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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第一部『導入編』

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ほら、ラッキースケベだ。喜べよ。

 俺は即座にキクの店に取って帰る。

 「キクっ!おい、キクっ!畜生っ!なんで居やがらねえっ!……おいテンガ!起きろ、起きろっ!」

 店のカウンターで突っ伏して寝ているロリイリアのテンガの額をぺしぺしと叩き起こすと首を揺さぶって起こす。

 「おい、キクはどこだ?」
 「おくのへゃー、きがえるって」

 俺は寝ぼけ眼のテンガを放り捨てるとどかどかと奥の部屋のドアを蹴破る。

 「おいっ!キク――」

 ――そこにゃあベッドの上に服を並べて全裸で仁王立ちするキクが居た。

 健康的に引き締まった腰のラインといい、尻といいなかなかいい眺めである。
 驚いて振り向きつんと張った胸もいわゆる『美乳』としてなかなかそそる。
 だが、そんなことは後である。

 「何でマッパになってんだ?まあいい、大変なことがあった!」
 「あんたラッキースケベの第一声がそれかっ!傷つくわっ!今私が大変だよっ!」

 即座に服で胸を隠し半泣きになりながらキクはがなり散らす。

 「減る物ないしいいじゃないか。つか何してんだお前?」
 「着替えよっ!外出するなら外着に着替えていくじゃない!バカぁ!」
 「何デート意識してんの?キモっ」
 「うるっさい!うるっさい!こういうところをおろそかにしたら女子力なんか高くならないのよっ!」
 「そんなパラメーターはエルドラドゲートオンラインには無いから安心しろ。そして、お前の個性だとそれ死にスキルだから」
 「た、楽しいか!人のメンタル攻撃して楽しいんかっ!」
 「……あれ?ひょっとして本気で気にしてたの?いやあごめん。ちょっと無神経すぎた。本当にごめん」
 「マジに謝られると余計凹むわ!くぬっくぬっ!」

 手当たり次第に物を投げつけてくるキクが涙目になっていて本気で可愛そうだったから俺はそそくさと部屋を出てドアを閉めるのだが壊れてしまっている。
 外ではチュートリアがどこか呆れたような顔で俺を見ていた。

 「いっやー、マジで怒ってた。なんでなん?」
 「マスター、あれはないと思います」
 「なんで?」
 「……私も最近やられっぱだから気にならなくなりつつある自分が嫌なんですけど、着替えを男性に覗かれたりするのって気持ち良くありません」
 「じゃあなに?触れば気持ちいいの?よし、どれ、お詫びに触ってこようか」
 「ば、ばかですかますたーわ!そ、そんなことしたら火に爆炎水晶つっこむようなものですよ!そうじゃなくてですねー……うーん……どうしたらいいんでしょうか?」
 「ほんとうに使えねーなおめー」
 「がーん」
 「つか、精緻なポリゴンだとわかれば別にちんちんおっきとか……するよなぁ……時茶にはお世話になったしなぁ」
 「一人で哲学しないでください。それより、キクさんの怒りを静める方法を……」
 「つか、何で俺がいちいちキクに気を使わないとならんの?」

 色んなことがあって頭がパニクってたに違いない。
 俺はよくよく考えると何も非が無いことを思い出しキクの部屋に入る。
 多分、一般常識的には非がありまくるのだろうが、それを非と感じているようでは強くはなれない。
 キクは未だ着替え中で半脱ぎ状態。
 まさか再度入って来るとは思っておらず顔を真っ赤にして俺を見ていた。

 「半脱ぎの方がやっぱりそそるな?」
 「確信かっ!確信犯かあんたっ!」
 「どーでもいいからはよ服着て粗末なおっぱい隠せよ。握りつぶすぞ」
 「先にメンタルが潰れるわ!あーもう、いったいなんなん!?」
 「赤い人が居るっぽい」

 喚きまくっていたキクだが動きが硬直する。

 「……え?」
 「一緒に行く約束だったがフライングしてペットNPCを見てきた。サービス開始記念でドラゴンが販売されていた。能力毎に6匹。朝一でそれをフルコンプしていったらしい」
 「フルコンプくらい他の廃人でもやるんじゃない?」
 「だから、煽って俺も6匹フルコンプしてみた」

