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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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この話のオチを考えて見よう 初級編

 ドッジボール。
 バレーボール等で用いる長方形のコートを2分し、チームを二つにわけて対峙し原則、自分の陣地から出ることを禁ずる。
 自分の陣地の中と相手の陣地の外に人を配置し、それぞれ自分の陣地の人員を『内野』そして相手の陣地の外の人を『外野』と称する。
 一般的には外野もしくは内野の人間がボールを投擲し相手の内野にぶつけ、ぶつけられた内野は外野に回る、若しくはそのまま退場する。
 様々な派生ルールはあれども、基本ルールはボールをぶつけ内野の人数を減らし、最終的に相手の内野をゼロにするか制限時間が過ぎた際に内野の人数に勝っていた方が勝ち。

 ――単純明快に『相手にボールをぶつける』というシンプルなゲーム性が楽しい球技。

 「単純明快――しかし、これほどまでに、シンプルに人の持つ暴力性を競技として競わせるに相応しく――血の滾るスポーツはあるまい」

 ただ一つ、ボールが在れば良い。
 あとはそこに己の尊厳と誇り、そして、魂を込めてやればよい。
 それがドッジボールだ。

 「――ドワーフはドッジボールにて最強、それに異論は無い」

 多くのドワーフの氏族達が認めていた。

 ――ドワーフはドッジボールにおいて最強。

 「何故ドッジボールでという疑問が無いの?まず」

 ツッコミ不在であれば俺が突っ込まねばなるまい。
 何でもやらされる竜魂の最不遇のロクロータさんは今日も全力運転中。

 「ちなチューちゃんドッジボールって知ってる?」
 「バカにしてんですか?田舎者でも知ってますよ。球ぶつけるスポーツですよね?こっそり石ぶつけて男の子に大怪我させたことありますよ私。専用のコートは都に行かないとないですけど、みんなで遊びましたし」

 俺でもやったことねえ反則だよソレ。
 そう、ファミルラには何故か意味不明な球技が組み込まれていたりする。
 サッカーやら野球やらやろうと思えばできる。
 だが、別にサッカーをやりたければウィイレでもやればいいし野球をやりたければパワプロでもしていればいい。
 迷走したコンテンツの水増しで追加された球技としてのドッジボール。

 ――ドワーフはドッジボールにて最強。

 それだけはスレ内でも共通の認識だった。

 「あの、なんでドワーフはドッジボールで最強なんですか?」
 「――逆に、有利な状況しかないからさ」

 そう、有利な状況しかない。

 「ファミルラにおけるドッジボールのルールは攻撃手段をボールの投擲のみにしぼったPvPだ。攻撃速度の低さは攻撃手段を限定することで相殺できる。そして、現実のルールとは違い、『相手のHPをゼロにする』ことではじめて内野を殺すことができる。そして元より体の小ささ――ヒットボックスの小ささと頑丈さを兼ね備え、ドワーフはドッジボールにおいては最強、そう言われたんだ」

 そう、本当にドッジボールでは最強だったんだ。

 「なら、ドワーフは生きてていいんですね!?」

 チュートリアが目を輝かせる。

 「いや、うん、これがドッジボールをするゲームだったらそれでいいんだろうけど、それってぶっちゃけどうなのってことだよな?別にドッジボールやりたきゃくにお君でもバトルドッジボールでもあるわけだろ?本職じゃねえ連中が遊びで作ったゲームなんざ穴だらけでゲームになんねえってのが常だし例に漏れずこのドッジボールも糞ゲーだぞ」

 だが、目の前のドワーフの司祭――ロウリィはトゲ付きの鉄球を掲げ、どこか得意げに微笑む。

 「――しからばこの扉を開きたくば我々をこのドッジボールで下す必要がある。もとよりこの扉はそういう封印が仕掛けられている。よしんば我々を皆殺しにして進んだとしてもこの封印を解かぬ限り、エルドラドゲートは輝かぬ」
 「いや、うん、マジで糞ゲーじゃねえかこれ。何が何でもドッジボールしないとダメじゃねーか」

