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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第一部『導入編』

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もちろん、真ん中からw

 レジアンの取った戦法はどこまでもマーシー・セレスティアの常識を打ち砕く。

 「部隊を2分して、東西へ?妖精をもって主戦場の裏へ『剣』の設置……ですか」

 主戦場となるはずの中央の進撃路を完全に放棄して東西からの進撃。
 そして、本来、戦闘が過激になる中央へ運ばなければならない戦争資材としての妖精を最も戦闘の行われない背面に搬送させる。
 常識外もいいところであった。

 「常識だ常識。ウィキよく読んでこいってんだ」

 自信をもって行われる采配だが、マーシーはここまで型破りな采配に唖然とする。
 オーベン城要塞から出撃した敵兵が中央を走り邪精を集め禍々しい『アターシャの剣』を大地に突き刺しているのが遠巻きに見える。
 敵は真っ直ぐにこちらへ向かってくる。

 ――開けた戦場において軍団と軍団がぶつかる場合、真正面からぶつかり合う形となる。

 それは戦術として当たり前の話であった。
 だからこそ、『タワー』や『ウォール』といったアストラの階から召還するオブジェクトをより迅速に敵との衝突地点に配置することが先決なのである。
 アストラの階から現れる妖精を捕まえる傭兵達が怪訝な瞳でレジアンであるロクロータを見ていた。

 「ですが……」
 「主戦場をお前はどこに見据えている?」

 ロクロータがどこか面倒くさそうにマーシーに尋ねた。

 「……敵は進撃の容易な中央を南下。こちらへ一直線に進撃しています。本来であればこの場から北進した戦場中央、ブレド大橋の上が主戦場となります」

 ロクロータが腕の宝珠に触り、虚空に地図を浮かべる。
 そこには青い我軍の戦力帯と赤い敵軍の戦力帯が輝き、設置されはじめた『アターシャの剣』が光点となって輝いていた。

 「そこは主戦場とはならない。『主戦場』は西の荒れ地、『僻地』が東の森林地帯だ。中央になんか誰もいかねえよ」
 「……ですが、敵は……」
 「楽勝だと言ったろ?もう、勝敗はついたようなモンだ」

 ロクロータはそう言うと、大きく息を吐いた。

 「剣を交えることなく勝敗がわかるというのですか?」
 「勝敗を決めるのに、剣を交える必要は無いんだよ。ただ、剣を地面に突き立てるだけでいい。それができて、はじめて剣を交える必要がある。剣すら立てられない相手に勝ったも糞もねえよ」

 レジアンであるロクロータの前に広がった戦場の地図に光点が増えてゆく。
 東西に延びて立てられる『アターシャの剣』が円形状に光を放ち、周囲で動く騎士や傭兵達の姿を知らせる。
 拠点となる『プロフテリアの剣』から南、中央のブレド大橋から見て裏側にも伸びて建てられた『アターシャの剣』が次々と地図を明るくしていく。
 その傍ら、敵のウォーリアシュレッド達が中央のブレド大橋に『ウォール』を建て始めた。
 完全に進撃を塞ぐ体制である。
 その周辺にも『タワー』が乱立されはじめ、最早、難攻不落の要塞と化しつつある。

 「ありがてえ。自分たちから塞いでくれたよ」

 最早、マーシーにはこのレジアンが何を言っているのか理解できなかった。
 ただ、隣に居る幸運の神のレジアンはその様子を黙って楽しげに見ている。
 心配は、要らないのであろう。
 だが、理解のできない気持ち悪さがマーシーの胸中に渦巻いていた。

 「ロクロータ様、どういった意図があるのかご教示願えますか」
 「……基本中の基本だ。『アターシャの剣』を使った大規模戦は『領土戦』になるんだ」

 マーシーは当たり前のことを言われ何のことか戸惑った。

 「正方形に区切られた行動可能マップ――アストラの影響下だっけか?この領域をどれだけ多く自軍の剣が納めているかで勝敗が決まってくる」
 「はい。だからこそ、敵軍を押し返しより多くの剣を建てなければなりません」

 ロクロータはどこか小馬鹿にするようにマーシーを振り返った。

 「単純な算数の時間だ。この地図を中心から横にばしっと線を引くとしよう。これが、何もしないで手に入るお互いの領地。この状態ではお互いに均等。さて問題だ。真ん中を三角形にして伸ばすのと、三角形にさせて両端を伸ばすのはどちらがより大きな面積を奪える?」

