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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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全裸の変態が田んぼで作業中に襲撃したら眉毛がチートだった。

 ビス子どもは結論、どんだけ叩き伏せてもやかましかった。
 前作でも頭のいい種族ではなかったが仮想現実に放り込まれて相手にするとなるとまるで幼稚園の先生にでもなった気分。

 「もうしねー!もうやらねー!むしょくどーてーおそうとかむりげー!」
 「ざんぎゃくちょうじんもまっさおなあくぎゃくひどうのかぎりだ!」
 「ひとじちごとぶっとばすとかひとにできないことをしてのける!そこにしびれるあこがれる!」
 「ですとろんか?おまえがですとろんってやつなのか?」
 「まゆげはおおきくなってもひどいめにあわされるんだな」
 「でもちーとじゃねえぞー?まゆげはちーとじゃなかったのか?」

 ――脳みそは幼稚園児レベルだから本当に手に負えない。

 俺の周りに集まってわいのわいのやっているビースト達の話している『むしょくどーてー』と『まゆげ』っていうのが気にかかる。
 いや、確かに俺も正しくは無職童貞なんですよ。
 そいつぁ間違いじゃねえから、煽られてもネタにしてやんよ。
 チュートリアの眉毛だって人よりかは太いしネタにしてやろうかと思ってたからビーストどもが騒ぐのも理解できる。
 だが、どうにも発言の端々からこいつらの言う『無職童貞』と『眉毛』ってのは俺達のことを指してはいないんじゃねえかと思ってしまう。

 「むしょくどーてーってどんな奴よ」
 「おまえだろ?おなじ匂いすんぞ」

 これだ。
 同じ匂いがするってことは以前に一度、IRIAが『認知』しているってことだ。
 ビーストの山賊は厳密に言えばモンスター扱いではなく『NPC』扱いになる。
 IRIA積載型のNPCとして周囲の環境や設定にあわせて独自のルーチンと思考回路を持つものだから、俺の推察がただしければこいつらは別の『無職童貞』と『眉毛』に遭遇している可能性がある。

 「マスターってマスターの居た世界で定職に就いていなかったんですね?――にぎゃあっ!」

 いちいちムカつくチュートリアをシバキ倒すと俺はひとしきり思案する。
 こいつらの煽りスキルが高いのもおかしい。
 一応、そう、一応だぞ?
 ゲームとして商売考えるなら客のメンタルを粉々にぶっ飛ばす煽りを入れてやる気を減衰させるのってどうよ?
 こうした需要ってのもあんのかもしれないが俺の変態スキルの中には入っちゃいねえ。
 俺を基準に考えるのもおかしいが、こういったニッチな需要のみを満たそうとするってのも商売として考えるとおかしいんだ。

 「なーなー?むしょくー、ハラへったー。なんかくわしてくれ」
 「ごはんたべたいー!おなかへったー!」
 「あるんだろーめぐんでくれよー!」

 ぴすぴすと鼻を鳴らし考え事をする俺にすり寄ってくるビースト達に俺がモフられてる。

 「ごつごつしてるー……かてー」
 「このますくいーなー!かっけーなー!わるだぜー」
 「これてっぽう?てっぽう?」

 本当にこいつらならさっきぶっ飛ばされたことをもう忘れて色んな物に興味を示す。
 思考レベルの設定から長期記憶領域に正しく色んな情報を記録できていないのであればこいつらが言う『無職童貞』と『眉毛』とやらを俺達と変に誤認している可能性もある。
 だとすれば、だ――

 「めしくいたいー。たべよーよ!たべよーよ!」
 「これたべていーかー?おあずけ?おあずけ?」
 「おなかへったー!おなかへったー!いじわるしないでくれー!ひもじいい」
 「はらへった!はらへった!はらへった!はらへった!」
 「――あーもうごっちゃごちゃうるっせえなっ!」

 俺はあぐらの上で寝だした猫ビーストを持ち上げて伸ばすと立ち上がってビースト達を睨み付ける。
 うにょーんと伸ばされた猫ビーストが足をぷらんぷらんさせて尻尾を丸める。

 「そんなに飯が喰いたいなら喰わしてやンよっ!そのかわりてめえら後で村を襲って来いっ!いいなっ!」
 「む、むらをおそえっていうのか!わ、わるだぞこいつ!」
 「でも、かっこいいぞ!む、むらおそってもいいのかっ?」
 「さんぞくだ!さんぞくっぽいぞ!すげーすげー!」
 「むしょくどーてーすげー!ほれてまうやろー!」
 「さいばとろんやめてですとろんにいくわ!まいにちそーせーじくえるぞ!」