 俺としては、もう、これ以上、ドワーフさんを虐めたくないのですよ。
 だが、ドワーフさん達は俺達を逃してくれない模様。

 「さあ、陣地に立つのじゃ。ここから先、進みたくば我々を倒してからにせよ!」

 魔法の光で展開されたコートに立ち並ぶドワーフ達。
 彼らはその尊厳をかけて、俺達に最強最大の手札『ドッジボール』を挑んできた。
 それが仕様だというのなら――
 それが尊厳を賭けた戦いだというのなら。

 ――本当は血が滾るはずなんだけどなぁ。

 「いいだろう、受けて立とう!」

 空気に飲まれ、颯爽とドラグロードコートを脱ぎ去り赤い竜が応じる。
 コートの中央に生まれた光の球形型のコンソールを叩き、参戦表明する。
 コンソールの上に表示されたウィンドウに赤い竜の名前が浮かび上がる。

 「……やるの?本当に?」

 俺は一応、確認してあげる。
 ロウリィはどこか余裕な表情を見せ俺を嘲る。

 「臆したか?数多の戦場を駆け抜けた戦女神のレジアンでも闘球には臆すると見える」
 「昔はそんな表記だったかもしんないけど、今、それ暴力的だーとかっていう理由で避球って表現するらしいぞ」
 「ならば勝負も避けるか?一向に構わぬがな。我らが最強であることに変わりはない」

 ここまでいくと俺は少し、悲しくなる。
 どこか戸惑いを見せるシルフィリスやチュートリア達に俺は指示を出す。

 「あー、じゃあ、マノアとチュートリア、クラウが外野。内野は俺と竜ちゃんとシルフィリスでいいや。ルールは時間無制限でいいのか?」
 「制限時間は20分じゃ――ほぅ?外野を厚くする戦術か。最終的に内野にいかに人数が立っているかで勝負が決まる。こちらの外野は儂が行おう。知っていると思うが、内野が外野の誰かに倒された場合のみ、交代で外野が内野に入ることができる」

 ロウリィが外野――俺達の背後に立ち、ほくそ笑む。
 ドワーフの戦士がロウリィから放られた鉄球を受け取り、コンソールの中にセットする。
 制限時間20分、ねぇ。

 「……マスター、外野が何人とか内野が何人とかこれも戦術的に意味のあることなんでしょうか?」

 外野に入ったチュートリアが尋ねてくる。

 「最終的に内野が何人残っているかで勝負が決まる。6on6マッチで戦うなら5人内野の1外野若しくは3人内野の3外野、あるいは4人内野の2人外野のいずれかしか選択できない。初期外野は3人までだからな。外野がラスキルを取らないと内野に入れないというルールはドッジボールのそのままだから外野を先に厚くしておいて内野を増やせるというメリットがあるようなないようなどうでもいいよなってところだな」
 「しかし、戦女神のレジアン。外野を厚くする戦術というのはどういうメリットがあるのだ?」
 「本当は外野には妨害スキルに特化した連中を置くんだよ。ドッジボールっつってもファンタジードッジボールだ。相手にダメージを与える手段こそボールを使った投擲しかないからな。ま、おいおい敵さんが教えてくれる」

 俺はこきこきと首を鳴らし、面倒臭そうに腕を回す。
 隣では赤い竜がどこか楽しそうにくるっくる回っていた。

 「さて、その余裕……どこまで持つかのう?」

 ロウリィがほくそ笑む。 
 コンソールに全員の名前が表示されゲームレディの表示になる。

 「我々は誇りと尊厳を賭ける。貴様達は……何を賭ける」
 「いいだろう。俺達は誇りと尊厳、そして、命を賭ける!竜魂に敗北は無し!俺達は強い!安西先生、バスケがしたいですっ!ヒーロー見参!」