 マーシーはそう言われてはっと気がつく。
 ロクロータは丁寧に地面に剣の切っ先で四角形を描き、その中心に鋭角に曲がった線を引き二つに分割した。

 ――一目瞭然で左右に尖った面の方が面積は広かった。

 「わかるな?ゲージを見て見ろ。初動で中心に剣を延ばした敵軍と左右に延ばした俺達の間にゃ、もうこれだけのゲージ差がある」

 虚空に広げられた地図の上、青い光と赤い光がじりじりと減少していく。
 だが、その速度には明かな違いがあり赤い光の方が減少していく速度が早かった。

 「だから、基本中の基本として戦場は拠点と拠点を結ぶ直線に鉛直な線を引き、その線上の中央以外が主戦場となりえる。真に戦力を割くべきはより多くの領地を得られるべき場所で、もう一方は分割された戦力で補う僻地となる」

 レジアンの言う理論は最もであった。
 ただ、勝利だけを目指し『アターシャの剣』の特性だけを考えればその通りである。
 だが、しかし。

 「……そうなれば『プロフテリアの剣』が敵に蹂躙されることになります」
 「『拠点殴り』だろ?させておけよ。殴るより領地ダメージの方が強い」
 「――ですが、プロフテリアの剣は我が国の……いえ、世界の象徴でもあります。人が戦う意思を神々に代わりこの地上で執行するための象徴、それを――」
 「くっだらねえのな」

 レジアンはそう言い捨てた。

 「それで勝ちたいなら、結果を出せ。仕様を超える強さを持てばいいだけの話だ。だが、基本を知らないで勝てると思うな。こんな戦術、俺が居た世界じゃ常識だ」

 レジアン達の世界が恐ろしいと感じた瞬間だった。
 このような戦術をとれば傷つき倒れた味方がどうなるか。

 ――倒れた味方は妖精の力で『プロフテリアの剣』の元に戦線復帰する。

 中央から敵がなだれ込み、プロフテリアの剣を蹂躙されるとなれば。

 「……戦で倒れ『プロフテリアの剣』の加護で戦線に復帰する味方が分断され、なぶり殺しにされてしまう。あなたは、それでも」
 「リスキルでゲージが押されるなら、どのみち勝てるだけの戦力じゃない。『アターシャの剣』による領地ダメージの方が多少のリスキルよっか相手のゲージ減らすんだよ」

 この男はどこまでも貪欲に勝ちしか見据えていない。
 大地と人と世界を愛した神々への信仰というモラル。
 そして、共に戦場に立つ仲間達の命。
 全てを捨て去り『リブラの天秤』の見せるアストラの階の影響力と、『アターシャの剣』が与える影響のみを見据える。

 「念のため中央に壁配置も考えたが……わざわざ敵さんがやってくれたんだ。こっちから壊してやる必要もねえわ」

 ――覚悟が、足りない。

 それはこの世界で生きてきたマーシーだからそう思うのかもしれない。
 異世界からやってきたレジアンにはこの世界への愛着も、この世界の人々への愛も無い。
 ただ、貪欲に力を振るい自由に振る舞う。
 だが、だからこそ、どこまでも愚直に、貪欲に勝利への最短路を突き進む。

 「さって、壁超えて敵さんがやってきたぜ?レベラゲの時間でございます」
 「スキルトレーニングでもはじめますかー」

 レジアン達は既に次の戦いを見ていた。

 ――戦場ですら力を得る為の糧にしてしまう。

 竜が咆哮を挙げ、地響きを鳴らし魔物が押し寄せる。
 それらを獰猛に見据え、この国で軍神と呼ばれる男が剣と銃を交差させた。

 ◇◆◇◆◇

 ぶっちゃけイージーモードもいいところです。
 何もしなくても勝てるじゃねえかコレ。
 難易度設定が俺仕様かなってちょっと警戒しただけに、がっかりですよ全く。
 俺は眼前に迫るウォーリアシュレッドの群れを見て最早スキルトレーニングのメシウマタイムに突入を確信です。

 「ロクロータ、少しあたしに遊ばせてよ」

 採取用ペット――ランドルタートルに跨ったキクさんがエルドバッシュを肩に担いでニコニコしてやがる。
 うろうろと後ろを回っているマーシーちゃんが心配そうに見ているが、ぶっちゃけ何の心配があろうというものか。
 嬉々として敵の群れに飛び込んでいくキクが頭上で大きくハンマーを旋回させる。
 ランドルタートルが眠そうな瞳で口を大きく開けるとどたどたとその短い足をばたつかせる。