 本当にこいつらの頭の中、幸せ過ぎて羨ましいわ。
 俺は面倒臭いから薪の上に炎水晶を載せて爆ぜさせると火を起こし、鉄板を敷いてそこに適当に食材を放る。
 熱せられる前の鉄板でざくざくと切り分けると、適当に塩胡椒を振ってバーベキューにしてやる。

 「ばーべきゅーってやつだ!ばーべきゅー!これ、むしょくどーてーがいってたやつだ!」
 「すしは?すしくいてー。さかなあるだろー?すしつくってくれよ」
 「いいな!とろ!とろくいてー!とろさーもん!」
 「あぶりえんがわはさいきょうのせいぎ!いろんはみとめねえ」

 まだ焼けていない肉にかじりつきながらこいつらは好きなことを言ってくれる。

 「つか、なんでファンタジー世界の住人が寿司を要求してくんだよ」

ようやく自己ヒールを終えたチュートリアがどこか憮然とした表情で俺を睨んでくるが相手にしてられない。

 「……マスター……今度は餌付けですか……山賊を餌付けして、村を襲わせて村を奪うんですよねわかります」
 「まあ、予定は狂ったが概ね筋書き通りだ」
 「クズであることにはかわらないっ!」
 「煽ってんの?煽ってんなら釣り針に釣られてやんぞ?」
 「あぅぅ……ごめんなさいごめんなさい……はぁ……後で村の人に逃げるようにこっそり行ってこよぅ……」

 チュートリアが何だか俺の計画に水を差しそうな雰囲気だが
俺はマヨネーズを作るときに余っていたというか、今朝方、白身が無くなって余らせてしまった酢を手にし、米が無い事に気がつく。

 「米がねえ」

 俺は何をビス子どもに煽られて寿司を握ろうとしてらっしゃるのでしょうか?

 「しっちにいけばあるぞ。むしょくどーてーだろ?しっちでつくってるぞ」
 「はたけじゃなくてたんぼだぞ!まちがえんなよそこ!」
 「こないだたんぼであそんでたらめっちゃおこられた。まじはげるわー」
 「むしょくどーてーならいまはたけじゃねーか?あれ?じゃあ、このむしょくどーてーはなんなんだ!」
 「むしょくどーてーはいっぱいいるっていってただろ!すぺしゃる、あれはすぺしゃるむしょくどーてーなんだって!」
 「うめーなにく。ばーべきゅーやっぱさいこうだー!」

 ふんむ。
 やかましいだけのビス子どもだが、話の流れから俺の推測が確信に至る。

 「……チュートリア。村を襲うのは一旦保留だ」
 「え?」
 「現実世界からのログオンユーザー……レジアンが居る。先にそっちを捜す」
 「あの!それじゃあ……」
 「自分の名前に『無職童貞』なんてつける奴、現実世界の人間以外に居るかよ。眉毛ってのも多分、そいつが抱えているイリアに付けた名前だろうさ」
 「なんか、色々と酷い名前ですね」

 チュートリアが何の気もなく苦笑しているが俺にとっちゃそれどころじゃあない。
 腹の底を締めてかかると、このビス子達も布石の一つではないかと疑ってかかる。

 「頭の中だけじゃなく、気まで緩めてんじゃねえぞ?自分の名前に『無職童貞』だとか付ける奴の大概は、俺と一緒のキチガイだよ。PKプレイヤーの可能性が高い。MMORPGで普通の名前以外のキチガイネームを選択する奴の大半ってのは『キャラクター』と自分の同一性を別個に認識している奴だ。つまり、キャラクター自体がゲームをする上での『駒』としかみていない――こんな状況だがキチガイネームを使い続けているってことは俺以上にキチガイの可能性がある。会話する前に殺されることだってあるんだからな」
 「あの……マスター?……そ、そんなに警戒すべき相手なのでしょうか?」
 「当たり前だ。死ねば記憶を奪われるデスゲームだ。PKの基本は不意打ち騙し討ち上等の世界だ。そんなところをのこのこ会話しにやってきましたなんて言ったって口を開く前に首飛ばすのが常識の連中だ。会話は死体に向けてやるのがPKプレイヤーの常識だぜ?」

