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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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LBRが補給不可能なのが納得いかず、竜魂1号さんは星になる。

 「結局、シルフィリスは空でハッ散らかして来たと」
 「その表現には語弊がある。私は竜神のイリアとして竜に化身し、空を飛び、花を摘みに行った。それだけだ」

 雪の中に埋められたシルフィリスさんの慌てようといったら笑えた笑えた。
 最終的には変身して空を飛んでどこかでいたしてきたらしい。
 ギスギスした空気の中、俺達はそれぞれが板を抱えて山下りの準備に入っていた。

 「まあうちのチューちゃんにボッコにされて空飛んで逃げたわけですしおすし」

 ハイテク魔法ソリ『竜魂1号』で朝寝を十分に堪能した赤い竜ちゃんの前に座り、ふてくされたシルフィリスと気まずそうなチュートリアを見るだけで腹の虫が治まる。
 どこか侮蔑するような目で二人を見下すマノアといい女の子って怖いね。
 そんなマノアと俺、クラウディアは両足にそれぞれ板を履いている。
 スノーボードはもともと赤い竜用に作ったものだが、赤い竜が使わないとなればインベントリに納めるだけだ。
 細く、身長ほどの長さのある板をそれぞれの足に。
 スノーボードとくれば簡単にわかるスキー板だ。

 「おまえら本当にスキーできんの?」
 「登りもできるッス。ネルベスカの冒険者はこのカッソが基本なんスけどね」

 マノアは軽くエッジを立ててチェックしている。

 「たしなみとして」

 クラウディアも軽くスケーティングをして感触を確かめているようだ。
 本来ならばシルフィリスもできるのだろうがご主人がソリに居ることから一緒にソリに乗ってもらっている。
 うちのダメトリアも荷物としてソリに詰め込んでいる。

 「――戦女神のレジアン、そろそろ出発しましょう。先ほど、帝国の追っ手が山を登っているのを目撃しました。私も目撃されています。もうすぐにでも追撃が来るでしょう」

 俺は他の二人より短いスキー板でぺたぺたとペンギンのように歩きながら斜面を見る。
 残った端材で作り上げた小さなスキーだが、スノーボードよっかこっちの方が俺としちゃ性に合っている。

 「しかし、師匠のそれ、何スか?子供用のカッソにしか見えませんね」
 「私もそのように短いのははじめて見ます……それに、先の方が少し太い気も」
 「まあぬ。これはこれで面白いんだが――山を攻めるなら本当は長い方がいいに決まってる」

 俺は苦笑しながら特段応えず、指示を出す。

 「マノア、先導。クラウ、セカンド。シルフィリス、その後についてけ。俺が殿に入る」
 「「了解」」

 上級者ほど後からというスキー場の鉄則。
 斜面としては急な斜面を臆することなく滑走しはじめるマノアに続いてクラウディアもおそるおそる――とはいっても40度以上の傾斜のある斜面なのだが――続く。
 その二人に続いてストーブ積載型のぬくいソリ『竜魂1号』がブレーキをかけながらゆるゆると続く。
 その様子を最後尾から眺めながら俺も続く。

 「わはー!」

 チュートリアは初めての雪山なのだろう。
 徐々に皆がスピードを上げる中、快哉を上げる。
 叩きつける風の冷たさが頬を刺し、カーブの度に跳ねる雪がきらめく。
 体重が無くなる一瞬の緊張感を制御し、右足から左足へ体重を一気に移し地面をねじる。
 殺しきれないスピードが板の下で爆ぜて雪の飛沫を切り、滑走する。
 谷側に鉛直に板を向けると、ビョゥ、と一際大きな風が耳元で唸り、静かにうなり声を高鳴らせていく。

 ――膝にかかる負担が現実よっか少ない。

 板の長さが短くなればなるほど膝にかかる負担は大きくなるはずなのだが流石ゲーム世界。
 そこらあたりがファジーで助かる。
 その癖、物理演算は現実寄りだからカーブしても全然スピードが落ちやしねえ。