 赤い竜ちゃんノリノリやな。
 だけど、どれもこれもドッジボール関係無いのな。

 「その心意気や良しッ!なれば我々も命を賭けようッ!いざ、尋常に――勝負じゃ!」

 合成音声が試合開始を告げる

 「――セットレディ?ゴゥ――ファイッ!」

ブザー音が鳴り響き、鉄球ボールが高く跳ね上がる。
 試合開始のジャンプボールだ。

 ――先制攻撃権を得る為のジャンプボール。

 コートの中央で高く放り上げられたボールをジャンプキャッチした方が先に攻撃権を得られる。
 俺がダッシュで助走をつけようとした矢先、ロウリィが印を切る。

 「閉ざされし氷の呪縛――ブリザードッ!」

 コート全体に広がった中級氷魔法が足下から噴き上がり、俺達の足を絡め取る。
 絡め取るどころか凍り付いた足首から膝が移動を完全に封じ、その場に縫い付けられる。

 「ああ!酷い!これ、反則じゃないですかっ!」

 チュートリアが非難の声を上げる。

 「くっ!これは――これでは試合にならないっ!」

 シルフィリスがもがき、氷を割ろうとするがなかなかに割れない。
 時間経過と多重入力――いわゆるレバガチャ――で解除される『氷結』効果。
 移動のみを完全に封じてしまう氷中級魔法『ブリザード』はダメージ意外に付される状態異常もあいまって氷魔法を使う上で最も使い勝手のいい魔法である。

 ――ドッジボールの『ルール』上、俺達にダメージこそないがその『状態異常』は確実にこびり付く。

 「使えるものを徹底して使う。これが戦術じゃ!これが――ドワーフ闘球術『氷結呪縛陣』」

 すっげえ中二臭い。

 「っく、なんてことだ!」

 竜ちゃんがどこか追い詰められた表情で悔しがる。
 わかっててやってるあたり、こいつも相当、根性悪いよな。
 しょうがねえ、俺も乗ってやるか。

 「くそ!ビショップを外野に配置したのはこのためかっ!なら、俺だって銃を持って相手の腕を狙えばアームブレイクの効果を狙えるはずっ!」

 俺が銃を出してボールを持った内野のドワーフに狙いを定めるが俺が発砲するより早く、トゲ鉄球が放られる。
 鋭いスナップで投げつけられた鉄球が俺の胸板に突き刺さる。
 鈍い衝撃と、激しい痛みで俺の足元の氷が破壊され、ごろごろとコートの上を転がる。

 「――ぐぁっ!」

 めっきりと減ったHPに多少びびりはしたものの想定の範囲内。
 コートの端まで吹き飛ばされた俺を見下ろしロウリィがほくそ笑む。

 「――内野が武器を持ち、手を塞げば『キャッチ』ができまい?それを見逃す程、我らは甘くはない。言ったであろう。ドワーフはドッジボールにて最強。それは揺るがん」

 俺は悔しそうな表情を作り、よろよろと起き上がる。
 足元の氷を壊してようやく自由に動けるようになった赤い竜がボールを拾う。
 そして、俺の方を見る。
 だが、俺はそこで左右に首を振る。

 ――もうちょっと、もうちょっとだけ、こいつら使って遊ぼうぜ?

 俺の意図を察した赤い竜が悔しそうな表情を作って頷く。

 「まだ!まだ試合は始まったばかりだ!俺達竜魂は負けない!こんな卑怯な方法に屈したりはしなぁいっ!」

 やめろ赤い竜、思いっきし噴き出すところだったじゃないか。
 赤い竜がダッシュで助走をつけ、思いっきり投擲する。
 勢いよく放たれたトゲ鉄球が風を切り、唸りながら一直線に飛ぶ。
 だが、ドワーフ達はステップで氷の上を滑るとその弾丸を躱す。

