挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第四章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

238/255

勇者ルカと聖女ソアラ

 勇者ルカは神託を受けた勇者である。
 女神ファミルの使途である大天使テリアの祝福を受けたとされ、聖女ソアラと共にあまねく人々を救う希望とならなければならない。
 だが、その本質はただの農家の跡取り息子でしかなかった。
 週末には教会に行ってお祈りを欠かさず行うどこにでもいる普通の少年でしかなかった彼が天使テリアの神託を受け、聖王都プロフテリアから巡礼に来ていた聖女ソアラと共に各地で魔王の放つ魔物に苦しめられている人々を助けるべく旅立つこととなった。
 神託はしばしばソアラを通じ託され、魔物に苦しめられる人達の場所に赴いてはそれを助けることとなる。
 勇者ルカは何の因果かオーロードの画策した戦争に巻き込まれる形となった。
 それは酷く、心の痛むことであるがそれが多くの悲しみを防ぐことだというのであれば仕方の無いことだと思う事にした。
 ザビアスタ森林地区に現れたレジアン達の勢力は瞬く間に勢力を伸ばし、勢いを強めている。
 各地の強大な魔物を打ち倒す赤い竜の噂は勇者ルカも程なく耳にした。
 人々を脅かす強大な魔物を打ち倒すことを宿命づけられた勇者として、ルカはその赤い竜の伝説に喜んだ。
 だが、レジアンの風聞は良い物ばかりではない。
 戦女神のレジアン。
 聖王都プロフテリアの騎士団に屈辱を与え、そして指揮下に置いてオーベン城要塞を陥落させた。
 年端もいかない王族の娘を恐ろしい拷問にかけたという。
 風の風聞に聞いたのはそれだけではない。

 ――ヴォルヴ国民大虐殺。

 戦えない女子供だけではなく老人すら皆殺しにすると宣言し、大砂嵐の奥地に放り込んだという。
 遠くネルベスカの地で帝国軍を相手に壊滅させたとも聞く。

 ――もはや、その勢力が力をつければ世界がどうなるかわからなかった。

 噂はあくまで噂ではないかと抗弁してみたが、ヴォルヴに赴きその真実を知る。
 人々は口々に悪魔だと叫び、戦女神のレジアンを罵った。
 実際に家族を虐殺された者の涙を見て、勇者ルカはその風聞が真実であったことを知る。
 ザビアスタ森林地区が勇者ルカの故郷でもあることからまた、胸を痛めた。
 聖女ソアラが受けた天啓に導かれ、海洋都市オーロードに赴き、戦列に加わることを要請された。

 ――人を殺したくて、勇者になった訳では無い。

 ただ、力無い人達が魔物に蹂躙されるのを救いたくて勇者になったのだ。
 人を殺す為に、剣を取った訳じゃあ、ないのだ。
 そんな鬱屈とした気持ちに気づいたソアラは良くしてくれた。
 だが、神様がもし、居るとしたら何故、人が人を殺すことを止めようとしないのだろう。
 アターシャの剣は闘争で人が殺すことを避ける為に設けられた。
 だが、最後、略奪をされる側は家を追われ、最終的には蹂躙されるのだ。
 結局、力ある者だけが命を保障され、力無い者が虐げられる世界の理の理不尽は変わらない。
 人間がエルフやビーストを奴隷にしていることは知っていた。
 今でこそそういう風習は無くなってはいるが、形を変えて奴隷という慣習は残っていた。
 オーロードはプロフテリアから遠く離れ、その傾向が特に顕著であり、同じ人が人を虐げる様に疑念を抱いた。
 そんな葛藤をよそに事態は進み、ルカは海洋都市オーロードの特使としてザビアスタ森林地区へ赴くことになる。
 エルフやビーストを奴隷として酷使し勢力を広げたと言われるヤサイムラはさぞかし陰鬱とした場所なのだろうと想像していた。
 だが、実際訪れてみればエルフやビースト、人間が軋轢こそあるものの対等に暮らしている様を見て驚いた。
 それどころか、滅多に人前に姿を現すことの無いドワーフやネルベスカの奥地で見たことのあるドラゴニュートまで存在しており、人種のるつぼと化しているヤサイムラの様相に目を見張った。
 雑多な活気を持つ街の様相に感心しながらも、ルカは自身が宣戦布告を告げる特使としてここに来たことを思い出す。
 寝ているソアラを置き、朝早くに街をぶらつき、鬱屈とした気分を紛らわそうとして食堂に入った。
 何でも異世界から来た人間が営む食堂で格安で美味い飯を出してくれるという評判の店だった。
 異世界の料理というものに興味が出て訪れてみれば、どの席も一杯でやかましい活気のある店で、どこかうらやましさを覚えた。
 自分たちはこの活気を、壊さなくてはならないのだ。
 本来ならば今日、ソアラと共にレジアンに会ってオーロードの宣戦布告を伝えなければならない。
 そこで熟練の冒険者――自分より年上だが、まだ若い――に仕事に行くかと誘われ、鬱屈した気持ちが晴れればと思い、ついて行ってしまった。
 本来ならば今日、ソアラと共にレジアンに会ってオーロードの宣戦布告を伝えなければならない。
先延ばしにするのにはちょうどいいと思ってこの地の強大な魔物と戦って来ようと思ってしまった。
 八つ当たりに近いものだと自覚もしている。
 ソアラに知られれば怒られもするし、心配もされるだろう。

