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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第一部『導入編』

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どっどぅるー♪

 暗くじめじめした地下牢獄は涼しい風が吹いていた。
 ぼんやりと蝋燭の光が揺れ、多めの光源が一般的な牢獄と違って暗いイメージを払拭していた。
 だが、牢獄という場所が場所なのでそれもアンバランスな気がした。

 「どぅるー、どぅるどぅるー、どぅびし!どぅびしどぅびし!」

 牢獄の奥の方でなんだかアホな声が聞こえる。
 よくよく見て見れば奥の方で自分の髪の毛を使って遊んでいるチュートリアがいた。

 「にょーん!に、よぉぉぉん!伸びる伸びるー助けて伸びるー、ここで終わらない。まだ伸びる。がんばれー、がんばれー、きっとお前はおんもにでれる、でられるー」

 退屈さの極致にくるとIRIAってこんな遊びするんだ。
 自分のドリルを伸ばしてびょんびょんして遊ぶというか、あのドリルってそういう使い方すんの?
 俺は面白いからしばらくじっと観察することにした。

 「アンネッター、アンネッター、お前は凄いねー。お前はドリルの中でも一番強いドリルねー、壁に穴あけちゃおー、おんもにでたらミルク飲もうねー、おっぱい大きくなるよー、おっぱいがー、どーん♪ばいーん♪おっぱいってなんで二つなのかな?三つになるのかな?四つになったらいちころ?いちころ?」
 「ブフゥッ!」

 髪の毛に訳わからんことを尋ねるチュートリアに流石に俺も吹いてしまいました。
 驚いて振り向いたチュートリアの目がまん丸に見開かれる。

 「ま、マ、マァ、ますたぁぁ?」

 あたふたと居住まいを正し正座するその仕草は可愛いが、今更おっせえ。

 「いや、おっぱいは4つになら、なら……フヒヒ!ならねえだろwつか、どんなモンスターよそれw狩ってやんよw」
 「あ、いや、あの!その!えっと!そのどこから見てたんですかっ!このえっち!へ、変態ぃぃ!」

 一生懸命逆ギレしてきますが飯ウマタイムです。
 つか、笑いが止まんねえw

 「お、おめーがどぅるどぅるやってる時からだよwおめーバッカじゃねーのwアンネッタ以外にドリルに名前あんなら教えろよw必殺技考えてやっからw」
 「うわぁぁぁぁ――死にたい、死にたいぃぃ!今すぐ死にたいぃぃ!にぎゃぁぁぁ!」

 顔を真っ赤にして床で悶え狂うチュートリア。

 「そんな死に急がなくて大丈夫だって。3日後、つか、もうぞろあと2日になるのか?お前さん、死刑だって。やったね♪」
 「ほへ?」

 恥ずかしさに悶えてたチュートリアががばっと顔を上げて俺を見上げる。

 「いや、取引でよ?オベン城のインスタントダンジョン攻略を3日でやれたらお前解放してくれるって話でな?できなかったらお前、死刑だって」
 「いや、マスターが何を言ってるのかわからないのですが、もう一度お願いしていいでしょうか?」
 「だーかーらー、オベン城攻略できなかったら3日後に死刑だって。死刑。流石プロフテリア騎士団やわー。国家権力って凄いねー」

 真っ赤だったチュートリアの顔が一気に青ざめていく。
 赤から青とか忙しい奴だな。信号機みたい。

 「―――な、な……な、なんでですかぁぁっ!」

 大絶叫が牢獄の中に響き渡る。

 「うるっせえな、いきなり大声出すんじゃねえよ。つか、お前、なんでも糞もねえだろ?殺人罪だぜ?殺人罪。俺の居た国でもだいたい結果は死刑だよ。なんでとか聞く方がおっかしくね?」
 「私より酷いマスターがなんで牢屋の向こうに居るんですかっ!おかしいですよね!そっちの方がおかしいですよね!」

 半狂乱となって叫ぶチュートリアだが、俺はさらりと結果を告げてやる。

 「いや、だって俺、無罪だし」
 「なんでですかぁ!清く正しい精神を持てという神の教えに従った私が死刑で、なんでこのクズマスターが無罪なんですかぁぁっ!」
 「仕様でっすw」