 「わ、わ!わぁ!」

 それは外野のマノアのところまで飛ぶが、あまりの勢いにマノアが避けきれず顎に直撃する。

 「――あ痛ぁッス……」

 マノアの顎を叩いてバウンドしたボールが外野のエンドラインの『見えない壁』に当たってバウンドする。
 バウンドしたボールが転がり、ドワーフ達のコートに入るとドワーフ達はニヤニヤと笑う。

 「痛ぇッス……うわぁ……これ、外野でもダメージ入るんスね……」

 そう、外野にもダメージが入る。
 ボールを拾ったドワーフ達が俺達をニヤニヤ笑いながら見つめている。
 そして、俺達の背後では既にロウリィが詠唱を終えて待機していた。

 「――さぁ、数多の戦場を納めたレジアン達よ。我らが700年研ぎ澄ましてきた戦術の前にひれ伏すがいい」

 助走をつけて投擲する準備に入ったドワーフに横から銃弾が襲う。

 ――クラウディアだ。

 「――こっちだって妨害くらい!」

 流石に頭の良いイリアだ。
 『アームショット』で腕を狙い、ボールを落とさせると次にボールを撃ってこっちのコートに押し戻そうとする。
 だが、ボールがコートを移動する前に別のドワーフがボールを拾い上げ、それをそのまま――外野のクラウディアに投げつけた。

 「キャァ――!」

 鈍い音が響き、クラウディアが吹き飛ばされる。
 だが、外野用のコートはもともと奥行きが狭く、1メートルも無いことから見えない壁に阻まれてその場に倒れる。
 バウンドしたボールが再びドワーフのコートの中に戻り、別のドワーフが駆け込み拾う。
 そして、そのままコート中央のドワーフにパスし、受け取ったドワーフがダッシュで加速する。
 そのままコートのセンターラインから跳躍し、俺達のコートに飛び込み――

 「――ブリザードッ!」

 ロウリィの『ブリザード』に合わせてシュート。
 上空から鋭角に放られた弾丸はキャッチのタイミングが非常にシビアになる。
 狙われたのは赤い竜。
 ブリザードの吹雪の中、移動を封じられ、さらに視界までふさがれればキャッチすることは限り無く難しくなる。
 ガギィン!っと重々しい音が響く。
 外野コートまで跳躍したドワーフが自陣の内野コートまで押し出されるように戻っていく。
 俺もちょっと後であの謎引力がどうなってんのか試してみよう。
 相手のコートにああやって跳躍すると無理矢理自分のコートに戻されるんだよな。

 ――ブリザードの吹雪が納まる。

 吹雪の向こう、ころころと転がるトゲ鉄球の前に緋色に輝く盾を構えた赤い竜が居た。

 「――見えなくても!防ぐことはできるっ!」
 「おおっ!流石、我がマスター!」

 シルフィリスが驚いてくれるがそれ驚く程のことだろうか?
 ダメージを与えるのが投擲に絞られるならそれ以外の行動は全てオールオッケーという話になる。
 そうなれば盾を構えてガードしてダメージを減らすことだってできる。
 ブリザードは移動こそ制限するもののアクションを制限するまでのスペックは無い。
 なら、盾でガードしたって良い訳である。

 「……果たして、その手段を取れるのが貴様達だけだと思わないことだな?」

 内野コートに立つドワーフ達の全てが大盾を構える。
 完全に防御を固めたドワーフ達にこいつらここまでやんのかよと俺も流石に呆れてしまう。
 だが、せっかくだからまともに相手にしてあげよう。

 「――ッく!ならッ――」

 俺はボールを外野に向けて大きく放る。
 受け取ったマノアが何のことかわからず首を左右に振る。

 「真正面からならガードはできる!だが、背後からならッ!」
 「な、なるほどっス!」

 マノアが意図を理解したようだ。
 だが、ドワーフ達は即座にマノアの方向を向くと盾を構える。
 がっちりと構えられた防御陣形にマノアがたじろぐ。

 「し、師匠!こっち向いたッス!どうすればいいッスか!」
 「パスを回せっ!外野3人はそのための布陣!」

 本当は違うんだけどね。

 「わ、わかったッス!――イリア!」
 「え?わ、わぁ!」

 パスを渡されたチュートリアの方向へ即座にステップで向きを変えて一糸乱れぬ防御陣形を作る。
 キャッチができなくともガードでダメージを軽減させれば撃ち合いになってもダメージレースで勝てる。

