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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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お前のパーティ枠ねえから!

 村の外れにる開けた野っぱらで、簡単な模擬戦をやろうということになった。

 ――建前は赤い竜の対人戦闘プレイヤースキルの練習と、イリア達の戦闘行動の洗練。

 だが、本音を言えばイリアどもを叩いて動けなくし、俺と赤い竜が今日一日、自由に動く為の布石だ。
 集まったのは赤い竜にシルフィリス、ココにウィンミントにマノア。
 そして、チュートリア。
 この中で俺が見て、最も使えない奴に俺は指摘してやることからはじめたんですよ。
 だから、俺はチュートリアに対しものすごく当たり前のことを言ってやった。
 俺の言葉を聞いたチュートリアはやっぱりと言うか、驚いた顔をしてくれた。

 「えと、どういう、ことでしょうか?」
 「何度も言わせんな。戦力外だってことだよ」

 隣で聞いているマノアや赤い竜、シルフィリスが残念そうにチュートリアを見る。
 はっきりと断言されたことで、チュートリアは自信をなくし俯く。
 どこか震えながら唇を噛みしめる姿は憐憫を誘うが、あいにく、バファリンと一緒に優しさは現実に置いてきてしまっている。

 「あの……どこが至らないのでしょうか」
 「全部。ぶっちゃけお前が居ると俺が危ない」

 しつこく喰らいついて来そうだから、スパっと断ち切ってやる。
 泣きそうな顔になり、それでも俺を見つめてくるチュートリアに俺はどこまでも冷たい眼差しを向ける。

 「理由を、教えて下さい」

 吐き出すように告げた言葉は掠れていた。

 「……レベル、スキルに関しても他のイリア共と比べられない。これは俺がレベル1にしたからどうでもいいわな。だが、戦闘面でも俺に依存しきっていて盾役としても回復役としても火力役としても不十分。汎用職でありながら、何をする訳でもなく戦場をウロチョロしているだけだ。かといって俺の方針には反対ばかりする癖に、具体的な方策を言ってこねえ。騒ぐだけ騒いで俺のモチベーションを悉く下げるだっけ。ゲームを攻略……いや、お前さんの言う魔王を倒すのにお前が邪魔だと言っている」

 俺は少し、意地悪くチュートリアに告げてやる。

 「ぶっちゃけ、お前が何をしたいのか、さっぱりわからん」
 「わたしは……」

 チュートリアは言葉を継ごうとして、何も言えなくなって黙る。
 今までさんざっぱら言葉で叩きすぎたこともあるだろうが、元々、こいつには明確なビジョンが無いんだ。

 「俺達は確実に来るとわかっている脅威に対し、今、こうして準備を進めている。野菜村も然り、エルフやビースト、周囲の村を傘下に置いて戦えるようにしておかなくちゃあならない。そこに、何か間違いはあるか?」

 押し黙るチュートリアに俺は畳みかける。

 「お前さんが言うとおり、清く正しい精神性の勇者様をやって皆の信望を集めていくのもいい。そうして、みんなから信頼される勇者様をやってちやほやされるのはいいが、そのちやほやしてくれた人達ってのはいざ危険が迫った時に命がけで戦ってくれんの?命がけで戦うのは俺だけじゃねーの?」
 「でも、それが、マスターの……」
 「知らねえな。何度も言ったが俺が何で見ず知らずの異世界の住人の為に死に散らかす必要があんだよ。まあ、百歩譲ってそれが使命だってことで話を進めてやるよ。俺が死ぬとこまで追い込まれる中、他の連中はただ見てるだけ?応援してるだけ?がんばれー!レジアンがんばれー!俺とポジ変わろうぜ?精一杯応援してやんよ」

 俺は鼻で笑い飛ばすと俯くチュートリアの周りを回る。

 「異世界に来て勇者やれってお前みたいなヒロインつけられてもやる気もせんし、チンコも勃起しねーしよ?よくあるこの世界で守りたいものができた的な展開も無いし、そもそも望んじゃいない。俺は六畳一間の自分の部屋と自分の生活を守りたかっただけなんでございますよ?わっかるかなー?ゆるふわドリルのチュートリアちゃん」

