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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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ネルベスカ・アイオーン・クラウディア

 クラウディア・ネルベスカの意識は深く深く闇に飲み込まれる。
 ただ、鮮明にある意志だけが意識を繋ぎ闇の奥深くで寒さに凍えた。
 そう、寒いのだ。
 どこに行っても、寒い。
 世界に見捨てられ、永遠の冬に閉じ込められたネルベスカの冷たさは人の温かさを奪った。
 そのネルベスカの中にあって、クラウディアはどこに行っても寒かった。
 風の凌げる壁の中に入れたことは僥倖なのだろう。
 だが、それはただ、生かされているだけの地獄だった。
 自由が無いことは、許せた。
 自分がそういう人間であることも、理解できた。
 だが、その生涯において、幾ばくかの温もりをくれた人が奪われていくのが悲しかった。
 乳母であったミランダ、庭師のホランゾ、教育係のパメラ。
 ほんの幾ばくかの温もりを与え、そして、冷たく去って行った。
 それがとても悲しく、彼らを温かい人のままで居させられない自分が嫌だった。
 それは幼い頃に、鏡の中に居た。
 見目麗しいお姫様でありながら誰よりも冷たい瞳で見返していた。
 自分こそがこのネルベスカを救うのだと教わった。
 自分こそがこのネルベスカで救われたいのだと教えたかった。
 だが、そんな感傷すら置き去りにして彼女の周囲は巡る。
 シルフィリスがイリアとして顕現し、彼女は用済みとなり廃棄された。
 滅んで、しまえばいいと願った。
 全てが滅んでしまえばいいと、願ってしまった。
 ドラゴンバスティアに繋留され、死ぬことの無い人形として幽閉され、世界を恨んだ。
 何故、私をこのようにお作りなさったのか。
 何故、私が世界に翻弄され、生かされねばならないのか。
 その恨みすら胸の奥底に押し込み、
 閉塞した自分の中、それは鮮烈な炎と共に現れた。
 全てを焼き尽くす業火の中で、世界を嘲笑い、全てを打ち壊した。
 そして、彼女を殺したのだ。
 幾度も、幾度も殺し、絶対に殺すと告げた。
 世界が定めた不死すら超越して、殺すと告げたのだ。
 異世界から訪れた新たなる神々の導き手レジアン。
 最初はわからずに怯えていた。
 だが、それが、ただの人だと理解できた時、必死に世界に抗えることを知った。
 それは誰にも等しく、残酷で、慈悲深く、鮮烈であった。
 等しくクラウディアにも温もりを与えてくれた。
 決して、優しくは無い。
 だが、その不器用で、どこまでも寡黙な愛を与えてくれたそれがたまらなかった。
 その裏で誰よりも、愛を渇望し、それが叶わないと知り、怯えながら、それでいながら他人を愛すことを辞めないその眩しさに焦がれてしまった。
 自分を愛していいと、知ってしまった。
 そして、全てをはじめて、愛せるようになった。
 手を伸ばせる力を得たいと、願ってしまった。

 「――いいよ?君の願いを叶えよう」

 それは深い、深い闇の底から、クラウディアの最も輝かしい部分に染みこんだ。
 暗く、汚れたそれは、輝き愛しいそれと混じり合う。
 「君の願いを叶えよう。君の成したいことを成せる力を与えよう。そして、君の――願いとは程遠い現実を成し遂げよう」

 それは屈託の無い、どこまでも純粋な笑みを向けてクラウディアを嘲笑った。

 「――『束縛』できるだけの力を与えよう。『屈服』させるだけの力を与えよう。『絶望』させるだけの力を与えよう。『永遠』になる力を与えよう」

 それがクラウディアの中に染み渡り、歪めてゆく。
 それは最後の最後、クラウディアも最も大事な部分を残し、全てを掻き回し――

 「――よかったねwこれで君は愛する人の――『力』になれるw」 

 ◆◇◆◇◆

 アイオーンタイプと呼ばれるモンスターが居た。
 聖属性を有し、白く透き通るクラゲのようにふわふわと浮かぶ天使系モンスターと言った認識を持たれていた。
 厨二全開で話せばそもそも、アイオーンってのはグノーシス主義だかの霊的存在だかって奴で、RPGなんかじゃそのおかげか天使系の敵の名前に流用されたりする。
 ファミルラでも例外じゃなく、アイオーンタイプのモンスターはどれもこれも天使系のモンスターとして扱われ、希少な素材やアイテムをドロップしてくれた。