 俺はネトゲで全てを片付ける魔法の言葉を叩きつけ、鉄格子を掴んで半狂乱になるチュートリアの頭を撫でてやる。

 「まぁ、いいじゃねえか。多分、神様だってきちんと見てくれてるって。な?」
 「それ何の慰めにもなってないぃぃぃ!私、死んじゃう!きっと死んじゃう!マスターはきっとそれも『面白そう』とか思ってる絶対ぃぃ!」
 「よくわかりましたねー、チュートリアちゃん、正解っ♪」
 「うわぁぁん!やっぱりぃぃぃ!」

 泣き叫ぶチュートリアの反応がぶっちゃけ面白すぎる。
 マーシーちゃんだったら何か素直に諦めていそうだからやっぱりこういう反応を返してくれる方がおちょくりがいがあるってもんですよ。

 「ますたぁぁぁ……どこまでもついていきます。死ぬときは一緒です、だから一緒に死にましょう?私、マスターとだったら一緒に死ねます!」
 「やだよ。デスペナ痛いし。つか、なんで俺がお前と一緒に死なないといけないの?心中とかメンヘラの趣味に付き合ってられません。一人で死ねよ」
 「ますたぁぁぁ……寂しいよぉぉ……おかぁさぁぁん……おかぁさぁぁん……」

 ガチで泣き出したチュートリアがどこまでも哀れです。
 なんだかとても不憫に思えてきたので俺はそっと優しさをインベントリから出してやる。

 「まあ、運良く攻略できたらいいね。初見だから無理かもしんないけど。まあ、その時はさくっと諦めようぜ?諦めも肝心だって。諦めることで大人になるって誰か言ってた。まあ、俺は子供のままでいいけど」
 「軽いです。私の命がゼロヘビー………」

 錯乱したチュートリアがだばだばと涙を流しながらゲーム内用語を初めて使う。
 成長したもんだ。

 「ほれ、死刑決定記念を祝して俺、ケーキを作ってやったよ」
 「嫌がらせですか?本気の本気で嫌がらせしてますよね?嫌がらせにも程ってもんがありますよっ!」

 流石にチュートリアが大きな声を出したから奥から見回りの騎士がやってくる。

 「差し入れだよ。どうせクッキーとかもう全部食べちゃったんだろ?退屈してたからどぅるどぅるやってたんだろ?」
 「うん」
 「最後に甘い物とか食べたくなるから、ちょっと奮発してな?料理スキル無いから歪んでるけど、まあ、食べられるから」

 俺の差し出したケーキを見下ろしチュートリアがだばだばと泣く。
 俺がデコレートした『祝!死刑決定!ちゅーとりあちゃん』というチョコレートプレートを見て感動したのだろう。

 「なんで?私……悪い子だったのかな?……何がいけなかったのかな?悪い人と付き合っちゃいけませんっておかあさんの言いつけ守らなかったから?ねえ……おかぁさん……言うこと聞くから助けて……死にたくないよぉ……」

 最早放心状態のチュートリアの頭をごしごしと撫でてやると俺はにんまりと笑う。

 「いよいよもって最後の最後に喰えよ?あと、喉も渇くだろうからリンゴすり下ろしたジュースも作ってきてやったから。まあ、二日だから頑張れよ」

 いざという時の下剤だがな。

 「ねえ、マスタぁ?助けてくれます?いっしょうけんめいがんばるから、わたしをたすけてくれます?」

 鼻声でぴすぴす泣くチュートリアちゃんマジイジメ甲斐あるのな。

 「つか、そんな心配いらないように俺、ケーキ差し入れしてんだけどな」

 これは割とマジである。
 今、後ろに看守が居るから詳しく話せないのだけどまあ、物凄くわかりやすいっちゃわかりやすいからいいか。
 俺はちょいと長居しすぎたと思い直すと欠伸をかみ殺して立ち上がる。

 「ほいじゃ、俺、サクって行ってくるわ」
 「マスター!信じてますよっ!絶対、信じてますからっ!私のマスターは強いんです!だから、どんな状況でも……絶対信じてますからっ!」

 なんだかちょっと名場面チックな状況だが、俺はにんまりと笑って現実をつきつける。

「別に信じたところで俺のステータス、あがりませんからー」

 ◇◆◇◆◇

 マーシー・セレスティアには一つの目的があった。
 それは悪意から成るものではなく、真に人として正しくあるための目的だ。
 だが、それはいささか個人的に過ぎ、それが為に騎士団を謀らねばならなかった。