 ――だが、そんな杞憂は目の前の光景に吹き飛ぶ。

 「イヤッホォウ!」

 魔獣グランレックスを相手に斧一本で立ち回るその熟練の冒険者は鮮烈にして豪快、だが、どこまでも緻密な一挙手一投足は見る者を引き込む。
 投げられた斧が木々の間を旋回し、六本足の魔物の前足を折る。
 戻ってきた斧を空中で受け止めるや豪快な一撃を額に叩き込む。
 吹き上がる鮮血を追って伸ばされる顎を旋回して避けたと思えば回転した身体と共に振るわれた斧が魔獣の紫紺の体毛を裂き、その奥にある肉を断って血の旋風となる。
 魔獣が旋回し周囲を薙ぎ払う時にはすでに宙に舞っていた。
 空中で身を捩り、放られた斧が鋭く魔物の尾を断ち切れば木を蹴飛ばしさらに高く飛翔する。
 グランレックスが咆吼をあげ、雷光を放つが雷光に怯むことなく高高度からその背に飛び乗り、斧が翻る。
 腕の中でぐるぐると回る斧が背を断ち、グランレックスが地面を転がり振り落とそうとする前には羽毛のように地面に降りたっていた。

 ――まるで、魔獣を手のひらの上で遊ばせるようなその戦いにルカは目を奪われる。

 「まあ、これっくらい――やってやれなきゃあな!」

 魔獣グランレックスは決して弱い魔物ではない。
 むしろ、凶悪な魔物の一つとして数えられるものだ。
 オブリビオンの塔が出現して以来、各地にこうした強大な魔物の出現が多く見られるようになった。
 ルカとてソアラと共に居なければ打ち倒すことは難しいだろう。
 だが、目の前の冒険者はこれをまるで遊ぶかのように翻弄し続けているのだ。

 「凄い――グランレックスをこんな簡単に……」
 「ユニークさんだ。もうぞろデッドアクション、来るぜ?」

 強大な魔物は英雄すら下す凶悪な攻撃を有している。
 青白く輝いた双眸と放たれた咆吼に膝が震える。
 だが、目の前の戦士は両手に把持した斧を腕の中でぐるりと旋回させると唇を釣り上げて笑う。
 ルカも盾を構える。
 魔獣グランレックスの必殺の一撃が放たれる。

 ――グランドラム。

 六本の足で交互に地面を叩き、隆起した岩盤が放射状に迫る。
 ルカが構えた盾の上で岩盤の衝撃が爆ぜ、大きく後ずさる。
 だが、その戦士はその岩盤の隆起めがけて疾走した。

 ――稲妻が走ったように見えた。

 斧を交差させ、地を蹴った戦士が隆起する岩盤の中をジグザグに走りグランレックスに肉薄する。
 咆吼を続けるグランレックスの顎下まで潜り込むと振り上げた両手の斧が手を離れ、魔獣の顎を下から貫いた。

