第4話
神様を呪った日からもう6年経ちました。
次の日から俺は自分の異常さを隠すことなく発揮し、勉強に運動に、そして念修行に励みました。
最初は誰もが俺の異常さに驚いているようでしたが、母にしろメイドさんにしろ本妻から追い出されたりひどい仕打ちを受けたりしていたのでみんな喜んで俺を教育してくれた。
普通子供はどんなに勉強が大事と言われても実感できなくてまじめにやろうとしない。
実際俺も勉強の大切さなんかまったく理解できなかったし遊ぶことのほうがすきなのは当然だと思っているので子供のころにまともに勉強した覚えがない。
よく若いころにもっと勉強しとくんだったとか後悔しても大人では脳の成長はとまっていてもう手遅れなことに気づいて嘆いている人がいるが、今の俺はその後悔をもっているのでまじめにやる。
そう俺は転生したことで、勉強をまじめにしないで手遅れになった実感と子供のいくらでも成長するやわらかい脳を持っているから何でも覚えられる。
その上に将来どうなるかが正確に描けるので、腹違いの兄弟に殺されるか、キメラアントに殺されるかなど、将来の不安もあるのでやる気が違うし、前世での死の恐怖を知っているので勉強と運動をやらないと落ち着かなくなっている。
特に念修行については独力でやるしかなく半年ぐらいでどうにかなったとか読んだ気がしたのでがんばったが、オーラを感じ取れるようになるまで3年かかった。
明らかに2流どころか才能なしと気づいた。
そういえば、ゴンやキルアほどではなくてもズシも才能があった人でしたね。
そのせいで勉強や体を鍛えるのを少しでもサボると兄弟に殺されたり、キメラアントに食い殺される夢を見ている。
絶対にトラウマになっているがうなされるたびにメイドさんが抱いて寝てくれるので心も体もなんとかもっているどころか次の日はけろっとしている。
まあ、けろっとしているは言いすぎだが前世の自分から考えればここまでがんばれるのは十分異常なので、よほどメイドさんがすきなんだと思っていた。
しかし、実際は人肌が恋しいということに気づいた。
なぜなら母や乳母に抱いて寝てもらっても元気になっているようなので。
まさか、母や乳母の性癖まではもってないだろうと思っている。
おそらく前世で一人さびしく山の中で死んだのがトラウマになっているんだと思う。
将来のことで悪夢を見ているが、そのときの死ぬ感覚はあの時山で死んだときの感覚に似ているから。
ただ、悪夢を見るのも案外悪くない気がしてきた。
近頃はうなされていなくても誰かが一緒に寝てくれているので、俺は女性に抱かれて寝られるのだ。
前世での恋人いない暦が生まれてからずとの俺にとってはうれしい限りだ。
このぬくもりをいつまでも感じるにはみんなの期待通り次の当主に選ばれるしかないので、いい目標になっている。
勉強や運動は人並み以上にできている気がする。
6歳児ですでに前世より運動能力が高いからだ。
前世の引きこもりと比較して勝ってても意味がまったくないだろう。
なんたってこの世界強いのは本当に規格外でトン単位の扉を一月以内に開けられる存在とかが本気でいるからな。
まあ、それでも今の俺の運動能力はそこそこあるし、十分強くなっていると思う。
勉強のほうは大学受験までもう少し、いや、高校生ぐらいは何とかかな。
だって覚えることについてはまったく意味がわからん。
偉人やら何やらなんて本当に最初から全部覚えなきゃいけないし、鉱物資源についてなんかファンタジーに出てくるようなとんでも物質とか、わかってたけど動植物については価値観が宇宙の果てに飛んでいってしまったよ。
普通の学生としてならどうにかなったけど、事業経営をするには商品についても知らないといけないから前世では絶対になかったものとかを覚えないといけない。
このときは本当に赤ん坊の柔らかい頭でよかったと思っている。
じゃないと絶対覚えきれないからな。
それに、経営するんだからもちろん経済学が絶対に必要で、これなら前世の知識が多少は生かせるかと思ったら、とんでもなく甘い認識だった。
だって、経済について重要な概念が魔獣被害とか、新種の魔獣や植物の発見とかによる経済効果とか、競争相手や提携相手が暗殺された場合についてとか、なにそれなんでそんなこと考えないといけないのっていう本当にびっくり経済学だったよ。
きわめつけは、暗殺一家ゾルディックに会社の重役が殺された場合は、何が何でも殺されたのではなく、連続殺人犯だったとか悪魔の中の悪魔で最悪の人物だったから過去の恨みで正義の見方かぶれに粛清されたとか風評を流さないと、ゾルディックを恐れて誰も商売をしてくれなくなるから会社がつぶれますとか何で経済学に書かれてるんだよ。
普通暗殺されたことより後者のほうが風評被害がひどいだろと突っ込みを入れてしまった。
このことについては屋敷にいるメイドさんの誰一人とて俺のほうが間違っていると言って同意してくれる人はいなかった。
そんなこんなで前世の知識があるにもかかわらずやっとこさ高校生の参考書が理解できる程度だ。
一番でもないが絶対に必要になってくる念はやっと纏ができるようになった。
残念ながら寝ているときは纏は解けてしまっているようで困っているが、まずは当主として認めてもらうほうが先なので勉強と運動をすることにしている。
