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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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ラインオーヴァ

 羅刹姫ツクシロの第二形態とみるべきだろう。
 背後に巨大な骸骨『骸鬼トコシエ』を従え、周囲に刀を抱えた腕を飛翔させている。
 取り巻きの全てを廃し、単一のボスとして相対し複数対処能力を得たと思っていい。
 初見の外観で判断できる材料はこの程度か。
 赤い竜が戦力にならない今――このオーバードコンテンツを引き受けるのは俺一人ということになる。

 「吠えてくれるのぅ戦女神の。なれば下してみせよ。骸鬼トコシエの――戦煉獄千本刀を!」

 ――周囲に浮いた刀が飛翔し、迫る。

 俺の周囲を周遊し、突き込み、切り払い、幾重にも銀閃を閃かせる腕の刀が俺を襲う。
 風を切り、怜悧な輝きを持つ刃を紙一重で躱し、ステップを刻む。
 腕の中の銃がぐるりと回り、刀を貫く。
 貫かれ、折れた刀が崩れ、虚空に新たな刀が生まれる。

 ――取り巻きが居ないのは、これのせいか。

 独立、自立した攻撃手段である飛翔刀の攻撃が複数相手であろうと手数となる。
 取り巻きを用いることなく相手を圧殺できる攻撃量を飛翔刀に求めることで羅刹姫ツクシロの強さを印象づける――

 ――オーバードコンテンツであるからには、『風格』が必要だ。

 挑んでも勝てない。
 そう相手の心を折るためには、取り巻きが強くてはダメなのだ。
 その本体――『羅刹姫ツクシロ』が強くなくてはならない。
 心を折ることに腐心し続けたからこそ、理解できる。

 「やれ――トコシエよ」

 その巨躯から信じられない速度の斬撃を振るう骸骨。
 横一線になぎ払われた巨大な刀身をジャンプ、そして、ムーンサルトの二段ジャンプで避ける。
 翻って振り下ろされた太刀が轟音を持って迫る。

 ――空中に逃げれば二の太刀で確実に仕留める。

 オーバードコンテンツらしい確殺コンボだ。
 だが、数多のオーバードコンテンツを先駆けた俺にとってはこのくらい。
 スラッシュダウンキックで太刀の速度と等速で地面に落ちるとスライディングでその場を駆け抜ける。
 追って迫る太刀を稲妻ステップで駆け抜け、一気に羅刹姫ツクシロに肉薄する。

 ――びりびりと命を削る危機感が胸を締め上げる。

 圧倒的な困難を前にしたときの、どうしようもない恐怖感が俺の腹の底を握る。
 だが、俺の中にある熱がその手を引き剥がし、冷たく強ばった空気を解き、どこまでも意識をクリアにする。
 挑むべき相手を見つけた高揚感のみが俺を突き動かし、鋭く息を吐かせる。

 「ハッ――」

 全ての選択肢の中から直感的に選んだ最善手は――『接近戦インファイト』。
 背後に自立攻撃手段の飛翔刀を置き、視界外に巨大な骸骨の必殺を置きながら、そして――圧倒的攻撃速度を誇る本体に応じる。

 一見して、最悪の選択肢に思えよう。

 だが、ウンコマンうんこなう、そしてワンワンオーを下した俺の直感はこの最悪な状況こそが最も勝率が高いと下した。
 いや、それは冷静な判断なのではないかもしれない。
 ただ、そこに見えたのだ。
 『羅刹姫ツクシロ』というオーバードコンテンツの中にある、『強さの形』が。
 だからこそ、なのかもしれない。

 ――それを『真っ向』から叩き伏せなければならないと思ったのは。

 「踏み込むかッ!――天晴れじゃ!」

 快哉を叫び、羅刹姫ツクシロが太刀を振るう。
 閃光にも似た一閃が閃き俺の首に伸びる。
 残像を残しステップで駆け抜け、その最中に銃口が閃く。
 弾丸を太刀で切り捨て、切り返した太刀が俺に伸びる。
 だが、太刀より早く踏み込んだ俺は銀閃を置き去りにし、引き金を引く。

 ――飛翔刀が背後から俺に迫り、紙一重で銃弾で叩き落とす。

 その時には既に俺のこめかみにツクシロの太刀が伸びていた。
 ぐるりと巡らした視線の視線の端だけでその切っ先を捉えると、ステップで踏み込む。、 頭の上を太刀が通り過ぎ、ツクシロの華奢な体に肩を当てる。