 ――だが、それは当然、そのアイオーンタイプを倒すことができたらの話だ。

 高位マップのレアボスとして登場するか、こうしたオーバードコンテンツで登場するアイオーンタイプは多くのユーザー達を苦戦させてきた。
 そして、今、目の前に立ち上がったその白い巨体はまさに、アイオーンタイプのモンスターの特徴である天輪と翼を有し、天使を連想させた。

 「――ロクロータ、様」

 呟いたクラウディアは力なく震えていた。
 生きることを諦めた瞳が、どこか、俺を申し訳なさそうに見つめていた。

 ――俺は、これがクソッタレな『ゲーム』であることをまざまざと突きつけられる。

 それが両腕を広げ、甲高い音を立て始める。
 両腕の先に光が集まり、一瞬だけ大気を震わせると、追って地上を光が走った。
 縦横無尽に走った光は地上で見上げる帝国の兵達を容赦無く焼き払った。
 焼け焦げた地表が黒ずみ、黒い影となった兵達が逃げ惑い、追いかけ、光が走った。

 ――やがて光が俺達へ向かって走り、俺達は空に逃げる。

 デッテイウの腹を蹴り、ロールして避けると追ってきた光をバックムービングで避ける。
 加速させ光の旋回半径の内側を抉り込み、頭上を通る熱戦の熱さに首筋がちりちりと焼ける。

 ――天輪が輝き、光を放つ。

 雨粒のように吐き出された光の粒が緩やかに広がり、地表に向けて放たれる。
 それぞれが放物線を描き、地表の人に突き刺さると光の柱を上げて人を灰燼に変える。
 放たれた光の粒は近くで見れば人ほどの大きさがあり、誘導性を有している。
 それは無論、俺達にも見境なく迫ってきているからだ。
 高速で迫るレーザーとミサイル光弾の組み合わせはグランドラゴンのそれを彷彿とさせる。
 地上からの接近よりかは上空からの接近の方が容易だと判断し、俺達はドラゴンの腹を蹴る。

 「まさか――こちとら下級職だぜ?もうアイオーンぶち込んで来んのかよ」
 「オーバードコンテンツなら――当たり前じゃね?それより――あれは」

 これを相手にするということをよく理解しているが故に、赤い竜は既に想定していたようだ。
 赤い竜の視線の先には胸の部分にあたるところに下半身と両腕を埋められているクラウディアが居た。

 「クラウディア――よく似た他のNPCだったら笑えるぜ」
 「さっき、ロクロータって言ってたしね」

 併走し飛翔する弾丸をかいくぐりながら舌打ちする。
 強引に射線上に載せるとGBMを放り投げる。

 ――魔力の弾丸が盛大にアイオーンの体の上で爆発する。

 俺に向きを変えたアイオーンの赤い巨大な水晶のような瞳が俺を捉える。

 ――ァァァ……ァァァァァ……

 静かに唸るような音を響かせ光が爆ぜた。
 広がる光に合わせてロールして衝撃をやり過ごす。
 衝撃が地表の帝国兵達を飲み込み、押し潰した。
 振り上げた腕が伸び、伸ばした手が俺を掴もうとする。
 指の間をロールで抜けて腕の上をデッテイウが疾走する。

 ――ハイペリオバスタードの切っ先が白い腕の上を走り、肩から首に駆け抜ける。

 跳躍し、飛翔しながら振るわれたサークルエッジの銀閃になんの痛痒も見せず背後に駆け抜けた俺に悠然と振り返り、腕を振り戻す。
 ターンアラウンドで反転し、バックムービングで腕を眼下にやり過ごし、GBMをばらまく。
 魔力の爆発を受けて静かに揺れるアイオーンに舌打ちする。