 キクは俺の言葉を受け止め、静かに考え込む。
 うーん、下の茂みが隠れているようで隠れていない。
 上だけ隠して下隠さないのもえろいわー。

 「まさかとは思うけど……」
 「赤かったつーくらいだからまず間違いはねえだろうさ。煽りに答えれば確定だ。奴はこの世界に居る」

 俺は壁際に置かれた椅子に座りじっくりと服を着ていくキクを眺める。
 するすると服を着ていく様子ってのもまた事後感あってえろいな。

 「赤い人が居るなら私達にコンタクトを取ってきても……」
 「それは無いだろうよ」

 俺は断言してやる。

 「奴も根っからの廃人だ。俺が50カンストしてるくらいだから、今頃別スキル上げの為に狩りでもしているか……あるいはレア掘りの為に狩りでもしているかのどちらかだろうさ。そっちの心当たりは?」
 「赤い人が行きそうなところ……うん、一つだけあるかもしれない」

 服を着替え終わったキクは眉根に皺を寄せて考え込むが、やがて俺がずっと見ていたことに気がつき目を細める。

 「つか、あんた何ナチュラルに人の着替え覗いてんのよ」
 「隠密スキルカンストしたんだぜ?凄いだろ?」
 「じゃなくて!ラッキースケベから開き直るなっつってんのよ!」
 「お前の服飾センス最悪やな。上から下までスマートなコーデで決めて、頭のシュシュで可愛さアピールなんだろうが全体的にラインが凡庸。それじゃあ何の為にファンタジー世界に居るかわかりません」
 「総評は?」
 「しまむら服の普段着。なんつーか田舎の女学生が少ない小遣いで目一杯おしゃれしようとしました感。田舎帰ってもう一度マラソンして来い」
 「……あんたの評価って手厳しいけど正当だからねえ……気合い入れたんだけどそれでもダメか」
 「初期売りのデザインでもきちんと組み合わせればちゃんとコーデできるぞ。それをしないのは単にセンスが無いだけだ」

 俺はそう言って鼻で笑ってやる。
 服飾に関して言えば俺はちとうるさかったりする。
 年がら年中女キャラの尻を眺めてレベリングしてた飽きる。
 キャラクターの外装をきちんとコーディネイトしてやるのも一つの楽しみだし、モチベーション維持の一つの手法でもある。

 「まあ、うんこ穴の服飾なんざ茶ばんだ便所紙でも張りつけておけばいいわけだし、それよっか今は赤い人だ」
 「なぐるわよ?グーで」
 「あれなら俺以上に人の話を聞かないから多分、今頃2、3回は死んでいそうだ。早急に手厚く保護してやらんといかんだろ?」
 「そうね、あんたも大概だけど赤い人はさらに上を行くから……それよりあんた何フライングして先にペット買いに行ってんのよ」
 「だってお前と一緒に行くとたかられるじゃないか。先にシード使っておこうと思って」
 「いまいくらあんの?」
 「2000」

 自信満面に答えるとキクはがっくりと肩を落とす。

 「……生産用ペット買おうと思ったのに」
 「それっくらいは残してるよ。最高値のドラゴンで2000だ。生産用くらいは買えるだろうさ」
 「それでスカンピンになってちゃ意味がないでしょうに。スキル追加ツリーの購入だって考えないといけないんでしょ?あんたの場合」
 「仕方あるまいさ。それっくらいは自分で稼ぐ。それよっか赤い人が本当に居るなら煽り入れる方がよっぽどいい金の使い道だよ」

 おずおずと部屋の入り口で話を聞いていたチュートリアがひょっこりと顔を出す。

 「あの……先ほどからマスターがお話されている赤い人というのはどなたなのでしょうか?ひょっとして、キクさんと同じように元居た世界のお知り合い、なのでしょうか?」

 キクは腰に手をあて、嘆息を零すと答える。

 「……そうよ。知り合い。だけど、この世界と違って私たちの居た世界というのは直接会うことがなくてもこうして、別の世界を渡り歩いて知り合うこともあるの。私とこのカスパッパがそうして知り合ったようにね?」
 「俺やキクと同じく、『廃人』って奴だよ」