 ――顎の下に当てたラプターが爆ぜ、閃光が視界を焼く。

 仰け反りもせず凶悪な笑みを浮かべるツクシロに、こちらも獰猛に笑って応じてやる。
 骸鬼トコシエの巨大太刀が来る感覚を捉え、俺は『足払い』で応じる。
 頭上を薙ぐ必殺の一閃を避けながら、ツクシロの細い足を払うが――転倒はしてくれない。

 ――第二形態は耐性付与済み。しかし、それも想定の内。

 そんな思考すら置き去りする圧縮された時間が俺の周囲で引き延ばされる。
 ステップで強引に体を起こしツクシロの太刀を置いて背後に抜けて迫る飛翔刀を撃ち払う。
 銀閃とマズルフラッシュが交錯し、疾風を置き去りにして激しく俺とツクシロは入れ替わる。
 弾丸が太刀の上で爆ぜ、置き去りにされる思考に反射のみで応じる。

 ――ツクシロが赤く輝き『ストレンジアクション』の兆候を見せる。

 「我が太刀の悉くを――見事だ戦女いくさめの!竜のとともに、汝らこそまことまったき武士もののふよ!なればこそしかと覚えよ!怨嗟を焼き、踏みにじり、責め苦を与える鬼の業――布津浄身祿ふつあらいみろく太刀たち

 地面に印が走り、大上段に構えた太刀の残像が幾重にも伸びる。
 骸鬼トコシエがツクシロと対となり構え、全ての刀がツクシロの元に集う。
 印が激しく輝き、俺の周囲に同じ印が刻まれる。

 ――完全に俺をターゲットとした確実必殺攻撃型の『ストレンジアクション』

 足下に広がる印はターゲットとなる人間の範囲だろう。
 完全に接近していた俺が発動から逃れる術は無い。
 回避の方法を用意してくれるほどオーバードコンテンツは甘くは無い。
 はじめから範囲外に居なければ必中必至のストレンジアクションだと判断できる。

 ――未来が、視えた。

 積み上げた経験は想定される未来を描き、そこに絶望しか見せない。
 オーバードコンテンツが放つストレンジアクションは規格外だ。
 迫る刀の壁が俺を串刺しにし、ツクシロの太刀が、そして、トコシエの巨大刀が俺を無残に挽きつぶす。
 稲妻ステップで逃げたとしても、僅かな間隙を無数の刀が貫くだろう。
 スクエアで応じても、ツクシロの太刀がその間隙を断つだろう。
 ほんの一瞬でも足を止めれば――トコシエの太刀が俺を消し飛ばすだろう。

 「――往生せよ」

 ツクシロのどこまでも酷薄な呟きが死を想像させた。
 磨き上げられた廃人の直感が、終わりを告げている。
 全方位から同時に放たれ、そして、ツクシロとトコシエの高速広範囲攻撃を前に生き残れる選択肢が全て潰される。
 それらを一瞬で受け止め、判断し――折れる心。

 ――何度でも挑める『ゲーム』であれば、それでよい。

 そうして、この『経験』を次に生かせば良い。
 だが、ここにあるのは『記憶』を――『存在』を失うデスゲームだ。
 異世界(ゲームの中)に堕とされた程度で諦めてしまえる程――
 俺は自らの引き金を強引に叩き上げる。
 初見、オーバードコンテンツ、必殺――
 そんな言い訳を置き去りにして、駆け上げた意識を引き延ばす。
 赤い竜がくべた熱が爆ぜ、俺は俺の尊厳を叩きつける。
 吐き出した息が燃え、俺は眼前の死を真っ向から。

 「――死線超越ラインオーヴァ!」

 引き延ばされた意識が絶望の剣壁の向こうに存在する一筋の光を見る。
 それでも届かない腕の中に、抗う力は存在する。

 ――『フレンジー』を発動させ、発射間隔を限り無くゼロにする。

 爆ぜた銃口が飛翔する刀を穿ち、折り、剣壁をつき崩す。
 理論では可能だ。
 だが、しかし、それを行うには人間を捨てた領域に踏み込む必要がある。
 諦めを捨て、敗北を潔しとせず、抗うことは血肉が覚えている。
 できるかどうか、結果を信じられるかどうかを置き去りにして――