 ――これがドワーフの必勝法なのだろう。

 確かに、それ強いんだよね。

 「く、クラウ!パス!」
 「ロクロータさん!」
 「マノア!」

 パスをぽんぽんと飛ばしドワーフ達を翻弄する。
 しかし、翻弄しているように見えてしっかりとドワーフ達はボールの方向を向く。

 「フッフッフ、無駄じゃ。ボールは常に一つ、お主達がパス回しをいくらしたところで我々が旋回し防御態勢を取る方が早い。これぞドワーフ闘球術『鉄壁陣』」

 あ、ちょっと格好いい。
 ボールを抱えたチュートリアがどうしようか迷っている。
 パスを出しても向きを変えられる。
 かといってここから投げても大してダメージを与えられない。

 「うう、どうしよう……」

 チュートリアがボールを抱えたまま悩んでいると警告ブザーが鳴った。

 ――ビビー!

 機械的なシステムコールが鳴り響く。

 「――ロングホールド!ペナルティ!」

 チュートリアの手の中のボールが爆発する。

 「ギャン!」

 見えない壁に押し戻されてその場でぐるぐると転がるチュートリアは滑稽だった。
 あーあ、スカートの中のパンツあんなに見せびらかして恥ずかしい。

 「うぅ~……いったいなにが」

 目を回しながらふらふらと起き上がるチュートリアには何が起こったかわかっていないらしい。
 ロウリィが得意げに解説する。

 「――長らく自陣にボールを留め置く行為は人数有利を作った後、パスを回して時間切れを狙う戦術を防ぐため、ペナルティポイントが課される。ペナルティポイントは人数一人分のポイントだ。さあ、レジアン。これで我々は3対7となった。ダブルスコア以上のポイントをどう覆す?」

 どう覆すっつってもな。
 赤い竜がどこか追い詰められた表情を作る。

 「っく!相手は鉄壁の陣形を敷いている!それに加えて単発火力に優れ、耐久力にも優れるドワーフ!ダメージレースをしちゃ勝てない!どうすればいいんだ!」
 「このまま負けるしか無いんじゃね?」
 「――俺達は竜魂だ!こんな異世界まで来て、世界の果てまで来た理由を思い出すんだ!ここまで来るのに死んだキクさんのことを思い出すんだ!」

 いや、多分、キクさんヴォルヴでテンガにおうどん作ってるで多分。

 「キクさんだけじゃない。あっちゃんも死んだ」

 俺も死んだのか。

 「それにキクさんも」
 「キクさん二度死んでんじゃねーか」
 「あっちゃんに何度も殺されたキクさんのためにも、俺達は奪われた封印されしつぶみかんを手に入れなくちゃいけないんだ」

 なんだそれ。俺、そんなクエストはじめて知ったぞ。

 「……今こそ、この時のために温存してきた必殺シュート――『ダイナミックデストロイ引きこもり七年殺し』をやるぞ!」
 「いやw知らねーよそんな必殺技」
 「いきなりの実戦で使えと言われて困るのもわかってる。だけど、せっかくここまで残れたんだ!ここで負ければ何もなくなっちまう!俺を――信じろw」