 ――アイオーンの口が開き、幾重にも光の輪が広がる。

 広がった輪の中心から渦巻く鮮やかな赤色の光が螺旋を描き迸る。
 その赤色の光の中に閃く赤色の光が見え、それがストレンジアクションだと理解した。
 放たれた赤い光芒は瞬時に広がり俺を飲み込もうとする。
 間一髪、間一髪、デッテイウをロールさせ、光の中から逃れると背中を焼くレーザーの熱に臓腑が凍り付く。
 追って腕から放たれた光弾が俺の背中を叩いた。
 衝撃が背中から胸に抜け、鼻と口から噴き出した血に視界が染まる。
 立て続けに放たれた弾丸が火線を作り、加速して逃げる俺を捉えようと空を舐める。
 マシンガンのように放たれる光弾の射線の半径に入るために判断は接近を選ぶ。
 もう一方の腕が振るわれ、下から掬い上げられる。
 ぎりぎりで合わせたロールで腕を避けると、手綱を引き絞り天輪から放たれたレーザーをバックムービングで避ける。

 ――超威力の広範囲レーザーと追尾弾、連射弾、範囲衝撃波、腕による近接範囲攻撃。

 吐き出した息と共に口の中に残った血を吐き捨て、吸い込んだ息で鼻の中の血を飲み下す。
 血に染まった歯を剥いてアイオーンを睨めば、佇む人影が俺を見上げた。
 どこか、冷淡に俺を見上げ鼻を鳴らす。

 「――かつて世界を席巻した新たなる神々の導き手。このニ・ヴァルースにリ・ブル・ヴァームの祝福と運命の女神ラ・ファーサの導きをもってあなた達は今、再び混沌と恐怖を繰り返す」

 それが何を言ってるのかわからない。
 ストーリーなんだろうがノムリッシュで宇野リッシュでわかりません。

 「お前も魔王のイリアの一匹か」
 「否。女神ファミルの寵愛を恐れ、魔界から世界を睥睨する魔王にイリアステラの光は届かない。それはかつての、『堕落した神々』の末裔。我は運命の女神の輪たるテステニ。イリアステラのエルドラドゲートの守護者なり」

 何を言っているかよく、わからない。
 ファミルラの時にもイベントキャラクターとして出てきた古代人くさい外見ではある。
 その眷属か何かだろうか。

 「ロクロータ様――逃げてェ!」

 悲痛なクラウディアの叫びの一瞬の後、俺の居た場所をアイオーンの腕が薙ぎ払う。
 風圧にバランスを崩しそうになりながらもデッテイウの手綱を引き、ロールで下がった高度を上げる。
 アイオーンの前に浮かぶ少女――テステニは俺を見つめ、続ける。

 「女神ファミルが愛したニ・ヴァルースにレジスの導きは要らない。ゆるやかな円環の中にやがて導かれる祝福がある。魔王も、精霊も、この世界には要らない。あるべくして、この世界はあるはずだった」

 魔王のイリアとは違う。
 他の勢力のイリアとかそんなニュアンスがするが、今は、どうでもいい。

 ――何故、こうなったのか。

 「クラウディアに一体何をしたッ!」
 「その神性を剥奪し、力を下賜した――竜を穿つ神槍『ドラゴンバスティア』。かつて、異界より来た竜がニ・ヴァルースを脅かし、イリアステラがこれを退けた際に用いたアイオーン。彼女はその真名(身命)を既に捧げていた」

 どこか俺達に憎しみを込めて見つめる赤い双眸が揺れる。

 「――かの地に既に竜は無く、竜を下したのは竜を名乗る異界の精霊。竜神ユグドラと戦女神コーデリアを導きしレジアン。もってこれを討てアイオーン。あれこそが世界の怨敵、世界を混沌へと導く破滅の兆候」

