挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

202/255

暇になるとハリーポッターのMPが増える。

 ドラゴニュート達に案内されて歩き、俺達は集落に辿り着く。
 石作りの丸い建物の傍らでゆったりとした服を着た女達が洗濯やら炊事をしている。
 先頭を歩くドラゴニュートが手を挙げると皆が迎えた。

 「客人だ!剣を合わせた!俺よっか強ぇぇ!しかも、いい奴だ!ちっくしょー!」

 ジョージが悔しそうに叫ぶと興味深く家の中から覗いていた子供達が一斉に出てくる。
 子供達が俺に背負われたジョージの周りに集まり、やいのやいのと騒ぎはじめる。

 「レジアンって奴か!これがレジアン!?」
 「尻尾も角も無いー」
 「バッカ、人間だろ?でもいい奴なのかゲオ」
 「ゲオより強いとか信じられねー」

 俺や赤い竜をぺたぺたと触る子供達がやがてチュートリアのドリルを引っ張りはじめる。
 苦笑してそれぞれの親が引き取るとゲオルグはゆっくりと俺の背中から降りて地面に座る。
 叩かれるだけ叩かれて、自然回復すら追いつかなくなった。
 一日一杯はこんな調子だろう。

 「これ以上は小っ恥ずかしいからやめてくれ。これでも一応、グラスフォレストのドラゴニュートの将兵なんだ」

 その強がりは立場故の強がりだ。
 それを踏みにじる程の悪意はゲオルグに俺も持っちゃいない。
 俺は集落を見渡し、どこか大きくため息をつく。
 古びた石作りの家を寄せ集め、細々と生きるドラゴニュート達の町の乾いた風がどこか寂しい。
 家と家の間に張った洗濯物のロープからはためく洗濯物や、煙突から零れる煙、水瓶を抱えて歩くドラゴニュート達のどこか必死に耐えて生きる雰囲気がどこか息苦しい。

 「ここは楽園でもはずれの方の集落さ……いいところ、とは言えんのかね?俺ぁエレニアと違って外に出たこたぁねえからここしか知らねえ。だけど、ここには外を見てきたドラゴニュートも少なくはねえ。ここが良いか悪いかは知らねえけど、それでも俺達が生まれて生きてる場所だ」

 俺の視線を察してかゲオルグがため息交じりに告げた。
 振り向けばゲオルグはどこかつまらなさそうに言った。

 「俺もやがて外の世界を知らなければならない。おそらく、みんなが言うように未来の無い場所なんだろう。だけど、こんな場所でもずっと親父やお袋は生きてきたんだ。悪い場所だとは思いたくねえよ」

 どこか思うところでもあるのだろう。
 どこか寂しい集落を見渡しながら続けるゲオルグの言葉に俺達は耳を傾ける。

 「詳しくは白老竜の爺ぃの方が知ってるし、俺はよく知らん。ずっと昔、竜姫アニアがネルベスカ皇帝を逃がし、オーロラの美姫の怒りを買い落ち延びてきたのがこのグラスフォレストだって話だ。竜姫アニアを慕って集まったドラゴニュートが集落を作ったってのがここの始まりだっていう。俺はそんな大昔のことは知らないし、知りようが無い。俺はアバンザとコカコラの息子でしかない。そのアンバザとコカコラですらそんな昔のことは知りようがねえ。もう、誰も気にしちゃいねえし娯楽のねえガキの寝物語に聞くくらいの話だ」

 ゲオルグはベルトのポシェットからパイプを出すと火をつけて口に銜える。
 吐き出した紫煙がくゆり、その匂いに俺達は眉を潜める。

 「700年前に外の世界は大いに荒れたっていう。だが、ここはずっと時が止まったかのようになんも動きはねえ。本当に世界から忘れ去られた竜人の楽園だよ。白老竜のじいさんにしろエレニアにしろ……なんだって今更外の世界なんかに興味を持ったんだかね」

 ゲオルグの呟きに引っかかりを感じる。

 「まるで外の世界に興味なんざ無いって感じだな」
 「そりゃそうさ?『汝、満ち足りるを覚えよ』って知ってるか?特に俺達竜の眷属ってのは欲が強いんだろ?だから今ある物で満足しちまえば心穏やかにいれるってことさ。これ、俺達の格言で『樽の中の哲学』って言うんだぜ?」
 「どっかで聞いたことあんぞそれ」
 「白老竜の爺ぃがはじめて言った言葉のはずなんだがな」

