第28話 告白!?(3)
何秒かの沈黙の後のことだった。
「――や……っ」
自分の言葉に彼がどう触発されたのかは分からない。
――だがあの言葉を呟いた数秒後、源二の身体が覆い被さるように一夜の身体に押し付けられ、少し汗ばむ身体同士を密着させられた。
彼のその引き締まった腕は一夜の身体の両脇にあり、鉄柵を握り締めて彼女のことを逃すまいとしていた。頭を撫でられているうちにいつの間にか源二の方を向いていた一夜は、駐車場の鉄柵に背中を軽くぶつける形となり、そこに鈍い痛みが走った。
一夜は思わず拒むように、肩に当たっている相手の胸に震える手を置いた。
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一夜からの告白を聞いた源二の頭の中は、沸騰したようにぐらぐらと揺れていた。
――今、この女はなんと言った?自分に都合のよい幻聴か?
以前から何とはなしに男である自分を頼りにしていることには気付いていたし、彼女の寂しさにも気付いていた。だが、これほどはっきりと言葉にされると、否が応でも期待してしまう。所詮自分とて、単純な高校生の男なのだ。
こんな愛の告白まがいの言葉を言う相手に、長年片思いをしてきた身としてはやはりたまらない想いになり――、気がつけばまたこんなことをしてしまっていた。
――だが……。
己の腕の間に一夜を閉じ込め、その緊張している細い身体をどうにでも出来る体勢の源二であったが、ふと頭のどこかで冷静に考える。
頭も身体も十分熱いのであるが、このあたりが彼が慎重だと言われる所以であろう。
――本当に、一夜のこれは恋愛感情なのか?これだけ、恋から逃げてきた女が、こんなに簡単に、こんなことを口にするか?
単純で馬鹿な男の一面も持ち合わせていたが、最早こんな風に相手の気持ちを勘繰ってしまうのは、散々一夜に相手にされてこなかった彼の哀しい性であった。
だけど、コイツも自分のことが好きなんだ、とのぼせ上がるのも格好悪いと思っていた。
何より、一夜の方がそんな単純で簡単な女ではないと思っていた。そんな女だったら多分とっくに落としているだろう。
だけど、やはりそんな風に言われたことは嬉しかったし、そう言ってくれた彼女を愛しく思った。それは理屈も何もない、素朴な想いだった。
結局、どちらなのか、何のつもりでそう言ったのか、源二には理解できない部分もあったので、愚問だなと思いつつも腕の中の女に今一度尋ねた。
「前も聞いたけどさ……それって、何なんだよ。――恋愛感情?」
直接的な言葉を耳に低く吹き込まれ、一夜はびくんと身体を竦ませた。
「……ごめん、わかんない……」
その答えを予測はしていたものの、やはり脱力してしまう。
「――ていうか…それより……」
俯いたままそう言う一夜の顔は見えないが、どうやらかなり恥じらっているようだった。
「……まだ、明るいし…周りから見えちゃうと、思うんですけど……」
何故か敬語でそう言うと、言うことで益々恥ずかしくなったらしく、一夜は口ごもり更に身を縮めた。
――どうやらこの姿勢のことらしい。離してくれということか、と源二は理解した。
人の視線はまだ感じていないが、まあそういうことをしていると遠くからでも分かるかもしれないな、とこの体勢に彼もまた内心や身体に色々と変化が生じていたとしても―、相変わらず表情だけは朴訥とさせたまま源二はそう得心していた。
恋愛感情かどうかは分からない、だがこの格好は恥ずかしいからとりあえずやめて欲しい――ということか。
「だから、外で話そう、って言ったのに……」
なおも抵抗しようと、一夜は自分の胸の手に力を込めるが、そんなもの何にもならない。
そしてこんなこと家で話せばいいのに、と源二はずっと思っていたのだが、一夜が外を指定した理由がここで分かった。
――成程、この前のように自分が暴走しないよう牽制した訳か。強姦まがいのことをしそうになった自分を思い出せば、それも納得出来る話だ。
恐がらせて悪いな、と思う反面、一夜らしい防衛線だ、とも思う。残念かどうかは別として……。
どちらにしろこういう日頃見られない一夜の『女』の表情は珍しく、そしてそれこそ――、単純に可愛らしいと思う。
だから本題とは関係なく、自分でもくだらねえなあと思いながらも、ついこんな戯れも言ってしまう。
「別に、外だからって何もできねーワケじゃねえだろ」
「……っ!」
また一夜がびくんと身を反応させる。
それは半分本気であったが、残りの半分は、脅しとか今度はこちらからの牽制とか、相手の反応を見たかったとかなんか少し苛めてみたくなったからとか―諸々の感情からの、それだった。
また沈黙となったしばらくの後、……結局、源二は苦笑交じりのようなため息をつくと、一夜の両側についていた腕を離した。
そして元のように彼女の横に立ち、少し前かがみ気味の姿勢で再び鉄柵に凭れ掛かった。
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戒めを解かれた一夜は、再び訪れていた貞操の危機が去ったことに、音を立てず大きなため息をついていた。
……まあ、彼にこうされてもおかしくないようなほどの色めいたことを言ったのは自分なので、今度は自業自得だと思っていたし、2度目であることもあり、それこそ叩いてまで拒絶反応を示すことはしなかった。
こういう雰囲気になることも覚悟の上であの言葉を告げたからだ。家だとなし崩し的にどうされてしまうか分からなかったので、だから外で話をしたのだけれど…。
意外に彼は、大胆だった……。
それはさておき、人に見られて恥ずかしい状況は終わったので、一夜は源二の質問に答えることにした。言いたいことだけ言って自分はよくても、彼には納得出来ないだろう。
「……確かに、ね、…いい年こいて和歌ちゃんにやきもち妬いたりしたよ。源二には他の子とはしてほしくない、特別に思って欲しくないって思った」
自分だけを――なんて言葉は恥ずかしくておこがましくて言えないけれど、それはただの独占欲であった。
「でも、その…、じゃあ私が源二と…したいのかとか、突飛な話でごめんだけど、結婚したいのかとか言われると、よくわかんなくって……。私にはどこからが恋愛感情で、どこからがそうじゃないのか、わからなくて…、これがどっちなのかと言われると、ほんとに自分でもよく、わからないんだ……」
「……」
源二は黙っていたが彼に何かを言われる前に、一夜は早口で捲くし立てた。
「いい年こいてって思うだろ!? 中学生じゃないんだしさ!」
自分でも恥ずかしくて情けないと思っていた。
こんな女をどうして源二はいいと思ったのだろう。まったくもって分からない。
「――でも、さっき言ったのは、本当のことだよ…。重いかもしんないけど、私が本当に思っていることだ。だからと言って、やっぱりどうしたらいいのか分からない――分からないけれど…、あれから、どうすればいいか、考えた、」
この少年とてまだ17歳で恋愛経験など豊富ではない。このどのマニュアルにも載ってなさそうな女を、どうしてやるのがいいのか分かるわけもない。
一夜もそれは分かっていた。自分は大人でもあるし、そこまで彼に甘えるつもりはなかった。
だからもうひとつ、源二に告白のようなことをされ『覚悟』してきたことを――、本当にこれが正しいのかどうか分からず、迷いがまだふっきれていない中であったが、一夜は思い切って口にした。
「その、もしも、源二がほんとに―その、私のこと――…好…よく思ってくれるんなら…、そのさ……おためしで、付き合って…、みないか、と……」
「はああ!??」
ぶつぶつと呟かれた一夜の提案に、そのような答えを予想もしていなかった源二の声がひっくり返った。
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