 「そらッ――任せたぜッ!」

 鮮血を放射状に散らしながら戻った斧を手に、魔獣の足下を回転しながら駆け抜けてゆく。
 膝をつき、傾いだグランレックスに好機を見いだしたルカは疾走する。

 「でやぁ――!」

 一直線に駆け抜け、必殺の一撃でもってその額を狙う。

 ――勇者としての必殺剣『エンドレイジ』

 突き出された剣が光を放ち、残像を残して吸い込まれる。
 引き抜いた剣を追って光が溢れ、閃光が爆ぜる。

 ――ギャァァ――ォォォウン。

 グランレックスが甲高い悲鳴を上げ、首を上げ、光と鮮血をまき散らし、倒れる。
 その巨躯が沈み、大きく大地が揺れると黒く燃える炎に包まれてアストラの粒子となっていく。
 その残滓の向こう、どこか得意げに斧を肩に担ぎ笑う男に、ルカは久しぶりに胸の透く思いを覚え、笑った。

 「お前さん、ブレイバーだったのか!最後のエンドレイジ、思い切りがいいな!」

 勇者としての自分を知って、驚かないこの男は何者なのだろう。
 だが、そんなことを置き去りにしてルカはこの男に褒められたのが何故か嬉しかった。

 「ありがとうございます!」
 「まあ、適当に狩りに出たらグランレックスが出てくるとか想定外だったが、まあ、遊ぶにはいい相手だったろ?」

 討伐隊を組まなければどうにもできない強大な魔物を相手に、遊びだと告げた相手におおかた察しはついた。
 男が黙って拳を突き出す。
 ルカはその拳に自分の拳をぶつける。
 打ち鳴らされた手が乾いた音を立てて、悩みが晴れた。

 「もうぞろ昼飯時だ。帰ってラーメンでも喰おう」
 「ラーメン?」
 「スープの中にパスタが入ってて……んー……なんつったらいいのかな。まぁ、いいや。奢るから来いよ」
 「はい!」

 だが、今だけはそんなことはどうでも良かった。
 もう少しだけ、この人と一緒に居たい。そう思った。

 ◆◇◆◇◆

 戦争に向けて、やれることは全てやっておかなければならない。
 キクは戦争とは物資と物資のぶつかり合いだと、何かの折に読んだことがある。
 国土の広い方が勝つ、という理屈についてもなんとなしに理解していた。
 結局、国土の広い方が生産力が高く、ぶつける物資が多いから勝つのだということである。
 第一次世界大戦において日本がロシアを下したのはその法則を覆すから世界が注目したのであって、だが、結局、第二次世界大戦でアメリカ相手に日本はその法則の正しさを身をもって証明した。
 だが、軍人ではないキクさんにとってそれらのことは単なるトリビアでしかなく、今の時点においてそれはたいした重要度を持っていない。
 頻繁に顔を出してくるロクロータが自分を心配してくれていることは理解していた。
 やかましく、人を小馬鹿にし、人を怒らせるだけ怒らせるのだが、それが彼なりの気遣いだというのはもう、キクにもわかっていた。
 ともすれば甘えてしまいそうになる自分の弱さを克服しなければならないと思いながらも、押し潰されそうになる。
 しかし、それが許されない状況に居るというのもまた、理解していた。
 残念ながら、自分に赤い竜やロクロータと共に最も過酷な戦場に立つだけの技量が無いことは理解していた。
 技量も影で磨いてはいる。
 だが、積み上げた年季が違うし、また、適性も無かった。
 だからこそ、自身の得意とする分野で最大限、彼らを支えなければならなかった。
 そう、そして今、目の前に直面している状況こそ、彼女が真に戦わなければならない状況だった。
 寝起きにやってきたこの少女の扱いについてどうしたものかと考える。