 なんつったかな。俺もその格言は現実世界で聞いたことがあんだ。
 あっちゃんから聞いた物の考え方でもある。
 ただ、それが有名な哲学者の言葉で樽の中の小さな世界で満足を覚えれば心が乱されることが無いという意味で哲学の歴史の最初の頃のお話だってことくらいしか覚えていない。
 俺が一生懸命その話を思い出そうとしている中、赤い竜が本題を切り出す。

 「なあジョージ?グラスフォレストに魔物なんていんの?俺達、グラスフォレストの魔物を倒さなきゃならないらしいんよ」
 「魔物?おいおい、冗談だろ?700年前だってここは平和だったんだ。世界から隔絶されたこんな場所に魔王の生み出す魔物が来られる訳がねえだろ?そんなもん沸いたらみんな死んじまうよ。俺達の敵は目下のところ、外の世界に出るのに邪魔してくれるネルベスカ帝国の騎士どもだ。俺が生まれた頃から戦争ムードでここもこんな有様だ」

 どこか活気の無い村を見渡し、ゲオルグは大きくため息をつく。
 ドラゴニュートの兵がゲオルグに駆け寄り2、3言葉を交わす。
 様子から出発する準備が整ったようだ。

 「白老竜の居る神殿まではまだ遠い。もう少しここで準備したら向かう。ここは俺達の楽園の端っこの方だからな。都に行けばそれなりに客人を驚かすこともできんだろうさ」

 どこからか引っ張ってきた竜車に招かれる。
 竜車の窓から集落を見れば子供達がゲオルグに手を振ってやがる。
 屈託なく笑って返し、手を振るゲオルグはやがて発進する竜車から身を乗り出していつまでも手を振る。
 どこか子供じみた仕草に俺達は苦笑を禁じ得ないがゲオルグは気にした風もない。

 「ゲオルグ、客人の前だぞ」
 「仕方ねえだろ。子供達の前だ」

 たしなめられるが肩をすくめるゲオルグに合わせて俺も赤い竜も肩をすくめる。
 このあたりの奇妙な連帯感というのをチュートリア達は理解できずにいる。
 ゲオルグ自体、子供が好きなのだろう。
 強いとわかれば挑戦したり、負けても素直に悔しがったり、負けた相手に遺恨無く教えを請うたりする様を見れば理解できる。
 ゲオルグ自体、子供なのだろう。
 その素直な子供らしさというのは年を経たからとて変わるものではない。
 偏屈さが隠さなければそれは十分な美徳となりえる。
 それは俺も赤い竜も心の根っこに深く根ざしており、互いにそれを認めているからこそ心の置けない関係でいられる。

 「そうさな、6時間もすりゃ都に着く。窮屈だろうがゆっくりしてくれよ」

 ごとごとと揺れる竜車の椅子にどっかりと座り込み、屈託なく笑うゲオルグにチュートリアが訪ねる。

 「都って……おっきな街があるんですか?」
 「ああ。そりゃあ、な。外から来た連中からしたら不思議なのかもしれないが、ここにも歴史がある。竜姫アニアが落ち延びて開かれた楽園は1000年続き、白老竜の庇護の元、生き残ったドラゴニュートは発展を遂げた。外の世界から見たらそれほどでもないらしいが、それでもでっかいぜ?俺ははじめてみたときびびったね。こんなに人が居るもんかよってな?」

 がらがらと音を立てて進む竜車の窓から外を眺めてみると渓谷や草原に小さな集落がいくつか点在している。
 飛竜が空を飛び、籠を運んでいる。
 その背にドラゴニュートが跨がり、風を読み高く羽ばたく。
 吹き上がる風に乗って高度を得た飛竜が滑空していく。
 ぼんやりとしていく意識の中、俺は気になったことを聞いてみる。