 ――真っ向から死を賜る鬼道を踏み越える。

 両の腕の銃が吠える。
 大気が焼き切れる速度で、腕を振るい銃が暴れる。
 爆ぜた閃光が視界を焼き、一瞬で描いた記憶の像を重ね、銃口を開く。
 引き金を引く指が、反動を伝える腕の感覚を置き去りにし、弾丸の一発一発を飛翔する刀に置く。
 遅く感じるステップで方向を無理矢理変えると銃口はさらに暴れる。
 赤く染まる視界の中、腕を振るう軌跡が残像を残し、閃光で埋まる周囲を割って腕を伸ばす。
 踊るなど、生ぬるい――
 生きるために抗う様を、『暴れる』というなら、俺は暴れ狂っていたのであろう。
 視界の端、赤い竜が驚愕の眼差しを向ける。
 今、この瞬間、確実に死の顎の中に居る俺が、その顎を真正面から――撃ち崩す。

 「――フルヒットォ!キルッ!ゼムッ!オぉゥルッ!」

『フレンジー』の暴力的なリロード速度に反応し、ただの一発で無数に存在する飛翔刀を迎撃する。

 ――その間、約1秒にも満たない。

 限界以上に引き延ばされた反応速度の上限を超え、文字通り『人間離れ』した反応を見せてやる。
 どうだ――赤い竜。
 ただ、相棒に俺が至った『境地』を見せつけ、熱を叩き返す。
 爆ぜた閃光の中、旋回した俺の両腕がツクシロに伸ばされ、引き金を弾く。
 残像を残し、視界に残らない速度で踏み込んだツクシロを最早、勘のみを頼りに『ステップ』を合わせる。
 体の像を突き抜けて銀閃が走り、側方から一条の銀閃となって走るツクシロに最速の『ステップ』キャンセルで応じる。

 ――『ステップ』キャンセルですら、遅く感じる領域。

 それが全方位からの斬撃であることを理解し、ステップキャンセルを繰り返し向きを変え、視界の中にツクシロを納める。
 記憶の中にある骸鬼トコシエは未だ刀を振り上げている最中のはずだ。

 ――最速の『スクエア』で応じ、閃光の早さで駆け抜けるツクシロに応じる。

 振り抜いた切っ先の剣圧をバリバリと感じながら、弾いた引き金がツクシロの上で爆ぜて閃光を上げる。
 引き延ばされた意識の中で、ダン、ダン、と腕に響く銃の反動が確かな手応えとなって帰ってくる。
 閃光の中に浮かぶツクシロがどこまでも獰猛に笑み、俺はその銀閃の悉くを置き去りにする。

 ――骸鬼トコシエが紫炎を抱いた太刀を振り下ろす。

 横一線になぎ払われた太刀が紫炎を引きずり飲み込む。
 その炎の残滓の中をステップで抜けると、俺は最後の弾丸を放ち、銃を高々と突き上げる。
 背後に斬り抜けたツクシロが膝をつくのがわかる。

 「シェァアア――ッラァッ!」

 オーバードコンテンツ『羅刹姫ツクシロ』の『ストレンジアクション』の悉くを真っ向から受けきれた。

 ――『フレンジー』による飛翔刀の瞬間殲滅、そして、『ツクシロ』本体による全方位からの高速突撃。骸鬼トコシエの広範囲一閃。

 それらの全てを真っ向から下してこそ――
 振り向き、銃を向け、吠える。

 「――こっれっがッ!『廃人』だッ!」

 与えられた条件で、持ちうる全てをもって。
 誰しもが諦める頂を何がなんでも制覇する。
 振り向いたツクシロがどこか冷めた瞳で俺を見つめていた。
 必殺の太刀を凌がれ、あまつさえ、その最中に銃撃で応じられるとは最早思っていなかったのであろう。

 ――面構えから侮りが消えた。

 油断無く太刀を構えたツクシロが腰を沈め、俺に相対する。

 「侮っておったわ――人か英雄かなどはどうでもよい。汝らが古の神々をまことに下し、新たなる神々を導きし異界の精霊であることをしかと、覚えた。ならば、我々は我々の生を賭けて、世界の下した決断を覆さねばならない」

