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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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唐突なネタバレだが厨二すぎて理解不能。

 「この青い髪は染めたの。なかなかにファンタジーっしょ?」

 なかなかのファンタジー展開に俺達はついていけない。
 ゲームで割と慣れているはずだった。
 だが、目の前に居るのが『現実』からの人間だという事実が混乱させる。
 少女に連れられ俺達は来た廊下を戻り、神殿の中に戻る。
 廊下の入り口の広間では何か心配そうな面でゲオルグがうろうろしていた。
 ゲオルグは俺達の姿を見つけると手を挙げて声をかけてくる。

 「おお。ソニアじゃねえかしばらく見ないから元気にしてんのか心配だったぞ。白老竜のじいさんとは無事に話せたのか?」
 「や、ゲオ。白老竜のじいさんとはつつがなく、だね。あのじいさんも話が長いから困る困る困る。私は例の如くあっちゃ行かされたりこっちゃ行かされたりで大変さ。今度もまた白老竜のじいさんに言いつかってね、ちょっと客人を案内してくるよ」
 「大巫女の役割も大変だな。一緒に行っていいか?俺もレジアンと話したい」
 「それはダメ。白老竜のじいさんから頼まれた大事な事を伝えなくちゃいけないんだ。珍しいお客さんなのはわかるけど、我慢して」
 「ふんむ、そりゃあ残念だ。だけど、イリアの嬢ちゃん達はどうすんだ?俺なんかよりずっと心配して待ってるぜ?」
 「ゲオには彼女達が追ってこないようにお願いできる?白老竜がレジアンだけに面会したがった理由にも関係しているんだ」
 「わかったよ」

 少女はゲオルグにイリアどもを任せると見えないところで舌を出し、俺達を連れて神殿を出た。
 道すがら、神官達が頭を下げるが鷹揚に応じ、少女は竜車を用意させる。
 竜車に乗り込んだところで、少女は俺達に教える。

 「大巫女ソニアで通してるの。白老竜として象徴として統治をしなきゃなんだけど、そればっかりじゃ流石に1000年以上もきちーのよ。こうして時折、身分を変えて街に繰り出すの」
 「それが本当の姿なん?」

 赤い竜の問いに少女――ソニアは首を振る。

 「ううん。これはイリア。空っぽのイリアに自分の意識をコピーして使ってる。パソコンに例えるならフロッピーにデーターコピーして、そのフロッピーを出先で使う感じかな?」
 「フロッピーなんて誰も使ってないだろうにJK」
 「現役JKに失礼な。ただし、私の体感年齢アラウンドサウザンド」

 そりゃ負け犬キクさんもびっくりな負けドラゴンだ。
 屈託なく笑うソニアに俺は眉を潜める。

 「イリアってのは、あのイリアなのか?」
 「多分、同じイリアだと思う。導線用のNPCでしょ?彼――もう、『名前』を無くして『魔王』になっちゃったんだっけ?彼が連れてた『アターシャ』や『シアン・ブルー』もイリア。まだ見てないけど、君達が連れてきたのもイリアでしょう?」
 「それとお前が同じだってのか?」
 「そもそも、イリアってものの属性についてお話しなくちゃならないと思うの」

 揺れる竜車の中、ソニアは俺達にイリアについて話す。

 「ニ・ヴァルースにおける人間と明らかに一線を画した存在であるイリアはより世界の管理権限に近い存在、というのが一般的な認識なんだけど、根本的にはより容量の多い入れ物っていうのが正しい。通常の人間がフロッピーならイリアはコンパクトディスクとか外付けハードディスクとか?そのっくらいに容量がでかいし別物なの。君達の体もおそらくイリアベースだとは思う」
 「俺達の体がイリア?」
 「そ。彼から聞いたんだけど、私もそうだしニ・ヴァルースではレベルやスキルレベルの概念が適用されるでしょ?それはひとえに世界概念に適応できる種概念じゃないといけない。合算できるベクターラインじゃないと世界法則は適用できないって訳なんだなこれが」