 「オーロードとザビアスタは古くから不干渉の立場を保っていました。ですが、近年、あなた方の覚醒を機に、その関係は大きく揺らいでいます。オーロードにもあなたたちを危険視している者も居れば、実際に、被害に遭われた方も居ます。これまで、度重なる交渉の席を設けようとしたと聞き及んでおりますが、あなた方はその席にすら着かなかったと聞きます。私たちは大天使テリアの神託を受け、オーロードとザビアスタの確執に決着をつけるべく立場ですが――このような禍根を将来に残す訳にはお互いのために良くないと同意しました。そういう訳で、私はオーロードの特使としてザビアスタ森林地区の統治者との会談を希望いたします」
 「要するに、宣戦布告でしょ?3行に纏めてよ。寝不足であんまり頭に入らないの」

 飾り気なく切り返したキクにその少女は苦笑してはにかむ。
 白を基調とした金の刺繍の入ったローブはキクも見覚えがある。
 プリースト上位職のハイプリースト系がよく装備するセイクリッドローブだ。
 応接室で互いに向き合いソファに座り、優雅に紅茶を飲むプリーストとは対照的にキクはぬるくなったコーヒーをカップで煽っていた。

 「海洋都市オーロードは要求を了承していただければ平和的な解決を望む用意もあると仰っています」
 「小細工ばかりしかけてくるくせによく言うわ。平和的な解決?私の寝言の方がまだ、聞いてて面白いんじゃない?一方的な搾取を平和って言うのね」

 寝不足で自分でもわかるほど苛々しているキクは自分の言葉に棘があることを理解していた。
 英雄クラスのNPCが特使として派遣されることはよくある話だった。
 宣戦布告をするには相手の領地まで行ってそのギルドホームに宣戦布告をつきつけてこなければならない。
 敵性領地に入ればそのキャラクターに攻撃可能となり、領地を出るまえに殺されることもしばしば。
 だから、一般的には死んでも惜しくないNPCを金を使って送りつけるか、殺される事を覚悟にプレイヤーが赴くかのどちらかが一般的である。
 だが、NPC領地から戦争を仕掛けられる場合、こうして英雄クラスのNPCが宣戦布告をしに来ることが多い。

 ――戦力が整っていない場合、領地の中心でそのNPCが暴れて領地体力を奪うのだ。

 「勇者ルカと聖女ソアラ……まあ、フリー英雄のNPCとしては最も妥当なところよね」
 「私たちをご存じとは、恐れ入ります」

 目の前に居る少女――聖女ソアラは悪びれる風もなく、そうキクに切り返した。
 私、こいつ嫌いだわ。
 キクは直感的にそう理解してしまった。
 どこか、ひねくれた性格をしているのは自分でも理解している。
 だが、そのひねくれた性格というのを徹底的に綺麗に見せようとしている目の前の女は例えNPCとしても好きになれるものではない。
 ザビアスタに居るNPCを例にあげるなら、マーシーは逆に包容力があるから許せる。
 ウィンミントはいじけているものの基本素直だから許せる。
 ココはおおらかだし何よりテンガの妹だ。
 エレニアとは妙に気が合うし、あの大雑把さは自分と似たところがあって嫌いだが基本悪い奴ではない。
 唯一便所コオロギが嫌いな性格だが、アレは姉にぞっこんで多少バカなところもあるから愛嬌がある。
 しかし――目の前のこの女は別だ。
 こうして作り笑いを浮かべて、さも清楚に振る舞う女には嫌な奴しか居ない。
 一瞬、考え込む。
 最適解は適当にあしらい、時間を稼ぐこと。
 時間さえあれば、戦力を増強させ、十分な準備をもって相対することができる。
 しかし、赤い竜やロクロータがその選択肢を選ぶかと尋ねられれば。
 キクは自分の背に負った竜魂の意味を、正しく、理解していた。

 「私、あんたみたいなの嫌いだわ」

 そう言って少し鼻白む少女の顔にキクは溜飲を下す。

 「居たのよねー。友達としてーとか、あんたのためにーとか、押しつけがましいこと言う奴。だけど、実際、そういうことをしてる自分に自己満足してるだけで、こっちのことをそのジコマンの踏み台にしか思っちゃいないの。そのくせ友達ヅラしてさも自分はいい奴ぶってるし、自己弁護に余念がないから本当に自分をいい子だと思ってるから始末に負えないのよね」

