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お引越し

まだまだ続くめんどくさい回

 ドミニクの家の中はとても居た堪れない空気になっていた。

 俺だけにとって‥‥‥


「そんでそんで、落ちたジンナイ様がパニックになって慌てふためくんです」

「うんうん!それでどうなるの」


「そんでそんで―― 」



 現在室内では、サリオが舌足らずだが饒舌であった。

 ドミニクの娘、リーシャが『ホントに(谷底の弓乙女)に出てる人のモデルなの?』と質問した瞬間に。ガブリと聞こえて来そうな程にサリオが喰い付いたのだ。


 俺は咄嗟に止めようとしたのだが、それをすかさず阻止するリーシャ。

 彼女は明らかに、このまま話されると俺が不味いと言う空気を嗅ぎ分け。野次馬的感情で俺を止めて、サリオに話せと促したのだ。


 その芝居の配役、役どころ(嫌われ役)を漏らされても困るという訳ではないが、やはり恥ずかしい。そして何とも情けない役になっているので、出来れば触れて欲しくなかったのだが。


「もう、ジンナイ様の小物臭が半端ないんですよです!」 

「わぁ~~、なんか見た目通りなんだね」

( アレ俺じゃねえよ!悪改変されてんだろ! )


「しょれに、他のお芝居でもモデルとなってチョイチョイ出てるよです」

「―ッバ!馬鹿!?それ言うなよ!」



 暫く間、耐えていれば良いと思っていたのだが。被弾箇所が増えた。


「ええー!他にも出てるの!?っえ?え?なんて言うお芝居?」



 サリオの発言にガブリと喰い付き返すリーシャ。

 助けを求めるべくドミニクを見るが、なんとも言えない苦笑いで返される。

 そしてラティは、我関せずといった感じにいつもの無表情で座っているだけ。


 ラティは仲間以外が相手だと、基本無表情で対応する。


 自分で作った訳でもない黒歴史を見せ付けられるような、そんな羞恥プレイが暫くの間続いていた。





   

            閑話休題(俺が何をした、)







 サリオが一通り話しきり。

 存分に笑ったリーシャは満足げにしていた。 そして――


「あ~~笑った笑った。こんなに笑ったのは、北から引越しして来て以来だわ」


 ――引越し!?

 今、引越しって言ったな!と言うことは、



「ああ、そうだな、お前がそんなに笑っているのを見たのは久しぶりだ‥」


 ドミニクは深みのある笑顔を浮かべながらリーシャを見ていた。

 


「引越しって前は北に居たんですよね?そう言えばどうして反対の南に?」


 俺はそれを見て、単刀直入に切り出した。

 腹を探るような会話ではなく、ここは普通に疑問を口にした。

 その方が良いと思ったから。


「ああ、北の悪口みたいに聞こえるかもだけどな、北はヤバいって感じたんだよ」

「北がヤバい?」


「もう知れ渡っていると思うが、北の大貴族ボレアス家が乗っ取られたんだよ」

「‥‥‥」



 俺が相槌や質問をして来ない事に、話を促しているのだと察し。ドミニクは話の続きを語る。


 その内容は。

 大貴族のボレアス家がフユイシ家に乗っ取られ、ドミニクが住んでいた辺りが不安定になったと言うのだ。

 

 魔物が出たや物価が上がったなどの不安定なら、それに対して何かしらの対策を立てるなりすれば解決ややり過ごすなどで回避出来るが。今回は大本の支配者が変わったと言う事。


 それは不安定の継続、もしくはもっと不安定になる可能性が大きく。そして理不尽なことに巻き込まれる可能性も秘めていると言うのだ。


 田畑を耕す村人や、街で仕事にありつく住人とは違い。冒険者のドミニクは、その危険を回避する為に南に来たと言うのだ。


 南に来た理由は、物価が安いことと、北から距離を取りたい為だと言った。


 それはもっともらしい理由ではあるのだが――


「なんで住み慣れた場所を簡単に離れようと?いくら不安定だと言っても、」


 ――おかしい、

 不安定になったからって簡単に離れるか普通?

 いくら移り住み易い冒険者とはいえ、



「うん?理由?理由は簡単さ、俺の勘かな‥、疼くんだよ何かが、」

「なるほど、納得出来ました」


「ほへ?ジンナイ様!今ので納得しちゃうんです」

「そうなのよぉ~、いきなり勘で引っ越されるってホント困るわ、全く」



 サリオとリーシャは今の勘という説明では納得出来ない様子であった。

 だが、俺はソレ()を支持する。


 この異世界では、”勘”と言うべきか、そういったモノは馬鹿に出来ないのだ。

 そう、この異世界で”勘”と言うモノや、何か惹かれるモノ。俺はそれに従いラティと出会い、そしてラティを購入し、その結果として、俺は彼女のお陰で生き残れているのだ。


 だから俺はその”勘”と言うモノの肯定派であった。



 

 そして話は移り、俺は不安定の内容を具体的に訊ねた。


 ドミニクの言う不安定とは、法律(ルール)や冒険者の扱いの変化であった。

 今までのボレアス家が布いていた法と、フユイシ家が介入して出来た法や税などが厳しくなり、そして冒険者達には、ルリガミンの町に行って魔石を集めて来いなど、無茶を言うようになったと言うのだ。