 また、訳のわからない単語を使い出す。

 「意味がわからん」
 「普通、岩を殴り壊すには経験値を貯めるんじゃなくて筋トレが必要で常識。だけど、ニ・ヴァルースのゲーム法則じゃ敵を血祭りにあげて経験値を貯めるのが必要。ゲームルールに適用するにはゲームの体じゃないと無理って話。イリアってのはゲームの体の中ではNPCじゃなくてプレイヤーキャラクター用にチューニングされた特別仕様のガンダムって奴だね。わお。ガンダムなんて単語久しぶりに出てきたよ。キラ様萌え」
 「残念だな。俺は種死は認めない派の人間なんだ。戦争が起きる前にkwsk」
 「まあ、私たちを全部データに仮定するならプレイヤーキャラクター用のデータがイリアっていう箱になるの。その箱に意識というデーターをコピーして走らせてるのが私たち。まあ、認識を定義してしまうとセルフイメージもそっちに引っ張られるからどうしても私もこうして子供っぽくなっちゃう訳なんだけど」

 そういいながら袖からカラフルな包み紙に包まれた飴をだして口に放る。
 勧められるが俺達は断り、俺はマテリアライズしたジュースの瓶の蓋を開ける。
 蓋を開けたジュースの瓶を赤い竜が奪い、それをソニアが奪った。

 「問題は箱の属性がどの属性なのか。イリアとレジアンのそれは似ているようで全く違う。確かに適用されるルールは同じものなんだけど、出発点が人間意識を変換したものと人間意識をコピーしたものだから……ナニコレ!コーラやんっ!」
 「再現度高いだろ。つまり、あれか?イリアってのは特別製NPCってことでいいのか?」

 感動するソニアに俺は得意げにもう一本の蓋を開ける。

 「特別製も特別製ね。人間一人分くらいの意識を詰め込むことができる器だからね。だから世界の方で色んな属性をつけることもできる。デスルーラのできる不死属性なんかはその最たる例だね。普通のNPCは破壊されたら再現不能だけど、イリアはそもそもデータ自体が世界に記録されているから破壊される前の状態で復旧できる。まあ、色々便利だから使い勝手はいいのよね」

 やがて竜車は都――レザナグラドの街中に到着する。
 竜車広場に止めると憲兵っぽい兵士がやってきてソニアを見るなり頭を下げて竜車を引いていく。
 俺達は奇異の視線を向けられるがソニアはそれに構わず近くの店に入る。

 「ここの店、クレープを再現させたの。現実世界じゃあんまり美味しい物食べる機会に恵まれなかったからね。憧れがあんのよね」

 やがて運ばれてきたクレープはどう見てもクレープでは無かった。
 謎の甘味の乗ったお好み焼きでとても美味しいとは言えない。
 赤い竜も俺の方を何度もチラ見してこれがクレープかと目で訴えている。

 「これ、クレープじゃねえだろ。喫茶マウンテンの新メニューじゃねえのか?」
 「喫茶マウンテン?何ソレ」

 喫茶マウンテンは奴の世界には無いのだろうか。

 「……ま、私が今使っている体もイリアよ。15年くらい前にもイリアが手に入りそうだったから手に入れようとしたんだけど、まあ、失敗しちゃったわ。このイリアはこのグラスフォレスト用にデチューンしてスペックを落としこんだ代わりに耐久性とNPCの認識性にカスタム加えたものだからね」

 おそらく、シルフィリスがイリアになった時の話だろう。
 イリア自体には不死属性のNPCとして以外の使い道もあるということか。

 「なんだそりゃ。イリアを弄ることができんのかよ」
 「このグラスフォレストに居る限り、世界権限は私にある。モンスターによるレベリングをしなくても一定人数は上位職NPCを作れるのはそういう理由。ゲオとかね?とはいえ、NPCといっても生きてるからね。私は条件を解放してあげることができるだけ」
 「じゃあ俺達もここに居れば上位職解放できんの?」
 「無理無理無理カタツムリ。あんたたちのベースはイリアでもレジアン仕様だからそもそも干渉すらできない。世界権限で触れることができるのは特殊条件での同意か、意識が完全に無くなる死亡状態くらいね。その死亡条件も基本的にはニ・ヴァルースの物が適用されるから迂闊に高いところから飛び降りて死なないでね。ここの基本法則はニ・ヴァルースのコピーだから」

 生クリームお好み焼きを食べて満足そうなソニアがお茶を頼む。
 俺はとてもじゃないが、生暖かい生クリームなんざ喰えたもんじゃないからインベントリからラビラッツバーガーを出す。
 赤い竜が例の如く奪い取り、それをソニアが奪う。
 仕方無く人数分だし、フライドポテトも出せば店のドラゴニュートが迷惑そうな顔で俺達を見つめてくる。

