第2話
俺はまだ死にたくない。
俺は自分が死ぬその瞬間までこれだけしか考えていなかった。
もしかしたらほかにも考えていたのかもしれないが俺が覚えているのはこれだけだった。
その思いが強すぎたせいなのか俺はその願いがかなった。
いや、願いがかなったのとは違うかもしれない。
あの時俺は確かに体からすべての力が抜けるのを感じた。
そして、俺は死んだ。
でも、神様はきちんと居て本気の願いならかなえてくれたのではと考えるようになった。
なぜなら、俺は生まれ変わったからだ。
俺ははじめ死ぬ前に見ている走馬灯だと思っていた。
きちんとものが見えず自分の体が思うように動かなかったのだ。
それでこれが夢だと思った。
できれば最後に見る夢ぐらい好きな漫画みたいに主人公になった夢を見たいなと思っていたが、俺にはこれがお似合いかなと思って、夢に身をゆだねた。
この夢を見る前まであった、まだ死にたくない、という高校や大学の合格発表のときでもなかったかもしれないほど強い願いがなくなってることをおかしく思ったが、そのままゆだねた。
だんだんとどんな夢を見ているのかわかるようになった。
赤ん坊のころからの事を見ているのだとわかった。
ずいぶんと長い走馬灯だなと思った。
この調子じゃあ最後まで見るのに、とんでもなく時間がかかるだろうと思った。
だが、何もしなくても親に文句を言われず、動くことも飯を取るのも親任せなこの状態は引きこもりの俺には最高の夢だった。
その夢が一月ぐらい(少なくとも20回ぐらいは寝て起きた気がするため)続いても俺は何も思わず、このままずっと赤ん坊の夢だけでもいいかもと思った。
ただ、これが三月以上(何もすることがなくて寝ておきた回数を数えるくらいしかなかったのできりのいい100回目であきたのでほかに何かないかと考えた)も続くとさすがにおかしいと思い始めた。
いや、おかしいと思い始めたのは時間がたったからというよりも、家族構成がおかしかったからだ。
俺には年上の姉が居たのだが、この夢(姉が出てこないと気づいたのは60回を数えるころだったが、おかしいと思っただけでそれ以上何も考えなかった)では一度も見ていない。
夢なんだからと思えばそうだが、一度おかしいと思うとすべてがおかしいことに気づき始めた。
まずは家族構成で父と母しか居ないことに気づいたが、次は見える範囲でも家がおかしいことに気づいた。
俺は幼稚園に入る前は父の仕事の関係で父の地元から転勤したせいで、今とは違う家に住んでいたがこんな家ではなかったはずだ。
普通の家で、こんなシャンデリアが似合うような家ではなかったはずだ。
そして、一番最初に気づいてもよかったが、見えているものがメガネをはずしたときみたいにうまく見えていなかったので確認できなかった。
しかし、おかしいと思ってみると親の髪や目の色が違っていた。
俺の親の髪の毛は父親が黒で母親が栗色で目は両方とも黒、今目の前に見えている金色ではないはずだ。
目がよく見えないせいでわからないが目も色が違いそうだ。
そう考えてくると、すべてがおかしくこれは走馬灯ではなく赤ん坊の夢を見ているのではないかと考えた。
確かに引きこもりだったが、マニアックすぎる赤ん坊プレイの性癖を持っているとは思わなかった。
自分の隠された性癖を死ってふさぎこんだが、目を凝らそうとも体をどうにか動かそうと思ってもどうにもならずされるがままになるしかできず、正解数のわからない間違い探しをするように目で見える範囲のおかしいところを考えることと日数を数えることしかできなかった。
ここまでいくとこれが夢とは思えずもしかしたら転生したのではないかと考えた。
俺がまだ死にたくないと何よりも強く願ったから神様がかなえてくれたのではないかと思うようになった。
典型的な日本人の困ったときの神頼みみたいだがこれが正解だと俺は思い始めた。
いや、実際にはどうでもよかったのかもしれない。
夢を見ていると思うよりはそう思ったほうが俺自身がいいと思ったからだ。
前世の知識があるおかげで俺の一番だめなところがわかっているんだからそれを直せばいい人生になるはずだ。
俺の一番だめだったのは人付き合いの下手さだ。
どうすれば直せるかわからないが、少なくとも常に念頭においておけば前世の失敗はしないはずだ。
後は動けるようになったら勉強と運動をすればほかの子供より優秀になるはずだ。
転生主人公のありがちな特殊能力までは期待していない、いや、本当はかなり期待しているが、少なくとも誰よりも早く勉強も運動もはじめれば有利になるはずだ。
この新しいからだが優秀じゃなくても、本当は優秀であって欲しいが、誰よりも早くからはじめていればそれだけいろんなことができるし、勉強も運動も人並みだったとしても何か打ち込めるものがあればいい。