 開き、構えた切っ先がどこまでも冷たく輝く。
 応じる銃口は鈍く、昏い色をたたえたまま静かに煙り、震える。
 ツクシロが跳躍し、吠えた。

 「――真っ向から、下す!覚悟せよ!」

 ――振り下ろされた一刀を避け、弾丸で応じる。

 放った弾丸を斬り捨てられ、残像を残し側面から太刀を抉りこんでくる。
 さらに踏み込み、ステップで強引に向きを変えて応じ――

 ――俺とツクシロは何度も体を入れ替える。

 残像を斬って放たれるツクシロの太刀の悉くをステップキャンセルで応じ、合間に放つ弾丸で少しでも手数を減らさせる。
 飛翔刀が剣撃に混じり、骸鬼トコシエの太刀が加わり、俺は引き延ばされた意識をどこまでも研ぎ澄まし、応じる。
 リロードはいつしか間に合わなくなり『フレンジー』を焚いていた。
 弾丸と剣閃を幾重にも交え切り結ぶ中、首筋から這い上がる熱が俺の脳を焼く。
 振り回す腕が焼け、吐き出す息が肺を潰す。
 視界が赤く染まる中、ざりざりとノイズが走り出す。

 ――ラインを超え、さらに追い込んだ領域。

 明らかに何かを削り堕としているとわかる中、それでも引けない矜恃が胸の奥で鳴り響く。
 爆ぜるような心臓の鼓動が、この『仮想現実』の中、現実に置いてきた『生きている』を思い出させる。
 虚構と現実が入り交じる中、ただ、己が生きていることを手探りで覚え、ただ、真っ向から『戦うべき敵を知る』。
 爆ぜる弾丸の音が重なり、爆音となる。
 だが、その爆音を切り裂き、それでも振るわれる鋼が響き、追いすがる。
 真っ向から貫く弾丸が鋼を叩き、未だに終わらない生を足掻く。
 切っ先が頬を霞め、どこまでも冷たくなる体に意思だけが熱を帯びる。
 紫色の炎の中、どこまでも風を置き、景色を置き去りにして爆ぜる。
 つま先が摩擦で燃え、唸る空気を引き裂き、羅刹の姫と暴力を交わす。
 どこまでも長い――一瞬。
 そして、熱が繋がる。

 「――終わりだマンチキンバスター」

 呟いた声の中に、ちりちりとノイズが混じる。
 どこまでも冷酷なまま俺を挽きつぶそうとする『強敵』に告げる。
 挽きつぶそうとする暴力に対し、磨いてきた研鑽は一人ではない。
 羅刹姫ツクシロの背後に立つ骸鬼トコシエ。
 その巨大な骸鬼より強大なものを俺は知っている。

 「お前達がどれほど強大であろうと――俺達は下してゆく」

 赤い――赤い竜。
 竜翼の如く広げられたドラグウェンデルが輝き、どこまでも純粋な瞳が獲物を捕らえている。
 楽しい記憶がある。
 会ったことは、無い。
 だけど、いつも同じような真っ赤な鎧を着て、でかい剣を背負ってやがった。
 そいつはいつもバカなことを言っていたが――どこまでも、純粋だった。
 そいつを画面越しに見て、そいつの声をスピーカー越しに聞いて――近くに居る連中より親しく思っていた。
 そいつが見せるゲームの景色が面白くて、わくわくしていた。
 パソコンの電源を落とした時に、どこか寂しいが、また、明日もわくわくさせてくれるだろう期待を覚えていた。
 こんなところまで来て、こいつは同じようにわくわくさせてくれる。

 ――だけど、違うだろう。俺も、お前も、こんなところで戦ってちゃいけない。

 「世界が貴様達に下している。『必ず、倒せる』と。なら、俺達はどこまでも下していかなくちゃ――戻れない」

 竜が羽ばたく。
 骸鬼トコシエをその両腕のドラグウェンデルで刻み、ぐるぐると回りながら下降してくる。
 着地と同時に爆ぜた衝撃に押し出され、羅刹の姫に両の剣を振り下ろす。
 同時に着弾した俺の弾丸が太刀を押し、剣がその華奢な体躯を両断する。
 俺と赤い竜が高速で駆け巡り、オーバードコンテンツを翻弄する。
 赤い竜の切っ先が飛翔刀を叩き折り、返す刃がツクシロの太刀を押す。
 背後から俺の弾丸が至近距離で後頭部を貫き、蹴り飛ばして宙を舞う。
 骸鬼トコシエの太刀を眼下に滑らせ、飛翔刀の悉くを撃ち貫き、ツクシロに迫る。
 噛んだスタミナポーションの瓶を捨て――満身創痍のツクシロの額にラプターの銃口を押し当てる。

 ――激しいノイズが視界に走る。

 ふらつく意識を熱だけで支え、それでも吐き出す。

 「――終われよ」

 弾丸がツクシロの額を撃ち抜き、俺の膝が崩れた。

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