 流石にここまで言われ、チュートリアが俺を睨む。

 「……マスターは、私に何を言いたいのでしょうか」
 「お前も変わらねえんだよ。他の一般市民どもと何一つな?世界を平和にしてえだの何だのと大層ご立派なこと言ってくれるがてめえのやってること見てみろ。まだ、冒険者としてスレたエセ処女の犯罪者のマノアの方が役に立つってんだよ」
 「し、師匠!自分まだ犯罪には手を染めてねえッスよ!……アレ、うん、多分」

 いきなり名前を出されたマノアが慌てるが、スルーする。
 怒りをはらんだ目で俺を見つめ返してくるチュートリアの反骨精神を俺は容赦なく叩き潰してやる。

 「なあ、チュートリアよ?お前が救いたいのはお前達の世界だろ?俺に死ね死ねせっつくんじゃなくて、てめえらで死んでくんねーか?俺達がやってることってそういうことなんだよ。俺に死ね死ねせっつくパートナーなんざ、正直要らねえんだ。これが俺の言いたい事。あんだーすたん?」
 「……マスターが、自分さえよければいいということだけは、わかりました」

 おうおう、言ってくれるねえ。
 煽りがいがあるってモンだ。

 「自分さえ良ければいいのはどっちだよ。ナメんのも大概にしとけよ。てめえも頭がぶっ壊れるまで叩き回してもいいんだぜ?」

 そう言って気勢を先に潰して、俺はチュートリアに告げる。

 「今のまんまじゃ、これから先のコンテンツを喰ってくのにお前が居ると俺が死ぬ。だから、せめて使えるようになれや。それができなきゃついて来るな」

 そこまで聞いて赤い竜も告げる。

 「そうだね、シルフィリス。俺も君が居ると戦いづらいんだ。しばらくは俺、ロクロータさんと一緒に狩りに出るよ」

 告げられたシルフィリスは静かに俯く。

 「……はい。私は自分のレベルというものが高いと慢心していました……だから、マスターを危険な目に遭わせてしまいました」
 「運良く……相手のイリアが油断してくれたから勝てたけど、アレはないよ」

 ――俺の知らないところで赤い竜とシルフィリスにどんなやり取りがあったのかはわからない。

 だが、高レベルでありながらシルフィリスが赤い竜の呼吸がわからないで居るのはオーベン城で俺も薄々理解していた。
 それが何らかの討伐戦で現れてしまったのだろう。
 俺はチュートリアの精神を徹底的に叩きのめす為に、一つ、提案してやる。

 「……俺は悪人だが実力は正しく、正当に評価する。お前がもし、そう、もしマノアに勝てるようだったら、ついてくることを許してやってもいい」
 「ちょ、師匠!」
 「ネルに……ですか?」

 突如振ってこられた話にマノアが慌てふためき、チュートリアが怪訝な顔をする。
 俺は二人を弄ぶように話を続ける。

 「マノアは見たところそこそこ使えるがあくまでそこそこだ。弟子にしてやったとはいえ、使えないようじゃ話にならん。今のチュートリアくらいは簡単に倒せるだけの実力がなけりゃお前との師弟関係はここで終わり。そして、チュートリアも一般人の冒険者に遅れを取るようであればそんな実力で一体お前は何をしようとしているのってお話だ。俺のやることの邪魔にしかならん」
 「師匠……それ、どちらか一方を切るって話ッスよね」
 「切られる方が悪い。そもそもお前らに実力があれば切られることは無い。なら、それを証明してみせろってことだよ。いいじゃねえか、別に魔王倒して来いなんて言ってる訳じゃあねえ、目の前に居るそこそこ自分と同じくらいの実力の奴を倒せって言ってるだけなんだから。俺ってやさしくね?」

 そう告げて俺は赤い竜に向かい合い、バケツを指の先で弄ぶ。
 赤い竜は意図を察したようで軽く大剣を振るうと首を鳴らす。

 ――対人での戦闘スキルの技術維持は常に、対人を行うことで培われる。

 イリア共の心を完全にへし折り、対人戦闘というものを見せつける為に。
 そして、本当に戦わなければならない強敵の為に、俺達はデータには表れない本当の『経験値』を積む。