 俺はアイテムの残りをチェックし、ショートカットの編集をモブ相手から対人相手に変更していくと、対人戦特有の静かな焦りを感じ、飲み込む。

 ――完成系からほど遠い状態での対人戦。

 今取れる手段と方法、周囲の状況からの選択肢。
 相手のクラス毎の想定と、それらを粉砕できるだけの決定打。
 敵が取るべき選択とその対抗手段。

 ――相手にしないという選択肢を想定し、それを消去する。

 現実世界のログオンユーザーが一人手に入るメリットと、最悪の状況のデメリットを比較し、前者がもたらすメリットの方が確実に多い。
 後は、俺が覚悟を決めるだけ。

 「……マスター?あの……マスターはレジアンの方に協力を仰ぎに行くのですよね?はじめから刃を向けたら協力してくれるものも協力してくれなくなるのでは?」
 「アホじゃねえかお前。レベル1の雑魚が高レベルに協力して下さいなんざ言ったって誰も協力しちゃくんねーよ。ましてや相手はキチガイだ。言葉なんざ通じねえよ。お前さん俺に何か言って聞き入れてもらったことあんのかよ?俺が村襲うっつったってお前、もうすでに俺に諦めてるじゃねえか。それと一緒だよ。キチガイに通じる言語っつったら肉体言語しかねえんだよ――お前はここで待機だ」

 チェーンソードを腰に納めてスプリットヘルムを手に取ると腰に掛ける。
 いつでも装備できるようにして、準備を整えると俺はビス子達の中から焼き上がった肉を手づかみで取るとかぶりつく。

 ――相手が何であろうと、喰らい尽くしてやるまでだ。

 「いただきますいわないとだめなんだぞ?」
 「あ、いただきますいってねー!いただきます!」
「おいまゆげ!いっぱいくうなよ!おまえくいいじきたねーから!」
 「そうだ!まゆげいるんだ!ぜんぶくわれるぞ!はやくしろー!まにあわなくなってもしらんぞー!」

 やかましく肉を取りあって暴れるビス子達をその場に捨て置いて俺は湿地帯の存在する場所に向けて静かに歩き出す。

  ◇◆◇◆◇

 チュートリアにガンガンセクハラして隠密のスキルを上げたのはこういった状況の為である。
 先制を取れるというアドバンテージがあれば初動での展開を有利に進められるからだ。
 静かに茂みの中を息を殺して歩き、周囲の気配に目を凝らす。
 虫や鳥の気配の中に、無防備なまでに警戒の薄い大きな気配があった。
 湿地の水面が揺れる。
 広がった波紋の先にずぶずぶと不用心に歩を進める人間の姿があった。
 水場というのは姿を消していても痕跡が残るFEZですらハイドサーチの要らないボーナスゾーンであると同時に、こちらもまた、気配を消したまま襲撃しずらい場所である。
 遠距離から一気に決めるにしても、射程が足りないし、射程が足りれば火力が足りない。
 先制の一撃で決める決定打に欠ける状況である。
 今の自分で取れる選択肢を静かに見極めると、俺は息を潜めて距離を詰める。
 湿地の水面に映る波紋から敵が一人で居ることを確信する。
 相手が現実からのログオンユーザーであるならイリアが居るはずだ。
 ならば、もう一人がどこに居るかがわからないまま攻撃を仕掛けるのは危険である。
 2対1の状況になればプレイヤースキルや装備性能差があってもある程度のレベルであれば簡単に状況は覆されてしまう。

 ――フックジャンプからの最大瞬間火力ガトリング『ブッパ』

 この一撃で決められなければムーンサルトからの武器交換から張り付き戦へ移行、クリティカルダメージ狙いの近接戦闘に移行する。
 ここでの立ち回りに時間をかけてしまえばポーションのクールタイムを凌ぎきりながらの連打合戦に移行してしまう。

 ――そうなれば、相手が一撃火力を持っていれば俺が負ける。

 俺は覚悟を決め静かに距離を詰める。
 遠く、湿地に生える青々とした稲の中に人影を見つける。
 チェーンストックのレンジからはまだ、遠い。

 「……『ステルス』」

 こちらが視認できるということは相手もまた、視認できるということ。
 闇魔法で姿を消すと音を立てずに進むために草をかいて這う。
 視界を確保するために、草をかいた先に――

