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サイバー・ひよこ

作者:Mr.あいう
この小説は5分大祭参加作品です。
家族で縁日に行ったあの日、僕はサイバー・ひよこに出会った。

『今日はお祭りだから』と500円玉を渡されて、道の両側にある屋台を物色していたときの事。
たこ焼きと射的の屋台に並ぶ行列にはさまれて、ぽっかりと無人が強調されているその先に、けばけばしい字体で大きく『サイバー・ひよこ』と書かれたその看板を前に、僕は思わず立ちどまってしまった。
「やあ、坊ちゃん。こいつに目をつけるとはお目が高いねぇ」
そんな様子を目ざとく見つけて、屋台の中に座っていたおじさんが声をかけてきた。
「どうだい、ちょっと近くに寄って見てみないかい?」
その声に引かれて屋台に近づいてみると、金魚すくいの屋台の、金魚が入った水槽のような大きさのビニル製の小さなプールの中に、たくさんのひよこが敷き詰められて黄色いカーペットのようになってピヨピヨと声を上げながらうごめいている。
ひよこだ、と僕が呟くと、おじさんはその中の一匹を摘みあげてこう言った。
「いやいや、これは普通のひよこじゃないよ。サイバー・ひよこっていってね。ほら、普通のひよこは大きくなるとニワトリになって、えさもたくさん必要になって大変だ。ところがだよ坊や。このサイバー・ひよこは違うんだ。ここを見てごらん」
そういって摘みあげたひよこの、後頭部のあたりを指差してそういったので、僕が顔を近づけて覗きこむと、そこには小さな縫い痕があった。
おじさんはかがみこんだ僕の耳元に口を近づけて、まるで秘密の話をするように続けていく。
「こいつらは頭に特別な機械が入っていてね。だから成長もしないし死んだりもしない。ずっと君と一緒にいてくれるんだ。とてもいい友達になってくれるんだよ」
「すいません、息子をあまりからかわないでやってくれますか?」
突然、父がおじさんにそんな事を言った。
「息子が信じ込んでしまったらどうするんですかそんな話を。行こう、淳」
そういって、無理やりに僕の手を引っ張っていこうとするお父さんを、しかし僕は振りほどいた。
「おじさん!いくらですか?」
「500円だよ。毎度あり」
父はまだ何かいいたかったようだが、僕の顔をみて、表情を緩めた。
今思うと父は、縁日なのだから、これくらいの嘘も方便なのだろうと、そう思っていたのだろう。
500円でこんな息子の顔がみれるならいいか、と。

その日から、サイバー・ひよこは僕の自慢のペットだった。
えさは少しですむし、撫でごこちは最高だし、場所はとらない。
そんな完全無欠なペットを誰かに自慢したくなり、僕はサイバー・ひよこを学校にもって行く事にした。
先生が来る前の自由時間に、僕がランドセルからひよこを取り出すと、自然と人が集まってくる。
「サイバー・ひよこっていうんだ。こいつはずっとひよこで、死なないんだよ」
誰に説明するともなく、僕がそう言ったら、クラスの中の優等生じみた奴が、
「バッカじゃね~の?死なないわけないじゃん。パパは生きてると死ぬんだって言ってたよ」と言った。
僕は言われっぱなしではいけないと思い反論した。
「死なないよ!だってサイバー・ひよこだもん」「いないねそんなの」「いるよ!」「いないよ!」
そんな言いあいが続いて、その優等生じみた奴は興奮したのか、僕のひよこを掴むと「こうやったら死ぬじゃん!」と、僕のサイバー・ひよこを地面に叩きつけた。
クラスメイトの誰かがヒッ、と息をのんだ。
グシャ、とつぶれる音がしてひよこの黄色に赤がにじむ。
しかし、それだけ。
その赤はすぐに引っ込んで、床でひよこがピヨピヨと鳴き始めていた。
「ほら、死なないだろ?」ひよこを摘み上げながら僕がそう言うと、彼は黙り込んだ。
彼は全員から無視されるようになり、クラスの皆がひよこを欲しがるようになった。
次のお祭りが終ったとき、僕のクラスでひよこをもっていない奴はほとんどいなくなった。


僕が小学三年生のとき、友達が落ち込んでいたので話を聞いてみるとこんな事を言いはじめた。
「うちの父さんが、僕のひよこを捨てちゃったんだ」
どうやら、彼の父親が突然彼のひよこを見て、一体何処で手に入れたのかを問いただした上、彼が何度も屋台で買ったサイバー・ひよこだと言うのも聞かずに捨ててしまったらしい。
「『そんなに長い間ひよこでいるはずが無い』って、父さんそう言ってた」
その事をクラスの友達に話すと、二、三人同じ経験をしている奴がいた。
どうやら大人はサイバー・ひよこが嫌いみたいだ。と僕が言うと、クラスメイトも同意した。
「どうにかして、ひよこを大人達の魔手から守らなければならない」
覚えたての言葉を使ってそう言うと、みんなもお~っと掛け声を出した。


そして、現在。
あのあと僕達はひよこをさまざまなところに隠した。
公園だったり、引き出しの中だったり、カバンの中だったり。
幸いサイバー・ひよこは死なないので、何日もえさをやらないでも元気が無くなるだけで生きていた。
いつまでも一緒にいてくれる。ひよこはある意味最も誠実な友人と言えた。
もはや、サイバー・ひよこをペットと思う奴はいなくなっていた。
そして、僕が大人になったある日。ある歴史的な発明がなされたというニュースが流れた。
いわゆる、不老不死の技術の開発。
「後頭部にこの機械を埋め込み、脳が分泌するホルモンの働きを調整することにより寿命や怪我による死を防ぐことが出来るのです。私は、この機械を人間に取り付ける為の手術の受付を開始したいと思います」
そして、この放送の最後に、アナウンサーがこんな事を言っていた。
「この発表により、各地で人道的な問題が叫ばれています。果たして、不老不死は世間に受け入れられるのでしょうか」
胸のポケットに、サイバー・ひよこを入れて。

「受け入れられるに決まってるだろ」
サイバー・ひよこが死なないのなら、人間が死なないのも当然だ。
受け入れられないふるい考えの持ち主、例えば僕の両親などは、寿命があるのだから消えていく。
少し寂しいが、それもサイバー・ひよこが慰めてくれるから心配ない。
僕の手の中で、サイバー・ひよこがピヨピヨと嬉しそうに鳴いていた。
こういう作品は初めてだったので苦労しました。
感想等もらえると、その苦労も吹っ飛びます。

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