ずっと帰宅部だった俺は部活に打ち込んで勝っても負けても本気で涙を流しているのが少しうらやましかった。
学校を挙げて応援に行かされた時にそれを何度か見ている俺は負けたら何にもならないとか叫んでるやつがいたが、本当に何にもならないのは打ち込めるものが見つからないやつなんじゃないかと思った。
そのときは熱血してる馬鹿がいるとか、漫画の中で十分だよ暑苦しいと思ったが、引きこもりになってみると俺も打ち込める何かが欲しかったと思った。
まあ、漫画に打ち込んだといえばいえるが、それを話せる仲間がいなかったからな。
せめて、そういう仲間を作ることでもできてればよかったがそれさえもできないほどのだめっぷりだ。
親以外の人間とかかわるまでに勉強と運動、せめて勉強だけでも終わらせておけば、学校に居る間は対人スキル習得に重きをおくことができるはずだ。
学校に対人スキル習得に行くべきだと考えている時点で手遅れな様な気がするが、死にたくないと思っただけで転生できたのだからできるはず、そう、何事もやればできるはずだ。
そして、今日から俺は神に毎日祈ることにする。
ありがとう神様、俺は今度の生は精一杯がんばります。
決して引きこもりにはなりません。
あの決意の日から俺は不自由な体でも何かできることはと思って、体の動かせるところをがんばって動かそうとしたり、母親の言葉を聴いて言葉を覚えようとした。
日本語なら覚えなくてもよかったんだろうが明らかに外人の姿だし、案の定理解できなかったが赤ん坊の柔軟な頭のおかげか言葉がわかるようになった。
英語ではないので、早いうちに覚えておこうと思った。
子供のころはわからなかったが、英語ができることは就職やら何やらで有利になるので、頭がやわらかいうちに覚えたいところである。
希望としては、両親が国際結婚で複数の言葉を話せることを願うばかりである。
小さいころに触れた言語は覚えやすいらしいので面倒でもがんばりたいところだ。
ああそう、俺の父親はどうやら単身赴任か俺が起きている時に家に帰れないほど忙しいのか知らないが覚えているだけでも2回しか見ていない。
まともに目が見えるようになってからは一度も見かけていないのでどんな顔をしているのか楽しみだ。
母親は……うまくいえないが、モデルでも通用しそうな見た目だ。
スタイルもよくて、金髪でさらさらしてるし、俺を見るときはいつも笑顔を絶やさないし、望みうる最高の母親のような気がする。
今までまったく信じていなかったが神様は本当にいるようだ。
今なら本気で神様に祈れそうだ。
今はまだまともに動けないが手を合わせることはできるので、運動がてら手を合わせて祈ることが日課になっている。
母はその行動を勘違いしているのか、俺の両手の間に長い髪をたらして遊んでいる。
最初は面倒であんまり相手にしてなかったのだが、本能とでもいうのか俺の中にある赤ん坊の部分が目の前でゆらゆら動くものに逆らいがたいものを感じて、結局手で挟み込む行動を取っている。
目はだんだんと見えるようになってるし体も動かしやすくなっているが、まだ機敏に動くことはできず一度もつかめていない。
たまに母が手加減しているときにしかつかめていないので、俺としてはこの体の運動能力に疑問を感じているところだ。
確かに生まれたばっかりなはずなので仕方ないところもあるが、第二の人生はせっかくだからいい人生にしたいので、まずは勉強よりは運動をがんばったほうがいいと思い始めた。
母の見た目からいって俺もそこそこいい遺伝子を持っているはずなので、食事制限をして運動をがんばれば、黄色い声援がもらえそうでむちゃくちゃ楽しみだ。
前世の平凡な容姿から考えれば楽しみで楽しみで仕方ない。
父をまだ見たことはないが、とんでもないゴリラとかありえないような容姿でない限りは美形は決まったようなものだ。
だからといって勉強をおろそかにするわけにはいかないだろうし、いくら運動ができても脳筋ではだめだろうからやることがたくさんあって、動けるようになるのが楽しみだ。
今までの俺なら運動はやりたくないし、勉強もやりたくないし、外に出て人とかかわるのなんか絶対にいやだという、完璧な引きこもりのだめっぷりから考えるとかなりの進歩だ。
神様ありがとう。
動けるようになったら将来のためにこつこつとがんばって人生を謳歌します。
余裕があれば教会やら神社やらに寄付をします。
本当に神様ありがとう。
まだまだ主人公は右も左もわからない状態です。
原作主人公たちは当分影も形も出ませんので主人公が異世界でどう生きていくのかを見守ってください。
この話を読んでくれてありがとうございました。それではまた。
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