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包囲突破

ちょっと長め~

 ラティから敵が接近して来たと報告を受けた。

 俺はタイミングを見計らって飛び出そうとしていたが。


「ねえねえ、囲まれたったなんのこと?あ!囲まれるで思い出した!アンタ達、防衛戦サボってたんだって?なんか魔物を囲んでるのに、離れた場所で見てただけとか聞いたよ」


 その後もリーシャはグチグチと喋り続ける。

 真っ黒と真っ赤だからよく目立つだとか、一番レベルが高いのに何もしていないとは、などなど。まるで捲し立てるかの様に俺達に話し掛けて来たのだ。


 ――む、?

 これはひょっとしてコチラに注意を向けさせてるのか?

 注意を引いて、外から一気にとかか?



 ラティはひたすら話か掛けてくるリーシャを無視して、周囲を探る。

 そして。


「すぐそこまで来ています!」

「よし、扉ごと魔法で吹き飛ばせ!」

「らじゃです!」

「え!?」


 ――ゴゥゥウウ!!――


 サリオのサイズを小さくした炎の斧で扉を吹き飛ばし、俺達は一気に外へと駆け出した。


「ラティ、サリオ!村の中心まで走るぞ!」

「はい!」

「はいなです!」



 ログハウスを囲んでいた兵士達。突然扉が吹き飛ばされ、そして駆け出してきた俺達には反応出来ず。俺達は一瞬で囲みを突破し、そのまま村の中心へと走った。



 村の広さは直径で約400メートル。周囲と木の柵で覆う形になっており。村で立場が上の者や、古くから住む者ほど村の中心側で。そして村の入り口付近には、利便性などから建物が多くなっていた。


 それと村の入り口の脇には、高さ10メートルほどの警鐘用の櫓が組まれており、今日は魔物の接近を知らせる鐘を鳴らす仕事もこなしていた。



 そして今、俺達はその村の中心へと走る と見せかけて。


「ラティ!アカリをそのまま前に飛ばせ!俺が向かったように見せかけろ」

「はい! ッシュ!」

 

 

 俺の指示通りの”アカリ”を前方に飛ばすラティ。

 夜の暗闇では、あのアカリを頼りに進んだように見せかけられる。


 そして俺達は。


「一気に引き返すぞ!このまま村の裏側から突破する!」

「はい!」

「ぎゃぼー!でも途中に野営組んでますよです」


「サリオ!お前が派手に燃やせ!そのまま突っ切るから」

「うえええ!?後であたしが怒られないかです?」


「バレ無ければ平気だ!」

「絶対にぃバレバレよですよねです!」



 俺達は、来た道を戻る形で走った。

 今度はアカリを使わずに、出来る限りこっそりと。上手く木の陰や、身を低くすることで、意外と上手く追っ手をかわし、最初のログハウス近くまで戻ったのだが。


「痛い痛い!髪引っ張らないでよ!アタシが何したってのよ」

「五月蝿い!お前も仲間なんだろ!」


「なんのことよ!お父さ~ん!助けてー!おと~さ~~んん!」

「コイツ、黙らんか!やかましい!罪人が騒ぎ立てよって」


 ドミニクの娘リーシャが2人の兵士に髪と手を引かれ、引き摺るようにして連れていかれていたのだ。騒ぐリーシャに怒りを露わにする兵士。



「何よもう!誰が罪人なのよ!お父さん助けッ――あうっ!」

「黙らんかッ!この女!」


 兵士の容赦の無いコブシがリーシャの頬を打ち抜く。

 髪を掴まれ、腕も掴まれて固定されている彼女は、コブシの衝撃を逃がせずに、そのままぐったりと頭をたらし、膝も着いてしまう。


「このっ立ちやがれ!」

 