 「気んもちいぃー!」

 屈託なくはしゃぐチュートリアに苦笑する。
 隊形を指示したが竜ちゃんが調子に乗って先導の二人を追い越した。

 「おっさきー!」

 チュートリアがクラウディアとマノアを煽り、マノアが応える。

 「こんのぉ!」

 冒険者として鍛えた技術なのだろうか。
 ざっざ、と雪を蹴飛ばし加速すると直滑降で追いすがる。
 こうなれば俺もどこかうずうずしてしまう。
 傾斜ももうすぐ60度を超えてほぼ崖のような斜面になる。
 流石にソリもマノアも減速する中、俺は横を通りすぎる。

 「な!師匠!」
 「マスター!」

 減速率の低い俺のスキーだといくらカーブしても速度は落ちない。
 その変わり最高速の伸びも少ない代物だが、この斜面であればそんな心配も無駄だ。

 ――目の前に隆起した雪山が迫る。

 隆起した雪山の間を細かくターンを刻んで抜ける。
 それでも落ちない速度で、流石に雪山に乗り上げて跳ね上がる形になる。
 だが、雪山を蹴り、空中でムーンサルトを決めてから着地すると盛大に斜面をエッジで切りつける。
 斜面にほぼ寝そべるくらいまでに体を寝かせ、地面を叩いてタイミングを取るとターンを決める。
 追いついた連中に得意げに笑ってやる。

 「ざっとこんなもんよ。どうよ?」
 「かっこいー!」
 「すげーッスね」
 「ファンスキーだと取り回しがいいから――なっ!」

 ところどころ、突き立った岩が覗いており、その岩と岩の間を切り抜いて奔る。
 その間に再び俺は最後列に戻るとしばらくの時間、久しぶりのスキーを楽しんだ。
 しばらく滑走し、平坦な岩場を見つけるとそこでマノアとクラウディアが手を振っていた。
 休憩の地点として選択したのだろう。
 そのあたりの判断は冒険者として下積みの長かったマノアの判断は流石というところだろう。
 どこか興奮冷めやらぬチュートリアが目を輝かせている。

 「すんごい楽しかったー!すごー!マスター!私もこれやりたい!」
 「練習も無く出来るモンでもないし、他にてめえらしばいたスノーボードくらいしか余りがねえよ。木材ももう残りがねえし……」
 「ねえねえマスター!私もやってみたい!……やってみたい?」
 「しょうがねえなぁ」

 俺はこのとき、どうしてスノーボードを残しておかなかったと後ほど後悔することはまだ知らなかった。
 余ったスノーボードをチュートリアに履かせてよたよたと滑らせてみるがやはり、うまくはいかない。

 「へぶし!」

 なだらかな斜面で転がり、顔を真っ白に染め上げるチュートリアに皆が苦笑する。
 マノアが丁寧に教える中、シルフィリスがおさんどんをし俺はインベントリ内の弾丸のチェックをする。
 加工できる脂と火炎石を合成して手榴弾に変えておき、いつでも大型モブの襲来に備えられるようにする。
 予備の資材はチュートリアがインベントリに納めているはずだから使い切ってしまっても問題は無いだろう。

 ――スキーで滑走中にモンスターに襲われるということも珍しくは無い。

 絶対氷壁に近く、現状のエンドコンテンツに近いエリアに居ることから想定される敵も一癖も二癖もある奴ばかりになってくる。
 スキーは本来そんな敵から強引に逃げる手段だったが、それに追従してくるモンスターも少なくはない。
 準備を終えてみればチュートリアがいっぱしにスノーボードを乗りこなしていた。

 「すげーぬ」

 竜ちゃんがどこか感心したように眺めている。
 俺もそれには舌を巻いた。

 「普通、一日一杯すっ転んで手首と腰痛めないと乗れないモンなんだがな。流石ゲームクオリティ」

 現実だと覚えるまでが大変なスキルもゲームだとあっちゅう間。
 どこか羨ましそうにしている赤い竜だが最早、資材は使い切っている。
 制作に回せる木材なんざ無いからソリで我慢してもらうしかない。
 そう思っていたんだが。