 「デス・ペナルティーっていうの?適用されるわ。彼もそれで最後は記憶を全て無くしてしまってた。ニ・ヴァルースはコンセプトブレイク時のベクターラインを波形変換して定義を確立する。元々、存在しえない歪な世界だから電算概念を利用して成り立たせている。本来であれば私と彼、人一人をちょっと超える量があれば1万年くらいは持つ計算なんだけど、そもそもこの方法で世界構築するには核たる観測者が居ないから力量は霧散してしまうのよね」
 「あー……そろそろいいか?途中、よっくわからない話になるんだ。多分、大事な話なんだろうが今度よくわかる教材に纏めちゃくんねーか」
 「ごめんね。元々、私、設定的には厨二もいいところの研究者だから」

 ぺろりと舌を出す少女の様相から研究者とか想像はできない。

 「遺伝子配合で試験管で生まれた時から認識学習で潜在知識を極限まで刷り込んで作ったパンドラシリーズの17人目。ウェイバスの侵攻に会わせて開発されベクター理論の構築と実用を任された。さすお嬢と呼んでくれてもいいのよ?」

 ドヤ顔で語る少女はどこかの痛い奴みたいだ。
 隣の痛い奴もその痛さがわかるのだろうか、顔を潜めている。

 「そのウェイバスとかベクターとかってなんなん?」
 「ウェイバスってのは波状存在、ベクターってのは力量線保有者。まあ、特殊能力持ちのチート人間ってところかなぁ?このあたり説明すると非常に長くなるんだけど、ざっくり説明すると並行する世界それぞれ拠り所となるエネルギーが違うの。その性質が波か力量かの違い。ニ・ヴァルースはおそらく概念の認識の変則パターンが原動力だと思うんだけど、まあ、その力の根幹を使えばチートができるってお話で、そのチートができる人間をウェイバスだのベクターだの呼称してるのよ」
 「なんだそのSF設定。俺、そんなのあるなんて聞いてねーよ」
 「私は生まれながらに知ってたけど、私の友達だった人達はみんな知らなかったわ。でも説得力なくない?こうやってゲームの中に居れば」

 正直、話がぶっ飛びすぎてついていけない。

 「そりゃ誰でもなれるモンなのか?」
 「理論上はね。理論上は水の上を走れるから誰でも走れるわーって言うくらいに誰でもなれるわ。つっこまれる前に言うけど、まあ、まずムリって話。私の世界も滅ぶ前に布津宮シリーズからベクターが生まれたのを最後に滅んだし……うお!マックやん!この安っぽい味、なまらマックやん!うめぇ!」

 このどこか遠くのSF現実世界からやってきた少女はラビラッツバーガーにかぶりつきながら、ケチャップで頬を汚す。

 「まあ、簡単に私のことについて話すとそのベクターが生まれる世界を滅ぼされて偶然――多分、今じゃ必然に開かれたゲートに飲み込まれて私はニ・ヴァルースに来た。最初は異世界に飛ばされたと思ったけど、ルールはなんかRPGチックだしこれが噂の異世界転生かとも思ったよ。だけど、調べていくうちにどうにも違ってね。無双ゲーを楽しんでイケメンと失った青春を取り戻そうとしたけど、まあ、うん、紆余曲折を経てこんなところに居るよ」
 「いや、わかんねえよ」

 ざっくりしすぎた説明に突っ込む。
 どこか照れくさそうに頭を搔き、ソニアは応える。

 「彼からも聞いたんだけど、竜姫アニアの伝説に残るアニアが私なんだ。私もこれが世界管理権限を持つ『女神ファミル』の仕組んだ底意地の悪いストーリーだと知らなくてね。『オーロラの美姫』から逃げて作ったのがグラスフォレストなんだ。あれマジチートあってもムリだ。高速移動に超威力タックルとか詠唱も攻撃もできないし。私も現実に居たころゲームしてたからわかるけど、あれ絶対クリア前提に作られてないわ」

 ソニア――彼女が俺達がゲームのシナリオの中で知るアニアだとネタバレされる。
 だが、いくつもいくつもゲームをやっていればよっぽどメイン張ってくれないと伝承の中の誰それなんて覚えちゃいない。
 そんなことより、これが昔、オーロラの美姫に挑んで返り討ちにされていたということの方がゲーマーとしてくすぐられる。

