだ一つ。


「だから、なんでそんな無茶を俺の為に?」

「全く、簡単なことだろ?あの時の、袋小路の”英雄”に惚れこんだからさ」


「へ?」

「あれは忘れていた男の浪漫を思い出させてくれたぜぇ、そんな奴をこんな所で死なせる訳にはいかねぇだろうが?」


 ――マジか、

 そんな理由で、こんな無茶を、俺は逆に疑っていたのに、

 しかも、アンタ(ドミニク)の娘を危険に晒しちまったのに、



 俺は自分の人を見る目の無さに泣きたくなっていた。

 北だからと、ドミニクさんを疑っていたことに‥。


「あ、それとなジンナイ」

「はい?」


「他にももう一個思惑があってな‥、それの為に走ったのかもな、父親として‥‥」

「父親として?」


 ドミニクさんはそう言って、自分の娘のリーシャに目を向ける。

 それは俺なんかでは決して出来ない、親が我が子を慈しむ、とても尊い瞳。

 俺には、それがどんな意味が込められいるのかは解らなかったが‥‥。




 

 そんなやり取りが行われている中でも、他のことも進んでいた。

 まず、ナツイシ家だが。

 彼らは、北のフユイシ家に唆されて今回の行動を起した。


 ジャアの仇の俺を捕らえ、そしてノトス家を削っていき。北のボレアス公爵家とフユイシ伯爵家の後押しを受けて、南のノトス公爵家に代わり、南の支配者になれと唆されたのだと。


 領地としての国力の差は、5~6倍は上とされている北のボレアスからの支援があれば、それは可能なことだと言うのだ。

 今回の出来事は、ある意味”北からの侵略”。

 これは、貴族内での規定違反になるかと言うと、グレー(灰色)


 北が兵をあげて侵略したのなら違反だが、今回はそれとは違い、南での内乱のようなモノ扱いにされると言う。

 それと勇者上杉が来ていたのは、別の目的。

 流石に”乗っ取りました”では体裁が悪く。そこで勇者の知名度と正義の象徴であることを利用して、いわゆるイメージ戦略として勇者上杉を連れてきた。


 勇者を抱えていないノトス領主よりも、正義である勇者を抱えているナツイシ伯爵家で押していこうとしたのだが――



「ナツイシ家のマークツーよ、勇者を私益のために利用しようとしたな?」

「っは!どこの貴族だって同じ事をしているだろうが!」


「それは、裏側での話だ。何処の馬鹿だ、正面から勇者を嗾けるなど!」

「――な!?だが他の貴族だって勇者を派遣しているではないか‥‥」


「それは魔物討伐などでだ。今回はジンナイに嗾けようとしたな?」

「それが何だってんだ!それに問題があるのか!」


「ある!それは勇者保護法違反にあたるぞ、これはナツイシ伯爵家の取り潰し。そして資産などの全て接収となるだろうな」

「ああ!?あぁぁぁぁぁぁぁ」



 マークツーは自分の仕出かした事を理解した様子であった。

 勇者保護法で、勇者を使った個人の討伐は一発レッドカードものである。

 過去に、勇者同士をぶつけて争わせ、そして勇者の数を減らしてしまった出来事から、これは絶対に禁止されている行為なのである。


 勇者個人が勝手に動く分には問題は無い。

 本来、勇者が勝手に行くように仕向けるのであれば、グレー(セーフ)なのだが。今回は違い、堂々と仕向けてしまったのだ。


 これでナツイシ家は取り潰しになるのだが――


「ここで提案があるのだが‥」

「提案!?聞かせてくれ!ナツイシ家が守れるのであれば何でもする!」


 アムさんが黒さを発揮する。

 彼はノトス領地の為とは言え、実の兄を闇に屠ったことがある人物。

 その彼が悪魔の囁きと取引を持ちかける。


「現当主であるザックツーに降りて貰いたい、そして此方が指名した者が就く」

「父を!?いやだが‥それは‥」


「ならば保護法を盾に、ハイエナ(他貴族)にでもたかられるがいい!」

「ぐうう!」


 アムさんは、ほぼ一択を突き付けていた。

 勇者保護法を使えば、他の全貴族が介入して来て、ナツイシ伯爵家の全てを根こそぎ掻っ攫っていく。だが、この提案に乗れば伯爵家は残せて、少なくとも路頭に迷う心配はなくなる。


 これはノトス公爵家からの傀儡支配を受け入れよと言う意味。 

 しかし此処で、まだ足掻くマークツー。


「判った、ならば私が当主となりナツイシ家を仕切ろう」


 ――すげぇ!

