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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第一部『導入編』

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『廃人』達

 俺は喜々として剣を抜き放つ。

 「しょうがないなぁ、手伝ってやんよぉ」

 盾と剣を手にし、巨大な竜と対峙する。
 見上げれば頭が霞むほどの巨躯を持つ竜が俺を見下ろしていた。
 巨大、というには大きすぎる爪が振るわれた。
 爆音が鳴り響き、それが腕の振るわれた音だと思う時には俺は既に『ダッシュ』で駆け抜けていた。
 地面を抉り、マグマを噴かす凶悪な一撃はデッドアクションですら霞む程の超威力。
 回復アイテムだとかは無意味である。
 文字通り一撃必殺の凶悪無慈悲な一撃。
 それを走り抜け、懐に踏み込み避ける。
 その巨大な腹にまるで玩具のような剣の切っ先を走らせ、俺は竜を見上げた。

 「チュートリアッ!手を出すんじゃないぞ!絶対にだ!」
 「はいっ!」

 どこか信頼したような返事をくれるチュートリアに俺はひとまず安心する。
 だが、最強の『グランドラゴン』を前に、そして、最高に頼れる相方を前に俺はどこまでも高揚していた。

 ――『赤い竜』の『クラス』は『ヘビーナイト』である。

 鈍重な重鎧に身を包み、両手に巨大な両手剣を携えている。
 『二刀流』スキルだけではなく、『両手剣』高レベルを条件とするヘビーナイト特有の『両手重武器』のクラススキルを発動させたその形は典型的な火力ヘビーナイトの構成である。

 ――高威力の広範囲火力スキルを連発し単位時間火力を無理矢理引き上げた形。

 だが、それは逆にナイト系の最大の特徴である高防御力と弱点である鈍重さを兼ね備え、高威力攻撃と高耐久力を誇る大型モブと相対する場合、致命的なまでに相性が悪い。
 『聖域を犯すかっ!欲望に溺れた者どもよっ!』
 グランドラゴンの凶悪な連続ブレスが放たれる。
 赤い竜の周囲、そして、本人の位置へ向かい巨大な火球が大気を押しつぶす唸りをあげて飛翔する。
 赤い竜の剣が振り上げられた。

 ――『スラッシュエッジ』

 大剣の基礎モーションスキルである飛びかかり斬りだ。
 赤い竜はその『スラッシュエッジ』の飛びかかりモーションを利用して火球を避ける。
 鈍重な重鎧が宙に舞い、背後に火球を着弾させ爆炎を背に凶悪な輝きを放つ両手剣が輝いた。
 連続して着弾する火球を即座に『スラッシュエッジ』で避けると俺と同じ位置まで駆け出す。

 ――『スライドレイジ』

 槍系の『トランプル』の両手剣系スキル。
 高速移動の後に切り下ろす移動攻撃スキルで距離を一気に詰め、ドラゴンの腹に強烈な一撃を見舞う。

 ――グランドラゴンの体躯が一瞬だけ、宙に浮く。

 足下に攻撃対象が居る場合に行われる『のしかかり』モーション。
 俺は高速ステップ、赤い竜は間髪入れずにスライドレイジを繰り出しそののしかかりの範囲から逃れる。
 前足を地面についたグランドラゴンの横腹に俺のランページスラッシュと、赤い竜の重々しい斬る撃が叩き込まれる。

 ――重鎧系に制限される移動系スキルの代用を、赤い竜は悉く攻撃スキルのモーションを利用して行っていた。

 『二刀流』の特色は両手に武器を持つことで攻撃モーションが変化することで得られる単位時間攻撃力――DPSの増加。
 そして、もう一つが、逆手に持つ武器によるモーションスキルの回数増加。

 「ヘビーナイトとかピーキーにも程があんだろうがっ!」
 「ブレイバー?何でブレイバー?」

 互いに互いのクラス選択に疑問を持つ。

 ――ヘビーナイト系のクラススキル『両手重武器』は両手系近接武器を『二刀流』することでDPSを引き上げる。

 だが、逆にただでさえ補正の少ない精神力――MPや、片手武器より多く消費されるスタミナの管理がとてつもなく難しくなる。

 ――俺が言うとおり、アタックモーションスキルを駆使して大型モブを相手にするなどMP、スタミナ管理がピーキーすぎて戦えたものではない。

 それでもこの赤い竜という男がヘビーナイトを選択する理由は明らかである。
 それは俺も幼い時から理解している感覚で、男の子なら誰しもが持つ憧憬。
 そして、誰しもが諦め、捨てて、仮想現実の中ですらデータという障害に手放してしまう尊厳。
 赤い竜はにへらにへらと笑いながらブレードを交差させて切り払う。