 竜ちゃん、俺も笑いそうだけどお前、半分笑うのはダメだろう。
 俺は笑いそうになるのを堪えてコキコキと首を鳴らす。

 「じゃあ――時間ねーけど練習すっかな『ダイナミックデストロイ引きこもり七年殺し』」

 俺と赤い竜が笑ったことで皆の雰囲気が変わる。
 エースっていうのはこういうもんだ。
 戦場だろうとドッジボールだって同じ。

 ――エースが笑えば、戦場がてっくら返る。

 銃をホルスターに納め、ばんばんと手を打ち鳴らす。
 隣に立つ赤い竜と互いに拳を打ち付け、思いっきり四股を踏む。

 「「シャァラッ――ワッショイ!」」

 静かに放った熱気がコートを伝わりドワーフ達を圧倒する。
 俺は指をくいくいと曲げて挑発する。

 「こいよクズ種族。ドッジボールは竜魂こそ最強。見せてやんよ」
 「――ほざけが小童ぁ!」

 ドワーフの親父がはじめて口を開く。
 コートの氷にヒビが入るほどの力強い踏み込みで加速する。
 その勢いのまま投擲モーションに入り――ラインを踏み越える。

 ――『スライドショット』

 慣性を利用しての投擲はコートを超え、発射地点を対象により近づけキャッチを難しくする。
 至近で放たれた弾丸が凶悪な唸りを上げて接近する。
 だが――

 「キャッチくらい余裕だッ――フンッ!」

 突きだした両腕ががっちりと鉄球を受け止める。
 唸る弾丸のトゲが俺の両腕をがりがりと削り血が吹き出る。
 だが――ダメージは無い。
 衝撃で俺の体がコートの外まで押し出される。
 外野コートの限界まで押し出され、俺の腕からボールが零れる。

 ――相手コートにボールを持ったまま移動するとそこで自動でボールを落とすのだ。

 「――威勢はいいがまだこのフィールドの恐ろしさを理解しておらぬようじゃの!」

 背後に控えていたロウリィが俺の落とした鉄球を拾う。
 俺がコートに押し返される直後、ロウリィがボールを投擲する。

 ――ギリギリで反転し、受け止める。

 だが、同じように衝撃で俺は自軍のコートをどこまでも吹き飛ばされる。
 いや――滑っている。

 「この氷のコートではキャッチなど無意味じゃ!キャッチしたとて我らの弾丸の威力を殺しきれる摩擦など無い!我らのコートまで押し込んでくれるっ!」

 徹底的な打ち合いを求める『氷上コート』という訳か。
 ドワーフの内野コートまで押し出され、俺はボールを落とし即座に自分のコートにステップで戻る。
 残ろうとしても不思議な引力で引っ張られるあたり、ゲームっぽい。
 だが、ドワーフ達は即座にボールへ駆け込み、拾い上げ即座に俺に向けて投げつける。
 即座にキャッチしてやるが、コートをずるずると滑り外野まで押し出される。

 「どこまで持つかな!戦女神のレジアンとやら!」

 再び落とした鉄球を投げつけられ、俺は外野と内野をずるずると弾丸と一緒に往復する。
 その様を見ていたチュートリアが慌てる。

 「あ、あれじゃあ何もできない!ま、マスタァ!」
 「黙ってろよ!こっからが面白いんだ!」

 どんどんとロウリィやドワーフ達の投げる弾丸のペースが速くなる。
 だがしかし、コートの外であってもキャッチは可能なのだ。
 どこまでも早くなるペースに合わせてキャッチしてやる。
 グリーヴの踵がぎゃりぎゃりと氷のコートをひっかき火花を散らす。
 轟音を立てて放られる鉄球、そして、何度も何度も鉄球に振り回されコートを往復する俺。
 次第に、そう、次第にドワーフどもも理解する。

 「なぜじゃ――なぜ、一度も当たらないのじゃ!」

 ロウリィが狼狽し、声が震える。
 そこへ赤い竜がどこまでも楽しそうに笑って告げてやる。

 「――知らないようだな。教えてやろう。こんなこともあろうかと俺達はドッジ仙人の厳しい特訓を受けてきたのだ」
 「ど、ドッジ仙人!?」
 「世界征服を企む闇のドッジボール組織、『ダークブレイザー』の闇のショットに対抗するため、ドッジ仙人のもとで光のショット『ダイナミックデストロイ七年殺し』をマスターするために、俺とあっちゃんは厳しい修行をしてきたんだ!」