ぞくりと、腹の底が冷える。
 あの目を知っている。
 テステニが俺をみる瞳は――今、まさに俺が向けている瞳と同じ。

 ――憎しみに満ちた瞳だ。

 明確な敵意を向けられ、かざした腕に呼応するようにクラウディアの――アイオーンが咆哮を上げる。

 ――ァァァァ――ァァァァァ

 響き渡る澄んだ音が大気を震わせ、衝撃となる。
 その衝撃をバックムービングで後退しロールのクールタイムを稼いで、ロールで避ける。

 「逃げて下さいっ――ロクロータ様ぁっ!」

 広がった衝撃の向こうに見えるクラウディアが必死に叫んでいるのが見える。
 俺は大きく舌打ちし上昇する。

 ――セブンスヘッズは遠方に不時着している。

 最悪、ローターを展開してヘリモードで飛ばせば問題無い。
 だが、足を遅くしてアイオーンが逃がしちゃくれるとは思えない。
 帝国兵が撤退するルート上――大氷壁の渓谷の出口にセブンスヘッズが擱坐しちまっている。

 ――撤退中に襲撃されればひとたまりもない。

 「チィ――」

 放たれるレーザーをかいくぐり、纏まらない思考を奔らせる。
 帝国兵はアイオーンの無差別な攻撃に撤退を始めている。
 もたもたと考えていれば何もかも手遅れとなる。
 今が大事な一瞬だと理解している、だが、それでも零れるようにその一瞬が流れていく。

 「ロクロータぁぁっ!」

 俺の名を呼ぶ、バカがいた。
 シルフィリスの背で親指を立て、大きくバレルロールで俺の頭上を超えてゆき、セブンスヘッズに向かってゆく。

 ――いつまでソロで遊んでんだ俺は。

 血で染まった額を撫で上げバサバサとうざったく跳ね上がる前髪をなでつける。

「――任せるッ!」
 「――任されたっ!頑張れ主人公!」

 赤い竜なら本当に煽ってくれやがる。
 デッテイウの腹を蹴飛ばし、レーザーをかいくぐり、緩やかにバレルロールを描きアイオーンに急接近する。
 迎撃の為に口を開きストレンジアタック――主砲を発射しようとする。
 その光を見て再度上昇し、アイオーンの頭上へ逃げると誘導光弾を引き連れ上空へ奔る。
 減速し、誘導光弾の接近を背後に察知し、バックムービングで急降下。
 背後から誘導光弾が追い越し、景色から遠ざかる。
 手綱を引き、鐙を乱暴に蹴飛ばしターンアラウンドで急旋回すると至近に迫ったアイオーンの頭頂にハイペリオバスタードを奔らせる。
 ランページスラストの連撃を奔らせながらアイオーンの頬をなぞり胸へ向かう。

 「ロクロータ様ぁぁぁぁ――」
 「クラぁぁぁウっ!」

 接近した俺を阻むように体を捻り、腕を振るうアイオーン。
 ロールし、腕の先に着地し、腕の上を走る。
伸ばされるより早く駆け抜け、肩から胸へと飛ぶ。
 放たれたレーザーが行く手を阻み、数発が竜の翼を貫く。
 傾ぎ、揺れるがそれでもと疾走し肉薄する。
 間近に迫ったクラウに手を伸ばすが――

 ――再度、衝撃が広がり、俺を吹き飛ばす。

 「ガゥ――ァ――」

 錐揉みし吹き飛ばされる飛竜の上で血を散らしながら手綱を引く。
 これ以上は流石に無理だ。
 距離を離し、ポーションを口に含むと回避に専念する。

 「――ご主人、これ以上はッ!」
 「遠距離から削ってやるッ!これだけ的がでかけりゃ餌食だッ」

 上空に高度を取り、頭上直上を取る。
 アイオーンタイプの敵の特徴としてどこが弱点か判りづらいという特徴がある。
 だが、その反面、ダメージが通らない程の高防御力を有していないことが一般的であった。