 「クリアしたったけどな」

 オーロラの美姫は確かに最初はクリア不能と言われていた。
 だが、ジャストアタックでタックルを全部防げばそこに0.7秒の空白が生まれる。
 往復で1.4秒生まれれば初級魔法は多重詠唱できるし、即発射遠距離や銃の弾丸は着弾する。
 驚き、ハンバーガーを落とすソニアに告げる。

 「は?あれを?攻撃させてくれる暇なんてくれないじゃん!」
 「ジャストガードでヒットストップを産んでやればアタックチャンスが生まれる。連続ジャストガードを確実にできるという条件の下であればオーバードコンテンツとしては難しい部類じゃなくなる」
 「俺達で3番目だっけか?クリアしたの。竜魂はオーロラタンカーがあっちゃんと俺含めて6人居たからオーロラ回しするときはローテ組まされたもんだよね」
 「マジですかー!あれ倒すとかマジですかー!レベルカンストしててもムリだと思ったんですけどー!」
 「カンストとか当たり前やん。オーバードコンテンツ行くなら90以上は礼儀。90以下に人権ねえから。口開いてネガったらPKエリアにご招待だぜ」
 「うおぉぉ……これが噂のネトゲ廃人って奴か……ネットゲームなんて衰退してケータイのブラゲしか生き残っていない世界だったからアニメで見るVRMMOとか凄い憧れてたのに……」

 どうにも話していて定まらないこいつのポジションに違和感を持つ。

 「お前、厨二設定の研究者のクセにアニオタゲーオタなのな。普通、そんなのやる時間あんの?」
 「私たちの場合はもう既に生まれた時から知識を保有していてきっかけとなるトリガーがあれば知識をばびっと垂れ流すチート設定だからね。それに生まれは研究者人生だけど自分で選んだ訳じゃないし。漫画家かゲーム実況者になりたかったオタ女子高生のまま現実の人生終了しちゃったんよ?人生息抜きがないと多分人は死ぬ。あ、帰り本買っていっていい?続きが気になる恋愛小説があんのよさ。1000年生きてるともうね、口を半開きにして気がついたら30年くらい経っててこれあかんと思うようになるんよ。肉体という刺激を受ける媒体が無いと本当に意識しないとダメ人間になるわー。一度、グラスフォレストも滅びかけたしね!」

 気負いも無く喋る様子にそんなものなのかと思ってしまう。
 ゲームのキャラクターとしての『設定』としてはいささかムリがあるように思えるが、ソニアのリアクションを見る限り、嘘をついているようにも思えない。

 「つか、アニアだのソニアだのそれがお前の名前なのか?だとしたら、俺達ぁこのゲームのIRIAが口達者なNPCを用意してくるもんだと思わなくちゃならないんだが」
 「そんな訳ないじゃん!きちんと戸籍上は城緒依梨華って名前はあったよ!白老竜って名前だってラオシャンロン的に言えばパクラオロンでしょ?だけど、しらおいりゅう、なんて言いづらい名前にしてるのだって自分の名前を忘れないようにするためなんだから」
 「そういう設定だったんだ……」
 「あのね……『名前』ってのは大事なんだよ?ええと……」
 「ロクロータ……一志禄郎太だ」
 「俺は赤い竜だし?名前とか、ねーし?」

 竜ちゃんは頑なに名バレを拒む。

 「まだこっちに来て数ヶ月とかならいいけど、何年も居るようだったら気をつけてね。自分を定義する最小単元のタームが名前だから。イリアがNPC時代の名前を一度なくすのはそういう理由なんだから。『名前』という楔を抜くことで『世界』からの定義をあやふやにする必要があるの……別の世界の話をすればコンセプトランナーなんかその『名前』がある無しで生き死にかかってくるんだから。あ、私のことはソニアでいいよ?だけど、あのでっかい竜の時はそれ勘弁ね。それで通してるから」

 時折、話が脱線するのはこの少女のクセなのだろうか。
 こうして腹を割って話せる人間が他に居ないというのも少女を饒舌にしている理由になるんだろう。
 ここまでの状況を観察したままざっくりとまとめてみれば、城緒依梨華――ソニアは多分、白老竜としてこのグラスフォレストにおいて統治者というか権限的には神様に近いものがあるんだろうが、こうして変装して街に繰り出してるあたり相当俗っぽい印象を受ける。
 屈託無く笑う少女の顔はどこか現実に置いてきた妹を思い出させる。
 ゲームが好きだったところは兄妹一緒だったが、最後まで趣味は合わなかった。