 真っ向から人格を否定して会話を拒否する。

 ――好きでも無い奴にへらへら迎合なんかしてやるか。

 もとよりこういう性格をしていて友達という友達は少なかった。
 それでも屈託無くつきあえる友達も居たが、家族離散の折に距離を取るようになった。
 だけど、その距離が逆に心地良いと思うようになり自分も捻れたと思ってしまった。

 「私たちはお友達になれない。なら、答えはわかるんじゃない?」
 「――戦女神のレジアンはこちらに戻られては居ないと聞きました」

 本当に、つくづく嫌な奴だと思った。
 だが、ソアラとしてはこれが外交の場では礼儀であると知っているから本人に悪意はないのだろう。
 しかし、キクからしてみれば悪意が無いからこそ余計に腹が立つのだ。

 「二日前に戻ってきたわよ?昨日は徹夜で麻雀してたから今頃どっかで寝てんじゃない?」

 麻雀というのが何かはわからないがソアラはそれをブラフだと判断した。
 竜神のレジアンと戦女神のレジアンの噂は聞いていた。
 もし、勇者ルカに対する抑止力として働くならその二人だろうとも。
 赤い竜については領地内のオブリビオンの塔の破壊に出払っており戻ってきていないという。
 戦女神のレジアンは行方不明になっており、このタイミングが好機だと判断した上での訪問だ。
 その戦女神のレジアンが居るとなれば英雄への抑止力となりえる。
 この地には他にもマーシー・セレスティアル、エルフの長、ビーストの長などの英雄が存在する。
 だが、勇者ルカと自分を相手にすればそれぞれの種族としての立場が危うくなる。
 そうした様々な政治的なしがらみを考慮してソアラはこの特使の任を受けたのだ。

 「そうですか――では、私はその回答を勇者ルカに伝えねばなりません」
 「戦争でしょ?さっさと攻めてきなさいよ」

 ソアラはこれでも戦術や戦略についても学んでいた。
 ザビアスタの地理的要因を考慮すれば徹底した防戦で守る方が損耗は少ない。
 ましてや、保有する戦力からしてみれば防戦しか選択する余地は無い。
 そうしてオーロードの戦力が損耗してから攻勢に転じる。
 それが最もザビアスタとオーロードが戦争を決めた場合、勝率の高い戦法だ。
 それがザビアスタの対オーロード戦略だろうと判断した。
 だが、それはオーロードも推測したことだ。
 だからこそ、二の手、三の手を用意しておく。
 オーロードとザビアスタが戦争となり、防御戦を選択したザビアスタを側面からプロフテリアの領主が攻める算段になっている。
 そうして二面に分断されればザビアスタの戦力は分散し戦線を維持できなくなる。
 英雄の数がいようと、また、レジアンがいくら強力であろうと戦争というものはとどのつまり、数が趨勢を決する。

 「……キクさん、と仰いましたか」
 「なに」
 「私は……多くの方が血を流すのを好みません」

 キクは鼻を鳴らす。

 「じゃあ、あんたが、代わりに血を流しなさいな」
 「その覚悟があるから、この場に私が赴きました。どうか、無辜なる人々を争いに駆り立てることのない賢明な判断を望みます」

 真っ向から向けられた瞳がどこか眩しくてキクは苛立つ。
 ああ、なるほど。
 チューちゃんを相手にするロクロータが苛々してんのはこういうことか。
 理解したキクはどこか皮肉げに笑って告げた。

 「賢明な判断を下すべき相手は私じゃあ無い。あなたは血を流してでもその人間を正しく見極めるべきだった……そうね、私たちはあなたたちの言う『レジアン』だもの」

 聖女ソアラは眼前の女性がどこか底を見つめた瞳で自分を見ていることに気がつき、もはや、言葉を交わす時間は終わったと確信する。

 「わかりました。戦神アターシャの加護が共に、あらんことを願います」
 「『竜魂』を舐めないで欲しいな?勝利というものがどういうものか、見せてあげる」

 ソアラはオーロードの勝利を、そして、キクはザビアスタの勝利を確信する。
cont_access.php?citi_cont_id=649025998&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