 「――そぉれっ!」

 ――両手槌スキル『ローリングスタンプ』

広範囲殲滅型の範囲スキルで両手槌の主力スキルの一つだ。
 商売ばっかりやってるかと思えばどうして。

 「なかなかレベル高ぇじゃねえか」
 「ベースカンストくらいはさせるわよ。商売メインでも自分でレア掘りに行けるくらいにはレベル上げるのはたしなみでございましょうロクロータさん?そぉれ、どっかーん!」

 荒々しく振り回されるハンマーがどっかんどっかウォーリアシュレッドを砕いていく。
 攻撃力は本当に高いが、女子力はゼロですはい。
 採取用ペットのレベル上げも兼ねたモブ乱獲といったところか。
 レベルが上がればペットから採取できる素材の量や質が上がるから、キクのような生産プレイヤーには割と切実な問題っちゃ問題なのだ。

 「全部くれてやるわけにゃいかねーよ」

 わらわらと沸いてくるウォーリアシュレッドの中に俺もデッテイウを飛び込ませるとショットガンをばらまく。

 ――耳をつんざく轟音が響き渡り、吐き出された弾丸が鎧を穿つ。

 潰された兜の隙間から零れる光が粒子となって天に昇ってゆく。
 ばらばらと崩れるウォーリアシュレッドがドロップを落とさないのは仕様なのだろうが低レベルであった銃スキルがモリモリあがっていくのがわかる。
 腕の中でぐるぐると銃を回し、ドラゴンの上からハッピートリガーで引き金を引き続ける。
 周辺に群がりはじめたウォーリアシュレッドをデッテイウの爪や尾がなぎ払い、一つの竜巻のようにウォーリアシュレッドを文字通り挽きつぶしていく。

 「ロクロータ!初期配置はあらかた終わりそうだよ!」
 「主戦場に散るぞ。初期敵のAIが南下直進だから、リポップは東西に向かう。俺、西に向かうわ」
 「オーケー東は喰わせてもらうわ?ああ、そうそう。忘れてないと思うけど一応、デンジャー警戒しておきなさいよ?」

 キクが対NPC戦の大規模戦闘における危険要素について忠告してくれる。

 ――ぶっちゃけ、NPC相手の大規模戦闘はイージーモード過ぎる。

 戦術を知らないAI相手に戦術を駆使して戦えばそれは最早、簡単な作業の繰り返しとなってしまう。

 ――そこで現れたのが『デンジャーエネミー』と呼ばれる警戒すべき特殊敵の存在だ。

 「西側からだったら川の中を最悪、『壁蹴り』していけば十分に間に合う。マーシー、オーベン城からでっけえのが出たら合図を寄越せ。俺とキクが中央に戻る」
 「はい」

 それだけ告げると俺とキクは戦場中央から東西に別れて進撃する。

 ――大規模戦闘でペット随伴は基本、NGである。

 移動速度の低いクラスの搬送に使うことがしばしばあるが、その分大規模戦闘参加人数枠が減ってしまうからだ。
 だが、NPC戦で十全な戦力と言えるプレイヤーが俺とキクしか居ないのであればそれらを割いても十分にお釣りが出るだけの戦果を出せる。
 ダンジョン攻略の前哨戦であるNPC相手の大規模戦闘は最早ボーナスステージ以外の何者でもない。

 ――ここで喰えるだけのスキル経験値を喰っておく。

 その為には吐き出された敵に素早く肉薄できる足が必要なのだ。

 「デッテイウ、飛べるか?」
 「――妖精の干渉が強く、飛べません」

 大規模空中戦と合同の大規模戦ならば空中に飛んで一気に戦場から戦場へと渡り歩くことができるのだが。

 「仕様なら、しょうがない」

 全てを済ませる魔法の言葉に従って俺はデッテイウの腹を蹴り走らせる。
 地上最速、とはいかないがそれでも騎乗ペットとしては優秀だ。
 戦場の西側に広がる荒れ地の岩を避けて走り、主戦場に立つ『アターシャの剣』が見えてくる。
 第二波で吐き出されたウォーリアシュレッドがわらわらと集まりはじめ、騎士が前線を作り、背後から冒険者達が火力をぶつける形を取っている。
 だが、馴れない連携なのかいささか押されはじめている。