 「まあ、伝説的には竜姫アニアはグラスフォレストにドラゴニュートとともにまつられて封印されたことになってんだろうけど、実際は違うんだよ?私たちはオーロラから逃げてきたのもそうなんだけど、そもそもそのオーロラけしかけてきたのが女神ファミルなんだから。最初は世界を創造した女神とかっていってたからイイ奴かと思ったけど実際はとてもとても」

 どっかりと椅子によりかかり、だらしなく背を逸らすと顔の前で手を振る。
 久しぶりに腹に一物を抱えないでしゃべれる相手ができて嬉しいのだろう。
 本来ならば簡単に明かされないネタバレを次々にしてくれる。

 「私が降りたのが今の時代だったら神話の時代になるのかな?私もそういう意味じゃあ神話の時代の神様的なポジな訳さ。まあ、レベルも確認できただけで93くらいまでは上がってたから。この世界、30までがパンピーで50以降が凄腕、70で英雄でしょ?80超えて90行くと神様って呼ばれるレベルになるじゃん。私も最初の頃は元の世界に帰りたくて一生懸命クエストをこなしたのよ。なんたってRPGじゃん?ゲームは好きだったし得意ジャンルだったからね。こう、サクサクってクリアして得意になってた訳さ」

 運ばれてきたジュースを乱暴に煽りながらソニアは続ける。

 「……最初はよいよいお後は怖いってね。みんなから褒められるし、頼りにもされる。気がつけば英雄扱いされて私も有頂天になってた。ドラゴニュートのみんなを救えるのは私しか居ないってね?守る物、そして、その責任を植え付ければ後は簡単。そこを徹底的に攻めればいい。私はドラゴニュートを守る……姫として、常に強敵と戦うことになった」
 「今一瞬、照れなかった?」
 「……そりゃ、うん。だって学校とかで根暗言われてたから、そりゃ、ね、姫プレイってのも少し憧れるじゃん?」

 素直に照れるソニアがストローでぷくぷくとジュースを吹かす。

 「……戦えるうちはよかった。だけど、次第に私じゃどうにもならない敵をつきつけられるようになった。その頃からだね、女神ファミルが私の前に現れたのは」

 ソニアはどこか顔を潜めて苦々しく語る。

 「私は逃げたくても、もう、逃げられない。ドラゴニュートの一族の命を背負っちゃった……背負わされたから。怖いと思ったよ。あんたたちの言うIRIAってのは人間とおんなじなんだ。人間とおんなじに共感して、悲しんで、泣き叫ぶんだ。人という人間が痛みを覚えるなら、この世界に来ても痛みという感覚が残っているなら、彼らに共感しない訳が無いんだ。私にしか彼らを救ってあげることはできなかった。だから女神ファミルが提示した『チート』を飲むことにした」

 ソニアの手の中にあるグラスが回される。
 水滴の張り付いたグラスの中、赤く透明な液体の中、氷が静かに溶けていく。

 「私は力を手に入れたよ。それこそ、ゲームがゲームにならなくなるくらいの力。幸いだったのは私に知識があったこと。もっと、もっと深い領域で世界についての造詣が深かったこと。力を手に入れることでほんの少しだけこの世界の造形を理解することができた」

 からり、と音を立てて、解けた氷がジュースの中に沈む。

 「理解した時、私の存在というものはゲームの中に組み込まれていた。ゲーム自体が操作できるようになっていたと言っていい。私は私という存在を切り売りして力を手に入れていたに過ぎない。だから、私は自分の力を逆に利用して……グラスフォレストを構築した」