ただ、キメラアントについてだけは気をつけなければいけないので、商品の確認のためだと言ってヨークシンについて情報をもらっている。
本当はハンター試験が第何期か聞けばすむ話しなのだが、さすがに何期目だったか覚えていない。
ジンについては有名人なので調べようと思ったが、いきなり自分と関係ない存在が調べて警戒されても嫌なのでやめている。
どうせネットでのやり取りを禁止されていたから調べるだけ無駄だと思っていることが最大の理由だ。
ほかと言えばクルタ族についてだが、その生態、目がどれだけすばらしいか延々と書かれているが、どこに住んでいるかは隠れ住んでいるとかもう全滅しているとしか書かれていない。
世界中から狙われてるんだから当然隠れ住んでいるので、この情報からは原作の時機をつかむのは不可能だ。
後はゴンとキルアの年齢だが、どちらの年齢も下手に調べたら死が待っている。
ゴンは世界で上位の念使いに目をつけられ、キルアのほうは世界一危ない一家に目をつけられる。
ゴンのほうは許してもらえる可能性があるが、キルアのほうは冗談は一切通じずに殺されるのが決定している。
毎日のように拷問レベル、というかそのもののことをしておいてどうかと思うが、とんでもなくゆがみまくっているが間違いなく愛されているので、死にたくなければ調べるのはやめるのが懸命だ。
キメラアントに殺されないようにするために、ゾルディック家に狙われたのでは本末転倒だ。
キメラアントが出てくる前にある程度強くなっておきたかったので、正確な時期を知りたかったがヨークシンをおとなしく待ったほうがいいという結論になった。
消極的過ぎるがまさかこの年で自力で念に気づいたから、プロハンターに念を習いたいですなんてことをしたら絶対ややこしいことになる。
すでに兄弟から命を狙われているのに余計な死亡フラグはもうほしくない。
俺は当主になってメイドさんと暮らすんだ。
この浅い考えが念能力が習得できない理由かもしれなかった。
それにしても原作では纏は一度覚えたら忘れないといっていたはずだが、俺は寝て起きると纏が解けていて最初からとは言わないがオーラが把握できなくなっている。
どう言えばいいのかわからないが昨日は俺のオーラはこうだと把握できていたのだが微妙に違っているというか、まあ、やっぱり原作の主人公とは違うということなんだろう。
日によってすぐにできたりできなかったりと違うが、平均してだいたい1時間以内には纏ができているのだから問題はないと思う。
ただ、そのせいでそれ以外を修行する暇がない。
絶はやったとしても本当にできたかどうか自分では確認のしようがない。
まさか、一般人であるメイドさんや体の弱い母に気づかれないからできてるとは思えないし、その程度の合格基準で役に立つとも思えない。
練はなんとなくやってみたが、オーラを出し尽くす結果になってしまって気絶してしまった。
丸一日起きなかったのでえらく心配させてしまった。
そのほかの時間は勉強に当てなきゃいけないし、死なないためには体自体の丈夫さもいるのでぶっ倒れて何もできない日とか作るわけにはいかず時間がない。
何度か練習したがいっつも失敗している。
ビンからコップに水を一気に注いでちょうどいい量でやめようとしたら、傾けていたビンが重すぎて傾きを戻す前にコップから水があふれて、おわっと気づいたときには遅く全部あふれてしまうような感じでオーラをほとんど消費してしまう。
最初と違って気絶はしないがその日なにもやれないほど体が疲れてしまう。
そのせいで夜寝る前にすることにしているのだが、勉強やら体を鍛えることやらをした後なので、疲れていて集中力が切れていてオーラを細部まで把握することができず、オーラを大量に消費して終わってしまう。
どうにもこうにも纏ぐらいしか練習できない状態が続いている。
目標がメイドさんといたいというどうしようもない理由だが、何かをがんばっているという実感が持てて最高の気分である。
そう考えると神様を否定したり呪ったりするのもやめようかなと思うが、ニュースでありえないとんでもない魔獣とか事件とかを見ると、ののしりたくなってくる。
がんばろうとは思うが何も知らない赤ん坊のままでいたかった。
シトンマーサ様が生まれて育てていくうちに私たちは全員が親のような気持ちをもつことができるようになった。
外界から隔絶されたこの屋敷では変化はシトンマーサ様の成長しかなかった。
そのため私たちは宝のように、いえ、宝以上に何よりも大切なものとして育てた。
そのかいがあったのかどうなのかわかりませんが、シトンマーサ様は健やかに育ちました。
いえ、それは違いますね。
誰が考えていた以上に賢く健やかに育ちました。
二番目の子供のときに当主にふさわしいように育てようと考えていた自分たちがおろかに思えるほどの育ちようでした。
そのせいでまた私たちはこの子なら私たちを助けてくれるのではないか、この子にすべてを託せばと考えていましたが、ある夜に屋敷に響き渡るほどの声が届きました。
そのとたんに私たちは全員起きだし、またあの恐ろしい日々に戻ってしまったのかと思いましたが違いました。