 「前哨戦で本当の対人戦闘ってのを見せてやるよ――竜さんや。もうぞろ、必要なスキルも揃って来たんだろう?練習も必要な頃だろうに」
 「ロクロータさんこそ未完成なのに大丈夫なのかい?そっちが揃ってからでも俺はいいし、むしろそっちの方がありがたいんだけど」
 「俺の完成系にゃそもそもプレイヤースキルなんざ要らねえよ。撃ち漏らしを確殺するためのプレイヤースキルだ――むしろ、ヘビー相手だと打たれ強いからアレの練習ができる」

 俺はどこか楽しそうに笑って剣を引き抜き、シールドを手にする。

 「――そっかー、でも、俺も本気で行くよ?なんせ――本当の対人でヘビーナイトを使うのは初めてだからね?」

 俺たちは互いに獰猛な笑みを交わし、切っ先をあげた。

 ――『エース』同士が押し殺した闘志の載せた笑みを交わし空気が一瞬で熱を帯びる。

 皆が一様に見守る中、俺と赤い竜は互いに駆けだした。

 「――手一杯、走らせてもらうぜ?」

 「来な?――俺の封印された左腕を見せてやんよー」

 ――廃人同士がぶつかり合う戦闘が始まった。

  ◇◆◇◆◇◆

 「――勝てぬ。どう足掻いても、我らでは勝てぬ」
 「……これが……廃人」

 ――『英雄』と呼ばれるココ・ナ・ツパレットとウィンミント・ショートフォイルが首を左右に振る。

 俺たちを見ているマノアやチュートリア、そして、イリアとして高みにあるシルフィリスにとっても俺たちの攻防は異様に思えただろう。

 「――余所見してる暇あんのー?はい、いただきー」

 ――ステップの終わり際に『サークルエッジ』を重ね、赤い竜が笑う。

 だが、俺のシールドが一瞬早く構えられ、豪放に振るわれた剣をいなし、火花が散る。

 「ジャスガ余裕!」

 ――ステップの終わり際には必ず、無防備になる瞬間がある。

 そのためのステップキャンセルだが、それでも消せない当たり判定が存在する。
 その硬直に的確に攻撃を刺していくのが対人戦、とりわけ近接戦闘の立ち回りだ。

 ――だからこそ、その硬直に割り込むのに盾を構える。

 「そぅ――れっ!」

 『レイジスラッシュ』から『レイジスラスト』と連撃を放ち、『クロスエンド』を一拍遅れて放つ。

 ――ジャストガードで最初の二つを凌ぎ、最後をステップで避ける。

 「『スクエア』ッ!」

 避けたステップが稲妻ステップに変わり、ステップ旋回を駆使して『スラッシュ』を繰り出す。

 ――通称『スクエア』

 ステップキャンセルの間に『スラッシュ』を置き、そのスラッシュの発生硬直をさらにキャンセルしたステップで消し去り、神速の連撃を四方を回りながら放つ。

 ――複数同士の乱戦、高防御の背後取り、あるいは単独で複数を相手にする際の機動戦闘、複数から攻撃を貰わない為に編み出された確殺技術。

 技術の難しさは稲妻ステップの比じゃない。
 『ターンステップ』と呼ばれるステップ開始時の高速旋回技術と『ステップキャンセル』を同時に行いながら、合間に『スラッシュ』を挟み――それを最低4回。


 ――熟練者の最高記録12連『スクエア』を動画で見たことはあるが、俺は最高が6回までだった。

 しかし、実戦ではこれを四方に回るだけで固定せずに行い張り付く必要がある。

 ――そこまでは俺もまだ、習熟していない。

 だからこそのハイロウ、そして、今の状況。
 銀の剣閃の残像だけを残し、残像が赤い竜の深紅の鎧の上で火花を散らした。

 「そんな低い火力じゃ抜けないよ――っと!」

 ――『スクエア』の弱点は単発火力が低いこと。

 魔法職や軽装職相手なら狩り切れるがナイト系は高い保護値にダメージを大幅に減衰される。

 ――だが、相手がヘビーナイトである以上、ナイト系に使える手段の『びたんスラスト』も『ムーンサルトキャンセル』も、対戦相手の特性上、封じられている以上、現状、これが最善手なのだ。