 痛みに脱力して止まってしまった彼女に、さらに苛立ちこぶしを振り上げる兵士。 の太ももに槍が深々と突き刺さる。


「がああああああああ!なにがぁぁあ!?」

「どうした――ガハッ!?」


 俺は槍を突き刺した後に、もう人の兵士のヘルムの横っ面に木刀を叩き込んだ。 


「てめー等!何してんっっだ!」

「ぐあぁっ!?」


 そのまま返す木刀で槍の刺さった兵士も気絶させる。



 俺はリーシャが殴られると同時に【加速】を使って飛び出していた。

 そしてそのまま兵士の太ももに槍を突き立てていたのだ。


「ラティ。高い方の薬品(ポーション)を使ってやってくれ」

「はい!ご主人様」

「ジンナイ様、脊髄反射で飛び出して行ったですよです‥‥」


「あ、ありがと、」


 ラティは薬品ポーションをリーシャの口に含ませる。

 冷静に今思うと。これは俺達を誘き出す罠で。彼女の演技だったのでは?と考えがよぎったが。殴られて脅えているリーシャを見るとそんな考えは吹っ飛んでいた。 


 そして次に、別の考えが浮んできた。


 ――しまった、

 これは俺達が巻き込んだんじゃ、?

 深夜に寝泊りしている場所じゃない所にこっそりと行ったんだから、

 くそ‥‥



「スマン‥‥、俺達が巻き込んだかも知れない、本当にごめん、」

「え?え?ぇ‥‥」



 状況が飲み込めず、呆けるリーシャ。

 頬の辺りが薄く赤みを帯びているように見えるが、傷の方は薬品ポーションが効いたのか、出血などはみられない。


 

 そして今の騒ぎを聞きつけたのか、兵士達が殺到してくる。


「ご主人様!囲まれる前に移動を!」

「わかった。ラティ、ルートは任せる、敵の少ない方に行ってくれ。あと、リーシャ」

「え?」


「一緒に行くぞ!このままじゃ絶対にマズイ。サリオ!お前は後ろを見てくれ」

「え?え?」

「は、はい後ろですね?です」



 俺は無理矢理リーシャの手を引いてラティの後を追う。

 


 当初の予定では、村の入り口とは反対側の方向を突破する予定であったが。野営の陣で休んでいた兵士達も集まって来ており、結果的に村の中心側に逃げ込む形となる。


「ラティ、どうだ抜けれそうか?」

「はい、このまま正面。村の入り口側が手薄です」



 深夜のエス村。

 ルリガミンの町のように建物が密集しているのではなく。それなりの広い間隔を空けて小屋のような建物が建っており。父親の実家の田舎(浜松)を思い出せる風景であった。


 小屋同士を繋ぐような踏み固められた道はあるが、道を逸れると藪や木など、姿を一時程度なら隠せる場所が多く。上手くやり過ごしながら進む。


 そして見つかった時は――


「ラティ!殺すなよ、致命傷一歩前あたりで放置しろ」

「はい!回復役に負担を掛けるのですね」

「ジンナイ様えげつないのです、」


「やかましい!これは立派な戦術だ」

「アンタ達、なんか追われるの慣れすぎてない?ちょっと引くんだけど‥」

「あの、何だか言い返せませんねぇ、」

( ホントに慣れてるからな、)



 俺達は、逃げながら負傷者を増やしていった。

 元の世界でも、映画や漫画などでよく聞く知識なのだ。負傷者を増やす事で、それを助ける人員や薬品などの負担を大きくして、敵の戦力を削ると言う戦法。


 俺は兵士の太ももを突き刺し、ラティは兵士の手首を落としていった。

 兵士達は負傷者が出ると、我先と負傷者を抱え後方に下がろうとしていた。

 戦闘に参加しなければいけないが、相手はレベル90近い冒険者達。20人とかで一斉に襲えばなんとかなるかも知れないが、先頭に立つ15人は間違いなくやられるか、もしくは命を落とす。


 そして消極的な追撃となっていた。


「よし、このまま削りながら逃げるぞ、」

「はい、このまま手薄な方へ案内します」


 俺は大人数に囲まれないように。少人数を削りながら、手薄な方へと逃げて行ったのだが‥‥。


 ――あ~コレおかしい、なんか変だな?