 ピンチをチャンスにってレベルじゃねえぞコレ!

 コイツマジで凄いな、上杉を超える逸材かも知れんな、



 そんな事は当然アムさんが許すわけでもなく。


「次の当主は、ジムツーを指名する!」

「馬鹿な!?奴は五男で、しかも今は冒険者ですぞ、そんな、そんなことが‥」


「な!?わ、私が?突然そのような事を言われましても、すでに私は冒険者で、」



 いきなり当主を指名されてうろたえるジムツー。

 すでに根回しをしているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。ジムツーがこの場に参戦したのは偶然であり、この提案はアムさんからのアドリブの様子。


 突然当主をやれと言われ何故か渋るジムツー。


「もう私は冒険者と生きていくと決めていまして、指名していただけたのは大変名誉なことなのでしょうが‥」


 一度は引いた身で、冒険者として生きて行くと決めたらしいジムツーだが。


「ジムツーよ、当主になれば伯爵となれる」

「もうそれには興味も権力の欲もありませ――」


「伯爵になれば、公爵家敷地に堂々と訪問出来るぞ?」

「え?」


 ジムツーの発言に言葉をかぶせるアムさん、そしてそのアムさんの言葉に喰いつきの色を見せるジムツー。


「伯爵の訪問であれば簡単には拒否出来ないからな、」

「それってまさか、」


「その際に偶然誰かに出会おうとも、俺は何も言えないな~」

「――ッ!?」



 ワザとらしい口調である事を伝えるアムさん。

 何を言いたいのか俺にも解ったが、流石にそれでは動かないと思っていると。


「やります!当主に就かせて頂きます」

「へ?」


 ――はぁ?馬鹿な!

 レイヤに会いたくて、それで当主を受けるのか!? 

 いや、会ってもう一度謝罪したいとは言ってたけど、ここまでとは、



 俺の予想に反して、ジムツーは当主になる事を引き受けた。

 しかも理由はレイヤに再び会うために。

 もしかすると、俺の陣内組に来たのもそれが目的だったのかも知れない。いや、それが一番の目的だったのだろう。



 ジムツーの快諾に、否の叫び声をあげるマークツー。

 必死に自分の正統性を訴えているが、既にアムさんは一瞥もくれずジムツーと向き合っている。


 哀れにも必死に叫ぶマークツー。

 俺は貴族の一つの末路かとそれを眺めていると。


「ご主人様!櫓の上!何者かが潜んでます!」

「応っ!」


 村の出入り口の横。サリオの範囲火系魔法で焼き削られ、辛うじて建っている警鐘用の櫓の支柱を俺は蹴りへし折る。


 ――バギャツ!――


 四本の支柱の内ひとつを失い、すでに半壊しかかっていた櫓は、気前よくギギギっと音を立てながら横に倒れ。


「きゃっ!?」

「ジンナイ君!?突然何を?」

「おひょー!ジンナイ様ご乱心ですかです?」 

( やかましい!マークツーと一緒にスンナッ!)


 俺はラティの警告に迷わず従い、そして櫓を蹴り倒した。

 ラティが警告してくると言う事は(悪意)。何かがあってからでは遅いと判断して行動を起した。

 簡単に思いつくのは櫓の上に誰かが居て、それが魔法などでアムさんなどの要人を狙撃すること。

 

 ――魔法の狙撃だったらマズイ!

 油断をしている時に狙われると危険なのは身を思って知ってるかなら、

 (はや)く排除だ!