 「エレニアが使っていたあのスケート戦艦は?」
 「知ってんのか?白老竜のじいさんが設計した戦艦さ」
 「あんなもん作れるだけの資材があるってことは街もあるんだろう。だが、問題はそこじゃない。あれをどうやって作って、そして、どうやって氷結湖に運んだかだ」
 「戦女神のレジアンって奴ぁやっぱりそういうこと気になるのか?17年前の侵攻で竜姫ユグドラに迎撃されたがその時の教訓でな。戦争はやっぱり足回りが大事なんだと。敵の背後を突く奇襲ルートの開発と、兵員を運び、打撃を与える高速戦艦。それがあのスケート戦艦。順に『コマネチ』『ハニュユヅル』『アサダマオー』。その他にも一隻、建造中のがある」

 俺は苦笑しちまう。
 ガキの頃、どっかで聞いたことのある名前だ。

 「随分安直なネーミングセンスだな。ゲームだからってダメだろうに。しっかし、ドラゴニュートの兵隊さんがそんなことベラベラと喋ってもいいのか?敵になるかもしんねえだろうに」
 「敵になるんだったらそんなこと言わねえだろ?普通。それに、敵になったところで真正面から叩き潰す。強いってことはそういうこった」

 小気味いいゲオルグの返事に赤い竜が苦笑する。

 「でもさぁ?ドラゴニュートはこうして自分たちの楽園に引きこもっているんだろう?別に外に出る必要なんて無いんじゃないのか?」

 赤い竜の質問に俺も同意する。

 「そうだな。樽の中の哲学で満足できるんだったら楽園から出る必要はねえよな。出る必要がなければ戦艦なんざ作る必要もねえだろうに」

 ゲオルグは少し難しい顔をして鼻を鳴らす。

 「そうなんだよな。別に人間相手に戦争なんかしなくてもいい。戦争をすりゃ人死にが出る。俺だって死にたくねえし、他の連中だって死にたくもねえ。必要がなければ引っ込んでいりゃいいだけの話だ。だけど、そうも言ってられない事情ができた」

 ゲオルグはどこか声を潜めて続ける。

 「魔王のイリアが現れた。俺達の楽園は次第に崩れ、生活できる場所が狭まってきている。遠い将来、俺達は楽園を失い流浪の民となる。だからこそ、俺達はニ・ヴァルースに出てもう一度探さなきゃいけないのさ。新たなる竜の楽園――ドラゴンズヘヴンをな」

 俺は眉を潜める。

 「生活できる場所が狭まるってどういうことだ?」
 「楽園の崩落――と呼ばれている。見ての通り、俺達の住んでいる場所は空に浮かんでいる大地だ。その端の部分が崩落して空の底に落ちてゆく。20年前からその進行は早くなっている。もう20年もすれば大地は半分になるだろう。そうすれば俺達は生活が立ちゆかなくなっていく。その前に俺達はここを出ていかなくちゃならないのさ」

 シルフィリスが尋ねる。

 「それと魔王のイリアはどう関わり合いがある?」
 「さあな。魔王が復活した時から、この現象は始まった。魔王のイリアが現れ、白老竜に告げたんだ。詳しくは白老竜のじいさんしか知らない。魔王のイリアは魔王が復活する前にも現れては俺達によくしてくれた。だが、『魔王のイリア』として名乗りをあげたのは魔王が復活してから、らしい。観測がどーとか、定義がどうとかそのあたりの理屈はよくわからん」

 今ひとつ、何を言っているのか理解に苦しむ。
 だが、何か大事なことを言っているようにも思える。
 ゲオルグと話して理解したことは一つ。

 「――白老竜ってのに会ってみる必要があるな」
 「そだね。あーるぴーじーって奴を楽しもうじゃないか」

 赤い竜はどこか楽しそうに柔らかい椅子に深く沈み込むと大きく欠伸をした。
 楽観的な赤い竜の態度に俺はどこか諦めを覚える。

 「つい先月までは砂漠に居たかと思えば、雪国を越えてトンネル超えたら竜の楽園でしたってか……いつになったら帰れんだろうかね」
 「そだね。帰ったらオフ会でもしようよあっちゃん。集合はメイド喫茶な」
 「二次会でネットカフェか?一狩りいこうぜって言えたら幸せだが、しばらく間に合ってますだな」