その声はうなされているシトンマーサ様の声でした。
その声は本当に恐怖し、なにより、孤独な声でした。
はじめはマーリヤ様が抱いてあやしていましたが、それが何日も続くようになればお体を悪くしたマーリヤ様一人ではあやしきれないので、その役目は私たちに回ってきました。
もちろんシトンマーサ様に期待しているものたちが率先してあやしていました。
子供をもう復習の道具として使わないと誓い合ったのに、そのことをあきらめていないものたちの間でしばらく雰囲気が悪くなりましたが、それも一年もたたず終わりを迎えました。
本来なら遊びたい盛りどころか、善悪もわからずに好き勝手してもいいころなのに、自分たちが課す勉強や運動を率先してがんばる姿、そして夜中に響き渡る泣き声、どれだけつらくとも私どもに笑顔を向けること、私たちといるのが何より楽しいと笑う声、それらすべてが私たちにとって心に響くものでした。
復讐の道具にしないといいながらこんな小さい子供に勉強や運動をさせている事実が私たちの良心を刺激し、夜の心が痛むほどの泣き声が私たちの母性を刺激しました。
夜にあれほど泣くほどがんばっていてくれるこの子を大切にしたいとみんなが思い始めるのは当然のことでした。
それからは泣いていなくても交代で添い寝をするようになり、ますます私たちに笑顔を向けるようになってくれたことがより私たちを喜ばせ、常に誰かがいるようになりました。
そのせいでマーリヤ様がいる時間もたまに奪ってしまうのでこれでは誰の子供かわからないと嘆いていました。
それにはこの屋敷にいるみんなの子供よと答えていましたが、マーリヤ様はうれしそうでしたが少し子供をとられたようですねていました。
それからは屋敷の者みなが甘やかそうとしましたが、私たちの育て方が悪かったのか遊びよりは勉強をするほうを気に入ってしまったようで、せいぜい鬼ごっこぐらいしか遊んでいません。
庭や屋敷を走り回っていると思ったら庭や屋敷をどれくらいで一周できるとか、もっとはやくするには体を鍛えなきゃと言って、運動の量や質を増やして成長すると本当に喜んでいます。
運動していないときは勉強しているときで、私たちが教えられることは全部聞いてそれ以外の分野に関することについては書物を取り寄せて自分で勉強しているようです。
できることなら遊びの楽しさを教えたいのですが、この間それで一人で遊べることを教えてしまったものがいて、それに興味をもたれたのかそればっかりをするようになって私たちと一緒にいる時間が減ってしまいました。
最初はそれでよいと思ったのですが、そうなると逆に私たちはさびしくなってしまいました。
その遊びの楽しさを話してくれるのはうれしいのですが、そうなってくると私たちはどんどんさびしくなってしまいました。
私たちはそのときになってこの屋敷の中はさびしいということに気づきました。
来た当初や赤ん坊のことで忙しかったときはそんなことを考える余裕がありませんでした。
ですから誰もたずねてくることのいない館がどれほど孤独な館なのかを知りませんでした。
いつ殺されるかわからない恐怖、自分たちを貶めた相手への復讐のために子供を利用するしかないという絶望感が孤独を感じることを忘れていました。
いえ、マーリヤ様や私たちメイドしかいないときは連帯感により孤独は感じていなかったのでしょう。
そんな変化のない日々に急に現れた自分たちを絶対に害することのないどころか、私たちをこの状態から介抱してくれるかもしれない希望を持ってきた子供は私たちに必要なものだったのです。
何もないときはもうそれで納得していましたが人間は希望があるとそれにすがる以外になく、シトンマーサ様は私たちが育てるどころか、私たちにとってすがりつける唯一のものだと気づきました。
それからは私たちの行動は早かったです。
シトンマーサ様を立派に育てるためではなく私たちのそばに常にいてくれるように勉強や運動を教えるようになりました。
残念ながら勉強のほうはすぐに私たちではついていけなくなりましたが、運動については手伝えました。
腹筋をするのならその足を押さえ、腕立てをするのならその回数を一緒になって数え、走るのなら時間を計って、どのような運動のときでも声援をおくりました。
あんまり応援しすぎると照れてしまい嫌がりますが、本当に嫌がっているわけではないので顔を赤らめて気にしていないと装っている姿は愛らしくますます応援に身が入りました。
シトンマーサ様と騒いでいる間は私たちもすべてを忘れることができ、添い寝をしているときは私たちにすがり付いてきてくれてこのような境遇に追いやられた自分たちでも誰かに必要とされていると感じることができます。
どれほどひどい環境でも必要とされていると思うとうれしいものです。
特に私たちのようにいつ殺されるかわからないほど軽んじられている身としては本当に必要なことです。
人は本当に支えあいながらでないと生きていけないと実感できました。
本当にシトンマーサ様は私たちにとって宝です。
当主になることができなくてもいいから、幸せに生きてほしいものです。
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