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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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周りから言われると断りづらい雰囲気って、実際あるから困る。

 呆然として俺たちを見るイリアどもをよそに、俺は苦笑を浮かべていた。
 敗北こそしたが手応えは感じた。
 そうして、やはり、赤い竜が目指している境地というものに確信を得て納得する。

 「……『重ね撃ち』かよ。ほんとヘビーナイトはワンチャンあれば勝てるーだな」
 「スタミナ管理はピーキーだからねえ。正直、足りるとは思わなかった……ふぅー!しかし、やっぱりあっちゃんクラスと戦うと面白ぇーわ!」

 赤い竜はポーションを飲み下しながら、どこか満足げにそう言った。

 「しかし、竜さん槍剣と剣剣のタブで固定か?移動用に槍剣使うにしても遠距離対策どうすんだよ」
 「わかってて聞くんだもんなー。槍投げて相手が射撃モーション入ったらレイジで寄ってハウリングで吠えるよ。だから、剣盾オンリーで来たんだろ?ガードは最悪ハウリング防げるし。ハウリングはモーション大きいから凌がれると確実に貰っちゃうからねー。対人の基本、『無駄に吠えるな』って奴だよ」
 「でもその選択肢はでかいぜ?こっちだって迂闊に飛べねえよ。『飛んだら、落ちる』ってマジでローグ系は何もできなくなるじゃねえか」
 「剣剣は確かにガチ近接だとサークル重ねられるからステップ切れるんだけど、遠距離相手にはロクロータさんが言うようにやっぱりきつくなるよ」

 俺たちのくっちゃべってることをNPCどもが聞いているが何を喋っているのかさっぱりわからんだろうな。
 案の定、皆が一様に惚けた顔をしてやがる。

 「……でもあっちゃんらしくないねえ。ウォリでやるならスレイヤーの方が強くないかいやっぱり?」
 「最終ダメや立ち回り考えたらブレイバー一択なんだよ」

 ローグのブレイバースタイルという変則スタイルでは本格的なナイトタイプを殺るにはアイテムを駆使して戦うしかない。
 だが、それをやってしまっては今、俺が本当に欲しいスキルが手に入らないから使わなかった。

 ――だから、『模擬戦闘』なのだ。

 「まあ、今後も時間あいたら少しよろしく頼むわ」
 「おっけーだよ」

 赤い竜はどこか満足げに笑い、肩をすくめる。
 そして俺は地面に座り込んだまま遠くでぼうっとしているチュートリアどもを見る。

 「さぁ、前座は終わったぞ?やれよ」

 どこか乗り気ではないチュートリアが俺に尋ねる。

 「本当に、やらなくちゃダメなんでしょうか」
 「バッカじゃねえの戦女神のイリアちゃん。戦うのがお仕事だろうに。それをやらなくちゃダメかどうかで言えばやらなくちゃダメに決まってんだろうが。ゆるふわなのは頭だけにしとけよ?」

 横でマノアが剣を抜き、静かに屈伸してウォーミングアップをしている。

 ――事態の飲み込みが早いのはいい思考傾向だ。

 「……師匠のイリア。やるッスよ?師匠は言葉を翻すような人じゃないッス。なら、覚悟を決めるッス」
 「でも、私にはネルと戦う理由が無いです。私には……」

 どこか怯えるチュートリアにネルはさばさばとした表情で言った。

 「そうッスか。私にはあるッス。師匠のイリアに戦う気が無いなら、何もしない師匠のイリアをぶっ叩くまでッス」

 引き抜いた大剣には迷いが無い。
 こういった心構えは嫌いじゃあない。

 「あの、マスター……本当に……?」

 俺は最早、興味を無くしてインベントリの中の整理を始めていた。
 恨みがましい目で見つめるチュートリアを一瞥すると何も応えず再びインベントリの整理に勤しむ。

 「……ネル、あなたは無抵抗の人であっても自分に理由があれば叩くというのですか?」
 「叩くッスね。叩くだけの理由があるから叩くンでしょう?」
 「……私には、理解できません。弱い人間を一方的にいたぶる人の気持ちが。それは間違っていると絶対に思います」

 聞いてて思うが本当にペラだけはよく回しやがる。
 恐らく、そう、恐らくだがそれはマノアにとって触れちゃいけない琴線を弾いたんだろうさ。

 「……あっしが強いって誰が決めたンすか?強い弱いで言えば、あっしは弱いッスよ。イリアでもなく、死ねば死体の残る人間す。それを勝手に強くできるのはあんたがズルして強くなったからッス――そんな人に、私を否定して欲しくない」

 能面のように表情を作ったマノアはどこか冷たい雰囲気を感じさせた。

 ――かかり過ぎだ。

 そうは思ったが指摘してやる必要も無い。
 俺にはなんとんく、結末が見えていたから。

 「――いきますよ?槍を構えなさい。構えなくても、私はあなたを――斬る」

  ◇◆◇◆◇◆

 俺と赤い竜の模擬戦にくらべれば数段見劣りする。
 いや、見るべきところの無い戦いだった。
 防戦一方に回るチュートリアを一方的にマノアが攻める形となる試合だ。

 ――マノアのレイジスラッシュがチュートリアの盾の上で火花を散らす。

 「そう――れっ!」

 振り下ろされた大剣の重さに耐えきれず――『ガード値』の限界を超えた連続補正威力のガードダメージを蓄積させたことによる『ガードブレイク状態』――チュートリアが体制を崩す。
 苦し紛れにチュートリアが槍を繰り出すが、マノアはそれを横に歩きながら避けて側面に回り込み、剣をチュートリアの脇腹に叩き込む。