 応じた赤い竜が武器を持ち替えステップで持ち替え硬直をキャンセルすると槍を振るう。

 「トランプル読んでるぜっ!」

 突進モーションの出掛かりを盾の『バッシュ』で潰し、応じて連撃を叩き込む。
 ナイト系であり、かつ、高レベルのドラゴンシリーズに身を固めている赤い竜には有効なダメージが通らない。

 「はいっと!」

 会わせて繰り出された槍の一閃が俺の腹を薙ぐ。

 ――連撃に合わせたダメージレースに即座に切り替えやがった。

 鈍い痛みとともにごっそりと減る俺のHPにダメージレースが不利であることをまざまざと思い知らされる。

 「迂闊だねえ」

 続けて大剣を振るう赤い竜から距離を取ろうとダッシュで離れようとするが、即座にトランプルで追いすがってくる。

 ――入れ替わり立ち替わり攻守が逆転し、めまぐるしく戦場を駆け回る。

 「凄い……何をしてるのかわかんねえッス」

 視線で追うのに精一杯なマノアが呟くのも無理は無い。
 基本的な立ち回りの上にある応用を駆使しての対人戦闘だ。
 スキルの特性を理解し、その上でその時、その時の最適解を選び取り続けなければいけない戦闘。
 だからこそ、その思考を削り合う手段が生きてくる。

 ――俺はギリギリ切っ先が『届かない』場所から剣を振るう。

 「頂きッ!」

 即座に合わせてレイジスラッシュを振り込んで来る赤い竜の眼前から俺の姿が消える。

 ――『悪手』であるはずのムーンサルト。

 頭上に飛んだ俺は即座に『ダウンスラスト』で赤い竜の肩口をかっ切ると地上に降りて続く『サークルエッジ』を間一髪、ジャストガードで防ぐ。

 「――かぁっ!」
 「簡単に飛ぶかよ」

 ――ワンダラー系の空中機動は近接戦闘では悪手である。

 上空に居る間は軌道を自分で制限することができず、かつ、着地時に強力な一撃を貰ってしまう隙が生じる。
 だからこそ――

 「――誘ったな?」

 ――相手の行動を誘ってから、それ以上の隙を作ってやる。

 悪手だから選ばないという思考を逆手に取って、かつ、安全なマージンを取れる布石を打ってやる。

 ――それでもダウンスラスト一発分だけという厳しい結果だ。

 赤い竜が武器を持ち替え、俺は好機と捕らえ追撃に映る。
 ステップで再度武器を持ち替えようとする赤い竜に『スラッシュ』の一撃を叩き込み、背後に逃げるが赤い竜が旋回して放った『ブレイブスライド』の衝撃が俺を掠め、再びごっそりとダメージを持って行かれる。

 ――『持ち替え』モーションなら安全に攻撃できると、『誘われ』た。

 お互いにHPが半分を割り、口数が少なくなる。
 振るわれる剣が空を切り、互いの手数だけが慌ただしく増えていく。

 ――『ターンダッシュ』の応用である『ターントランプル』

 ――ムーンサルトと見せかけ、小ジャンプで誘ってからの『ターンダッシュ』キャンセル『スクエア』

 低レベルでありながら『有用』な技を叩き合わせ、50カンストの低レベルの動きを超越した高速戦闘を繰り広げる。

 「――これが……廃人と呼ばれる領域なんですか、マスター……」

 心細く呟くチュートリアの声は最早、俺達の領域には届かない。
 届くとすれば、どこまでも欲し、腕を伸ばし、拒絶され、それでもなお得ることを諦めなかった者の意志だけだ。
 互いに持てる選択肢の数々をぶつけ会わせているうちに、赤い竜のHPバーは真っ赤になっていた。

 「終われっよッ!」

 一気にトドメを刺しに行こうと決め、俺は稲妻ステップから『スクエア』を狙う。

 ――4発中、2発でも入れば終わりだ。

 その瞬間、そう、その瞬間を狙って赤い竜の『サークルエッジ』が二重に重なって閃いた。

 「――な!」
 「これで、終了ぅっと!」

 ――『スクエア』を狙う俺の腹を大剣がなぎ払う。

 稲妻ステップの最中に生じるほんの僅かな、本当に僅かな当たり判定を正しく薙いで俺のHPがゼロになった。
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