 「へーい?覗きかい?見せたげるよぅ?私、超せくすぃ?」

 眉毛が居た。
 いや、正しくは小さな人間の女だ。
 握り拳ぐらいのサイズの人間が俺の目の前でこれいじょうないくらいにドヤ顔で立ってセクシーポーズをとっていた。
 顔の比率からして太い眉毛が印象的というか、太い。
 なるほど、これがビースト達の言っていた眉毛か。

 「――そんなにコソコソしなくても見たいなら見たいと――」

 ドヤ顔全開で口上を垂れる眉毛が何なのかだとか、そういった疑問をスッパ抜いて俺は反射的にその場を飛び出していた。

 ――発見認知された敵より、警戒の無い相手への奇襲。

 スペック比より複数戦を避けるためにより確実性の高い相手を瞬時に潰す為。
 起き上がった俺がチェーンストックで相手の足下に打ち込むと、フックジャンプで一気に肉薄する。
 機関砲を突き出しスライディングするように飛翔する俺を追って湿地の水飛沫が白く跳ね上がる。
 相手がこちらを振り向き、俺を認めた時にはもう遅い。

 「――ぶっ飛べや」

 甲高い音が響き渡り、高速回転する砲身から弾丸が壁となって吐き出され吹っ飛ばす。
 水柱が立ち上り視界が塞がれるが、俺は即座にムーンサルトで武器を交換し着地し次の敵に備える。

 「――それは残像だ」

 前に出ようとした俺を背後から拘束する腕があった。
 驚き振り向くとそこには――

 ――変態が居た。

 全裸の変態がラビラッツのマスクを被り、立っていた。
 いや、正確には俺と同じTDNアーマーを着ているがそれだけだ。

 「な――」
 「不意打ちダマ天上等。売られた喧嘩なら買うのが筋だぜ?」

 ホールドからの地面へのスルー――

 ――見上げた俺をラビラッツの可愛いマスクが見下ろしていた。

 叩きつけるように振るわれた足を転がって交わした矢先、激しい水柱があがった。
 高い格闘スキルの補正の乗った蹴りが風圧を起こし、びりびりと俺の肌を焼く。

 ――格闘攻撃主体の相手。

 俺はそう認識する。
 サービス開始から現時点までの育成可能なスキルレベルとレベリング現界予測を考えれば、他に得たスキルは選択肢として限りなくすくないはず。
 ましてやプロフテリアで見ることがなければおそらく武器の入手も無いだろう。

 ――接近戦から中距離戦へシフトする。

 ステップで距離を取ると、変態はステップで距離を詰めてくる。
 張り付き戦の基本だが、踏んだ場数は俺の方が上のようだ。

 ――切り返しからのステップキャンセル

 背後に回り、首筋にスラッシュを叩き込もうとするが変態は『ローリング』でその場を転がり避ける。
 ステップキャンセルでもいいところをローリングを使用し方向転換するあたりは上手いのか下手なのか判然としない。
 だが、おれはその距離を保ったまま、残り僅かなフレンジショットの効果時間を利用して機関砲をぶっ放す。
 ダッシュで旋回しながら避ける変態を追って伸びる火線が水面の上で水柱を上げ、俺は次第に不利になっていく自分を認める。

 ――初動で仕留めきれなかった。

 眉毛がどんなスペックかはわからないがこれで確実に先制のアドバンテージを失った。
 『残像』先置きしイリアを哨戒させていたこの変態の布陣に舌を巻く。
 俺は完全に相手が張った罠の中に飛び込んだ形になる。
 弾道が追いつく先、湿地を走る変態の姿が掻き消える。

 ――『ミラージュ』

 『残像』が定置に幻影を置く魔法スキルなら、これは小さくテレポートして無敵時間で攻撃を避ける回避スキル。

 ――モンク特有の魔法を囓ったバージョンだと判断する。

 トリガーから指を離し俺はミラージュ後の選択肢を迫られる。

 ――ステップで相手の一撃を躱すか、迎撃するか。

 「――ンなろがやっ!」

 反射的に迎撃を選んでいた。
 振るったチェーンブレードがラビラッツの首を薙ぎ、変態の拳が俺の胸を抉っていた。

 ――急所クリティカルと『正拳突き』のダメージトレード

 格闘系スキルで大ダメージを狙うならホールドからの派生と思って反射的に迎撃したのだが結果ダメージレースをする展開になってしまった。
 俺は正直、困惑していた。
 罠に飛び込んだ形となり、この変態が人を嵌めることに一定以上の練度があることを認めながら、ゲームとしての選択肢で定石ではない選択を繰り返している。