 「あぐあっ!」

 チュートリアが再度盾を構えるが、マノアは距離を取りダッシュで側面に回り込むとレイジスラッシュで切り込んだ。
 盾持ち職に対するガード範囲の外から攻撃だ。
 相手の反撃を警戒しての後方への間合い取りなのだろうが、相手がテンプルなら俺は間違い無く前方――つまり、相手の後方へ向けて――にさらに踏み込む形で『ターンステップ』して背面を取りに行く場面である。

 ――大剣持ちナイトなら『サークルエッジ』を警戒しなきゃならんが、テンプルには後方範囲攻撃なんざ無いからな。

 典型的な攻め方ではあるが、見ていて稚拙すぎる攻撃に俺は欠伸をかみ殺す。

 「無様な戦い方だよな」

 呟いてみるが、もっと無様なのはチュートリアだ。
 自分が本来有利になるはずの攻撃であっても防ぐことすら叶わず、防戦一方になっている。

 ――それどころか、テンプルの特性を生かすことなく『ナイト』としてしか戦っていない。

 もっと言えば、『ナイト』の戦い方すらできていない。
本来であればスレイヤー系ウォリを封殺できるだけのスペックは持ち合わせている。
 だが、その特性を全く理解していないどころか自分に何ができるかも全く理解していない。

 「――ホォォリィィバスタァァ!」

 ――大技を繰り出し、ダッシュで躱される。

 マノアは躊躇無くチュートリアに肉薄すると大剣でその隙を突く。

 「サークルエッジッ!」

 横を駆け抜け、側面から横の当たり判定を利用した溜め無しサークルエッジ。
 やはり、こいつは良く見ている。

 ――先ほど、俺と赤い竜の対戦で『サークルエッジ』がどう使われたか。

 サークルエッジは自分の周囲の敵を纏めてなぎ払うスキルだが、対人戦闘で用いる場合、『側面、背面にも攻撃判定のある火力スキル』という視点で考えることができるスキルだ。
 旋回して相手の方向を向くという行程を省き、強引に相手の側面や背面を叩きに行けるのは元より、『近接攻撃が当たる場所であれば、どの方向を向いていても当たる』というのが大きなアドバンテージだ。
 そこまでの理解は無いだろうが、しかし、確実にAIの中で咀嚼して使い方に発想を与えている。
 ベースレベルやスキルレベルでいえば俺とレベリングしたチュートリアの方が高いのにも関わらず、チュートリアが圧倒的に押されていた。

 「――あうぅっ!」

 そこからステップして背後に回り込んだマノアが通常攻撃を連撃で叩き込み、一気にアドバンテージを奪う。
 だが、チュートリアは即座に『トランプル』と『シールドチャージ』で走り抜け、距離を取ろうとする。

 「逃がさないッ!」

 ――『ダッシュ』から『レイジスラッシュ』

 距離感の見方、スキルの選択も上手と言えよう。
 だが、赤い竜ならそこに一枚ステップキャンセルを挟んで相手の旋回方向の逆側に抉り込んで背後を取るがな。
 レイジスラッシュの切っ先が振り向いたチュートリアの眼前を薙ぎあげる。

 「――っ」

 『スウィング』を振るい、マノアの胴を薙ぐがマノアは即座に左手をチュートリアに突きつける。

 「――『閃光』ッ!」

 ――至近距離からの『閃光』。

 光系魔法の割と初期レベルで習得できる状態異常魔法で相手の目を潰し、ブラインド状態にすることができるスキル。
 バイザー付きのヘルムを装備すれば耐性を得られるが、逆に、耐性が無い相手に対しては有効である。

 ――閃光自体、発動モーションが魔法だから見てから避けるのは余裕なのだが。

 「ひあっ――っ!」

 目を覆い、棒立ちになるチュートリアにマノアは必殺の確信を得る。
 腰溜に構えた大剣が静かに赤い闘気を纏い、静かに震える。

 ――大剣スキル『チャージエンド』。

 大型モブを相手に振るわれる火力スキルは準備モーションの長さから対人では悪手の代表例だ。
 どんな状況でも使われない、愚策中の愚策。
 せいぜい見え見えの誘いにしか使われない愚策であっても、足を止めてしまったチュートリア相手であれば十分すぎるだろう。

 「――りぃぃぃぁあああっ!」

 大上段に振り上げられた大剣が大地に叩きつけられた。
 激しい衝撃がチュートリアの甲冑の上で火花となって弾け、衝撃にチュートリアの体が弾む。
 そして、瞳から色を失ったチュートリアが静かに膝を折る。
 マノアは獰猛に顔をゆがめたまま切っ先をチュートリアの眉間につきつけ、ようやく静かに、そう、静かに息を吐く。

 ――殺してしまわないように。
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