 ひらひらと手を振り、俺に寝ることを伝えるとそのまま寝息を立て始める。
 そんな俺達の事情なんざ知らないゲオルグは子供のようにせがむ。

 「でよ?早速でわりいんだが、なんで俺の攻撃の悉くがあんたたちにわかるんだ?そこんとこ詳しく教えてくれよ」

 俺はマノアやシルフィリスを一瞥すると、これも機会かと講釈してやることにする。

 「ま、暇だし、いいだろう。近接同士のぶつかり合いには大きく分けて二種類ある。真正面からぶつかり合うやり方と、一撃を叩き込むやり方。前者は秒間のパリングやガード性能を――」

◆◇◆◇◆

 群青色の空の色は変わることなく、空に月が昇る。
 空の色が変わることがなくてもそれで夜になったとドラゴニュート達は理解するのだろう。
 竜車の中では流石に緊張して疲れたのかチュートリアとマノアが身を寄せ合って眠っている。
 その隣でクラウディアも船を漕ぎ、シルフィリスだけが静かに構えていた。
 赤い竜は目も覚めたのか逆にせわしなく、ずっと竜車に乗っていることの方が逆に耐えられなくなっていそうだ。
 退屈に耐えられず竜車の御者台に座らせてもらう。
 賢そうなドラゴンがちらちらと振り返るが速度を落とすことはしない。
 どこまでも広がる地平を見渡し、吹きつける風が額を叩き吹き抜けていく。
 澄んだ大気を胸一杯に吸うと、清々しさとともに寂しさがこみ上げる。
 アスファルトと排ガスの匂いがどこか懐かしく、どこまでも幻想的な景色に押しつぶされそうになる。
 胸の奥に寂寥を押し込め、空に浮かぶ月を眺め、現実とは違い、空の半分を埋めそうな巨大な月に苦笑する。
 何百年も忘れ去られた場所の空気は人の思いを捨てきったのかどこまでも澄み切っていた。
 濃い緑の丈の低い芝なんざ、現実にゃ生えることは無い。
 生き物である草木だって必死なんだ。
 必死に伸びて死に散らかして、人が気持ちよくなんざ考えてくれないのが現実の草っぱらって奴だった。
 どこか、誰かの為に生やされている草が揺れる草原を後にして竜車は走る。
 幾度の車輪が刻めば道ができるのだろうか。
 細く、長い道を走り、どこまでも続く草原を駆ける。
 感傷を長々とやれる程、精神的に病んでもいないので竜車の中に戻れば退屈を殺すために遊びはじめる。

 「竜ちゃん、ハリーポッターと賢者の石シリーズやろうぜ?」
 「いいぜ。2作目はハリーポッターとラーの鏡」
 「3作目はハリーポッターとキメラの翼」
 「ハリーポッターと世界樹の滴」
 「ハリーポッターと魔法のビキニ」
 「それあり?ラノベのお色気回みたくならね?ハリーポッターと聖なるナイフ」
 「元々ラノベみたいなモンでしょ?ありあり。ハリーポッターと不思議な木の実」

 これはハリーポッターにドラクエシリーズのアイテム名を被せてタイトルを作りなんとなくハリーポッターになりそうなタイトルを上げ連ねて『ソレはムリだろ』ってタイトルになったら負けなゲームだ。
 ハリーポッターとあぶない水着でゲームは即終了し、俺と赤い竜はドラゴン古今東西をして時間を潰す。
 青白い月が地平の向こうから現れ、3度目の休憩を終えてしばらくしたところで光が見えた。
 段丘に作られた石作りの街に光が見える。
 煌々と輝く青白い光に彩られた街にどこか神々しさを覚え、感嘆の息を零す。

 「あれが俺達の都――レザナグラドだ」

 竜人達で賑わう都市の光がどこか眩しく、目を細める。
 アテネの宮殿のようなレリーフが彫られた石材の建物が建ち並び、人々の活気を荘厳さの中に包み込んでいる。
 青白く輝く鉱石の光が街を照らし上げ、神秘的な様相を見せる。
 紺色の空の中に浮かぶ青白い魔法の光に浮かび上がる竜の都に感嘆の息を零す。
 吸い込まれるように巨大な門から都の中へ入ると竜車は石畳で舗装された通りを進む。
 ぎっしりと詰め込まれた石作りの建物からドラゴニュートが首を出し、喧々と騒々しく何かを吠えている。
 煩雑な人通りのかしましさを窓の中で聞き、生きている手触りを感じる。
 どこか懐かしく、それでいて虚しい感傷を胸の中に押し込み俺はチュートリアを小突く。
 寝ぼけ眼を擦り、目覚めていく緊張感の無い女達に辟易しながらも俺はゲオルグを見る。
 ゲオルグは自慢するように俺達を見渡し、俺は苦笑する。
 赤い竜がいつまでも飽きずに外を眺め、鼻を鳴らす。