 俺はステップで避けてやると弾丸を俺の後ろに構えて居た赤い竜に誘導してやる。

 「ばっちこ――ワッショイぃ!」

 がっちりと弾丸を受け止めた赤い竜が滑走する。
 外野コートまで押し出され、そして、同じようにロウリィから即座に投げかけられ、相手のコートまで押し出される。
 そして、俺と同じように外野コートと内野コートを往復する。

 「この程度のキャッチ!1億キャッチ地獄トレーニングに比べれば」
 「い、一億だと!」

 実際1億もやってねーだろお前。
 お前2万超えるあたりで『飽きた』とか言って狩りに逃げた癖しやがって。
 何度もコートを往復する赤い竜が楽しそうにぎゅるぎゅる滑ってやがる。
 まあ、実際楽しいんだけどね!

 「だが!まだ試合時間は半分以上あるとはいえこのまま我々が攻め続ければ人数差で圧勝じゃ!」

 確かに。
 攻撃こそ全く受けていないものの、ボールは常に相手が保有し続けアドバンテージは向こうにある。
 このまま試合時間が経過しきればドワーフ達が勝つのは間違いないだろう。

 ――このまま進めばな?

 俺はシルフィリスを手招きして耳打ちしてやる。
 シルフィリスはすぐに理解し、俺と一緒にタイミングを計りはじめる。

 「氷上コートである限り!儂らの攻撃は終わることは無い!このまま敗北を刻むが良いレジアン!」
 「――俺は仲間を信じる!」

 赤い竜がそう叫んだのをタイミングとして俺とシルフィリスがコートの中央に飛び出す。

 ――内野コートから外野コートへ滑走する赤い竜の進路上で待ち構える。

 「せーのっ!」

 俺がタイミングを取りやすいように声を上げ、シルフィリスが腕を伸ばす。
 俺も同時に腕を伸ばし、赤い竜の腰を『ホールド』する。

 「――奥義!キングギドラキャッチング!」

 やかましいわこのボケ。
 滑走する赤い竜を俺とシルフィリスが後ろから『ホールド』して『ダッシュ』で押し返す。
 一人で止められなければ、三人で止める。
 優秀な物理エンジンを積んでいるなら、その優秀な物理エンジンを働かせてやればいい。
 一人なら相手のコートを割る威力の弾丸でも三人分を押し込む程では無い。
 外野コートに至るギリギリのところで止まった赤い竜が手の中でトゲ鉄球を弄びながらにやりと笑う。

 「……さて、勝ったな」
 「ああ」

 俺は頷いてやる。
 俺と赤い竜は軽くパスを繰り返し、トゲ鉄球でダムダムとバスケットのドリブルをしてやるとゆらりとロウリィを振り返る。

 「か、勝ったじゃと?何を言っておる。まだ我らは誰一人落ちておらん。ペナルティポイントも含めればダブルスコアじゃ!ここから負けるなど……」

 俺達の放つプレッシャーに狼狽えるロウリィ。
 俺は親切に教えてやる。

 「――ドワーフはドッジボールにて最強、それには異論は無い。だが、ドッジボールはな?最初にボール持った時点で勝敗が決まるスポーツ。つまり、ジャンプボール有利な――エルフこそがドッジボール最強」

 そう、ドッジボールという『これまでのルール』において、ボールを持った瞬間、勝敗が決まるゲームといっても過言では無い。
 赤い竜がどこか得意げに笑う。

 「いまから見せてやろう。俺がッ!俺達がッ!!ドッジ仙人のもとで修行した成果!これが――『ダイナミックデストロイ引きこもり7年殺し』」

さて皆さん、ここでクイズです。
 赤い竜さんと俺がドッジ仙人の元で特訓してきた『ダイナミックデストロイ引きこもり七年殺し』とはどんな必殺技でしょーか?

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