 露骨に変だ、俺達の動き完全には把握出来ていない筈なのに、、

 なんか的確に追い詰めている感じがするな、



 俺は違和感を感じていた。

 兵士達を何人か撃退はしているのだが、兵士側が崩れないのだ。

 

 普通ならどこかしらに、手薄な穴が出来るモノなのだが。手薄な場所は常に村の入り口側。

 兵士達の錬度はそこまで高いと感じないのだが。兵士達の動きはまるで、全員が繋がっているかのように、連携が取れていたのだ。


 俺達に返り討ちに合う兵士はどちらかと言うと、勇み足。

 功を焦り、前に出すぎた結果、俺達に返り討ちに合っているのだ。 

 

 だが、それをもフォローするかのように兵士達は連携し追ってくる。

 乱れるような隙を作らずに、しかも‥


「ご主人様!兵士以外にも冒険者まで混ざって来ました!」

「――っな!?」

  

「オラオラ!待てー!」

「ラッキー!こっちにいたぞー!!」

「囲め囲め!狩り時間だー!」

「俺達だけでやるぞ!」


 兵士達とは別系統で動いているのか、横から冒険者達が乱入して来る。

 

「お前等、なんで俺達を追う!?」


「はぁ?そりゃ~依頼があったからだよ」

「そうそう、依頼が来たんだよ」

「お前を捕まえろってな!」


 数人の冒険者達が、俺達の前に立ち塞がる。

 そして後ろでは、こちらを牽制しながら兵士達が距離を取る。


「サリオ!後ろは任せた、兵士が寄って来たら即焼け!」

「ぎゃぼー!その指示ちょっとおっかないですよです」



 背後はサリオに任せ。俺達は正面も冒険者達を見据え宣言を吐く(タンカを切る)


「じゃぁ敵だな、お前ら」


「はぁ?俺達にとってはただの獲物だけどな、お前は!」

「それにお前を捕まえれば、俺達がその狼人奴隷を貰える約束だからな」

「そうそう。レベルが上でも、奴隷の首輪で飼い慣らせば問題ねぇからな、」

「ああ、そうだな。命令で、きゅっと首輪を締め上げれば言うこっ――っがあああああああああぃぃ痛ってえぇぇ!?」


 俺は迷わずに、目の前でさえずっている男の足の付け根に槍先を押し込む。

 圧倒的な実力の差があるのだが、どうやら大人数での囲い込むと言うことで。ただの勝ち戦と勘違いし、獲物(ラティ)の早い者勝ちと競っていた。


 そして、目の前で余裕の態度を見せつつ、俺を煽って来ていたのだ。

 ならば――


「お前らぁ‥っ全員の足を貰うぞおおおお!」

「がああああ!いってええええ勘弁してくれぇえ――っがあああっっ!!」


 突き刺した槍を横に捻り、傷口を広げることを忘れない。そして次は、俺は目の前に立ち塞がっていた別の冒険者達に襲いかかる。


 ――ッコイツらあぁぁぁ!

 ラティをまるで奴隷のように言いやがって!

 久々にスイッチが入ったぞ!



「俺の射程(間合い)に入って無事(ただ)で済むと思うなよ!」


「ひっ!?ひぃぃぃぃいいい!?」

「ふざけんな!誰だよ!?囲めば楽勝とか言ってた馬鹿は!」

「待ってくれ!回復持ち呼んでくれーー足が足が、熱くて冷たくなってぇ」


「ジンナイ様が久々のブチ切れなのよです」

「ひぃ!アンタちょっとやりすぎなんじゃ‥‥やっぱヤバい人なんじゃ、」


 二人目の足を刈った辺りで、冒険者達は逃走を開始していた。

 本来であればこのまま追って、足を刈りたいところであるが。今は村の入り口に向かう事を最優先とした。


「サリオ!一度そのまま後ろを薙ぎ払え!」

「ほへ?ホントにやっちゃうのです?」



 俺はサリオの炎の斧で薙ぎ払うよう指示を出した。

 あまり派手に魔法を使うと、居場所が完全に特定されるので、控えておきたかったが。今は完全に後ろに張り付かれた状態なので、仕方ない。



 サリオが薙ぎ払う用の巨大な炎の斧を、見せ付ける様に頭上に掲げると、『退避ー!』と号令をかけて一気に兵士達は後方に退いていく。


 それを見ながら俺はある事を確信する。


 ――これで確信した、

 広場か村の出入り口辺りで束縛系の罠張ってるな、



 兵士達が、俺達と真っ向からは勝負して来ないのだ。

 レベル差や経験差、それと単純な実力。その差を理解しているのか、追っては来るが捕まえに来ない。


 レベル差や実力差がある相手には、弱体系魔法などで差を埋めに来るはずなのだ。だが兵士側はそれを行って来ない。まるで罠に追い立てるように動いているのだ。

 もしかすると、束縛などを意識させないように魔法を控えている可能性もある。


 