 ――だからこそ、GBMをばらまく。

 これまでの攻撃のパターンから頭上が最も攻撃の頻度が薄い。
 その頭上直上を取り、鉛直降下爆撃を繰り返す。
 幾重にもGBMを重ね、誘導弾を加減速で躱し、レーザーを左右に振って避ける。
 真上を向けないアイオーンのストレンジアタックを潰し、全方位衝撃波のみにロールを合わせる。
 腕が振るわれる距離になればバックムービングで高度を取りながらGBMをばらまく。

 ――幾重にも放たれた魔力の塊が雪のように散り、アイオーンの上で爆炎を上げる。

 扱いやすさと引き替えに得た火力は尋常じゃない。

 「パターン――入ったッ!」

 完全にパターンに入れ、確定したと思った瞬間、俺の視界の端に赤い光芒が見えた。
 全方位衝撃用に温存していたロールを吐き出し、バレルロールした俺の傍らを白い影が赤い光を従えて疾走した。

 ――真紅の槍を携えたテステニだ。

 その背中には白い翼が生えている。

 「――躱したか」
 「チィ――」

 せっかく構築したパターンを崩されるどころか余計なオマケまで相手にしなくちゃならん。
 誘導弾を加速して避けて高度を取り、デッテイウの首を上げ背面で地上とテステニを見下ろす。
 槍を振り上げ、翼で空を打ち上昇してくるテステニに応じる。
 突き込まれたトランプル――緋色の閃光を竜翼の下に納め――ロールで避けてチャージエンドを交錯させる。
 大気を引き裂く凶暴な一閃が華奢な少女の体を引っかけ貫く。

 ――思った通り、駆け引きはズブ。

 だが、腕に走った硬質の衝撃からえらく固い金属製の鎧を着込んでると判った。
 アターシャなんかと同じ高レベルイリアか何かだろう。
 大型モブとやりあっている横からの横槍なんざ不粋な真似をしてくれる。
 そんなことやるのはPKプレイヤーくらいのモンだぜ。

 「――いきなりご挨拶だな同類かよ!」
 「お前達と同類など――怖気が走るッ!消えてなくなれっ!世界の敵ッ!」

 大気に衝撃の輪を広げ、肉薄してくる。

 ――自由飛行持ちのチートとかねえわ。

 ロールを吐き出し回避の手段が無い俺はぎりぎりまで引きつけて、時間を引き延ばす。
 怒りの形相で俺を睨み据え、必殺の一撃を叩き込もうとするテステニの穂先のみに意識を集中し、引き延ばされた時間の中でデッテイウに上を向かせる。
 時間が流れを取り戻すその瞬間――

 「――くたばれッ!」

 ターンアラウンドの後退挙動を利用して頭上を取り、スラッシュエッジとGBMを同時に叩き込む。
 至近で放たれた光弾がテステニの上で爆ぜ、剣閃が薙いだ。
 駆け抜け、降下し、振り向かずにバックムービングで上昇する。
 追って降下したテステニの背後を取り、俺は剣を仕舞う。
 そして、竜の背中から飛び降りた。

 「背後――取ったぞッ!」
 「――な」

 驚愕に目を見開く。
 この高度で竜を降り、空中に放り投げられたバカが何をするのか皆目見当もつくまい。
 自由落下のプログラムに従い落下する俺はテステニの背後に肉薄すると翼ごと『ホールド』してやる。

 「ぐ――何をッ!」
 「地獄に落ちろ――」

 脇腹にニーキックを入れ、サブミッションで首を絞める。
 目障りに俺の頬を打つ翼に齧り付き、歯を立てると羽を毟り飛ばす。
 バランスを崩したテステニが落下を始める。
 腕と翼を脇の下に固め、膝で首裏を押さえ、空中で錐揉みしながら落ちてゆく。
 ごう、と風圧が下から迫り上がり地面が遠く迫ってくる。