 「――だってぇ、『かっこいい』んだもん」

 ――『クロスブレイク』。

 凶悪な両手剣を交差させて振るわれた一撃はグランドラゴンの強固な竜鱗を容易く断ち切り、激しい閃光を上げる。
 甲高い斬撃音が響き渡り、赤い竜はのろのろとグランドラゴンから後ずさる。

 ――グランドラゴンの首が巡り、口の端から炎が零れる。

 額の宝玉が赤く輝き、その首が巡る。

 ――吐き出される灼熱の炎。

 赤い竜はブレードを振るい顎の下に潜り込み、ダッシュで首の旋回半径から逃れ、そのままグランドラゴンの背後に回る。

 「あっちゃんは何でブレイバーなんだよぅ?」
 「勝つため以外にあんのかよ」

 連撃からのスラッシュを尻尾の根本に叩き込み、俺はにやりと笑う。

 「『グランドラゴン』ソロとか正気じゃねえだろ?」
 「できると思ったんだよ!」

 再び身を起こしたグランドラゴンを前にに赤い竜はサークルエッジのチャージを開始する。
 両手剣系の弱点である『長時間モーション』のスキルである。
 強力な攻撃ではあるが、そのモーションの時間が長いが故に、強力な敵からの反撃を貰いやすいスキル。

 ――プレイヤーのアタックスキルと大型モブの攻撃じゃ単純に火力が違う。

 一発当てて、一発貰っていればそんなの熊と殴り合うボクサーのように結果はどうなるか目に見える。
 強大な大型モブにはダメージを喰らわないように立ち回る繊細さが必要なのだ。
 だからこそ、サークルエッジは自らより弱い雑魚モブ多数を相手に振るうスキルなのだ。
 グランドラゴンが甲高く嘶き、両の腕を地面に突き立てる。

 ――『サークルエッジ』の僅かに前進するモーションだけでその攻撃範囲から紙一重で避ける。

 それだけじゃない、その切っ先が振り下ろされた腕を切り裂き、火花を散らす。
 交互に振り下ろされる両の腕を切り裂き、両手剣を一杯に開き旋回する赤い竜はまるで竜巻だった。
 俺はグランドラゴンの後ろ足を『壁蹴り』で蹴飛ばし、背中に飛び乗ると駆け上がる。
 背に伸びる角に斬撃を叩き込みながら、駆け上がる。

 ――そして、弱点である額への『ダウンスラスト』

 『――小癪なッ!』

 グランドラゴンが大きく身を捩り、振り落とされる。
 落下ダメージを防ぐために俺は『宙返り』スキルで落下スピードを殺し、『受け身』スキルで地面の上を転がると、赤い竜の傍らに降りた。
 グランドラゴンがその両翼を開き、大きく羽ばたく。
 風圧を盾で防ぎ、踏ん張り耐える俺と赤い竜にグランドラゴンは甲高く吠える。
 額の宝玉が青く輝き、俺達はこれから来る猛攻を悟る。

 ――デッドアクション『竜心爆陣』

 グランドラゴンの背後に巨大な魔法陣が描かれ、淡い燐光を放つ。
 かぁん!と甲高い音が響き、魔法陣から灼熱の隕石が降り注ぐ。
 広大なフィールドを埋め尽くす程の量の隕石が降り注ぎ、俺達は駆け出す。
 地面に映る影で着弾地点を読み、グランドラゴンに接近しようとする。
 だが、 デッドアクション『竜心爆陣』の本懐はここからでさる。
 グランドラゴンの額の角が輝く。
 額の角の先に巨大な球形の光が渦巻き、激しく燐光を上げる。
 ルーン文字のような印象がされた帯がいくつもその球形を包み込み、球形の光が一際大きく輝いた。

 ――ゲロビーム属性のレーザー、俗称『ドラゴンビーム』

 暴れ回る光が俺と赤い竜に向けて二本、吐き出され、それは移動する俺と赤い竜を執拗に追いかけ始めた。

 ――無差別に降り注ぐ高威力爆雷と精密なゲロビーム攻撃。

 致死威力でかつ回避困難なこれらの攻撃をあわせたデッドアクションが『竜心爆陣』の本懐だ。
 ランダムという不確定要素の中に確実に狙う精緻な攻撃を織り交ぜることでプレイヤーのミスを誘う。
 誘われてミスれば死体が一つできあがるって寸法だ。

 ――蘇生措置をとらせてくれる暇すらくれやしない。

 グランドラゴンが頭一つ抜きんでて強い理由はそこにある。
 だが、しかし――

 「竜さん『クロスブレイク』だっ!」
 「ん?ああおっけー!」

 俺が『ダッシュ』で駆け込み、そこに『スライドレイジ』で赤い竜が駆け込む。
 その軌道が交差して俺と赤い竜は一瞬の交錯をする。
 追って光芒が重なり、干渉したビームが弾けて消える。
 それだけではなく、グランドラゴンの角に形成されていた光球が弾け、その衝撃にグランドラゴンが揺らめき意識を失い地面に落ちる。