 「『アターシャの剣』まで後退しろっ!バーストを利用する!」

 冒険者達は怪訝な瞳で俺の方を一瞥する。

 ――『アターシャの剣』が破壊されることで妖精の影響力が著しく低下することを理解はしているみたいだ。

 だが、壊される程群がらせはしねえよ。

 「騎士はそこのラインで食い止めろ。魔法職はバースト受けたら前進、火力を叩き込め!」

 いち早くアターシャの剣の下に入り込んだ俺に静かな光がまとわりつく。
 きらきらと光る光の中に妖精が浮かび上がり、羽を翻して俺の頭上を旋回する。
 静かにみなぎる力に俺はバーストがかかった感触を得る。

 「――本当に大丈夫なのかっ!オーベン城要塞まではかなり遠い!辿り着かない!」
 「辿り着く必要は無ぇよ!魔物を殺し尽くせ」

 ショットガンが火を噴く。

 ――リロード速度のあがったショットガンが弾丸の嵐を作りウォーリアーシュレッドを押しつぶす。

 「走れデッテイウ!」
 「あいさーッ!」

 跳躍したデッテイウが振るった爪がウォーリアシュレッドを押しつぶし、装着された角が淡く輝く。

 「吠えろ」
 「――ギャァァオウン!」

 ――咆哮と共に雷撃が迸り、戦場を舐める。

 弾けた雷光がウォーリアシュレッドの鎧を爆砕し、戦場が見る間に蹂躙されていく。
 外装効果の『サンダーボルト』も正しく『バースト』効果が載る。

 ――『アターシャの剣』の最大効果は魔法や遠隔武器、近接攻撃の速度が上がる『バースト』効果が載ることだ。

 敵の射程外から破壊を試みようとしても、適正な構成で望めばそう簡単に攻めきれるものではない。
 逆に上手に守ってキルを取れるようであれば、敵をリスポンに戻せるから進撃のチャンスを作ることもできる。

 「……これが、レジアンなのか」

 俺はウォーリアシュレッドの中を走り回り、ショットガンを乱射しデッテイウを暴れ回らせる。
 降り注ぐ雷撃の嵐の中、天を割く轟音が響き渡り弾丸の嵐が蹂躙する。
 戦場を単騎で駆けめぐり、バーストが切れる頃になれば再び『アターシャの剣』の下に飛び込み、妖精の光を受けて再び飛び出す。

 「……圧倒的じゃないか……これが異世界の……戦女神に愛された者の……」

 繰り返し飛び出し、瞬く間に敵の戦線を崩壊させた俺を騎士や傭兵どもがアホ面下げて見ていやがった。
 吐き出した弾丸が壁となってウォーリアシュレッドを地面の染みにしてしまう。
 崩れ落ち、粒子となって消え、一匹残らず殺し尽くし、俺は銃を腕の中で回す。

 「愉快痛快気分爽快。無双ゲーってやっぱ楽しいわ」

 ゲーム内に閉じこめられて体感となっているからひとしおである。
 俺はぼさっとしている騎士や冒険者達に一瞥すらくれてやることなくオーベン城要塞を見つめる。
 再度リポップしたウォーリアシュレッド達が吐き出されてくる。
 ゲージを確認すると赤色のゲージが最早、3分の1まで後退していた。
 対するこちらのゲージ消費が3分の1。
 快勝といっても差し支えないレベルの状況だ。

 ――このままの流れで確実に勝利をもぎ取ることができる。

 俺がそう、安心した時だ。
 遠く遠雷のような音が響いた。
 その音に続いて、響くラッパの甲高い音がざりざりと背筋を凍らせる。

 「……まさか」
 「ご主人、これはデンジャーエネミーの合図では?」

 ウォーリアシュレッドの群れの中、静かに姿を現した巨体に俺は目を見張る。

 ――デンジャーエネミー『デンジャーカオスキマイラ』

 通称については、もはや言わなくてもわかるレベル。長くてぶっとい蛇が何本も伸びてて、うん、素敵に気持ち悪いです。
スラング解説

 もちろん、真ん中から(タイトル)
 作中の通り戦場が展開していくFEZで戦術を知らない軍死が残した名台詞。
 SNS上で同年の流行語大賞にノミネートされる。
 ※ 当時の資料が無く『無論、真ん中から』からの可能性も有り

 軍死(前話 および 解説)
 戦闘を指揮する軍師が戦術を全く知らず、見当違いの指揮を執っている場合、侮蔑を込めて『軍死』と揶揄される。
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