 これまでも冒険者に指示や、協力要請などはあったが。それが命令に近くなってきており、この先それが強制命令になるだろうとドミニクは予想したのだ。


 元からフユイシ家は評判が良くなく、避けられている方であったと言うのだ。

 そのフユイシ家が北全域を支配している流れになっていると。


 名目上ではボレアス家は存続しているが、支配しているのはフユイシ家。

 だからドミニクは、乗っ取りと言う表現を使って話していた。

 本来であれば、王家や他の大貴族が何かしら咎めたりするのだろうが、何故かそれが無いと言うのだ。その辺りの政治的な何かがあるのだろうと、ドミニクは愚痴のように吐き出していた。



 

 その後も俺とドミニクの話は、リーシャがつまらないと文句を言うまで続いた。

 

 途中からはもう遠慮無しに、根掘り葉掘り聞く俺だったが。それでもドミニクさん・・は知っている事は答えてくれた。


 細かい所では、防衛隊を仕切っていたアゼルさんの事や、勇者の動向なども。

 勇者の情報で一つ気になったのは、北を離れた勇者柊がいないのは分かるが。弓勇者の早乙女も姿を見せなくなっていると言うのだ。

 俺と乱闘した勇者荒木の姿は見かける事があると言うのに‥。


 ――ん?実は早乙女も北を離れたのか?

 確かに北を離れたとしても不思議じゃないか、

 案外この南に、勇者早乙女が来たりしてな‥




 それから暫くして俺はドミニクの家を後にした。

 ドミニクさんは”また来てくれ”と言っていたが、その後ろではとても嫌そうな顔をしたリーシャが立って居た。

  

 サリオが最初の方の雑談(劇の話)の時に。


『リーシャちゃんは、なんでジンナイ様を嫌がるです』

『え?だって目がマズイでしょ?絶対に何かやらかした目してるよ?』


 とんでもない事を聞くサリオもサリオだが。それに対して、容赦の無い返答をするリーシャもリーシャだった。


 流石にその時は、ドミニクさんも『あちゃー』っと言う顔をしており、何とも温度差の激しい歓迎であった。







             ◇   ◇   ◇   ◇   ◇








 その後、食事の手配や泊まる場所の確保を終えたエルドラさんがやって来て。今日、俺達が泊まる場所へ案内してくれる。


 案内された場所は、予備用に用意された小屋。

 3人で泊まるには、若干広く。少し贅沢に感じる小屋であった。


 そう贅沢な‥‥。


「あの、エルドラさん。なんで俺達だけこんな待遇良く、?」

「はい、アムドゥシアス様から3人にはそれなりの待遇をと」


 アムさんからはかなり気を使われていた。

 来る途中の馬車も極上の物を用意して貰い。寝る場所さえも。

 寝る場所に関してはラティとサリオが居るので、気を使って貰えたのは大変有り難かったのだが。


「あの、ご主人様、これは‥‥」

「分かってる、多分また妬まれるかもな、」


「なんでしょうね、ジンナイ様って冷遇されても優遇されても、どっちでも苦労するんですねです」

( やかましい! )



 この小屋に案内されている時に。遠巻きに見てた冒険者達が、最初の時よりもキツい視線を俺に飛ばしていた。


 もちろんその気持ちは理解出来た。

 同じように防衛戦の参加者が。自分達よりも優遇されていて、馬車も良い物、見張りの任務も無し。挙句の果てに3人だけの小屋を用意。

 しかも、女2人連れで。


 一応は赤首輪奴隷であるが、下衆な勘繰りをする奴らにとっては些細な事。

 全員とは言わないが、何人かは俺に対して不満を抱いただろう。

 

 ならば、その不満軽減の為に、俺だけでも他の冒険者達と同じ場所に寝泊りするか?と言えばそれは否。


 ラティ(【索敵】)から離れるほどの無用心では無い。

 それに俺が居ないと分かると、アホな事をし出す奴もいるかも知れないので、やはり3人で小屋に泊まることにした。


 特に今日はリーシャにガリガリと削られた心を癒す為に、ラティ(耳と尻尾)癒し(撫で撫で)は必須である。


 それと、ドミニクの家で調子に乗ったサリオに折檻(アイアンクロー)も。






             ◇   ◇   ◇   ◇   ◇







 俺は防衛戦の遠征先でも、普段通りの日常で過ごし、次の日を迎えた。

 予定では、早朝の時間帯に魔物の群れが来ると予想されていたが。やって来たのは、なんと勇者だった。


 昨日、冗談ではあるが、早乙女が来るかもなどと思っていたが。

 やって来たのは斧持ちの勇者。


「あの、ご主人様、あの方は確か‥」

「ああ、前に赤城の所に居た奴だよ、」



 ドライゼンからの話では、何処かの貴族に引き抜かれて行ったと聞いていたが。

 その上杉司うえすぎつかさが、100人近い兵士を従えてやって来たのだ。



 しかも、貴族令嬢だと思われる可愛い少女を隣に連れて。


「おう!陣内。久しぶりだな、まさかこんな所で会うとは、」

「上杉、赤城の勇者同盟レギオン抜けてドコ行ったかと思えば‥」


「ああ、まぁな。いま俺は大貴族ナツイシ伯爵にやっかいになってるんだ」



 上杉はそう言って、昔から変わらない、自信に満ちた顔(嫌み臭い顔)を俺に向けて来ていたのであった。


読んで頂きありがとう御座います!

宜しければ感想など頂けましたら、嬉しいです。


ブクマ900が見えてきました!感謝です

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