 「暗黒――流れ星ッ!」
 「狂ったかっ!貴様も死ぬぞっ!うわあぁぁあ!」

 落下の速度は増してゆき、憎悪に満ちたテステニの顔が恐怖に歪む。
 バタバタとローブの裾が風圧で暴れ、俺の頬を叩く。
 落下し、暴れる風の中でどこまでも獰猛な笑みを浮かべ、額を叩き込む。

 ――この凶行を辞めるツモリは無い。

 どこまでも迫る地面に腹の底から恐怖がせり上がってくる。
 だが、恐怖を飲み下し、吐き出した息の熱さで押し潰す。
 アイオーンのレーザーや光弾を置いてゆき、地面の直前で俺はテステニを離す。

 「死ぬのは――お前だけだッ!ガットーザ――ヘゥ!」

 ムーンサルトからのスラッシュダウンキックで地面に叩きつける。

 ――雪が跳ね上がり、衝撃が輪となって俺の体を僅かに浮かす。

 そのままアクロバットでバク宙して減速し着地する直前に俺を追ってきたデッテイウの鞍に飛び乗る。
 殺し切れない勢いのまま着陸し、竜の爪が雪と泥の大地をひっかき飛沫を散らす。

 ――高高度から『ホールド』で相手を無理矢理地面に引きずり落とす。

 ガチガチにバフで固めたホーリードラゴン乗り相手に使う最終手段だ。
 理屈も超簡単だ。
 超高高度から落ちて高度ダメージを受ける。相手は死ぬ。
 そもそもの成功率が低く、簡単に成功するモンじゃない。

 「――狂っている――」

 地面に突き刺したテステニがどこか恨みがましい目で俺を見ていた。

 「戦女神のレジアン――こんなのが、ニ・ヴァルースに来れば――また、また私たちは――」
 「ハッ!狂ってるのはどっちだ。これでもまだ生きているとかぶっ壊れもいいところじゃねえか。高度ダメージなめんな」

 雪の粒子が散る中、大剣を構え直し、口の中の血を吐き捨てる。
 淡い光の粒子がテステニの周囲を包み込む。

 「――運命の女神よ。これがあなたの望む世界か。全てを飲み込み、全てを壊すその先に何がある。廃人――いや廃神よ。貴様達の遊び場とされたこの世界を省みろ。必ず、必ず滅ぼしてやるッ――レジアン――滅ぼせ!ネルベスカ・アイオーン・クラウディアッ!真なる力を用い怨敵を滅せよ!これが――世界の敵だッ!」

 魔法陣が少女を飲み込み姿を消す。
 トドメを刺し損なった切っ先が迷い、轟音が現実に引き戻す。
アイオーンが吠え、衝撃が俺を転がす。

 ――衝撃に耐えられなくなったヘパリーゼが瓦解し、崩れていく。

 バラバラと崩壊する装甲の下敷きになった兵達の悲鳴を押し潰し、巨大な船体が傾ぎ、大地に倒れ込む。
 統率を失い、衆愚と化した兵達は生き延びるために走り出す。
 それでも兵達を纏める将が逃げる彼らの統率を取り、導く。
 だが、その行く先には赤い竜が翼を広げ、待つ。

 ――言葉無く交わした約束を守るのは竜の誇りか。

 あるいは、自分を虐げ続けた帝国への憎悪によるものか。
 逃げ惑う帝国兵達が真紅の竜に押しとどめられ、焼き払われていた。
 それでも散逸して逃げる帝国兵の中にアイアイスやシグルドの姿がある。
 咆哮を重ねるアイオーンの中心でクラウディアが涙を流す。

 「ロクロータ様ッ!ロクロータ様ぁぁぁ!」

 アイオーンが変貌していく。
 大地が震え、淡い燐光を上げる。
 燐光が魔法陣を虚空に幾重にも描き、光がアイオーンに吸い込まれていく。
 吸い込まれた光の中で姿を変えていくアイオーンの姿に俺は笑みが乾いていく。

 ――幾重にも伸びた腕の先に形取られる銃器。

 ネルベスカの最果て、大氷壁にそびえ立つオーバードコンテンツ。
 ネルベスカ・アイオーン・クラウディア第二形態。
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