 「白老竜の神殿で休んでもらう。まあ、そんな待たせずに白老竜の爺と面会することになるだろうさ。時間があれば街をぶらぶらできっかもな」

 長く竜車に揺られ正直、どこかをぶらぶらするより柔らかな布団で横になりたいという気持ちの方が強い。
 レザナグラドの段丘の丘の中央、谷となっている中心に伸びる大通りを抜けるとそれは姿を表す。
 小さな神殿だった。
 朽ちた柱に周囲を囲まれ、どこか寂れた神殿はくたびれていた。
 だが、その神殿を中心に青白い光が空へゆるやかに上昇している。
 光に吸い寄せられるように竜車は神殿へ進み、俺達はそこで降ろされる。
 澄んだ静かな空気にどこかささくれた気持ちも沈んでゆく。
 そんな感覚がどこか余計で不機嫌になっていく。
 神殿の中は街と同じ青白い光で満たされ、ゆったりとした法衣のようなものを着たドラゴニュート達が居た。
 一室に案内され、そこで待てと言われる。
 俺達はようやくくつろげるとわかると誰もが鎧を外し用意されたソファにどっかりと座り込む。
 シルフィリスがインベントリから茶器を出し、茶を入れはじめ、ほどなく寛ぐ体制が整ってしまう。

 「長かったぬ……スマホ持ってくればよかった」
 「バッテリーもたねえよ。充電器も欲しいわ」

 シルフィリスの茶を啜りながら赤い竜の悪態に皮肉で返す。
ヴォーパルタブレットにアプリ追加機能が欲しいわ。延々とコンボイの謎を赤い竜に遊ばせてあげたい。

 「竜の楽園……グラスフォレスト、ですか。私も……ドラゴニュートに捧げられればここに来ることになっていたのだろうか……」
 「グラスフォレストに魔物なんて居るんでしょーか」

 何も考えず俺に聞いてくるチュートリアだが、俺だってここについちゃ何も知らない。

 「さあぬ。俺もこのエリアについちゃ何も知らない。お前達に下されたクエストで魔物を倒せってなってるんなら、居るんだろう?」
 「でも、ゲオルグさんは魔物なんて居ないって言ってるし、ここに来るまでに一度も魔物と出会ったりしなかったですよ?」
 「じゃあ、お前達が受けたクエストってのが不具合で達成不能になるじゃねえか。そうしたら晴れて俺達の冒険はここで終わり。どうする?適当に就職してチラ見せ主人公として異世界商売モノでもはじめるか?一緒に仲良く商売しよーぜチューちゃん」
 「喧嘩でも売るツモリですか。やめてください」

 チューちゃんにしてはキレのいい返しで俺は苦笑する。
 与えられた選択肢というのは多いように見えて少ない。

 ――クエストを攻略していけば、やがて、終わると思っていたんだ。

 「無い訳が無いんだ。そういう風にできている。ゲームってのは、そういうモンだ」
 「だぬ」

 赤い竜が同意し、俺達はくつろぐ。
 俺達はこの時まで『ゲームを攻略していけばいい』程度にしか、このエルドラドゲートを思っていなかった。
 それに対し、全力を出していけばいいと思っていた。
 他の一切は余計なことだと思っていた。
 クリア条件すら達成してしまえば、余計なファクターというのは要らない。
 RTAのように突き詰めて余計な要素を排除していかなくちゃ『惑う』と思ったからだ。
 だが、俺達はグラスフォレストで徹底的にこの『ゲーム』の悪意という奴を知ることになる。
 寛いでいる俺達のところにゲオルグが顔を出す。