 そして倒された櫓からは、ひとりの男が放り出される。


「うああああああ!?」


 『誰だ!』と声を上げながらその男を囲む陣内組。

 そしてその男を目にしたマークツーが名前を呼ぶ。


「お前はシモン!?まさか‥‥」

「誰だコイツは?」


 すかさずマークツーを問い詰めるアムさん。

 先程まで、無視をされていたアムさんに声を掛けて貰ったのが余程嬉しいのか、知っている情報をベラベラと語るマークツー。

 もしかすると、これで心証を良くして当主になれるかもとでも考えがよぎっているのか。喋る情報は中々貴重なモノ含まれる。


「コイツです!北との連絡役は!なんでも貴重な念話持ちらしく、コイツがいたのでこの黒い者(陣内)の動きが把握出来たのです!」

「念話だと!?」


「ああああ!!しまった!急がねば、この事が北に伝えられてしまいます」


 念話と言う単語に首を捻り、確認の為か【鑑定】を使うアムさん。

 そしてその【鑑定】を向けられている男が笑みを浮かべ囀る。


「ははははは、もう遅い!マークツー様よ。アンタの大声で気がつけば何やら面白い事を言っているな?アンタが当主になるとかどうとか、その慌てよう何かあるのだな?それと今回の作戦が漏れたのも――っかひゅ!?」 


「ひぃぃい!」

「ぎゃぼうっぅぅうう!」

「ぎゃあ!?」


 一瞬の出来事であった。

 至極冷酷な一薙ぎ、アムさんが囀る男の首を切り裂いたのだ。

 迷わずの断ち。


 男はそのまま横に倒れ絶命する。


「これ以上の情報が流れるのはマズイ。この男は遠くにいる仲間に連絡が取れるタイプの魔法か何かを持っている可能性があった。いや持っていたなきっと」


 情報漏洩の阻止。

 死んだ男の口ぶりから、話を聞いていたのはマークツーが当主になると騒いでいた辺り。勇者保護法を脅しに、当主交代を迫っていたのは聞いてはいなさそうではあった。希望的観測も含まれるが。


 これ以上何かが漏れるのを恐れ、即断するアムさん。


 ――怖えぇぇ、

 普段は飄々としている雰囲気あるけど、

 やっぱ侮れないな、何かを決断した時の実行力が凄い、



 俺達の周りは冒険者や兵士達ばかり、一般人はリーシャだけ。

 そのリーシャはドミニクさんが体をつかって覆うように遮り、惨劇はリーシャの目に触れさせないようにしている。

 サリオも見慣れてはないのか、顔を青ざめさせている。

( 慣れてる自分がちょっとアレだな、) 



 今回の最後の謎。

 どうやって、俺がこの防衛戦に参加する事を伝えたのかは、この男がノトスの街から念話でナツイシ家に伝えたのだろう。


 そして櫓の上に居たと言うことは、俺達を村で追っていた兵士達の乱れぬ追い込みは。この男が上から指示を出していたからこその動き。最後のアムさんや陣内組との衝突時に、兵士達の動きが脆かったのは、サリオの魔法で櫓ごと巻き込まれ、それで気絶でもしていた為だろう。





 こうして、エスの村での出来事は終わりを告げた。

 

 最後に一つだけイベント(楽しみ)を残して――




「ツカサ様!ご無事でしたか!良かった‥でも一体何があったのですか?」

「‥‥‥‥‥‥セーラ‥」


 これから上杉への死体蹴り、もしくは傷口に塩といった物語が始まる予感。


「あの、ご主人様?とても悪そうなお顔をしてますよ?」

「当たり前だろ!さぁ楽しくなってまいりました」

「ジンナイ様、趣味が悪すぎるですよです‥‥」

めんどい物語を読んで頂きありがとう御座います


宜しければ、感想など頂けましたら、幸いです。

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[一言] ザックツー様の出番がこれで終わりなんてそんな! そもそも名前だけで登場すらしてないけど。
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