 「あっちゃぁぁん~」

 赤い竜が何かを言いたそうにこっちを見ている。
 俺は面倒臭くなりそうだから顔を逸らすのだが赤い竜は回り込んできやがる。

 「あっちゃぁぁぁぁぁん?」
 「なんだよ木材ねえっつったろ。作ろうにも作れねえよ」
 「木材ぃ?あるよ」

 赤い竜がのそのそと『竜魂1号』に歩み寄るとドラグウェンデルで叩き割る。

 「ほら、できた!」
 「ああっ!バッカてめ!なんてことをっ!ブレーキングシステムとか操舵の他にサスペンション、お前の要望で暖房まで積んだ俺の傑作を!栄えある『竜魂1号』さんを!」
 「風防くらいつけろよ。LBR補給不可の死作1号機と一緒やん。竜魂1号採用見送り!竜魂試作1号機は星になったのだ」

 貴重な浮遊石まで使った『竜魂1号』は俺の木工スキルを駆使したものだというのに。

 「それだと芸が無くね?こう、雪山を安全かつスタイリッシュに楽しむのに」
 「俺もスタイリッシュしたい~」

 俺は散らばった木材を拾い集めてわがままドラゴンの要望に応えるビジョンを想像してみるがいかんせん長い木材の量が足りてない。

 「あー、ダメだこりゃ。長さが足んねえ。もともと加工済みの木材板しかねえからなぁ」
 「あっちゃんのスキー短いやん」
 「これある程度滑れる人間じゃないと本当に面白く無いんだぞ」
 「そうなの?でもゲームだからいんじゃね?」
 「バッカやろう。ゲームだから徹底的に楽しむんじゃねえか。どうすんだよもー、シルフィリスの分も作るとなると使える木材が……ん?」

 俺はそこで、一つミラクルな着想を得る。
 これなら赤い竜も大満足だろう。

 「おい、シルフィリス、お前スキー出来るっつったな?」
 「ネルベスカの民であれば基本、誰でも出来ると思います。荷運びの子供ですらカッソは使いますからね」
 「よし、お前、変身してみろ」
 「はぁ?わかりましたが……」

 シルフィリスが淡い光を発して変身する。
 俺はざっくりと測量して足回りを見てやるとうきうきしながらチェーンソードで雪に突き立てた木材を加工してやる。
 竜魂デカールをペイントしてやり、加工された鉄材をエッジとしてつけてやり固定具を作る。
 最期に竜脂をワックス代わりに塗りつけて完成だ。

 「これ履いてみろよシルフィリス」
 「はあ?んしょ……ちょっとこの体だと短いし太くも感じますね」
 「まあ足幅でかいからな。それで軽くスケーティングしてみろよ」

 するするーと雪の上を滑っていくシルフィリスがくるりとターンしようとして回転してしまう。
 竜脂のワックスが効き過ぎている感じがする。

 「慣れればいけますね」

 シルフィリスがそう言ってくれ、俺は満足に頷く。
 だが、全く木材が無くなった赤い竜がどこかしょんぼりしている。

 「俺、歩きー?」

 もうスキーを作れるだけの木材が無ければそう思うだろう。
 だが、ミラクルロクロータさんの発想は違った。

 「そんなことねーよ?赤い竜さんは我々竜魂のギルドマスターでございましてよ?こんな山道歩かせるなんてそんなそんな。おーいシルフィリス、こっちゃ来い」

 シルフィリスを呼びつけ赤い竜の横に立たせる。

 「竜ちゃんシルフィリスに乗って」
 「おう」

 のそのそとシルフィリスの背に乗った赤い竜が腰を落ち着ける。

 「で?」
 「完成だ」
 「はぁ?」
 「スキーができるシルフィリスの背中に、赤い竜が乗れば、完璧。どうよ?この俺の雪国生まれのスーパーミラクルアイデア。完璧でね?」

 シルフィリスと赤い竜が怪訝な顔をする。

 「いや、俺、これスキーしてねーし!」
 「それはいささか強引なのでは?」
 「そんなことない!全然そんなことない!竜ちゃんは今、猛烈にスキーしてるし強引でもなんでもない!これはスキーの新ジャンル『ドラゴンスキー』だ!人竜一体のコンビネーションでゲレンデに刻む赤いシュプール!まだ誰もやったことのないミラクルスポーツ」