 「……ギラギラしてんなぁ。好きだぜそういうの」

 どこか獰猛に変態が呟き、飛びかかってくる。
 スラッシュを先置きして相手のステップを誘い、ステップで背後に抜けてから一拍――そう、一拍だけ待つ。
 背後から殴られると思った変態がローリングしたところをステップで追撃し、モーションの終わり際にスラッシュを刻む。
 相手が正拳突きをするころには俺はダッシュで離れながら、機関砲をそのモーションに叩きつけていた。

 ――ズブの素人だ。

 ステップ後の駆け引きやモーションの長さの把握、こちらの特性を理解していない立ち回りに俺はこの変態がこのゲームにおいてズブの素人であることを確信する。
 だとすれば相方のイリアもたいした反応はしないだろう。
 最悪、同じスペックのズブの素人を二人相手にするだけの簡単なお仕事。
 だが、幾多の人間を血祭りにあげてきた俺の感性はこの変態に対して最大限の警戒を発している。

 「さてさて!眉毛ちゃんもがんばっちゃおーかなー!」

 俺の足下に魔法陣が広がる。
 空中にふわふわと浮き、青白い燐光を放つ小さな人影を見つけた。

 ――上級魔法の合図だ。

 俺は即座に敵をスイッチするとダッシュで距離を詰めようとする。
 詠唱中の魔法職は無防備になる。
 対人戦でモブ相手のノリで大魔法を放つなんざ、殺してくれと言ってるのと大差ない。 本当にズブの素人の取る選択以外の何者でもない。

 「はぁい残念!眉毛ちゃんは小技もできるのでしたー」

 幾本もの火球が俺に別々の機動で放たれる。

 「『二重詠唱』かっ!」

 『二重詠唱』とは魔法職上位クラスの一部に実装されたスキルで同時に二つまでの魔法を発動させることができる。
 とかく対人戦で滅法弱かった魔法職の救済措置で実装されたスキルで小魔法で牽制を入れながら中級、上級魔法を発動させることができるかわり通常の1.5倍のMP消費を要求される。

 ――相手がイリアならチート級な高レベルである可能性もあった。

 俺は舌打ちしながらも即座に『稲妻ステップ』で射線から逃れるとスタミナポーションを口に含む。

 ――最早、ヒルポ連打なんて甘えは許されない。

 被弾無しで狩り殺す覚悟がなければやられると確信した。
 放たれた火球の間を縫い肉薄すると剣を振り上げ、回避を誘うが眉毛は微動だにしない。

 「――振り下ろしてもいいのよん?」

余裕綽々といった笑みで俺を挑発する眉毛に危険を感じ俺はムーンサルトで頭上を取る。

 ――だが、何もしてこない。

 俺は取った距離を生かして機関砲を眉毛にぶち込むが眉毛にはヒットエフェクトこそ発生するが微動だにしない。

 ――俺は驚愕する。

 どれだけ相手が高レベルであろうと、魔法職を選択している限りダメージが通るはずだ。
 レベル50台装備でもレベルカンストにダメージくらはい通るはずなのだ。

 「乙女の硬い純潔に守られた私は無敵なのよ!」
 「胸が鉄板だからだろうに」

 ドヤ顔の眉毛に変態が突っ込みを入れるが俺はそれどころじゃねえ。
 なんだ?なんなんだこいつら。
 ズブの素人もいいところな癖しやがって変なところでチートがかってやがる。

 「さてさて。じゃあ、どかーんとやっちゃいますか」

 眉毛の周辺にいくつもの上位魔法陣が展開される。

 ――俺はここが湿地帯だと思い出す。

 雷撃系の魔法を拡散させ広域化させる水辺での戦闘は魔法職が取るべき選択肢の一つだ。

 ――だが。

 「――冗談じゃねえ、本物の『チート』じゃねえかっ!」

 いくつもの上位魔法を複数同時詠唱なんざ、チート以外の何物でもねえよッ!

 「正ヒロインは何やっても許されるの!――それだけじゃないんだよっ!眉毛ミサイル発射ぁっ!どっかーん!」

 更にいくつもの火球が放たれ、加えて雷撃が上空から空中への機動制限をかける。
 初級、中級魔法をいくつも重ねて一人ウィザードリィ軍団をやってのけるこのチート眉毛に俺は戦慄を覚え、それでも反射的にムーンサルトで武器を変えていた。

 ――遅れて激しい閃光と爆音があたりを包み込み、揺るがした。
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