 「白老竜のじいさんが準備ができたから来てくれってよ」

 その様子に帝国のようにいきなりとって喰われるようなことはないだろう。
 立ち上がり俺と赤い竜に続こうとするイリア達にゲオルグが告げる。

 「ああ、イリアや嬢ちゃんは来んなだって。レジアンだけと話たいらしい」
 「それはどういう意味だ?」

 シルフィリスが怪訝そうに眉を潜める。
 それもそうだろう。

 「……我が主を愚弄する訳ではないが、この世界については少々疎い。興味が無いと言ってもいい。なれば私が同席した方がいいと思うのだが」
 「そうですね。私のマスターも割と常識無いからいきなりその白老竜のおじいちゃんが赤い血で染まって『しらおいりゅうをあかくそめたったー☆』とかやりそうだから私も一応一緒に行きたいんですが……」

 なにそれ俺達全く信用されてないやん。

 「まぁなぁ……だが、白老竜はレジアンだけと会うみたいだ。まあ、じじいもデカいからそう簡単にゃあ刃傷沙汰にゃならないだろう」

 ゲオルグがそう保証してくれるがイリア達は俺達を怪訝な目で見つめてくる。
 俺と赤い竜は満面の笑みで肩を組む。

 「「まっかせろ」」
 「この清々しい笑みが最高に心配」

 よく理解して下さっている模様。
 だが、俺達と面会しないと言ってるのは向こう様でその責任は君達にも、そして、僕達にも無いのですよ。
 無礼千万血祭り上等、命の軽さが男の価値。
 俺と赤い竜はゲオルグに連れられるまま神殿の奥へと案内される。
 しっかりとしたRPGに俺達はどこか浮かれて鼻歌まででてきてやがる。

 「さて、竜ちゃんどう見る?」
 「定番じゃん。東の山に魔物が現れたから倒してくれ」
 「報酬はかつて魔王を倒した伝説の剣で」
 「だけどその剣青レア分解まったなしでしたー」
 「伝説なのにオレンジレアにも劣るレア。ストーリークエストだから仕方ないね」

 長くネットゲームをやっていればストーリーというものがどういう立場なのか理解できる。
 コンテンツの最先端を走らなくちゃ最高レアは出てこない。
 ストーリーはあくまで世界に入るためのオマケ程度。
 長い長い石廊を抜けて、俺達は神殿の奥に広がる広間に通された。

 ◆◇◆◇◆

 ――青白く光を上げるクリスタルを守護するように白く巨大な竜が頭を垂れていた。

 赤い竜といつか、論争になったことがある。
 竜は必ずしも鱗を持つものではない。
 流れるような毛で全身を覆った巨大な犬のような様相をした竜だった。
 背中に広がる鳥のような柔らかい翼を一度広げると、静かに降ろす。
 巻き上がった風が光を散らし、ゆっくりと舞う光がふわふわと空に浮く。
 幻想的な光の中で目を細めた竜が俺達を見下ろす。

 ――ゲオルグ、大義であった。下がるがよい。

 頭の中に響き渡る声に俺達はたじろぐ。
 だが、ゲオルグは小さく頭を下げるとそのまま背を向けて立ち去る。
 残された俺達は顔を見合わせてそのまま竜へと歩み寄る。
 白く柔らかい体毛を引きずり、身を乗り出した竜が目を細める。
 どこか優しい眼差しに俺達が戸惑っていると竜は告げた。

 ――もっと、もっと、よく、顔を見せてくれ……

 泣いているのだろうか?
 潤んだ瞳が細められ、吐き出した息が震えている。
 竜は俺達の顔を覗き込んだ後、空を見上げ、小さく、軽くいなないた。
 そして、再び俺達を見下ろし、告げる。

 「異世界へようこそ日本人。ここはアメリカより遠く、月よりも遠いニ・ヴァルースのどこでも無い場所だ。どうだい?RPGでは懐かしのフレーズだろう」

 俺達はこの地で知ることになる。
 これが、最低最悪のクソゲーだってことを。

 ◆◇◆◇◆

チュートリアのにっき

 なにもしらないほうが、しあわせだった。
 わたしはあのおとこのかくごも、せかいのあくいも、いりあのいみもしらなかった。
 ただ、せかいがへいわに、だれもがやさしくあれればいいとねがってた。

 あのおとこのいうとおりだった。
 どんなあくらつなことをしても、むねがいたまなかった。
 どんなひどうをきいても、ほんとうにとめようとはおもわなかった。

 ただ、じぶんがそのほこさきにあるだけで。

わたしは、ほんとうのいみで、ますたーを、にくいと、ころしたいとおもってしまった。

cont_access.php?citi_cont_id=649025998&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