 流石にシルフィリスが突っ込みを入れる。

 「ロクロータ様、それは流石に無理が――」
 「――さすがあっちゃん天才か?」

 シルフィリスが赤い竜を二度見する。

 「スキーとドラゴンの融合だな?」
 「おう。ちょっと練習してみるといい」

 バカで助かるわー。
 皆が呆れた様子で俺達を見ているが俺はバカを体よくあしらえたことに満足してお昼ご飯の続きに取りかかる。
 雪山で喰うラーメンってなんで上手いんだろうかね。
 マノアが俺の傍らに来て怪訝な顔をする。

 「帝国の追撃もあるってのにいいんですかね。こんなのんびりしてい」
 「いんじゃね?返り討ちにしてやりゃいいんだから」

 俺は全く無くなったインベントリの木材を見てあとでチュートリアから回収せなと思いつつ、ラーメンもどきをかっくらう。
 山の7合目あたりなのだろうか。
 吹雪が来なければ5合目くらいまでは降りられそうだ。
 ドワーフの集落がグランドブルー山脈の中腹にあるという話だから明日はそのあたりを検索してやれば明日の夕方には辿り着けそうだ。
 俺がくっちゃくっちゃとゲリィに投じたラーメンもどきを喰らいながらそんなことを考えている横で赤い竜が快哉を上げる。

 「あっちゃん見てみてー!F/D540!」

 シルフィリスキーで華麗に宙返りしているドラゴンスキーの上達っぷりに舌を巻いた。

 ◇◆◇◆◇

 シグルト・エンブズはグランドブルー山脈をスキーで滑走するレジアン達の一団を見つける。

 「異界の者とてカッソを知っているようだな」

 そもそも発端は物理演算がどこまで正確かを試そうとした太古のレジスがイリアにさせたのがはじまりだが、700年を経過すればその発祥も曖昧になってくる。
 急な傾斜を無理なく進む一団の背後――山側に位置すると追従の騎士達にハンドサインを送る。

 「雪山では経験こそが物を言う。ドラゴニュートの精鋭をずっと相手にしてきた北方守護隊の練度に――どこまで抗ってくれるかね」

 帝国将軍としては最も苛酷な戦場に身を置いているシグルド・エンブズはどこか面白そうに唇の端を釣り上げる。

 「第1中隊、欠無しッ!準備よぉしッ!」
 「第2中隊、欠無しッ!準備よぉしッ!」
 「第3中隊、欠2!欠2名にあっては後方支援の任!準備よぉしッ!」

 随時集合し隊列を組むのは雪山での戦闘に長けた練度の高い北方守護隊の騎士達だ。

 ――現地徴用した冒険者を含めた実戦的な部隊である。

 局地での戦闘は数を当てれば良いというものではない。
 戦場を知ったシグルド・エンブズという無名の名将は戦場という物を深く、理解していた。
 振り向き、集結した部隊にシグルドは号令をかける。

「これより、クラウディア奪還作戦を開始する。目標以外の生死は問わない。情報が正しければ相手はレジアンだ。竜人とは違う。神の付く方の竜神らしい」

 肩をすくめてみせ、戦闘前の兵の緊張を解く。

 「――相手がどれだけ強かろうと地の利というのはそれを封じる。我々はその術については追随を許さない。封殺せよ」

 だが、次の瞬間にはより厳しく空気を締める。

 ――命を失うのが戦場なのだ。

 これを生業とする兵にとって命の軽重を議論することは無意味だ。
 両足に履いたスノーボードで軽く地面を叩き、滑走を開始する。

 「――カッソ部隊、滑走開始!隊形開けッ!一瞬でケリをつけるぞッ!」

LBR
機動戦士ガンドゥムオンライン出展。ロングレンジビームライフルの略。
ガンダム試作1号機の金設計図限定のユニーク武器。
チャージすることで威力と弾速があがる射程の長いビームライフル。
だが、弾数4発で補給が不可能であることからアンチガーベラテトラの強武器にもなれないがっかり兵器。
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