 そうして赤い透明の液体を飲み干し、空になったグラスをテーブルの上に置いた。
 反射した紺色の空に浮かぶ太陽が水滴の中に静かに浮かび、乾いた音を立てる。

 「もし、挑むなら……心して挑む必要がある」

 赤い竜は肩をすくめ、俺を見る。
 俺も肩をすくめて返し、ため息をついた。
 今更、語るまでもない。

 ――覚悟ならとうの昔に済ませたさ。

 ◆◇◆◇◆

 ドラゴニック温泉なるものが存在するらしい。
 そう聞けばいてもたってもいられなくなるのが俺の仕様。
 マッハで皆を説き伏せ、半ば連行するようにつれて行く。
 ドラゴニックというからどんな温泉かと思えば赤いポーションのような湯の張られた温泉で現実には無い温泉だった。
 腰痛と美容にいいというが本当なのだろうか?
 だが、温泉で一番大事なのは効能ではなくそこでくつろげるかどうかだ。
 その点で言えば現実世界を知るソニアが作らせただけあって、露天風呂をメインとして作られた温泉は俺の嗜好を満足させてくれるものだった。
 久しぶりに大きい風呂に浸かって震える息を吐き出す。
 自分でも知らず知らずのうちに疲れを溜め込んでいたのだろう。
 どっと体の芯から沸き上がる疲れに一気に眠くなる。

 「これは……効くわ」

 岩で組まれた露天風呂に背中を預け、紺色の空を見上げる。
 巨大な月がじりじりと空を進む景色は見ていて風情がある。
 隣で同じように大きく息を吐く赤い竜が大きく湯を被った。
 顔をしごき、それでも意識を覚醒させると呟いた。

 「そうだねぇ……さすがに効くねぇ」

 俺達は意味もなく呟き、露天風呂の中でくつろぐ。

 「――マスター!そっちのお風呂どうですかー!」
 「やかましいわ!黙って風呂入れ!覗くなよ!」
 「の、覗いてないですひょ!」

 ニ・ヴァルースと違い男湯と女湯が別れているグラスフォレストの温泉に感動だ。
 ソニアの案内で神殿から離れた場所に設けられた温泉を教えてもらった。
 俺の強引な勧めもあって今日は温泉に浸かって一泊することにした。
 イリア達を交えて白老竜に会うのは明日以降ということになる。
 ミシミシいう背筋に俺は堪えきれず息を吐き出すと赤い竜に苦笑される。

 「……流石にじいさんみたいだぬ」
 「ロクロータって名前が既にしわしわネームだからぬ。今っさらだ」
 「本当……今さらだぬ」

 赤い竜はどこか疲れた苦笑をして俺と同じように大きなため息をついた。
 ソニアとの対話を終え、俺達はこのゲームの底を触った手応えを感じた。

 「……想像以上に胸くそだぬ」
 「そうだな……」

 俺はぼんやりとする頭の中で、静かにくすぶる熱を腹の底に溜め込み俺は空を見上げる。
 掬い上げた湯を頭からかぶり、湯の中に沈む。
 息ができなくなる苦しさがやがて心地良さに変わり、全身を包む倦怠感から首を出して息を吸う。
 飲んだ湯が喉をゆるやかに焼き、湯気の中で景色が曇る。

 「さて……どうしたモンかねえ」
 「竜魂の軍師様でもお手上げかい?」
 「ゲームなら得意なんだよ。ゲームならな」
 「ふむ」
 「電源切ればゲームは終わる。そこでその世界のお話は終了。あとは自分の現実に帰ってどうぞだ」

 俺の呟きに赤い竜が苦笑する。

 「……俺がネットゲームが好きな理由はそこに相手の顔を見なくて済むからだ。相手の顔を見なければ相手は本性を出すし、また、こっちも本性でもって叩きに行ける。面ァ付き合わせて殺し合いができるなら、それはもう人間じゃあない。少なくとも平和な日本で生きてる人間じゃあない」
 「だろうね……」
 「わかってんだろ?お前だって」

 赤い竜は湯を弄びながら、どこか、吐き出すように言った。

 「わかってるよ……だけど、わかってるから言うけど、俺も、あっちゃんもそれができる人間だ」

 どこまでも逃がさない言葉に俺は大きくため息をつく。

 「……ひでえな」

 本当に酷いと思う。
 だが、赤い竜は当たり前のように返す。

 「ひでえよ?」

 俺はどこか飄々とした赤い竜に苦笑を返す。
 俺はもう一度湯を頭から被ると大きく息を吐く。
 だいぶ、のぼせ上がってしまったようだ。
 俺は湯から上がると、赤い竜に背中を強く叩かれた。
 響く痛みに俺は仕返しとばかりに赤い竜の背中を叩く。

 ――互いに苦笑を躱し、タオルを肩にかける。

 大きくため息を吐き出し、俺達は休憩を終える。

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