 チュートリアは廃人という単語を聞いて目を見開く。
 こいつにとって廃人というのは最早、尊敬の対象になっているようだ。

 「その人も強い方なんですね」

 俺とキクは一度顔を合わせると答える。

 「強い?違うわよ。その上を行く『最強』よ」

   ◇◆◇◆◇◆

 キクを連れて戻ると、運営の女神イリアがにこやかに俺に微笑んだ。

 「コーデリアのレジアン!さっきドラゴンがもう6匹売れたんだよ!だよっ!いやぁ、レジアンの言うとおりだったよ!これで販売ノルマまであと少し!私の出世も間違い無し!今度からは掃除当番しなくて済みそうだよ!だよっ!嫌がらせで使用済みのエロ画像の削除とかやらされるから嫌だったんだ!」

 俺とキクは半ば答えのわかりきった質問をする。

 「そいつは朝一に来た赤い奴だったか?」
 「うん。『ロクロータが6匹買った』って言ったら『じゃあもう6匹買ってく。12匹のドラゴンを揃えれば最強に見える』って。バカじゃないかなーと思ったけど、ノルマのためだもんね!もんね!ちょろいわー」

 俺とキクは確信する。
 互いに顔を見合わせ頷き合う。

 「赤い人だな。あいつバカだぜやっぱり」
 「赤い人ね。バカね、バカなのはわかりきってることじゃない。じゃなくちゃわざわざ24000もドラゴンだけでぶっ込む?ワンセットあれば十分じゃない」
 「そこが赤い人のバカっぷりですよ。煽り耐性ゼロですはい、運営さんの美味しいカモです。おかげで僕らが遊べる社員がメシウマ」

 俺達はさんざっぱら赤い人を馬鹿にしあうが隣で聞いていたチュートリアが唖然としている。

 「24000シードって別の世界じゃそう簡単に使える額のお金なんですか?」
 「いや?24000あれば一ヶ月は飯が食えるくらいの額だな。他の世界に遊びに行ってお菓子買うくらいの気軽さで使える額じゃあ無い。だからバカなんだよ」

 俺はそう教えてやるとチュートリアは難しそうな顔をする。

 「……ペットとはいえ育成をしてやらなければ強くはなりませんよ?その人は本当に12匹のドラゴンを育成するツモリなんでしょうか?」
 「時間的にできる訳がないだろう?俺が6匹買って、その数と同じというのが許せないだけだ。バカだろう?育成する気も無いくせに12匹も衝動でドラゴン買ってくんだぜ?頭の中に何積んでるか知りたいだろう?だけどな、それが『廃人』って奴の絶対条件なんだよ」

 吐き出した俺の顔が苦渋に歪む。
 確実に『負けた』という感覚と、バカには付き合ってられないという諦め。
 くだらないこだわりだが、そこに確実について回る敗北感を飲み込むと俺は大きく溜息をついた。

 「マスター、なんだか複雑そうな顔をしていますね?心配事でしょうか」
 「いいか……これはくだらないことだ。とてつもなく、くだらないこと」

 俺はそう言いながらにやける自分を抑えられなかった。

 「たかが、ドラゴンの数さ。育成だってしやしない……だけど、それでも、だ」

 俺はここ数日の閉塞感が破られる感覚と、どうしょうもないくらいに腹の奥が燃える感覚を覚えていた。

 「自分で決めたことくらいは、誰にも負けない。それは他人に負けることじゃなくて、それを決めた自分に敗北したことに、他ならないからだ」

 キクは苦笑して俺を見ると、どこか楽しげに告げた。

 「追いかける?赤いバカの今居そうな場所、教えたげるよ?」
 「行くしか、あんめえ。あれは最強のカードだ。そろそろ、ギルドを立ち上げるのも、悪くはねえだろうさ」

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