 「……残り2日、できるのかね」

 元老院の古き老人達は現状を報告するマーシーにどこか諦めにもにた溜息をつく。
 国の利権にしがみつく彼等は魔王の復活に伴う世界の危機すらどこか遠い国の出来事のように捕らえていた。
 長い長い歴史は国を腐らせていた。
 セレスティアの性を名乗るマーシーはそれでもプロフテリアの最後の良心として聖騎士の中でも最上位とされる『ホーリーナイト』の試練を超えて剣を取った。
 それは、決してこの醜い老人達に頭を下げるためではない。

 「叶いましょう……いえ、叶えます」

 呟き、ためらい、そして、断定する。

 「まだ、あの小娘に固執しているのか。あれはもう、戻らぬ。アターシャの導きに応じてしまったものはその魂の輝きを黒く染めてしまう。戦女神のレジアンの力を得たからとて叶わぬ夢を見るのはやめるがいい。それは愚かなことだ」

 この老爺達はマーシーの奥底に横たわる願望を知っていた。

 「戦女神のレジアンとはいえ、見るに只の無法者。兵法には少しばかり詳しいものと見えるらしいが……あの年齢であれば軍を率いるのもはじめてであろう。それが、今まで陥落させられなかったオーベン城要塞を落とせるものか」

 元老院の老人達の言う言葉は最もであった。
 異界の知識を持っているとはいえ、精神的には粗暴で幼く、与えられた力を思いのままに振るい続けている。
 いささか操りやすいように律法を用いて捕らえてはみたものの、陪審員に信じられない巨額を積み、刑を逃れた。
 奔放に過ぎるかと思えば、自らに従う法騎士のイリアには無頓着であった。

 「物事のとらえ方に粗が目立つ。あれでは上手く人を統率はできん。いいか?マーシーよ。戦とは人が行うのだ。その人を上手く扱うにはとても繊細な心配りが必要なのだ」

 元老院の老人達はレジアンが同伴するイリアによって足を掬われたと見ているのだろう。
 だが、間近で見てきたマーシーにはそれこそ、物事のとらえ方が粗すぎると思えた。

 ――あのレジアンは理解した上で、誘いに乗った。

 事実、イリアの少女は陪審員を買収できるだけの金額を持ち合わせていた。
 一人の少女が持つには常識外れの金額である。
 それをレジアンが行ったとなれば、彼は正しくイリアに対して措置を施していた。
 イリアにその意図を汲み取るだけの器量がなかったのだ。
 牢獄に入れられている最中も、レジアンはひたすら牢の鍵を開けては閉めることで技術を修練し、状況を自らの望むように整えるだけの努力をしていた。
 諦める、という選択肢が最初から無いのだ。

 「我々がどれだけ繊細にレジアンを操っているか、レジアンには理解できていまい」

 それは、レジアンにとっては些細すぎて最早、見ることすら叶わない些末な思惑。
 相対すれば彼という『力場』に挽きつぶされる小さな企み。
 彼はどこまでも自由である。
 全てを傷つけ、受け止め、そして、立ち向かう。
 彼は彼の思惑を持って、自らのあるがままに。

 「マーシー・セレスティアルよ。くれぐれも手綱を放すな。レジアンは過去より強大な力を持つと聞く。もう一人のレジアンであるあの女もまた、商会から力を持ち始めたと聞く。力をつけてくれるには問題はないが、自由にさせてはいけない」

 引き替え、自分はどうなのだろう。
 不自由に苛まれ、自由になる為に力を得たがその力の為にまた、より大きな不自由をもてあます。

 ――そして、運命が彼女を駆り立てた。

 「2日の後にイリアの処刑は執り行う。その場合はお前がレジアンを導け。そう、運命の女神は告げたのだ。色香でも嗅がせれば容易かろうて」

 マーシーは下げた頭を上げて、どこまでも冷たい瞳をもって老人達を見つめた。
 戦女神のレジアンは彼女に告げたのだ。

 ――覚悟が、足りないと。

 家督の不自由に苛まれ、運命が彼女の愛を弄ぶというのならば。
 それらに全て『勝利』するのであれば。

 ――全てを捨て去る『覚悟』が必要だ。

 「下らんな。運命になど、私は従わない」

 吐き出して、決まる。
 驚き慌てふためく老爺達が目を見開く。
 背後に何も無くなる不安が、前へ進む力となる。

 「勝つ。勝利以外に何も無い。私は救ってみせる。カーマリィも。プロフテリアの愚かな老爺達よ。刮目して見るがいい。剣は大地に立てられた。戦は始まった。戦女神のレジアンはかの伝説のとおり、勝利を司る。私は勝つ、魔王の悪意、そして、運命に」
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