 ――『交差崩壊クロスブレイク

 強力なモブには必ず攻略法が用意されている。
 一見凶悪なデッドアクションだがウンコマンの連鎖崩壊チェーンブレイクのように特定の条件でピンチがチャンスへと変わる。

 ――強力すぎる魔術の干渉が空中に居るグランドラゴンのスタンを奪うのだ。

 「竜さん、飯ウマタイムだ」
 「おっけー!」

 どこか気のない返事。
 だが、どこまでも獰猛な廃人二人が最強と勝利へ向けて疾走する。
 地面に落ちた竜の額への『ランページスラスト』による連撃。
 ムーンサルトでそのまま角へ向けて『ダウンスラスト』をする俺の直後に、『スラッシュエッジ』からの『ブレイドスラスト』。
 『壁蹴り』で赤い竜の前に降りると、グランドラゴンが起き上がりに伸ばした牙を『ジャストガード』で防ぐ。
 赤い竜がもう一度『スラッシュエッジ』で俺を飛び越え、額に追撃を入れると俺達は弾かれたようにその場から飛び退いた。

 ――グランドラゴンの巨躯が回り、凶悪な尾撃が周囲をなぎ払う。

 それを目前に捕らえ、俺は稲妻ステップ、赤い竜は『スライドレイジ』で一気に距離を詰める。
 尾撃が終わった僅かな隙に俺は『スラッシュ』そして赤い竜が『スライドレイジ』の斬撃を交錯させ、走り抜ける。
 互いに意識はしていない。
 だが、極限まで行動を最適化し、『廃人』が居ると認識さえしてしまえば。

 ――打ち合わせなど必要なく、連携ができる。

 どこまでも高度な次元に至り、言葉なくとも意志の疎通ができる。
 『廃人』同士が肩を並べれば、そこには言葉はいらない。
 互いに積んだ経験則が、互いを理解させる。

 ――グランドラゴンが飛び退き、ブレスを吐く。

 その射線を潜るように俺と赤い竜がそれぞれのスキルでかいくぐり、グランドラゴンに肉薄する。
 続いて振るわれた横殴りの腕を俺はさらにステップで踏み込み避け、赤い竜の剣が攻撃した腕を殴る。
 連撃で顎の下を削り、股下をかいくぐり再び尻尾の根本から背中に乗る。
 グランドラゴンが飛行モーションに入り、浮き始めると赤い竜は両の剣を背にしチャージを始める。

 ――赤い燐光が赤い竜の足下から吹き上がり、風を起こす。

 俺は飛行しぐらつくグランドラゴンの背中を『ダッシュ』で駆け上がり、『ムーンサルト』でグランドラゴンの額に立つ。
 一瞬だけ、目が合った。

 「地獄へ堕ちろ」

 親指を下に向け、俺は剣を滅多に振るう。

 ――『ランページスラスト』

 光芒を残す銀の閃きが幾重にも重なり、額の宝玉の上で火花を散らす。

 『グォォオオオォォォ……ォォォオ!』

 弾けた火花が飛び散り、宝玉に亀裂が走り、グランドラゴンは甲高い悲鳴を上げた。
 上昇したその巨躯が、再び地面に落ちる。
 激しい地響きを鳴らし地面に落ちたグランドラゴンの鼻先は、赤い竜の眼前。
 どこまでも不適な笑みを浮かべ、赤い竜は苦しげな表情をするグランドラゴンに向けて、凶悪な両手剣を一閃させた。

 ――両手剣スキル『チャージエンド』

 『サークルエッジ』と同様にチャージを有し、かつ、狭い攻撃範囲と最高の使い勝手の悪さ故に、強大な火力を持つ。

 ――『両手重武器』スキルにより二本の両手剣を振るい、一発でのダメージならば最大級の威力を誇るヘビーナイトの超火力スキル。

 衝撃が竜の額を走り、首を抜け、背中を貫く。
 交差されたブレードが『グランドラゴン』の額の宝玉を完膚無きまでに砕く。

 ――人の身を持つ竜が、偉大なる竜『グランドラゴン』を叩き伏せた瞬間だ。

 遠く、俺達の戦いを眺めていたチュートリアが唾を飲む。

 「……凄い……これが、『廃神』達……」

 激しい光となって天上に昇ってゆくグランドラゴンを見上げ、俺と赤い竜は昔のように剣を打ちあわせた。

 「完全?」
 「勝利?」
 「「イェェ!」」
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