 ここまで読めているのだから、本来は無理矢理に囲いを突破し、闇夜に乗じて逃走するべきなのだが。現在はリーシャを抱えた状況。

 逃げ切るには、馬車を鹵獲し。他の馬を潰すか、もしくは逃がすしかない。

 前のルリガミンの町と同じ方法を取るのだ。



 まずは、村の入り口付近に停めてある、乗ってきた馬車を目指す。


「ご主人様!出口が見えてきました!」

「‥‥‥」


 索敵と先行を同時にこなしているラティが俺に先を示す。

 そこで俺は。


「サリオ!前の出口らへんに、範囲の広い魔法当てろ!」

「ほへ?は、はい!んじゃ火系範囲魔法”火の雨”!」



 村の入り口周辺。

 範囲にして約15メートル程の幅に火の雨が降り注ぐ。

 入り口横すぐにある櫓も巻き込みながら、一瞬ではあるが火に包まれた。


 ――ジジジジッ!――


 

 木で出来た柵の塀、その柵が途切れるような形で作られている村の出入り口。

 その手前辺りに、何かの雑音のような音を立て、露骨な4枚の板が姿を現せた。

 

「ほへ?なんか出たですよ?」

「ふん、大方足止め系か束縛系の何かだろ?」



 兵士は追っては来たが、無理に捕まえようはせず、この位置に俺達を誘導しようとしていた。

 しかも、本来は警備を固めるであろう、村出入り口に人員を配置していなかったのだ。追って来る連携はあれだけ取れていたにもかかわらず。


 まるで、ここを通って逃げてくれと言わんとばかりだったのだ。

 それはとても不自然なほどに。



 俺達は罠を見破り、一気に駆け出す。


「このまま外まで先行します!」

「え?え?村の外に出るの??もう体力の限界ぃ」

「馬車はドコに‥?」


 3人に少しだけ余裕が生まれる、これで突破が出来ると。

 だが俺はもう一つ指示を出す。


「サリオ!全力であの出入り口辺りを薙ぎ払え!」

「今日は人使いが荒いです、火系魔法”炎の斧”!」


 ――ゴオオゥウウ!――


 サリオは俺の指示に従い、強め目に炎の斧で出入り口近くを薙ぎ払う。

 出入り口左右の木の柵を、気前よく吹き飛ばし、そして‥‥


「がああああああ!火が!?火があああ!!」

「ああああ、あぢいい!ががあああ」



 2人の男が、人はここまで叫べるのだろうかと思える程の悲鳴を上げてた。


「ふえ?へ?」

「やっぱり隠蔽か気配を消して潜んでいたか、」


「ジンナイ様!どういうことなのですです?」

「いや、怪しいと思ったから」



 俺は本当に怪しいと思っていたのだ。

 束縛系だと思われる罠を見破ったにもかかわらず。追っての兵士達は、出入り口を塞ごうとしなかったのだ。


 魔法を使うなりして、進行妨害などがあるかと思えば、変わらずに後ろから追うだけ。その不自然さに『見破られる罠のうしろに罠を張る』と言うのを思い出す。



 俺は必殺の待ち伏せをしていた2人見ながら。


「まぁ安心するんだな、その炎の斧は峰打ちだ」

「ぎゃぼーーー!なに言ってるんですかジンナイ様!ガチで燃えてますよです!炎の斧に峰とかヌルイのないよですよです!やっちゃったよです」


 ――あ、上手いこと言った、

 って、思ったよりしっかりと当たってるな、

 まぁ、回復魔法で何とかなるだろ、



 水系魔法があれば火を消せるのだが。ラティとサリオの2人は水系の適正は無く、火を消すことが出来ないでいると。


「水系魔法”ウォーター”!」


 水系魔法が転げ回る二人の火を消化する。

 その水系魔法を使ったのは。


「上杉‥」

「‥‥陣内、」


 ここで勇者上杉が姿を現したのだった。

読んで頂きありがとう御座います。


感想やご指摘など、どしどしお待ちしております。

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